ティラーソン国務長官の発言で波紋
トランプ政権は北朝鮮政策に変更なし
2カ月間ほど鳴を潜めていた北朝鮮が先月末にミサイルを発射した。報道によると、青森県沖の日本のEEZ(排他的経済水域、日本海)内に落下したと推定される。韓国軍などによると、約50分間、約1000キロを飛行し、最高高度は約4500キロに達した。米国防総省は、初期段階の分析として、ICBM(大陸間弾道ミサイル)とみられる−との見方を示した。このICBMの発射によって、北朝鮮は既にアメリカ本土を射程圏に収めたか、そう遠くない時期に射程圏に収める−という見方が支配的だ。これでアメリカは本土に到達するICBMが完成することを前提にして、北朝鮮への対応策を講じなければならない。もはや対岸の火事ではなくなった。
こうした中、ティラーソン米国務長官は12月12日、ワシントンで「北朝鮮が望む時にいつでも、前提条件なしで対話する用意がある」、「トランプ大統領も対話は現実的という認識」と語るとともに、改めて北朝鮮を核保有国として認めない事を強調した。これまでアメリカ政府は、北朝鮮の核・ミサイル開発を放棄することを前提条件にしており、トランプ大統領は「北朝鮮との会話は時間の無駄」と過去に発言している。今回のティラーソン発言に対し、トランプ大統領は正式なコメントはしていないものの、サンダース大統領報道官は「トランプ大統領の北朝鮮についての考えは変っていません」、NSC(国家安全保障会議)報道担当者は「最近の北朝鮮のミサイル発射を踏まえれば対話の時期ではない」、マクマスター大統領補佐官(安保担当)は「ティラーソン国務長官が“前提条件なしで”といった意味は、北朝鮮に対する圧力の緩和や除去、あるいは要求に応じることではない」、ナウアート国務省報道官は「いずれは対話したいが、現時点では政策に変更はない」と各々が発言したことで、ティラーソン国務長官の発言内容は政権の総意ではない事が明らかになった。
一方、ティラーソン国務長官は中国との間で「米軍が38度線を超えて北朝鮮に侵攻した場合いずれ韓国に撤退する」、「核拡散防止のため北朝鮮が保有する核兵器の確保」、「北朝鮮崩壊後の難民問題」などが話し合われたことが一部報道で表面化している。ティラーソン国務長官の発言が政権の総意か否か、トランプ大統領との不仲説や国務長官辞任の噂に拘わらず、今回提案した対話が実現しない場合、アメリカの武力行使は実行される可能性が高い。(同コーナー9月号を参照)いわばティラーソン国務長官の北朝鮮に対する対話の呼びかけが、平和的解決の最後の機会と分析できる。これを逃すとティラーソン国務長官からマティス国防長官にイニシアティブが移り、外交から武力行使に流れが変るだろう。トランプ大統領は米国内でロシアゲート事件なども正念場を迎えており、大統領支持率の低迷が続いている。こうした国内事情を打破し自身の支持率を回復するため、トランプ大統領が北朝鮮に対し武力行使に踏み切る事は十分に考えられる。(同コーナー4月号を参照)
いずれにしても圧力だけで、北朝鮮が核・ミサイルを放棄した上での平和的解決は望める可能性は極めて少ない。日本政府は米朝戦争が勃発した際、国家としてどのような対応を取るのか。仮に、暴発した北朝鮮が日本国内へ核爆弾を発射した場合、現状の迎撃ミサイルで防げるのか。全てが防げない場合どの位の被害を受けるのか。韓国内に滞在する邦人救出は可能なのか−など事前にできる準備を行い、安全保障上の事なので全てを詳らかに公表できないと思うが、可能な範囲で国民に発表すべきだ。
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