㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



原油価格の上昇を示唆する需給構造の変化

伊藤 敏憲




Brent原油価格は7カ月ぶりに50ドル台まで上昇


原油価格は、2月下旬から水準を徐々に切り上げ、ICE Futers EuropeのBrent原油の期近先物価格は6月2日の引け値で1バレル50ドル台を回復しました。昨年11月2日以来7カ月ぶりのことです。NYMEXのWTI原油(Light Sweet Crude Oil)の先物期近価格も6月2日時点で、2月中旬に記録した底値26ドルの約2倍にあたる50ドルぎりぎりまで上昇しています。

 

原油相場を押し上げる米国などの原油生産の減少


原油相場が上昇している理由の一つは、需給構造の変化にあると考えられます。


米国の原油生産は減少し続けています。米国のDOE(Department of Energy)のEIA(Energy Information and Administration)が公表している週次統計によると、米国内の原油生産量は16年3月11日の週から12週連続で減少し、16年5月20日の生産量は日量8,735千バレルと、15年6月5日の週に記録したピーク生産量の日量9,610千バレルに対して約9%減少しています。シェールオイルの生産量が減少しているためと考えられます。


米国内の石油リグ(原油掘削設備)の稼働基数は、原油価格が1バレル約150ドルから30ドル台に急落した影響で08年から09年にかけて減少した後、シェールオイル開発の急拡大を受けて14年秋まで増加傾向で推移し、原油価格の急落を反映して14年10月から減少しています。16年5月27日の稼働基数は316と、前年同期の半分以下、直近のピークの14年10月10日の1,609と比べると約5分の1になっています。


リグの稼働基数の減少率に比べると、生産量の減少率の方が小さくなっていますが、これは09年以降に新たに稼働し、14年10月以降に停止したリグの大半が在来型の油田に比べて規模が小さいシェールオイルのリグだったこと、採算性が低く生産量が小さいか生産量が減衰しているリグから停止が進んでいること、稼働中のリグの多くで原油価格の低下を生産量の拡大で補うための対策が講じていることなどによると考えられます。ただし、生産量を増やす対策もほぼ限界に達していますので、今後は、生産量の減衰などによって生産量の減少幅が拡大していくと予想されます。


シェールオイル開発のコストを回収できる原油の損益分岐点価格は、原油価格とリグの稼働基数との相関性などから、1バレル50ドル~80ドル程度のプロジェクトが多いと推察されます。原油の開発・生産コストは、人件費や一部の資材・機材の調達コストの低下、探鉱・開発・生産技術の向上などによって多少下がっていると予想されますが、原油価格の戻りが50ドル程度までにとどまると、リグの稼働基数が増えるとは考えにくく、すぐに生産量が増えるとは思えません。


探鉱・開発投資が減退し、リグの稼働基数が減少しているのは、米国に限りません。2000年代に入って原油価格が高騰してから積極的に開発が進められた新興産油国・地域に共通する動きです。そして、これらの国・地域では原油生産量が減少しつつあり、この影響で、原油の需給は今後徐々に引き締まっていくとの見方が一般的になりつつあります。


なお、5月に、外資系の大手投資銀行が2015年の石油発見量が1952年以来で最低だったとレポートしていましたが、これは、原油価格が急騰しても生産量が簡単に増えないことを意味しています。



原油価格の下げ要因として注意すべきこと


産油国、流通国、消費国のいずれにおいても原油の在庫水準が高いこと、サウジアラビア、イランなどOPEC諸国に増産余力が十分あることなどを考慮すると、すぐに需給がひっ迫して原油価格が急騰するようなシナリオは描きにくいのですが、原油の需給構造の変化は、原油価格の先高を示唆していると考えられます。


一方、原油価格の下げにつながる変化として注目しなくてはならないことは、昨年6月以降の原油安の理由の一つとなった「チャイナショックの再来」、近く実施が予想されている米国の利上げをきっかけとした「ドル高」などと考えられます。


いずれにしても、石油相場を取り巻く環境は、下げ材料のみを拾い続けた昨年後半から今年2月中旬までの状況とは様変わりしていると考えられます。


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