㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


大規模自然災害に備えるためエネルギー安定供給体制の
再考を


伊藤 敏憲


日本列島を揺るがした大規模自然災害が続発


今年は、国民の暮らしや経済活動にきわめて大きな影響を及ぼした大規模自然災害が続発しています。7月初旬に中国地方を中心に全国各地を襲った「平成30年7月豪雨」は土砂崩れや浸水などの災害を各地で引き起こしました。9月4日に日本列島に上陸した「平成30年台風21号」は強風・高潮・高波などによって関西地方を中心に様々な施設に被害をもたらしました。9月6日に北海道を襲った「北海道胆振東部地震」は土砂崩れや土地の液状化現象などによって甚大な被害を及ぼしました。9月30日から10月1日に日本列島を縦断した「平成30年台風24号」も大停電を引き起こしたり鉄道や飛行機のダイヤを大きく乱したりしました。


エネルギーインフラにおいて、これらの大規模自然災害で最も大きな被害が発生したのは電気で、台風21号では電柱約1千本がなぎ倒された関西地方を中心に最大約261万5千戸が停電し、台風24号でも東海地方を中心に延べ約119万戸が停電し、いずれも停電を解消するのに約1週間を要しました。そして、北海道胆振東部地震による「北海道大停電」は北海道全域で延べ約295万戸が停電するブラックアウトを引き起こしました。電力会社の供給エリア全域が停電したのは電力供給が現行体制になって以来初めてのことでした。



事実関係を無視した意見や報道が拡散


北海道大停電は震源地近くの厚真町に立地する北海道最大の火力発電所「苫東厚真発電所」が被災して停止したことをきっかけに起きました。苫東厚真発電所の出力は165万キロワットと、地震発生直前に営業運転されていた北海道電力の全電源の供給力合計396万キロワットの4割強を占め、地震発生時には北海道の全需要約283万キロワットの6割近くを供給していました。なぜ北海道全域に及ぶ大停電が起きたかは、発生した事象、データなどを、時系列を追って詳細に分析しなければ解明できませんが、現時点で明らかになっていることは、供給量の半分以上を占めていた発電所が緊急停止したため、異常な負荷がかかりそうになった他のすべての発電所で発電設備の停止あるいはネットワークからの切り離しを余儀なくされたことから、連鎖的に全道停電が起きたということです。


北海道大停電に際して、「泊原子力発電所が動いていれば」、「再生可能エネルギーの導入がもっと進んでいれば」、「分散型電源の導入が進んでいれば」今回のような大規模長期停電は避けられたのでは、といった憶測や事実関係を半ば無視した意見がインターネット、新聞、テレビなどで拡散されました。


確かに、今回の地震であれば、泊原子力発電所の発電設備が一部でも運転されていれば、停電が避けられた可能性は高かったと思われます。今回の地震時の泊原子力発電所内の震度は「2」と軽微だったからです。しかし泊原子力発電所は運転されていませんでしたし、すぐに稼働できる状態でもありませんでした。


「再生可能エネルギーの導入がもっと進んでいたら」、あるいは、「分散型電源の導入が進んでいたら」といった推察はかなり無理があります。既存の再エネ電源や分散型電源のほとんどは電力ネットワークと接続されて運用されているため、停電時には電力を供給できなくなってしまうからです。停電時に電力供給できるようにするためには、自立運転機能を備えたり、蓄電設備を装備したりする必要がありますので、コストが著しく嵩みます。

現在、大規模停電の検証作業が行われていますが、その結論を待たずに、憶測で停電の責任を一義的に電力会社に押し付けるような論評することは慎むべきと思われます。



石油とLPガスは今回もエネルギー供給の最後の砦だったが…


上述した大規模自然災害において被災地の暮らしと経済活動を支え続けたエネルギーは石油とLPガスでした。石油とLPガスは、わが国のエネルギー政策の中で明示されている「エネルギー供給の最後の砦」であることが証明されたのです。


石油製品の供給は、給油機などの電動設備の停止、一部SSにおける冠水・土砂崩れなどの被災、道路の損壊や交通事情の悪化による配送不能などによって、一時途絶えたことがありましたが、自動車や石油・LPガス機器は、燃料を備えていますので、その燃料を使い切るまで使用できたからです。


北海道大停電の際には、工事現場でディーゼル発電機を動かして携帯電話・スマートフォンなどを充電している様子がテレビで紹介されていましたが、自家発電設備の多くは石油を燃料にしています。また、発電機を積んだハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカーは、搭載した燃料を使い切るまで、自動車としてだけでなく、電源としても使用することができますが、停電が長引いた地域ではそのような使われ方もされていました。


大半の自動車や利用する際に電源が必要ない石油・LPガス利用機器は、被災地の暮らしや経済活動を支え続けていたのです。しかし、この事実がマスメディアによって大々的に報道されたり、解説されたり、クローズアップされたりしてはいません。大規模自然災害に備えるためには、電気や都市ガスなどのネットワーク供給型のエネルギーだけでなく、石油やLPガスの利用を併用することが有効です。石油・LPガス業界関係者は、事実に基づいたプロパガンダを丁寧に行っていく必要があると思われます。




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