㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



2017年の石油業界展望

伊藤 敏憲




将来を左右する重要な年

新年明けましておめでとうございます。エネルギー業界は、需給構造の変化、電力・ガス小売全面自由化など規制・制度改革、原油・資源市況や為替の変動などの影響によって転機を迎えています。変化はチャンスとリスクを同時にもたらします。精製・元売、販売事業者ともに2017年は、将来を左右する重要な年になると考えられます。将来を見据えて経営の改善に取り組んでいる業界関係者にとって、2017年がよりよい年になるよう、私は今年も提言を続けさせていただきます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。



燃料油内需は前年比3%減見通しだが、第二次高度化法の効果もあり収益環境改善へ


2017年の燃料油の国内需要は、都市ガスや電力へのシフト、自動車・使用機器の燃費の改善などによって、ジェット燃料油を除く各製品で減少し、燃料油全体では前年比で3%前後減少する見通しです。


石油精製・元売各社は、国内需要の減少が顕著になった2000年代半ばから、製品輸出の拡大や石化製品へのシフトに取り組んで、国内需要の減少分の一部をカバーしてきましたが、これも難しくなっています。中国などでの生産能力増強を背景に、石油製品や石化製品の輸出環境は厳しくなると見込まれるからです。


このような需要環境のもとで石油業界が取り組むべき対策は、業界を挙げて、需要の減少に合わせて精製能力を削減して、需給が緩みにくい事業環境をつくっていくとともに、元売各社が需給バランスの適正化に取り組んでいくこと、そして、何よりも適正価格での販売に取り組むことと思われます。


2017年3月末に「エネルギー供給構造高度化法」の設備最適化(残油処理装置装備率の改善)措置の期限が到来します。精製各社は、主に常圧蒸留装置の能力削減で対応すると予想されます。ピーク時の1999年初に541万46百万BD(日量バレル)あった日本全体の常圧蒸留装置の能力が2017年3月末には355万BD前後まで削減される見通しです。これにより輸出が著しく減少しない限り、2017年4月以降に需給ギャップは一次的にほぼなくなり、精製マージンが拡大すると予想されます。


ただし、仮に収益環境が改善したとしても、好環境が長続きするとは思えません。石油製品の国内需要が今後も減少傾向で推移する見通しだからです。しばらくすると、また精・販ギャップが拡大して市況も崩れやすくなると考えられます。


原油相場は年前半は1バレル50ドル~60ドル台、年後半は60ドル~70ドル台に上昇すると予想


原油相場は、2016年2月に1バレル20ドル台まで下落した後に底入れしましたが、2016年は30ドル~40ドル台を中心とした2004年以来の低水準で推移しました。


2017年の原油相場は、世界の石油需要がどの程度増加するか、2016年11月末~12月に協調減産に合意したOPEC及び主要産油国が合意内容通り(OPEC120万BD、ロシア他55万8千BD)に減産を実施するか、原油市況が上昇に向かった場合、協調減産に加わっていない米国などの原油生産量がどの程度まで増加するか、原油相場に影響を及ぼすことが多い為替相場がどのように推移するかなどによって左右されると予想されます。


世界の原油需要は年間100万~200万BDのペースで増加していますので、OPECやロシアなど主要産油国が減産体制を維持すると、2017年後半には過剰在庫が調整され、原油相場が本格的に上昇する前提条件が整うことになると見込まれます。


このような想定から、中東産原油の価格は、2017年前半は1バレル50~60ドル台、年後半には60~70ドル台で推移すると予想されます。



JXTGグループ誕生へ


JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が2017年4月1日に経営を統合しJXTGグループが誕生する見通しです。石油製品の国内出荷量の約半分を占める巨大企業の誕生をきっかけに、石油業界では、精製・元売・卸売・小売のすべての事業者が、コスト削減・効率化、事業内容の見直しなどの取り組みをより一層強化したり、業務提携関係の見直しや新たな再編・集約を模索したりするようになると考えられます。


JXHDとTGが、2016年8月末の最終合意時に公表した説明資料には、石油業界の収益環境改善のきっかけとなり得る施策が盛り込まれています。販売基本方針の中で『すべての販売施策は「公平公正」および「ブランド価値の向上」の価値に基づき行う』、『特約店、代理店、販売店その他ビジネスパートナーとの信頼関係が重要であるとの認識のもと、両社グループのいずれかに属していたか、また、出資の有無にかかわらず公平に対応』と示されています。これらの方針が徹底されると、選択的な事後調整や経営支援は行われなくなり、特約店、代理店、販売店の仕切価格差は縮小することになります。JXTGが石油業界をより良い方向にリードしていくことが期待されます。



