㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



原油価格上昇時の経験則

伊藤 敏憲




オイルショックによる原油価格の急騰


原油市場に投資家が参入するようになったのは、1986年10月にニューヨーク商品取引所で原油先物取引が始まった1986年4月以降で、機関投資家が本格的に参入したのは1999年の春からです。投資家が市場に参入するようになったことで原油価格は短期間で大きく上げ下げするようなりました。


それ以前に原油の価格が大きく動いたのは、1973年10月6日に勃発した第四次中東戦争を契機とした第一次オイルショック、1978年10月に起きたイランの石油産業労働者によるストライキに端を発したイランの政変(1979年2月に暫定革命政府樹立)と1980年9月に勃発したイラン・イラク戦争を契機にした第二次オイルショック、そして、1990年8月のイラクのクウェートと侵攻(湾岸紛争)の時でした。いずれも紛争当事国の原油生産及び輸出が一時的に大きく落ち込んで需給がひっ迫した局面でした。


ちなみに、第一次オイルショックの時には、OPEC加盟国のうちペルシア湾岸の6カ国が、原油公示価格を1973年10月16日に1バレル3.01ドルから5.12ドルに改訂し、さらに、1974年1月に11.65ドルに引き上げました。


第二次オイルショック時には、OPECが、1980年12月に開催されたバリ島会議で原油の上限価格が41ドルに設定したことなどから、1978年に10ドル強で推移していた原油価格が34ドルまで急騰しました。


湾岸紛争時には、1990年6月に10ドル台半ばで取引されていたNYMEXのLight Sweet Crude Oil(WTI原油)の先物期近価格が1990年10月11日には40.42ドルまで上昇しました。



 

金融商品化によって急騰落を繰り返すようになった原油相場


機関投資家が原油の取引に本格的に参入し、原油がコモデティ・金融商品化した1990年代末以降は、原油の需給がひっ迫していない状況下で、油価が何度も高騰・下落を繰り返すようになりました。例えば、NYMEXのWTI原油の先物期近価格の動きを見ると、1999年2月から2000年1月にかけて1バレル11ドルから36ドルに上昇し、2001年11月に17ドル台まで下落した後、2003年3月に38ドルまで上昇。2003年4月に25ドルまで調整した後に上昇傾向に転じ、2006年8月に77ドルまで高騰。2007年1月に瞬間値で49ドルまで下落した後に急騰し同年7月に147ドルの史上最高値をつけ、その後、リーマンショックの影響などで急落し、2009年3月に33ドルまで低下。その後、反発し、2011年には114ドルまで上昇。1999年以降の、原油価格の急騰落、高値、安値を、原油の需給や経済性などのファンダメンタルズだけで合理的に説明することはできません。地政学リスク、需給の変化、投資環境の変化、為替の変動などの影響を反映して、高値は需要に影響が生じる水準を大きく上回り、安値はコスト的に必要な供給量を維持することが難しい水準を著しく下回っていました。



 

原油価格の急騰落時における経験則


ところが、高騰時の最高値は、2001年11月から2003年3月にかけての上昇局面をのぞいて、いずれも直前の安値の3倍から4倍の範囲に収まっています。私は、この価格変動幅には経験則が働いていると考えています。経験則には経済合理性はありませんが、経験則を参考にしている投資家が少なからず存在しているからです。商品市場で歴史が繰り返されるのはこのためです。


ちなみに、今年2月につけた安値は26ドル、その3倍から4倍は78ドルから104ドルとなります。



 

[参考]


第一次オイルショック


 1973年10月6日に、領土問題から、エジプト・シリア連合軍 (アラブ軍)がイスラエル軍と戦闘状態に突入しました。この際にアラブ側が石油を戦略商品として使い始めました。アラブ側は、イスラエルのパレスチナからの全面撤退とパレスチナ人民の権利の回復を主張し、OPEC加盟国のうちペルシア湾岸の6カ国が、1973年10月16日に原油公示価格を1バレル3.01ドルから5.12ドルに改訂、翌10月17日に5%の減産を決めるとともに、友好国に対して石油の供給を保証する一方で、敵対国と位置付けたアメリカとオランダへの石油輸出を停止しました。さらに、6カ国は、1974年1月1日に原油公示価格を11.65ドルに引き上げました。これらの動きを反映して原油価格が急騰したのです。なお、日本は、当初、友好国には含まれていませんでしたが、外交交渉の結果、1973年12月25日に友好国として扱われるようになりました。



 

第二次オイルショック


 1978年10月に起きたイランの石油産業労働者によるストライキに端を発したイランの政変(1979年2月に暫定革命政府樹立)、1979年11月のテヘランの米国大使館占拠に伴う対米原油輸出停止とイランへの経済制裁、1980年9月に勃発したイラン・イラク戦争などによって、イランおよびイラクの原油生産量が減少し、イランからの原油輸出が一時停止されたこともあり原油の需給がひっ迫した。


1978年当時の世界の原油生産量は日量6,330万バレルで、イランの原油生産量は日量約600万バレルだったが、イランの原油生産量は1980年半ばに日量150万バレル程度まで減少し、た。また、日量約450万バレルに及んでいたイランの原油輸出は1979年12月末から1980年3月初旬にかけて全面的に停止され、再開された後も1981年まで低位で推移した。一方、イラクの原油生産量もイラン・イラク戦争の影響で1979年の日量約350万バレルから一時約50万バレルに減少した。


OPECが1980年12月に開催されたバリ島会議で原油の上限価格を1バレル41ドルに設定したことなども影響し、1978年に10ドル強で推移していた原油価格が1981年に一時34ドルまで急騰した。



 

湾岸紛争


 1990年8月2日、イラクのクウェート侵攻をきっかけに勃発。国際連合安全保障理事会の決議にイラクが応じなかったことから、国際連合によって認可された34カ国の多国籍軍が結成され、1991年1月17日にイラクへの空爆を開始、同年2月23日に陸上戦が開始され、5日目で停戦。


 紛争当事国のイラク、クウェートの原油生産及び輸出が一時大幅に減少、ペルシア湾岸諸国の地政学リスクが著しく高まったことから、原油価格が一時高騰した。NYMEXのLight Sweet Crude Oil(WTI原油)の先物期近価格は、1990年6月に10ドル台半ばで取引されていたが1990年10月11日には40.42ドルまで上昇した。



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