政治・石油業界を含む経済、各種市場などのテーマを独自の視点から分析・解説します。


アベノミクス第一ステージの検証急務



トリクルダウンは起きなかった!



9月24日、安倍首相は自民党総裁に再任された際の会見で、GDP(国内総生産)600兆円を目指すなどを柱とした「新三本の矢」(強い経済・子育て支援・社会保障)を打ち出した。安倍首相は自ら「アベノミクスは第2ステージへと移ります」と語っていたが、第2ステージへ移行する前に、第1ステージの検証を行い、反省点、改善点などを踏まえた上で第2ステージの「新三本の矢」を考案すべきだ。一部の富裕層、大手輸出企業、既得権益を有する企業や団体に限られていた恩恵を、一般庶民や円安による材料費の高騰で苦慮している中小零細企業に切り替えていかなければ、経済政策として片手落ちである。このような検証を行わなければ、今以上に格差社会が拡大し大多数の国民が生活苦になることは明白だ。


「旧三本の矢」の中で、一本目の矢の“金融緩和”によって、主に株価などが上昇。上場している株式を所有する富裕層並びに証券業界などマーケット関係者はそれなりに恩恵を受けた。これに加え、年金の運用率が改善され、株式投資とは無縁の人々も軽微な恩恵を受けた側面もある。しかし、株式投資に限らず全ての投資にはリスクもある。従って、リーマンショックのような事件が発生すると、急落することを忘れてはいけない。GPIFが運用方法を変更したため、そのリスクは投資家以外の一般の年金受給者までも今まで以上の被害を受けるだろう。さらに、バブル経済崩壊後、俗に言う失われた十数年の間、株価は下がり続けた現実もある。


二本目の矢の“財政出動”については、公共事業を請け負う大手ゼネコンなど、既得権益を有する企業が多大な恩恵を受けた。民主党政権時代に実施した事業仕分けで、減少した無駄な公共事業が復活。アベノミクスというスローガンの陰に隠れて、当時、税金の無駄遣いと非難されていた八ッ場ダムの再着工、整備新幹線の計画なども復活した。公共インフラの整備は一時的な景気回復感はあるものの、継続性に乏しく一昔前に問題視されていた「バラマキ」と何ら変わりがない。


三本目の矢の“成長戦略”は特区設置や規制緩和などで、既得権益にメスを入れる政策が多く一部業界団体から激しい反対もあった。不完全ながらも農協改革、一部の国に対するビザ発給の大幅緩和などが挙げられるが、民間主導の景気回復や外国資本の呼び込みが本格化したか?と聞かれれば志なかば−と表現するのが適切である。また10月初旬、TPP大筋合意という発表があった。輸入品の関税が引き下げられ、ある程度の消費者の恩恵は確認されているが、各種産業がTPP発効を機にして、どのように成長していくのか?或いは衰退を回避するのか?は未知数だ。


上記のようにアベノミクス「旧三本の矢」の評価は、自分の置かれている立場や所属する業界や団体で異なる。少なくとも当初、積み上げられたシャンパングラスを例にトリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる−とする経済理論または経済思想)する−と政府関係者やアベノミクスを信望する経済学者が発言していたような、喜ばしい事態は起きていない。さらに庶民にとっては消費税増税、円安による輸入品の値上げ等が原因で家計が圧迫されている。このように庶民の暮らしを犠牲にした上でアベノミクスが成立している。


アベノミクスを総括すると、バブル経済崩壊以降、失われた十数年の間に富裕層から落ちかけた階層を再び富裕層に戻すため、多くの庶民を犠牲にする政策と言っても過言ではない。このコーナーでは幾度となくアベノミクスについて、否定的な見解(2014年10月14日号など参照)を示してきたが、今回発表された「新三本の矢」の内容を見て驚いた。これらの新しい矢は手段や方法ではなく、象徴的な目標にすぎない。同時期に一億総活躍(大臣)という新たなキーワードが示されたが、余りにも唐突で国民が理解に苦しんでいる状況に加え、閣内の石破大臣も同様な見解を示した。こうした状況を踏まえると、今回のアベノミクス「新三本の矢」は前の国会で強行採決した安保法制が国民の理解を得られず、内閣支持率が下落。国民の目線や注目度を安保法制から経済へ移行させるためだけが目的としか思えない。こうした急場凌ぎの政策では、今置かれている経済状況を変えることはできない。




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