㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


新たな競争時代を迎えて

伊藤 敏憲



  新年あけましておめでとうございます。エネルギー業界は、16年から17年にかけて大きく変貌します。石油元売では二つの大型合併が予定されており、これをきっかけに業界の構造は大きく変化すると見込まれます。また、16年4月には電力の小売が全面自由化され、17年には都市ガスの小売も全面自由化される見通しです。これにより、新規参入業者も交えて、エネルギー産業は新たな競争時代を迎えると予想されます。変化はチャンスとピンチをもたらします。変化を未来に活かすことができるかどうかは、これからの取り組みによっても左右されます。



出光・昭和シェル、JX・東燃ゼネラルが経営を統合へ

出光興産と昭和シェル石油は、15年11月12日に経営統合に関する基本合意書を締結しました。両社は、16年10月から17年4月を目途に経営を統合し、燃料油国内販売シェア約32%、総資産約4兆円、純資産約9千億円、売上高約7兆円、経常利益約1千億円規模の新しいエネルギー企業が誕生する見通しです。

さらに、15年12月3日に、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が経営統合に関する基本合意書を締結しました。両社は、16年8月を目途に経営統合に関する最終契約を締結し、17年4月に経営を統合する計画です。両社のシェア、連結決算を単純合算すると、燃料油の国内販売シェア約52%、総資産約8兆8千億円、純資産約2兆7千億円、売上高約14兆円、経常利益約3千億円規模に及びます。

出光と昭和シェルは、経営統合を決断した理由を、国内石油業界が、石油製品需要の中長期的な減退や過剰設備・過当競争を原因とする低収益体質など、様々な構造的課題を抱えており、これに対応するためには、強固な経営基盤を持つ企業グループの形成、即ち業界再編が必要との共通認識から、両社が協議を重ねた結果と説明しています。

JXと東燃ゼネラルは、経営統合の基本方針として、①公平公正かつ対等の精神に則ること、②両社グループのこれまでの経営管理手法、組織体制などにとらわれずに、ゼロベースで検討すること、③両社グループの有する総合的な事業遂行能力、多様なポートフォリオおよび将来性のある新規事業並びに効率的な経営・事業管理・製油所操業にかかる手法などの強みを結集すること、④お客様やビジネスパートナーなどの方々との間で、長年にわたり培った信頼を大切にすることと謳っています。

経営統合によって誕生する見通しとなった出光・昭和シェル、JX・東燃ゼネラルの両グループは、原料調達、石油精製、物流、化学、製品輸出、管理間接などの部門や事業の合理化は確実に収益改善効果を発揮すると予想されます。これは、90年代以降に石油業界で実現した経営統合において実証されています。最大の課題は、石油製品販売部門において狙い通りの収益改善効果を導き出せるかどうかでしょう。残念ながら、90年代以降に実現した過去の経営統合において、石油販売部門では、コストは削減できたものの、収益改善につながる結果が得られていないからです。両グループともに、販売部門、系列特約店・代理店・販売店の体質、経営政策などに違いが見られます。強みを活かし弱みを是正することができるかどうか、安売りを抑止できる体制を作り上げられるかなどによって、両グループに限らず、石油業界全体の収益は大きく左右されることになると考えられます。

上述した経営統合に加わることができなかったコスモ石油は、子会社のアブダビ石油を有する石油開発事業と、カーケアサービス事業などに強い同じく子会社のコスモ石油販売を核にした石油販売事業に強みがありますが、財務体質が悪く、石油精製部門の収益性が低いなどの問題を抱えています。コスモは、14年6月に東燃ゼネラルと千葉地区、15年5月に昭和シェルと三重県四日市地区でそれぞれ製油所競争力強化に向けた事業提携を締結しましたが、前述した提携先の経営統合によって当初の構想に比べて提携内容が見直されることになる可能性もありますので、コスモは、業界構造の変化を踏まえて、強みを活かし、弱みを是正する新たな事業戦略を早急に策定・実行する必要に迫られると考えられます。

また、太陽石油、キグナス石油、燃料商社なども経営戦略の練り直しが必要になると思われます。


石油販売事業の収益環境は元売各社の取り組みによる

燃料油の国内需要は、航空便の運行数の増加によって需要が拡大しているジェット燃料油、景気の回復や建設需要の拡大によって需要が堅調な軽油を除いて減少傾向で推移しています。原油価格が下落し、石油製品の価格が低下したにもかかわらず、需要の減少傾向に歯止めがかかる様子は見られません。ガソリンは、軽自動車・小型車・ハイブリッドカーなどの普及による自動車の平均燃費の改善、灯油は、家庭用の暖房及び給湯需要の電気や都市ガスへのシフト、産業用燃料は、政策的に支援されている都市ガスへの燃料転換、発電用燃料は、ガス火力発電設備の新増設などが、それぞれ国内需要が減少している主な理由ですが、これらの状況が変化するとは思えません。

