㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲




原油、天然ガス、LPガスで異なる市場構造

伊藤 敏憲



シェール開発でLPガスの価格構造に変化


商品には、世界中ほぼ同じ条件で取引されている国際商品、地域によって異なる条件で取引されているローカル商品、その中間的な商品があります。エネルギー資源を例にとると、原油は代表的な国際商品で、天然ガスはローカル商品に分類することができます。また、LPGは、現在は世界中ほぼ同じ条件で取引されていますが、北米のシェール資源開発の拡大によって需給構造が変化し、その価格形成に変化の兆しがみられるようになっています。LNGの価格は、これまで原油価格とほぼリンクして動いていましたが、今後は異なった動きを示すようになる可能性もあると思われます。



原油は代表的な国際商品


原油の性状は油田や油層によって異なります。原油の主成分は炭素と水素の化合物の炭化水素ですが、炭化水素には、分子量、組成、性質が異なる様々な化合物があり、硫黄、窒素、酸素、金属元素が含まれた化合物や、水分、塩分、金属類、泥分などの不純物も混ざっています。このため、同じように精製しても油種によって生産される石油製品の構成は変わりますし、石油製品の品質に影響を及ぼす硫黄、窒素、金属などを除去しなくてはならないケースもあります。硫黄や窒素を含む化合物は、燃焼すると硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)となって大気や水を汚染しますし、石油製品の品質の劣化、装置の腐食、触媒の劣化などを引き起こすことがあるからです。原油に含まれる金属類の中にも装置を痛めたり触媒を劣化させたりするものがあります。このため、原油の取引価格は、油種によって異なりますが、性状や取引条件の差を考慮すると、大きな価格差が生じることはありません。ちなみに、先物市場では油種間でイレギュラーな価格差が生じることがあります。例えば、2011年から2014年にかけて、それまで硫黄の含有率が低く、ガソリン・ナフサ留分が多いため、高値で取引されることが多かった米国産の低硫黄軽質原油(代表油種WTI原油)が、北海産のBrent原油や中東産のドバイ原油・オマーン原油などに対して割安に取引されていたことがありました。ただし、原物を取引する際には価格の調整がなされますので、異常な価格差が生じていたわけではありません。



天然ガスはローカル商品


一方、天然ガスには常態的に大きな価格差がみられます。天然ガスは、低コストで大量に貯蔵することができませんし、パイプラインネットワークで結ばれていない地域間では低コストで大量に輸送することができないからです。このため需給や経済性などの違いによって、北米、欧州、東アジアの天然ガスの価格には大きな差がみられます。


ちなみに、一般に天然ガスと呼ばれるメタン(CH4)とエタン(C2H6)は、常温ではどれだけ圧縮しても液化しませんが、メタンはマイナス162℃、エタンはマイナス89℃以下に冷却すると液化します。これをLNG(液化天然ガス)と呼びますが、LNGが天然ガスの国際取引の大半を占めるアジアでは、長期契約による取引の価格の相当部分が日本の原油輸入価格に基づいて決定されています。域内で生産される天然ガスをパイプラインで輸送する取引が大半を占める北米、域内・中東・ロシアなどで生産される天然ガスをパイプラインで取引する形態が主体の欧州と、条件が大きく異なっていますので、取引価格が違ってくるのです。なお、LNGの取引価格は、契約形態が異なるスポット取引はもとより、同じような内容の長期契約でも契約を結んだ時期の違いなどによって大きな価格差が生じることもあります。



国際需給・価格形成に変化の兆しがみられるLPG


プロパン(C3H8)とブタン(C4H10)を圧縮して液化にしたものがLPガス(液化石油ガス、LPG)です。プロパンとブタンは、原油・天然ガスを生産する際に随伴生産されるほか、石油精製過程でも生産されます。わが国は需要の80数%を輸入によって調達しています。


ちなみに、プロパンは常圧の場合マイナス42.09℃以下、常温の場合約8気圧、ブタンは常圧の場合マイナス0.5℃以下、常温の場合約2気圧でそれぞれ液化し、低コストで大量に貯蔵・輸送できるようになります。一般家庭や調理用などにプロパンボンベで供給されているLPガスには主にプロパンが使用され、ライターやカセットコンロの燃料、エアロゾルスプレーの噴射剤、化学品の原料などにはブタンが用いられています。


LPガスは、近年まで主に中東などの産油国から世界各国に供給されていました。このため、その取引価格は、世界的にサウジアラビアのアラムコが値付けしたコントラクトプライス(CP)によって左右されてきました。ところが、シェールオイル・ガス開発の拡大によってプロパンとブタンの生産量が急増した米国からの輸出量が2012年ごろから急増した結果、需給構造が変化し、価格形成にも変化が生じてきました。北米産LPGの取引価格はテキサス州モントベルビュー(MB)の取引価格を基に算定されているからです。MBのLPG価格は、天然ガスと同じように北米の固有事情によって価格が変化する傾向がみられた2011年から2013年にかけてCPとの間に価格差がみられた時期がありましたが、2014年ごろからMBとCPはほぼ同様の動きを示すようになっています。米国産LPGの輸出が拡大し、市場が連携されるようになったためと考えられます。


ただし、LPガスは、今後、北米での生産・輸出がさらに拡大すると予想される上に、オーストラリアやインドネシアなどで進められているLNGプロジェクトからも大量に供給される見通しです。このため将来的には、原油との価格相関性が薄れて、独自の価格形成メカニズムが働くようになる可能性もあると思われます。



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