㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


原油相場:当面軟調な展開が予想されるが、年半ば以降に60ドル近辺まで上昇へ

伊藤 敏憲


  

下げ要因が重なり12年ぶりの安値を記録

原油相場は、12月から1月にかけて急落し、1月20日に、NYMEXのLight Sweet Crude Oilの期近先物価格(引け値)は1バレル26.55ドル、ICE Futures EuropeのBrent Crude Oilも27.88ドルと、いずれも2003年以来の安値を記録しましたが、翌日から反発し、1月末には30ドル台半ばまで値を戻しました。原油市場に今何が起きているのでしょうか?


 足元の需給は緩んでいます。需要が想定外に伸び悩んでいるからです。中国やそれ以外の主要地域での景気鈍化に加え、昨年12月から今年1月初旬にかけて米国、欧州、東アジアなど北半球の気温が高めに推移したことも大きく影響しています。暖冬で暖房用燃料やガソリンの需要が落ち込んでいるからです。一方、供給面では北米などで原油生産が頭打ちとなっていますが、生産量の減少ペースは大方の見方よりも緩やかです。この結果、世界的に需給が緩んだ状態が続いており、主な消費国や産油国で石油製品や原油の在庫が高い水準で積み上がった状態のままとなっています。


昨年12月以降の原油市場の混乱は、上述した需給の緩みだけでなく、複数の理由によって起きたと考えられます。


その一つは、中国経済への懸念、いわゆるチャイナショックで、これによって世界的にリスク資産に対する投資意欲が後退しました。


また、米国が昨年12月に利上げした際にさらなる利上げを示唆したことも影響していると考えられます。ドル建ての商品は、ドル高が相場の下落要因になります。特に原油はその傾向が強く、2007年から2009年にかけての急騰落局面、2014年8月から2015年7月にかけての急落局面などで、原油価格とドル・ユーロ為替相場には強い相関関係が見られました。今後の米国の金融引き締めペースが注目されますが、米国は国内の状況だけで金融政策を決めているわけではありません。足元の経済情勢では簡単に引き締めはできず、利上げペースは穏やかになるとみられます。


中国経済への懸念や米国の金融引き締め政策は、原油だけでなく、株式、債権、様々な国際商品の相場に大きな影響を及ぼしており、多くの金融商品、国際商品が冒頭に示した1月20日に数年あるいは数カ月ぶりの最安値を記録しています。


 サウジアラビアとイランの関係悪化も原油相場の押し下げ要因の一つになりました。今回は、両国の外交関係断絶のニュースが、市場が下げ材料を探していた局面で入ってきましたので、OPEC内の生産調整が難しくなったとの見方から下げ材料になりました。ただし、相場の戻り局面でこのニュースが出れば、中東地域の緊張を高めるリスク要因として恐らく上げ材料になったと考えられます。今後は上げ下げどちらに影響を及ぼすか判断しにくいと思われます。


 サウジアラビアは、これまで中東諸国の中では比較的政情が安定していましたが、安定しているとは言えなくなっています。また、中東情勢が不安定化している背景事情の一つには、米国の動きが変化したことも挙げられます。米国の中東情勢への関与度合は、シェールオイル・ガスの開発の拡大によって原油及び天然ガスの国内生産が急増し始めた2000年代後半以降、明らかに後退しています。


また、主要産油国の協調減産が噂されていますが、協調減産が取り沙汰されるときには、原油価格は一時的にしか上がらないという経験則があります。過去に減産の実現、あるいは実現しそうだとのうわさが流れた段階でいったん原油相場が上昇したケースがありましたが、1~2ヶ月後にはほとんどの場合で下がっていました。OPECや主要産油国が協調減産が検討する局面は、需給が緩んでいるからです。

 

春以降に需給は引き締まる方向へ

ただ、米国をはじめ、2000年代後半以降に原油生産を拡大した産油国・地域のほとんどで原油の採算量が減少に転じていますので、経済制裁が解除されたイランの市場復帰分(今後1年程度の期間に日量50万~60万バレル程度の増産)を考慮しても、需要がさらに落ち込む経済情勢にならない限り、年央から年後半に向けて需給は徐々に引き締まると予想されます。


これらから、当面、安値を模索する動きが続く可能性がありますが、ガソリンが需要期を迎える春ごろから原油相場は上昇に向かい、年央以降に60ドル近辺まで上昇すると私は予想しています。足元の原油相場の水準は下げ過ぎであり、この水準では必要な供給量をカバーできなくなりますので、ただ、需給が急に引き締まるとは思えませんので、地政学リスクが顕在化したり、為替を含めた原油相場に影響を与える上述した諸要因が反転したりしない限り、昨年の戻り高値の60ドル強を超えてさらに上値を追う動きは起きにくいと考えられます。



 

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