㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



再生可能エネルギーの実情

伊藤 敏憲



再生可能エネルギーはすべて善ではない


 エネルギーに関して、新聞、雑誌、専門誌、テレビ、ラジオ、インターネットなどで膨大な量の記事や見解が流されていますが、その中には正確ではない内容のものが少なくありません。経済活動や国民の暮らしへの影響の観点からすると、大半は無視できるのですが、問題なのは、大手マスメディアを通じて流される影響力の強い政治家、知名度の高い有識者、著名な大学や研究機関などの一面的な見解や、偏った姿勢による裏付けが不十分な独自取材に基づく報道です。


大手マスメディアのエネルギーに関する報道は、元々、原子力や既存の大手事業者に対しては批判的、再生可能エネルギーに関しては好意的な傾向がみられましたが、福島原子力事故以降、それがより顕著になったように思われます。例えば、太陽光発電や風力発電に関する事故・トラブル、導入拡大による弊害などについては限られた情報しか報道されていません。一方で大手電力会社や原発推進者が導入を阻害していると思わせるような報道が目立ちますが、ほとんどが誤解や憶測です。


政策の決定や運用、事業の活動は、世論に配慮して行われるべきですが、その際の世論は正確な情報に基づいたものでなくてはいけません。今月のコラムは、再生可能エネルギーに関する真相を記したいと考えています。



電源別で大きな差が生じている再生可能エネルギー


再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が2012年7月に導入されてから約5年半が経過しましたが、電源の種類によって導入ペースに大きな開きが生じています。太陽光発電とバイオマス燃料発電は、2015年7月に現行のエネルギー基本計画の方針に基づいて策定された長期エネルギー需給見通しの見込み量を上回るペースで導入が進んでいますが、風力発電、地熱発電、小規模水力発電の導入は進んでいません。


既存電源の置き換えの観点から、「地熱・水力・バイオマスは、自然条件に拠らずに安定的に運用が可能であることから、原子力を置き換える対象電源として、立地面や燃料供給面の制約を踏まえつつ、実現可能な最大限まで導入」、「風力・太陽光は、自然条件によって出力が大きく変動し、調整電源としての火力を伴うため、火力を置き換える対象電源として、国民負担の抑制とのバランスを踏まえつつ、電力コストを現状より引き下げる範囲で最大限導入」とされています。


再生可能エネルギーの2030年度の導入見込量とFIT買取費用(税抜)は、地熱が102億kWh~113億kWh、1,700億円~2,000億円、水力が939億kWh~981億kWh、1,900億円~2,900億円、バイオマスが395億kWh~490億kWh、6,300億円~8,300億円、風力が182kWh億、4,200億円、太陽光が749億kWh、2兆3,000億円で、2030年度の電源構成比は22~24%をとされています。


FITは、対象となる再生可能エネルギーによって発電された電気を電力会社にあらかじめ設定された価格で一定期間買取らせて、回避可能費用(再生可能エネルギーによる電気を買い取ることで節約できる燃料費等)との差額を電気料金に上乗せして回収するしくみです。この賦課金の総額が2016年度実績で年間約2.3兆円、2017年度予想で年間約2.7兆円に及んでおり、2017年5月~2018年4月の電気料金には、1kWh当たり2.64円の賦課金が加算されていますが、このしくみをご存じない国民が少なくありません。


なお、上述した政策前提において、太陽光・風力を、「電力コストを現状より引き下げる範囲で最大導入」とされていますが、これらの電源のFITによる買取価格は既存の電源に比べて割高に設定されていますし、導入を拡大することで必要となる送電線の増設・運用に関わる費用増、系統安定化のための火力の発電効率悪化及び停止・起動回数の増加に伴う費用増、FIT以外の導入助成制度による負担額などを考慮すると、買取価格が将来的に既存電源のコストより低く設定されるようにならない限り国民負担の増加は避けられません。



将来深刻な問題が発生するリスクがある太陽光


 太陽光発電に関しては、FIT施行前の2009年11月から「住宅向け太陽光発電の余剰買取制度」が施行されていました。一部の地方自治体が導入を助成する制度を独自に設けていたケースもありました。わが国は、設備容量ベースで世界第3位の太陽光発電大国になっていますが、太陽光発電の導入が急拡大したのは、FITやこれらの制度によって、住宅用では投資コストを十分に回収できるようになり、事業用では十分な利益を稼げる見通しとなったからと考えられます。


事業用の太陽光発電施設の中には、森林を大規模に伐採したり、地盤が強固ではない傾斜地や浸水被害が起きるリスクがある土地に簡易な工事で設置されたりしている設備が見受けられます。太陽光発電設備の設置に反対する運動が起きているケースもありますが、現行のルールに抵触していなければ、開発を止めることはできません。そして、残念なことに、すでに、土砂崩れ、水害、強風などの自然災害によって損壊し、そのまま放置されている設備が出始めています。


