㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


エネルギー産業は電力・ガスの小売全面自由化をきっかけに本格的な競合時代へ

伊藤 敏憲


  

電力小売りへの新規参入広がる

今年4月に電力小売りが全面自由化されて、すべての需要家が電力会社を自由に選べるようになります。昨年10月から経済産業省が小売電気事業者の登録を受け付けていますが、2月23日現在で、登録件数は199者にのぼっています。全面自由化が始まる4月時点では300者以上が登録申請を行うと予想されます。

これらの新しい電力会社(以下、新電力)の一部が、1月から、地域の電力各社の標準的なメニューに対して割安な料金や、本業とのセット割引を打ち出して、事前受付を開始しています。新電力は、供給力が十分に確保できていないこともあり、4月時点でのサービスエリアを東京電力の供給エリアに限定しているケースが多く、当面、他の地域では選べる電力会社が限定される見通しですが、競争は徐々に拡大していくと予想されます。

マスメディアがこの動きを連日のように大きく報道しています。この結果、電力小売りが全面自由化されることを知らない国民はほとんどいなくなっていると思われます。

電力各社が設定する現在の料金は、原子力利用率の低下などの影響で正常な水準に比べて割高になっています。新電力は需要家を選ぶことができますが、電力各社の規制料金は政策的にゆがめられていますので、料金が割高に設定されている電力消費量の多い家庭向けや、電力以外の事業とのセット割引でメリットが得られる需要家に対象を絞り込むことで、魅力的な料金メニューを提供することができます。実際、新電力の中には、本業の既存顧客を囲い込んだり、新しい需要家を開拓したりするために電気とのセット割引を行っているケースもみられます。

電力会社の切り替えは、切り替え先の新電力に申し込むことでほぼ完了します。現在契約している地域の電力会社への解約手続きや、切り替えるために必要な通信機能を備えた電力量計「スマートメーター」への交換手続きは、新電力に委託することができるからです。電力会社と新電力との間で電力の質に差はありません。同じ送配電網で供給されるからです。また、新電力は、それぞれの地域の電力会社と供給量が不足した場合に不足分を補ってもらえる常時バックアップ契約を結びますので、新電力が必要な電気を供給できなくなったとしても停電になることはありません。

このような事情を考慮すると、新電力は、自前や契約、電力各社とのタイアップなどによって安定的に供給できる分だけシェアを獲得できると予想されます。現在は、原油、LNG、石炭の価格が下がっていますので、新電力は供給力を確保しやすくなっています。地域間でばらつきが出ると予想されるものの、原油価格が急騰しない限り、東京電力の供給エリアでは1~2年で10%前後の需要家が電力会社を切り替える可能性があると思われます。

 

来春自由化される都市ガスの小売事業でも電力と同じ動きが起きる公算大

来春には都市ガスの小売りも全面自由化されますが、ガス業界では、将来、これから電力業界で起きる以上の変化が起きる可能性があります。その理由の一つは、ガス事業が、現在、健全に営まれており、200余りの都市ガス事業者のほとんどが利益を稼いでいるからです。新規事業者は利益の獲得を目的に参入しようとするからです。新規事業者が、採算のとれそうな需要家だけを選んで参入できるのは都市ガス事業でも同じです。

このため、ガスを都市ガス各社と同等あるいは割安な水準で安定的に調達できると思われる電力、石油、商社などの業界や、ガスをセット販売することでメリットが得られる業界から家庭用のガス小売事業への参入が広がり、消費量の多い需要家や、セット販売によってメリットが期待できる需要家を中心にガス会社を切り替える動きが広がると予想されます。

 

エネルギー産業は本格的な競合時代へ

LPガスの小売りは自由化されていますが、多くの需要家が、ガス会社を選べるとは思っていません。しかし、来年、ガス小売りの全面自由化されることをきっかけに、ガス会社が選べることが認識され、既存業者間だけでなく、新規参入者を交えて競合が活発になると予想されます。そして、電力や都市ガスと同様に、電力、通信、ケーブルテレビ、石油、不動産などの事業者が、LPガスとのセット販売を始めるようになると予想されます。

石油業界では、元売各社が業務提携や合併、総合エネルギー企業化を目指した電気事業やガス事業への積極的な展開などによって、制度・事業環境の変化に対応しようとしており、JXエネルギー、昭和シェル石油、東燃ゼネラル石油などが、新電力の中心的な存在となりつつあります。

石油製品の販売業界では、ガソリンの国内需要が減少し、カーケア事業の経営環境も年々厳しさを増しています。

今後の制度・事業環境の変化は、LPガス及び石油業界にビジネスチャンス及びリスクをもたらすと考えられます。変化を的確にとらえて、対応することが必要になると考えられるのです。

まずは、需要家にとって、窓口として認識される存在になるかどうかが重要になります。窓口になれば、協業できる様々な事業を取り込むことができるからです。逆に、窓口になれなければ、需要家を失うリスクが高まると考えらえます。

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