㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲




石油業界は「2強」ではなく「4元売」体制へ

伊藤 敏憲



出光・昭和シェルの経営統合2019年4月に実現へ


出光興産と昭和シェル石油は、2018年7月11日に「経営統合に関する合意書」を締結し、今後、株式交換契約の締結等の手続きを経て、2019年4月に経営統合を実現することを決定したと発表しました。出光興産と昭和シェル石油は、2015年7月に、出光興産が、昭和シェル石油の主要株主であるザ・シェル・ペトロリウム・カンパニー・リミテッド及びザ・アングロ・サクソン・ペトロリウム・リミテッドか保有していた昭和シェル石油の株式を全て取得することを決議するとともに、経営統合に向けて本格的な協議を進めると発表していました。しかし、出光興産の大株主の出光創業家が経営統合に反対していたため、当初2017年4月とされていた統合計画が遅延していました。


出光興産は、今回の発表にあたって、創業家の一員で社長を務める日章興産保有分を含めると14.20%の議決権を左右する出光正和氏との間で、①経営統合実行当初に出光が指名する取締役候補5名程度(独立社外取締役を除く)のうち2名を推薦できること、②「出光」のブランドを継続して使用すること、③年内をめどに1,200万株の自己株式を取得すること、④経営統合後3事業年度の最終利益の目標を5千億円とし、その50%超を株主還元(配当及び自社株取得)に充てることなどの条件により、経営統合への賛同が得られたことで、経営統合を実現できる見通しとなったと説明しています。



元売の国内事業の再編・集約は最終局面に


2015年に出光興産と昭和シェル石油が経営統合を計画していることが明らかになったことをきっかけに、石油精製・元売の国内事業の再編・集約は最終局面に向かって動き出していました。


まず、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が、2015年12月に両社グループの経営統合に関する基本合意書を締結し、2017年4月に経営統合を実現し、発表で先行した出光・昭和シェルグループに先駆けて、石油製品の国内シェアの過半を占めるJXTGグループが誕生したのです。JXTGは、需給の引き締めと採算販売の徹底によって、石油製品市況を底上げし、石油業界の収益環境を改善するとともに、経営統合によるシナジーを積み上げ、収益を大幅に拡大しています。


コスモエネルギーホールディングスも、2017年2月にキグナス石油と資本業務提携契約を締結し、2020年を目途にキグナス石油に石油製品を全量供給する体制を実現する見通しです。コスモエネルギーは、アブダビ石油を核とする石油開発事業と、自動車関連などの油外サービス事業に強いコスモ石油販売を核とする石油販売事業に強みを持っていますが、今後、キグナスをグループ内に取り込むことで、販売シェアの拡大と精販ギャップの縮小が図られ収益力は一段と強まると予想されます。コスモエネルギーは、千葉地区でJXTGエネルギー、三重県四日市地区で昭和シェル石油とそれぞれ石油精製事業で提携し精製部門の収益性を高めることに成功しています。石油開発事業においてもアブダビで開発を進めていた新鉱区での生産が開始されたことで収益の拡大とキャッシュフローの良化が図られ、懸案だった財務体質の強化も急速に進む見通しです。


また、太陽石油も、石油製品事業の西日本地域への集約と南西石油の買収による沖縄県への進出と同県の成長ポテンシャルの取り込みを実現し、以前から注力していた石油化学事業の収益拡大と合わせて、収益力を高めています。


一般に、出光・昭和シェルグループの誕生によって、石油業界は2強体制になると評されていますが、規模だけで競争力を評価するのは妥当ではありません。   現時点では、統合シナジーを積み上げているJXTGが他元売グループに対して競争優位に立っていると考えられますが、コスモエネルギー、太陽石油もJXTGに十分に対峙できる競争力を備えています。日本の石油業界は、出光・昭和シェルの経営統合が実現し統合シナジーが発揮されるようになると、わが国の石油業界は、規模の異なる4つの元売グループに再編・集約される体制になると考えられます。



石油業界の将来を左右する精製設備集約の成否

 石油製品の国内需要は減少傾向で推移しています。アジア各国の石油・石化製品の需要環境の違いや、アジアの主力製油所の規模・収益性などと照らすと、十分なコスト競争力及び収益力を備えている国内製油所は限られていますので、製品輸出の拡大、石化製品への生産シフトを進めるにしても限界があります。

 国内の石油産業の収益環境が中長期的にどのように変化するかは、4つの元売グループが、単独あるいは共同で需要に合わせて石油精製設備を集約し、需給が崩れにくい体制を整えられるかどうか、そして、採算販売を継続できるかどうかによって左右されると考えられます。