太陽光発電パネルは、設備が壊れていても、光を浴びると発電します。大きな発電パネルの中には深刻な感電事故を引き起こすリスクがあるものもありますし、一部の太陽光発電セルの中には成分が溶出すると健康被害をもたらすリスクがある、ヒ素、セレンなどが含まれています。使われなくなった太陽光発電パネルや設備は、産業廃棄物として適切に処理されれば問題が生じることはありませんが、放置されると深刻な問題を引き起こす可能性があるのです。


住宅用の太陽光発電設備が大量に設置されるようになったのは2009年からで、10年の買取期間が2019年から終了し始めます。2012年に施行されたFITで大量に導入されるようになった事業用太陽光発電設備の買取期限は2032年から終了し始めます。買取期間が終わった太陽光発電設備・パネルは、償却が終わっているのでコスト競争力があり、発電用パネルは再利用できるので、廃棄物になることはないと楽観的にみる向きもあります。確かに太陽光発電セルのほとんどは20年以上の耐久性がありますが、太陽電池の性能並びにコストパフォーマンスは年々向上していますので、10年あるいは20年利用された後で再利用される発電パネルはごく一部にとどまると考えるべきでしょう。さらに、発電された電気を電気製品で使えるようにするパワーコンディショナー等の機器や、配線、溶接部位、防水部位、設置設備などは経年劣化しますので、補修や交換が必要になります。買取期間が過ぎると大半の設備は使われなくなると考えるべきでしょう。特に利益を稼ぐことを目的に参入した事業者は、明確なルールが設けられない限り、事業終了後、自発的に設備を適切に処理してくれるとは限りません。大きな問題が発生するようになる前に対策を講じる必要があると思われます。


これらの問題は、2009年に太陽光発電の余剰買取制度が導入された時点で懸念点として指摘されていましたが、いまだに事業終了後の撤退や太陽光発電パネルなどの廃棄処分に関する厳格なルールは制定されていません。



風力発電の導入が進まない要因は経済性


風力発電設備では、落雷や電気系統のトラブルによって火災事故が発生することがあります。強風によって風車が壊れたり支柱が倒壊したりすることもあります。設備をメンテナンスする際に高所から落下してお亡くなりになった作業員もいらっしゃいます。鳥が風車にぶつかるバード・ストライクと呼ばれるトラブルは頻繁に発生しています。風車が回る際に発する風切り音や風車・支柱・電気設備などから出される振動が人や動物の健康に悪影響を及ぼすこともあります。マスメディアがこのような事例を報道するケースはまれです。


わが国で風力発電の普及が進みにくい最大の理由は、採算的にみて事業が成り立つ立地地域が限られているからです。


わが国は、風力発電が普及している国や地域に比べて風況条件が恵まれていません。当たり前のことですが風力で発電するためには発電に適した風が必要です。季節・時間帯を問わずに風が吹き続けている国や地域では風力発電設備の利用率が50%を超えるケースもみられますが、わが国では季節や時間帯によって風の強さや向きが変わる地域が大半を占めていますので、風況が良いとされる地点でも利用率が20%を超えるケースは限られています。設備の設置・運営コストにも差がみられます。風力発電が普及している諸外国との違いは、自然環境の違いによる発電効率の差、設備の調達、建設、土地の取得あるいは賃貸、設備の運用などに関するコストの差などに起因しているのです。


期待されている洋上風力も同様の問題を抱えています。洋上は風が遮られにくいので陸上に比べて風況が良く高い発電効率が期待できる地域が多いのですが、それでも、洋上風力の開発が進んでいる欧州などに比べると想定される利用率はかなり低いのが実情です。また、欧州で洋上風力が多数立地している北海は水深が浅いので海底に基礎がつくられているケースが多いのですが、わが国の洋上風力計画の大半は建設コストだけでなく維持コストもかさむ浮体式です。また、わが国独自のルールである漁業規制も立地条件やコストに少なからぬ影響を及ぼします。


風力発電が普及しないのは、送電線に十分な空き容量があるのに電力各社が送電系統への接続を拒んだり、高い接続料・託送料を求められたりしているから…といった内容の記事がみられます。電力各社の基幹送電線の平均利用率が10数%~20数%と低いから空き容量があるというのは誤解です。送電線の空き容量は想定される最大使用量に基づいて判断されるものです。また、送電線の接続ルールは電力会社ではなく経済産業省が定めていますし、送電事業は、2015年3月以前は「電力系統利用協議会」、2015年4月以降は「電力広域的運用推進機関」という公的な第三者機関によって適正に運用されているか監視されていますので、電力会社を批判するのは筋違いですし、風力発電事業者が不当に不利に扱われていることはありえません。


事業が遅れる原因の一つになっていた環境アセスメントをクリアした設備が、今後、立ち上がってくると予想されますが、わが国では、風力が普及している地域のような発電量やコストを期待するのは難しいのが実情なのです。




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