元売、燃料商社各社の経営合理化への取り組み加速へ


強大なJXTGの誕生に対抗するため、他の元売や燃料商社各社は、コスト削減・効率化への取り組みを強化したり、新たな枠組みを模索したりするようになると予想されます。


出光興産と昭和シェル石油は、2015年11月に経営統合に関する基本合意書を締結し、出光興産がロイヤルダッチシェルが保有する昭和シェル石油の株式を買い取った後に経営を統合する方向で協議を進めていましたが、2016年6月に出光興産の大株主の出光創業家が経営統合に反対を唱えたことで状況が一変し、2017年1月時点では経営統合が実現するかどうかを判断することが難しい状況です。出光創業家との間で妥協点が見いだされて経営統合が実現したり、両社が株主総会による決議が必要ない業務提携や部分的な事業統合を行ったりする可能性はありますが、状況によっては昭和シェル石油が新たな枠組みを模索するようになる可能性もあるでしょう。


他の元売りや燃料商社も石油事業の経営戦略の見直しに迫られるようになると予想されます。


2015年にグループ経営体制に移行したコスモエネルギーグループは、石油開発事業と、カーケアサービス事業に強身があるコスモ石油販売などの石油販売事業に強みがありますが、財務体質が悪く、石油精製部門の収益性が低いといった問題も抱えています。コスモエネルギーは、東燃ゼネラル石油と千葉県、昭和シェル石油と三重県で、それぞれ事業提携を締結し精製事業の合理化に取り組んでいますが、さらに踏み込んだ施策に取り組む必要があると考えられます。


南西石油を買収した太陽石油、JXTGとの取引関係が強い三愛石油・キグナス石油グループや伊藤忠エネクスなども、JXTGの対応次第で石油事業の経営戦略の見直しに迫られる可能性があると予想されます。



石油販売業は不合理な商慣行が是正されれば健全化へ向かう


石油販売業を取り巻く環境は厳しい状況が続いています。ガソリン及び灯油の需要の減少、小売マージンの低迷に加え、カーケア事業の収益環境もカーディーラーの台頭などによって厳しくなっているからです。


石油販売事業者とSSの数は過去10年間に年率4%前後のペースで減少していますが、2017年も同程度のペースで減少が続くと予想されます。


市況悪化の原因と指摘されることの多い業転品は、需給調整など様々な理由で発生しますので、完全になくすことはできませんが、需給バランスさえ崩れていなければ、著しく割安な業転品が大量に流通することはありません。2017年は、精・販ギャップの縮小によって需給が引き締まると見込まれますので、業転品の市況は上昇し、流通量は減少すると予想されます。業転問題よりも重要なのは商慣行の是正が進むかどうかです。すべての取引先に共通な公表されたルールに基づく合理的な幅のインセンティブやバックマージンは、多くの業界で行われている一般的な商慣行ですが、石油業界内で散見される予め設定されたルールに基づかず、大きな価格差を生んでいる事後調整や多額の経営支援等が廃止あるいは大幅に縮小されるかどうかが重要です。不合理な商慣行が是正され、安値の業転品が大量に流通しないようになれば、石油販売業界における競争は健全化し、効率的に石油製品を販売できる体制が整っていたり、カーケアを始めとする非石油事業の収益力が高い事業者が十分な収益を確保できるようになると考えられます。



バックナンバー
2016/12 OPECとロシアの協調減産が原油価格に与える影響は限定される
  2016/11/7電力・ガス小売全面自由化による変化  
  2016/10/11石油販売業界の変わらない悪弊を断てるか  
  2016/09/10JXTGグループは石油業界の収益改善を先導できるか  
  2016/08.08石油産業が取るべき収益構造改善策  
  2016/07/02原油価格上昇時の経験則  
  2016/06/06原油価格の上昇を示唆する需給構造の変化  
  2016/05/07日米で異なる自動車販売とガソリン需要との関係   
  2016/04/04今後のエネルギー関連制度・事業環境の変化に石油業界はどのように対応すべきか  
  2016/03/02エネルギー産業は電力・ガスの小売全面自由化をきっかけに本格的な競合時代へ  
2016/02/04原油相場:当面軟調な展開が予想されるが、年半ば以降に60ドル近辺まで上昇へ
2016/01/01新たな競争時代を迎えて
2015/12/31元売りの再編・集約、新局面へ
2015/11/3電気事業への安易な参入は勧められない
2015/10/2燃料サーチャージの普及を
2015/9/6出光興産と昭和シェル石油が経営を統合
2015/8/3変化した石油業界の収益と原油市場との関係
2015/7/6原油価格は年後半に上昇へ
2015/6/2先行き不透明な原油需給 
2015/4/25電力・ガスシステムが始動 
2015/3/13まだ先行きが不透明なFEV、本格実用化間近のEV
2015/2/6原油価格は年後半に90ドル目指す
2015/1/12原油市況の急落とその影響
2014/12/3原油市況の下落は様々な原因が絡み合って生じた
2014/11/4原油価格がさらに下落するとアメリカの天然ガス価格は上昇する?!
2014/11/4電気料金値上げの背景事情
2014/9/1石油製品市況の上昇理由
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2014/7/1原油市況を支える地政学的リスク
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