㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲




SSで新たな施策が成果を上げられる可能性は高くない

伊藤 敏憲



経済産業省の「次世代燃料供給インフラ研究会」の報告書を考察すると


今年2月に経済産業省が設けた「次世代燃料供給インフラ研究会」が6月に報告書(案)を公表しました。公表されている資料、議事録などを拝見すると、同研究会は、燃料供給を取り巻く、人口減少、技術革新、エネルギー情勢変化などの課題を踏まえて検討が進められてきたようですが、報告書(案)の内容には、SS事業者にとって参考になると思われるものとそうでないものが入り混じっているように思われます。


例えば、人口減少の影響として、過疎化と人手不足の深刻化が示されていますが、過疎化と人手不足は同じ理由によるものではありませんので、対策は分けて考えるべきと思われます。


人口減少地域や過疎地では経営を維持するために必要と思われる顧客数を維持することすら難しくなりつつあります。この問題に関しては、15年に設立された「SS過疎地対策協議会」で別途検討が進められていますが、SSの運営費の相当部分を占める人件費を抜本的に抑制できるようにするため規制を緩和する対策が考えられますが、これだけで対処できるとは思えません。社会問題ととらえて、燃料供給事業を準公共事業化し、助成金を支給したりするなどの対策をとらなければ、過疎地への燃料供給体制を維持することは難しいと思われます。


人手不足に関しては、業界や事業者の努力によって、まだ対応が可能と思われます。SSの求人難が他の流通・サービス業より厳しいことを踏まえると、これまでSS業界では積極的に採用していなかった中高年の女性、高齢者、外国人などへ雇用対象を拡大したり、新しい人材を生かせるような事業・業務内容に見直したり、要員削減につながる運営方法に変更したり、営業時間を短縮したり営業日を削減したりする対策が有効と思われます。



SSへのIoT導入は十分な費用対効果が上げるか疑問


報告書に示されている生産性の向上に関する提言内容の多くは、すでにSSで試行されたり実証されたりしており、あまり新規性が感じられません。


また、「IoT等の技術の活用」が報告書の各項で提言されていますが、例示されているオンデマンド等の需要家側の要求にこたえたサービス、自動車や消費者に関するデータの活用、他の流通・物流サービスとの連携などは、すでに多くのSS事業者が様々な形態で導入しています。コストがかさむIoTの導入はSSの現場の運営実態と照らすと必ずしも有効ではないように思われます。あるいは、すでに実用化されているタブレット端末を用いた顧客のデータベース化、データベースマーケティング(これらもIoTに分類されているかもしれませんが)などで十分に対応できると考えられます。



SS事業者がEV充電や水素ステーションに取り組むべき??


燃料次世代化への対応の中長期的な対策として、電気自動車(EV)の充電インフラの設置や水素ステーションへの対応が示されていますが、いずれもSSの経営改善につながるとは思えません。


EV充電インフラは、すでに広範に整備されており、さらに設置対象が拡大する見通しです。EVへの充電は、コストが割安な家庭や事業所の駐車スペースで主に行われており、SSがEV充電で優位に立てるようになるとは思えません。SSにEV充電設備を設置すれば、洗車、ボディやウィンドウのコーティング、リペアなどの見込み客を呼び込む効果は期待できますが、費用対効果を考えると、スペースに余裕があれば設置する程度の対応で十分と思われます。


水素は、体積当たりのエネルギー密度が低く、取り扱いが難しく、貯蔵・輸送コストが嵩みますので、供給設備や利用機器のコストを大幅に引き下げるのは難しく、EVが急速に進化している状況も考え合わせると、燃料電池車(FEV)が普及するとも思えません。水素そのものの供給で利益を上げられる事業者は別かもしれませんが、少なくとも現時点でSS事業者が考慮すべき対策ではないと思われます。



SSで新たな対策が簡単に成果を上げられるとは思えない


私は、90年代半ばに、元売や石油販売事業者に、当時、銀行や郵便局でしか行われていなかった税金・公共料金・電話料金等の収納や、まだ実店舗では広まっていなかった産直品の取次などの無店舗販売事業、宅配便の取次事業などを導入することを提案したことがありました。SSは、当時、国内で最大の店舗数のネットワークを全国展開しており、多様な決済手段を持ち、大きな荷物の配送・受取のための駐車スペースを確保できるといった強みを持っていたからです。


宅配事業に関しては。垣見油化の垣見裕司社長が「預かロッカー」の名称で受取業務を実用化されましたが、業界全体には広がりませんでした。他の事業は、元売や大手の販売業者に検討していただいたものの、結果的に導入していただくことはできませんでした。


その一因は、当時はまだSSの収益環境が良好で、新たな事業を展開するインセンティブが低かったためと思われます。ちなみに、これらの事業は、現在、コンビニエンスストア(CVS)で展開されており、その事業収益だけでなく、集客にも少なからず貢献していると考えられます。


CVS、フードサービスショップ、クリーニング店などの異業種店舗との複合化も立地環境や敷地などの条件が満たされていれば成功する可能性があること、その成否は主に異業種の立地条件に左右されると考えられること、複合店の経営の主体は異業種店になるケースが多いと想定されることも90年代から提言させていただいています。


また、ショッピングセンター(SC)やホームセンターの敷地内あるいは隣接地への出店は、SSにとって集客力の高い好立地ですので、成功する可能性が高いと示唆させていただきました。


次世代燃料供給インフラ研究会の報告書にも示されており、90年代から提案されていた上述したような取り組みが成果を上げることができるかどうかは、ケースバイケースです。燃料供給事業に拠らず、あらゆる事業の環境は常に変化しており、各事業者がその変化を考慮しながら対応を進めています。ほとんどの事業に既存事業者や先行者がいます。SS業界で新たに展開して高い収益を得られると思われる事業は限られているように思われます。



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