アジア各国で石油精製設備の新増設が進められる一方、これまで高成長が続いていた中国などでの需要が伸び悩んでいますので、石油製品輸出の拡大や石油化学製品への生産シフトによって余剰能力を処理できる余地も限られています。国内需要の減少に合わせて、精製設備を集約しつつ、精製設備の国際競争力を高める取り組みを併せて行っていく必要があると考えられます。

石油販売事業の収益環境が改善するかどうかは、元売各社が石油製品の販売事業の収益環境の改善に取り組むかどうかによって左右されると考えられます。具体的には、需要に見合った生産・供給に努めて割安な製品の供給を絞り込めるかどうか、シェアが拡大している元売の販売子会社が小売市況の是正に積極的に取り組むかどうか、そして、元売の経営統合などをきっかけに、すべての元売において公平公正で透明性の高い取引ルールを確立できるかなどがポイントになると考えられます。

元売が、系列販売業者の経営を支援したり、販売を促進したりするため、個別に対応するケースがみられますが、選択的な対応では販売業界全体の収益環境は改善しません。むしろ、支援された販売業者が小売市況の悪化を先導してしまったり、事業者間の競争をゆがめてしまったりするため、石油販売業界の健全性や合理性が損なわれやすくなると考えられます。このような不合理な商慣行の是正も必要と思われます。上述した経営統合がこのきっかけになると期待されます。


小売が全面自由かされる電気事業や都市ガス事業で収益を稼ぐのは難しい

東日本大震災をきっかけに議論が進められてきた電力・ガスシステム改革がいよいよ動き出しました。16年4月には電力小売りが全面自由化され、17年には都市ガスの小売りも全面自由化される見通しです。

電力・都市ガス小売の全面自由化をきっかけに、石油会社や燃料販売業者の中に電気事業や都市ガス事業に参入しようとしている事業者が多数みられます。異業種からもセット販売などによって、多数の事業者が新規参入を予定しています。これにより、エネルギー業界は新たな競争時代を迎えることになると予想されます。

ただし、これまで事業リスクが低い公益事業だった電気事業や都市ガス事業の収益性はもともと高くありません。例えば、電力会社が規制分野の料金を算定する際に設定される事業報酬率は資産利益率ベースで2~3%に設定されています。現在は、電力各社の経営が、原子力発電所の利用率の低下、料金制度の運用のゆがみ、規制などによって制約されていますので、新規事業者が電気事業に参入しやすくなっています。電力小売全面自由化後も、当面、電力会社には電気料金を自由に設定することができない経過措置が設けられますので、電力会社以外の電気事業者は採算の良い需要家を選別して事業を展開することができますが、原子力利用率が改善して電力各社の経営が正常化したり、電力会社の経営を縛っている諸規制が緩和されたりすると、電力小売事業者に求められる同時同量(需要と供給の一致)を達成するための需給調整力を備え、かつ、コスト競争力のある電力供給体制を確保できない事業者は、事業を展開することが難しくなると予想されます。都市ガス事業では、天然ガスあるいはLNGを競争力のあるコストで安定的に調達することが求められます。

事業の総合化や複合化を進めることが収益力の強化につながるとは限りません。変化にどう向き合うかが重要になると思われます。


 

 

バックナンバー
2015/12/31元売りの再編・集約、新局面へ
2015/11/3電気事業への安易な参入は勧められない
2015/10/2燃料サーチャージの普及を
2015/9/6出光興産と昭和シェル石油が経営を統合
2015/8/3変化した石油業界の収益と原油市場との関係
2015/7/6原油価格は年後半に上昇へ
2015/6/2先行き不透明な原油需給 
2015/4/25電力・ガスシステムが始動 
2015/3/13まだ先行きが不透明なFEV、本格実用化間近のEV
2015/2/6原油価格は年後半に90ドル目指す
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2014/12/3原油市況の下落は様々な原因が絡み合って生じた
2014/11/4原油価格がさらに下落するとアメリカの天然ガス価格は上昇する?!
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2014/7/31疑問が多いエネルギー供給構造高度化法の石油精製業に関わる新・判断基準案
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2014/5/30仕切価格体系変更の歴史
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2014/1/28景気に大きな影響を及ぼすエネルギー事情
2014/12/21 ガソリン市況を改善させたある元売の元経営トップの英断
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2013/10/26元売は公平な卸売市場の形成と小売マージンの是正に取り組まなくてはならない
2013/9/26北米からの輸入が拡大しても日本のガス輸入価格が大幅に下がるとは思えない
2013/8/27シェールガス・オイルの虚実
2013/7/19公取委に再度指摘された元売の問題行為
2013/6/21シェール開発の主役は石油
2013/5/15アベノミスには頼れない石油産業
2013/4/15石油元売の中期経営計画に抜け落ちている重要な対策
2013/3/17変化するSSのカーケアサービスの収益環境
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2012/08/15 急激に悪化した石油元売の4~6月期決算
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2012/03/20 仕切り価格算定方式の修正を提案
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2012/01/20 「新年の取り組みいかんで将来が大きく左右される」



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