 JXTG、出光・昭和シェル、ともに石油精製設備の新たな集約計画を打ち出せていないことが懸念されます。


バックナンバー
  2018/06 SSで新たな施策が成果を上げられる可能性は高くない  
  2018/05 原油、天然ガス、LPガスで異なる市場構造 シェール開発でLPガスの価格構造に変化  
  2018/04 電池が開く明るい未来 電池の進化が未来を大きく作用する  
  2018/03 原油と石油製品の価格の季節性 原油価格に季節性はない  
  2018/02 SSの将来像を検討するための要件 重要な元売とSS経営者の意識改革  
  2018/01 再生可能エネルギーの実情 再生可能エネルギーはすべて善ではない  
  2017/12 16年~17年の石油製品の国内市況上昇理由  
  2017/11 経営の抜本的改革に取り組む好機  
  2017/10 EVシフトによる石油・SS業界への影響  
  2017/09 EVは日本でも自動車メーカーの取り組み次第で急速に普及する  
  2017/08  米国の石油需給統計を読み解く  
  2017/07  エネルギー分野の国際商品とローカル商品  
  2017/06 為替等との相関性が崩れた株価指数と原油相場  
  2017/05 原油価格の本格的な上昇には1年あまりの期限を要する見通し  
  2017/04 石油元売の集約とその影響  
  2017/03 拡大する環境関連のダイベストメントの影響  
  2017/02 冬季は天候が原油市況に影響を及ぼしやすい  
  2017/01 2017年石油業界展望 将来を左右する重大な年  
  2016/12 OPECとロシアの協調減産が原油価格に与える影響は限定される  
  2016/11/7電力・ガス小売全面自由化による変化  
  2016/10/11石油販売業界の変わらない悪弊を断てるか  
  2016/09/10JXTGグループは石油業界の収益改善を先導できるか  
  2016/08.08石油産業が取るべき収益構造改善策  
  2016/07/02原油価格上昇時の経験則  
  2016/06/06原油価格の上昇を示唆する需給構造の変化  
  2016/05/07日米で異なる自動車販売とガソリン需要との関係   
  2016/04/04今後のエネルギー関連制度・事業環境の変化に石油業界はどのように対応すべきか  
  2016/03/02エネルギー産業は電力・ガスの小売全面自由化をきっかけに本格的な競合時代へ  
2016/02/04原油相場:当面軟調な展開が予想されるが、年半ば以降に60ドル近辺まで上昇へ
2016/01/01新たな競争時代を迎えて
2015/12/31元売りの再編・集約、新局面へ
2015/11/3電気事業への安易な参入は勧められない
2015/10/2燃料サーチャージの普及を
2015/9/6出光興産と昭和シェル石油が経営を統合
2015/8/3変化した石油業界の収益と原油市場との関係
2015/7/6原油価格は年後半に上昇へ
2015/6/2先行き不透明な原油需給 
2015/4/25電力・ガスシステムが始動 
2015/3/13まだ先行きが不透明なFEV、本格実用化間近のEV
2015/2/6原油価格は年後半に90ドル目指す
2015/1/12原油市況の急落とその影響
2014/12/3原油市況の下落は様々な原因が絡み合って生じた
2014/11/4原油価格がさらに下落するとアメリカの天然ガス価格は上昇する?!
2014/11/4電気料金値上げの背景事情
2014/9/1石油製品市況の上昇理由
2014/7/31疑問が多いエネルギー供給構造高度化法の石油精製業に関わる新・判断基準案
2014/7/1原油市況を支える地政学的リスク
2014/5/30仕切価格体系変更の歴史
2014/4/28 閣議決定された新「エネルギー基本計画」の問題点
2014/3/28 TOCOMの石油先物市場を再活性化できるか TOCOMがSCDを開始
2014/3/2 ポスト高度化法は必要か?
2014/1/28景気に大きな影響を及ぼすエネルギー事情
2014/12/21 ガソリン市況を改善させたある元売の元経営トップの英断
2013/11/28LNGのスポット取引市場は発展するか
2013/10/26元売は公平な卸売市場の形成と小売マージンの是正に取り組まなくてはならない
2013/9/26北米からの輸入が拡大しても日本のガス輸入価格が大幅に下がるとは思えない
2013/8/27シェールガス・オイルの虚実
2013/7/19公取委に再度指摘された元売の問題行為
2013/6/21シェール開発の主役は石油
2013/5/15アベノミスには頼れない石油産業
2013/4/15石油元売の中期経営計画に抜け落ちている重要な対策
2013/3/17変化するSSのカーケアサービスの収益環境
2013/02/17  「シェールガス革命」の幻想
2013/01/16石油業界は機器の普及拡大にもっと積極的に取り組むべき
2012/12/20新年は石油業界の将来を左右する節目の年に
2012/11/20ドバイ原油は当面90~120ドルで推移する見込み
2012/10/15 今年の冬も北海道を中心に不安なエネルギー事情が続く
2012/09/15 石油の復権を図るために需給両面で対策を
2012/08/15 急激に悪化した石油元売の4~6月期決算
2012/07/20 実現性が疑われる需給見通しの意味するものは?
2012/06/20 エネルギー政策の議論を乱す世論のゆがみ
2012/05/20 固定価格買い取り制度の開始で太陽光発電の導入さらに加速へ
2012/04/20 不当廉売は何も生み出さない
2012/03/20 仕切り価格算定方式の修正を提案
2012/02/20 変化の兆し
2012/01/20 「新年の取り組みいかんで将来が大きく左右される」



会社案内|個人情報|著作権|リンクポリシー
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は㈲マジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2018,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.