㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


元売りの再編・集約、新局面へ

伊藤 敏憲



 

元売りの再編・集約、新局面へ


出光興産と昭和シェル石油が11月12日に経営統合に関する基本合意書を締結しました。両社は、16年10月から17年4月を目途に経営を統合し、両社を合わせると14年度の国内燃料油販売シェア約32%(トップはJX日鉱日石エネルギーの約36%)、14年度末の総資産合計3兆9千億円、10年度~14年度の平均売上高7兆1,400億円、同経常利益1040億円に及ぶ新しいエネルギー企業が誕生する見通しです。

さらに、JX日鉱日石エネルギーと東燃ゼネラル石油が経営統合の交渉を行っていることが明らかになりました。現時点では、この経営統合が成立するかどうかはわかりませんが、元売りの再編・集約は近く最終局面を迎えることになると予想されます。

なお、コスモ石油は、東燃ゼネラル石油と千葉地区の製油所の競合事業化を進めていましたが、昭和シェル石油とも両社が製油所を運営する三重県四日市地域における製油所競争力強化に向けた事業提携を締結しています。

16年には、17年3月末を期限とするエネルギー供給構造高度化法(以下、高度化法)の新基準の達成に向けた石油精製・元売各社の動きが本格化すると予想されます。上述した元売りの再編、石油精製部門における業務提携などはこれを踏まえた動きの一つと考えられます。

高度化法の新基準は、原油調達、国内の石油需要、各社の成長戦略などの変化に柔軟に対応しつつ、「原油等の有効利用」を促進していくため、石油各社に、常圧蒸留装置の能力削減あるいは「残油処理装置」の装備率(常圧蒸留装置の能力に対する残油処理装置の能力の比率)の引き上げを求める内容となっています。数値目標は、14年3月末時点で45%程度の石油精製業全体の残油処理装置の装備率を17年3月末に50%程度まで向上させることを目指すとされ、個々の企業の目標改善率は、計画提出時の装備率が45%未満の場合13%以上、45%以上55%未満の場合11%以上、55%以上の場合9%以上とされました。各社がすべて常圧蒸留装置の能力削減で対応した場合、日本全体としては現在の約395万BD(日量バレル)の精製能力が約40万BDに削減されることになります。

精製能力の削減によって17年度の常圧蒸留装置の稼働率は80%台の後半まで上昇、需給が引き締まりやすくなり、収益環境が改善すると見込まれます。しかし、国内需要の減少ペースに歯止めをかけられなければ、すぐに収益環境は悪化に向かうと予想されます。

燃料油の国内需要は、航空便の運行数の増加によって需要が拡大しているジェット燃料油、景気の回復や建設需要の拡大によって需要が堅調な軽油を除いて減少傾向で推移しています。ガソリンは、軽自動車・小型車・ハイブリッドカーなどの普及による自動車の平均燃費の改善、灯油は、家庭用の暖房及び給湯需要の電気や都市ガスへのシフト、産業用燃料は、政策的に支援されている都市ガスへの燃料転換、発電用燃料は、ガス火力発電設備の新増設などが、それぞれ国内需要が減少している主な理由です。業界を挙げて対策を講じない限り、このような状況が変化することはないと考えられます。原油価格の低下と電気料金の上昇によって石油製品のコスト優勢性が高まっています。東日本大震災をきっかけに石油暖房機器や給湯機器の強みも再認識されました。元売りが先導する形で縮小均衡を打破する取り組みを行うことが必要と思われます。



 

石油販売事業の収益環境も元売りが左右する



石油販売事業者の経営環境は厳しい状態が続いています。ガソリン及び灯油の需要の減少、小売マージンの低迷に加え、カーケアなど油外事業の収益環境もカーディーラーの台頭などによって厳しくなっているからです。

石油販売事業の収益環境が改善するかどうかは、元売各社が石油製品の販売事業の収益環境の改善に取り組むかどうかによって左右されると思われます。系列販売業者の経営を支援したり、販売を促進したりするため、個別に対応するケースがみられますが、選択的な対応では販売業界全体の収益環境は改善しません。むしろ、支援された販売業者が小売市況の悪化を先導してしまったり、事業者間の競争をゆがめてしまったりするため、石油販売業界の健全性や合理性が損なわれやすくなると考えられます。需要に見合った生産・供給に努めて割安な製品の供給を絞り込めるかどうか、各地でシェアが拡大している元売りの販売子会社を通じて小売市況の改善に積極的に取り組むかどうかなどがポイントになると考えられます。


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