㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


電気事業への安易な参入は勧められない

伊藤 敏憲



 家庭向け電力小売事業者の登録始まる


 

 電力の小売りが来年4月に全面自由化されますが、いよいよ具体的な動きが始まりました。経済産業省は、10月8日、家庭向け電力販売の新規参入事業者40社の事前登録を決定しました。その中には、出光グリーンパワー、昭和シェル石油、東燃ゼネラル石油といった石油元売あるいは石油元売の子会社、新出光、ミツウロコグリーンエネルギー、サイサンといった石油・LPガス販売大手が含まれています。登録事業者数は今後さらに増えると見込まれますが、登録が認められた事業者は、料金メニューやサービス内容を作成・公表して、来年1月以降に販売契約の受け付けを始める見通しです。

 

小売が全面自由化されても平均料金は下がらない可能性が高い


 小売が全面自由化されると、競争原理がより一層働くようになるので、電気料金が下がると説明されることが多いのですが、本当にそうなのでしょうか?


 現状との比較では、原子力発電所が正常に稼働するようになると、コストが下がって料金も下がると見込まれますが、電力システム改革の議論が始まる前に比べて平均料金が下がるとは思えません。電気事業全体のコストが大幅に増加しているからです。


 例えば、原子力発電は、安全・安心を確保するための設備改造、運用体制の見直し、一部設備の廃止などによって、大幅なコストの増加が見込まれます。原子力の不足を補ったり、新電力が供給力を確保したりするため、火力発電設備の新増設計画が進められていますが、これもコストの増加につながります。


 再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が導入されたことをきっかけに、太陽光発電が大量導入にされて買取費用(賦課金)が急増していますが、送電網の増強や需給調整などのためのコストも増えています。


 電力の広域運用体制が実現されると、電源選択に合理性が発揮されるようになり、将来、発電コストが下がると見込まれますが、当面は、送配電設備の増強やシステムの更新などに要する費用が先行して増加します。


 自由化と財務体質の劣化によって電力各社の資金調達コストも増加すると見込まれます。


 電力業界が、過大なコストを支出していたり、過大な利益を稼いでいたりしているのなら費用や利益の削減で前述したコストの増加をカバーすることも可能でしょうが、電力各社は、90年代半ば以降に実施された規制・制度改革、部分自由化、11年度以降の収支悪化などをきっかけにコストの削減に取り組んでいましたし、電力10社と電力卸専業の電源開発の連結経常利益の合計は10~13年度は赤字で14年度も約4千億円に過ぎませんので、その余地は大きくありません。


 また、電気事業への新規参入者は、利益の獲得、あるいは、他事業への貢献を目指しますので、参入が拡大したとしても、既存事業者のコストが低減されなければ、電気事業全体のコストは下がりません。

 今後、料金が低下する可能性があるのは、制度的に電力各社に割高な料金の設定が求められている電力使用量の多い一般家庭や低圧需要家、他事業との協業による割引が受けられるケースなどに限定されると考えられます。



 

電力小売事業への新規参入は業務提携方式が中心になる見通し


 電気は石油やガスと違って大量にためることができませんので、周波数及び電圧を一定に保つためには、需要と供給を常に一致させる必要があります。これを同時同量といいます。電力小売事業者には、同時同量を達成することが求められていますが、大半の事業者は、調整力とコスト競争力を備えた自前の供給力を確保するめどが立っていません。


 現状は、原子力発電所がすべて停止していますので、一部の電力会社の電気料金は平時に比べて割高になっています。このため電力会社との常時バックアップ契約によって調達した電力や、FITの対象となっている太陽光発電事業者から買い取った電力を供給源にしても利益を確保することができていますが、このような異常な状態が続くとは思えません。


 原子力発電の運用が正常化した後の電力各社や自前の供給力を備えた一部の新電力にコスト面で対抗できる小売事業者は限定されると見込まれます。電力小売事業への新規参入は、電力会社や一部の新電力に電気事業の運営を委ねたり、合弁会社を設立したり、販売代理店契約を結んだりする業務提携方式が中心になると予想されます。


 電気事業は、リスクが低い公益事業でしたので、もともと収益性は高くありません。電力会社が規制分野の料金を算定する際に設定される事業報酬率は、資本・資金の調達コストを含めて資産利益率ベースで3%弱にすぎません。足元の歪んだ事業環境をもとに、安易に電気事業に参入することはお勧めできません。


バックナンバー
2015/10/2燃料サーチャージの普及を
2015/9/6出光興産と昭和シェル石油が経営を統合
2015/8/3変化した石油業界の収益と原油市場との関係
2015/7/6原油価格は年後半に上昇へ
2015/6/2先行き不透明な原油需給 
2015/4/25電力・ガスシステムが始動 
2015/3/13まだ先行きが不透明なFEV、本格実用化間近のEV
2015/2/6原油価格は年後半に90ドル目指す
2015/1/12原油市況の急落とその影響
2014/12/3原油市況の下落は様々な原因が絡み合って生じた
2014/11/4原油価格がさらに下落するとアメリカの天然ガス価格は上昇する?!
2014/11/4電気料金値上げの背景事情
2014/9/1石油製品市況の上昇理由
2014/7/31疑問が多いエネルギー供給構造高度化法の石油精製業に関わる新・判断基準案
2014/7/1原油市況を支える地政学的リスク
2014/5/30仕切価格体系変更の歴史
2014/4/28 閣議決定された新「エネルギー基本計画」の問題点
2014/3/28 TOCOMの石油先物市場を再活性化できるか TOCOMがSCDを開始
2014/3/2 ポスト高度化法は必要か?
2014/1/28景気に大きな影響を及ぼすエネルギー事情
2014/12/21 ガソリン市況を改善させたある元売の元経営トップの英断
2013/11/28LNGのスポット取引市場は発展するか
2013/10/26元売は公平な卸売市場の形成と小売マージンの是正に取り組まなくてはならない
2013/9/26北米からの輸入が拡大しても日本のガス輸入価格が大幅に下がるとは思えない
2013/8/27シェールガス・オイルの虚実
2013/7/19公取委に再度指摘された元売の問題行為
2013/6/21シェール開発の主役は石油
2013/5/15アベノミスには頼れない石油産業
2013/4/15石油元売の中期経営計画に抜け落ちている重要な対策
2013/3/17変化するSSのカーケアサービスの収益環境
2013/02/17  「シェールガス革命」の幻想
2013/01/16石油業界は機器の普及拡大にもっと積極的に取り組むべき
2012/12/20新年は石油業界の将来を左右する節目の年に
2012/11/20ドバイ原油は当面90~120ドルで推移する見込み
2012/10/15 今年の冬も北海道を中心に不安なエネルギー事情が続く
2012/09/15 石油の復権を図るために需給両面で対策を
2012/08/15 急激に悪化した石油元売の4~6月期決算
2012/07/20 実現性が疑われる需給見通しの意味するものは?
2012/06/20 エネルギー政策の議論を乱す世論のゆがみ
2012/05/20 固定価格買い取り制度の開始で太陽光発電の導入さらに加速へ
2012/04/20 不当廉売は何も生み出さない
2012/03/20 仕切り価格算定方式の修正を提案
2012/02/20 変化の兆し
2012/01/20 「新年の取り組みいかんで将来が大きく左右される」



会社案内|個人情報|著作権|リンクポリシー
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は㈲マジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2015,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.