㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



原油価格の本格的な上昇には1年余りの期間を要する見通し


伊藤 敏憲


OPEC減産局面で上げ渋る原油市況


原油価格は、昨年9月末にOPEC加盟国が協調減産を実施することで合意し、同12月にはロシアなど主要産油国がOPECの呼びかけに応じて同時に減産することを表明したことなどをきっかけに1バレル40ドル台から50ドル台に上昇したものの、その後、上値を追う動きがみられません。OPEC及び主要産油国が減産を実施しているにもかかわらず、需給が引き締まらないのがその要因の一つと思われます。


実は、OPEC加盟国が過去に協調減産を実施した局面では原油価格が上昇するより下落したケースの方が多かったという経験則があります。生産シェアが高いOPECが減産すれば需給が引き締まりますので、意外な結果と思われるかもしれませんが、OPECが原油の需給を調整するスウィングプロデューサーの役割を担っていることや、協調減産が解消されると減産分に相当する増産が行われる可能性があることなどを考慮すると、油価が上昇しないのは理にかなった動きとも考えられます。


非OPEC諸国の油田では、原油価格が採算を割り込むような低水準でない限り、能力いっぱい生産するケースが多くなっています。このため、需要の伸びが高く、非OPECの増産でカバーできないケースでは、OPECが供給量を増やして需給のバランス化を図り、逆に、需要が伸び悩んだり、非OPECの供給量が需要の伸びを上回ったりしたケースでは、OPECが減産して原油価格の下落を抑止しようとすることがあります。これがOPECのスウィングプロデューサーとしての役割で、OPECが協調減産を実施する局面は、「OPECが減産しなくてはならないほど需給が緩んでいる」と解釈することができるのです。


なお、今回と同様に需給が緩んでいた局面で、需給を引き締める目的でOPECなど主要産油国が協調減産した局面では、減産の実施が発表された直後に油価が上昇したケースが何例かみられましたが、その後に反落するケースが多くなっていました。OPECが協調減産の実施に合意したと発表した昨年9月以降の原油価格の動きは、この経験則通りの動きだったと考えられるのです。



需給が引き締まらない要因は需要の伸び悩みと米国の増産


1月から協調減産を実施しているOPECやロシアなど主要産油国の減産量は日量180万BD前後に及んでいます。1月~3月の減産順守率は90%前後に達している模様で、これは過去の協調減産実施時に比べて極めて高い比率になっています。このように主要産油国が減産を実施しているにもかかわらず、需給が引き締まらない理由の一つは需要が伸び悩んでいるからです。IEAが4月13日に公表したOil Monthly Reportにおいて、世界の原油需要は、2014年実績9,298万BD(日量バレル)、2015年実績9,495万BD、2016年実績9,659万BDに対して2017年予想9,791万BDと見込まれています。原油需要の前年比の増加量は、2015年197万BD増、2016年164万BD増、2017年137万BD増予想と伸び率は年々鈍化しているのです。


もう一つの理由は、シェールオイルの増産によって世界最大の産油国になった米国の原油生産量が増加しているからです。米国の17年4月末の原油生産量は約930万BDと昨年7月比で80万BD余り、昨年末比でも50万BD余り増加しています。理由は説明するまでもなくシェールオイルの生産量が増加しているからです。生産性の改善によるシェールオイルの生産コストの低下がその背景事情の一つとされています。ただし、米国の石油掘削リグの稼働基数は、17年4月28日現在で697基とピーク時(14年10月10日)の1,609基の半分以下にとどまっています。原油価格が上昇すると、さらに米国の原油生産量は増加すると見込まれます。



需給要因だけからみた原油価格の本格上昇時期は1年余り先に


OPECやロシアなどは、原油価格の崩落を防ぐため、今年7月以降も協調減産を継続すると予想されますが、仮に協調減産が終了すると生産量は足元の需要増ペースの1年分以上増加することになります。米国の原油生産量がさらに増加すると予想されることを考慮すると、原油の需給が均衡するまでには、1年半~2年程度の期間が必要になると見込まれます。需給要因だけからみると、原油価格が本格的に上昇するまでには、まだ相当期間を必要とする可能性があるのです。




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