政治・石油業界を含む経済、各種市場などのテーマを独自の視点から分析・解説します。



米・中の報復関税合戦が再燃


世界経済への悪影響は必至


 米中貿易戦争は市場関係者の期待を大きく裏切り、5月1日よりアメリカが中国製品2,000億ドル分(日本円で約22兆2,000億円)への関税引き上げ(10%から25%)を決定、楽観ムードが漂っていた状況が一変した。5月9日、10日に開催された米中の通商協議は合意に至らなかった。アメリカ政府関係者によると、協議は建設的だったものの、企業に対する中国地方政府の補助金支給などについて、両国の溝を埋めることはできなかった。米中は協議を継続するとしているが、今後の協議日程などは決まっていない。

 中国はアメリカへの報復として、6月1日より600億ドル(約6兆6,000億円)分の輸入品に対し、関税率を最大25%に引き上げると表明した。これに対しトランプ政権は中国に対する追加の制裁関税第4弾として、スマートフォン、衣類など消費財を含む約3,000億ドル(約33兆円)分に対し最大25%の関税を課すことを正式に表明した。発動は米国内における産業界との意見聴取の後、6月末以降になる見通し。

 泥沼化してきた米中貿易戦争(覇権争い)の今後について、「トランプ流に言えば追加関税や税率引き上げはアメリカにとって良いディールをするためのブラフだ。米中双方が経済的に損失を被る関税合戦は収束する」6月の日本で開催されるG20の際、トランプ大統領と習主席とのトップ会談に期待する市場関係者も少なくない。しかし、一時的に米中が歩み寄りを見せ休戦をしたとしても、本質的な解決にはならない。中国に対し安易な妥協をすることになれば野党民主党を含め対中強硬派からの攻撃材料になり、次期大統領選挙を第一に考えるトランプ大統領としては、習主席から勝利をもぎ取り“アメリカファースト”の結果を残さなければならない。一方、習主席も安易な妥協は今後の政治生命を大きく左右する。“中国製造2025”と直結する地方政府から企業への補助金、海外企業からの技術移転(移転と言えば聞こえはいいが、技術の吸収や中国国内における合法的な技術盗用)などは国家の威信をかけて譲らないだろう。

 米中通商協議が事実上決裂したことは、世界経済にとって大きなリスクだ。仮に、アメリカが第4弾の対中制裁関税を発動すれば中国経済はかなりのダメージを受ける。IMFはアメリカが全ての中国からの輸入製品に関税をかけた場合、中国のGDP成長率は1.5ポイント程度低下するとの試算もある。一方、アメリカからの輸入量が少ない中国にとって、関税だけでは充分な報復にならず、対ドルの元安誘導が懸念される。既にアメリカが報復関税の決定以降、為替相場は元安に向かっている。元安は対米ドルだけではなく、対円についても元安円高に進む可能性が強く、今後の日本経済に確実に悪影響を与える。米中両大国の報復合戦が続いた場合、先行き不透明になり世界規模で企業の投資抑制や市場参加者の投資意欲が低下するため、経済活動全般でリスクオフになるだろう。中国経済の減速は顕著になり、中国需要を取り込んで経済を活性化してきた日本、オーストラリア、アジアの新興国、ドイツなどEU諸国は大打撃を受ける。頼みの綱と言っても過言ではないアメリカ経済についても、GDPや雇用統計など数値の良い指標もあるが、ISM指数(企業の景況感)、4月の鉱工業生産指数、4月小売売上高など不調な数値もある。利率の高いジャンク債(低格付け債)への過度な投資、莫大な企業債務など楽観的な材料ばかりではない。さらに、アメリカとイランの関係悪化による地政学的リスクも高まり、中東情勢も緊迫化している。まさに世界経済はリスクと背中合わせにある状況だ。今後、米中の動向から目が離せない。




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