㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



石油元売の集約とその影響


伊藤 敏憲


元売三極化へ


2017年4月1日、JXホールディングス株式会社と東燃ゼネラル石油株式会社が経営を統合し、統合持株会社「JXTGホールディングス」、両社のエネルギー関連事業が全面的に統合された「JXTGエネルギー株式会社」、石油・天然ガス開発事業会社の「JX石油開発株式会社」、金属事業会社「JX金属株式会社」によって構成される「JXTGグループ」が誕生しました。石油製品の国内出荷量の約半分を占める巨大グループが誕生したことで、石油業界の構造は今後大きく変わることになると考えられます。


当初JXTGグループに先行する形で進められていた出光興産と昭和シェル石油の経営統合計画は、昨年6月に出光創業家が反対を表明したことで、現時点ではまだ先行きが不透明な状態ですが、出光興産は、昨年12月にロイヤル・ダッチ・シェルの子会社から昭和シェル石油の発行済み株式総数の31.3%に相当する1億1,761万株を所得し、2017年4月から石油精製及び物流部門で業務を提携するなど、両社の経営一体化に向けた取り組みが始まっています。


また、コスモエネルギーホールディングス株式会社(以下コスモエネルギー)とキグナス石油株式会社(以下キグナス)が17年2月21日に資本業務提携契約を締結し、2017年6月末までにコスモエネルギーがキグナスの普通株式の20%を取得し、3年後を目途に石油製品の売買取引を行う予定であると発表しました。将来、この両社が経営を統合する可能性は十分にあると思われます。



 

過去の合併・提携局面ではコスト削減は進んだが収益改善は実現していなかった


JXTGは、経営統合効果について、「経営統合後3年以内に1事業年度当たり連結ベースで1,000億円以上の収益改善を達成する」と説明しています。石油精製、石油製品の物流、石油化学製品などの製造・物流部門の収益性は、設備の集約、原料調達・生産得率・設備運用の最適化、管理間接部門の集約などによって確実に改善すると見込まれますし、管理間接部門のコストも集約による効果や業務の効率化などによって着実に削減できると予想されます。これらによって年1,000億円程度の収益性の改善は十分に図ることができるでしょう。ただし、収益改善効果がそのまま利益に加算されるとは限りません。


石油業界では1990年代以降に「日本石油と三菱石油」、「東燃とゼネラル石油」、「エッソ石油、モービル石油、東燃ゼネラル石油」、「新日本石油と新日鉱ホールディングス」などの経営統合が実現し、様々な組み合わせによる業務提携も実施され、いずれも当初想定していた以上の収益改善効果が実現したと説明されています。しかし、いずれのケースにおいても、合併・提携前に比べて収益改善効果分利益が増加してはいませんでした。石油製品の国内需要の減少、石油製品の国内精製・販売マージンの悪化などによって収益環境が悪化してしまったからです。



 

JXTGが先導すれば収益環境は改善する


石油製品の国内需要の減少傾向に歯止めをかけることはできないでしょう。よって、石油業界が取り組むべき対策は、内需減少局面においても、過剰供給、過当競争などが起きにくい体制をつくっていくことだと思われます。そのためには、需要の減少に合わせた精製設備の集約、製品輸出の拡大、石化製品への生産シフトなどを図って需給が緩みにくい事業環境をつくっていくことが必要です。


これらの対策は、石油製品の需要が減少傾向に転じた90年代半ば以降、あるいは、ガソリンの需要が減少に転じた2000年代半ば以降に何度も取り組まれ、それなりに成果を上げてきました。ピーク時から2017年3月末までに製油所数は37か所から22か所に集約され、原油処理能力は日量594万バレルから日量350万バレルへ40%余り削減されました。また、石油製品輸出も拡大し、パラキシレンなどの芳香族製品を中心に石油化学製品への生産シフトも進みました。そして、これらの対策が奏功して収益環境が改善した局面も何度かみられましたが、好環境は長続きしませんでした。


需要減少が続くことを前提にすると、一時的に需給ギャップが縮小して需給が引き締まって市況が改善しても、しばらくすると供給力が過剰になって需給が緩みやすくなり、市況が崩れやすくなってしまいます。まずは、元売各社が、需要に見合った生産・供給に努めて割安な製品の供給を絞り込めるかどうか、そして、商慣行を是正して販売業界の収益環境の改善を図ることができるかどうかが重要です。


JXとTGが、昨年8月末に公表した統合合意書の中には、石油業界の収益環境改善のきっかけとなり得る販売施策の変更が盛り込まれていました。例えば、販売基本方針の中では、『すべての販売施策は「公平公正」および「ブランド価値の向上」の価値に基づき行う』、『特約店、代理店、販売店その他ビジネスパートナーとの信頼関係が重要であるとの認識のもと、両社グループのいずれかに属していたか、また、出資の有無にかかわらず公平に対応』と示されていましたが、これらが忠実に実行されると、石油流通・販売業界の収益構造が大きく変化すると見込まれます。選択的な事後調整や経営支援が行われなくなれば、元売の収益力が向上するだけでなく、販売店間の仕切価格差が縮小して石油製品の小売市況が底上げされ、より公平な競争環境が実現されると予想されるからです。ただし、この販売基本方針は、JXTGの中核をなしている旧日本石油の施策と大きく異なっていますので、修正にはある程度の期間が必要になると予想されますが、修正できるかどうかが、JXTGだけでなく、石油業界全体の収益を大きく左右することになると考えられます。




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