㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



拡大する環境関連のダイベストメントの影響


伊藤 敏憲


環境関連分野に広がるダイベストメント


ダイベストメント(Divestment)はインベストメント(Investment=投資)の反意語で、「是正を図りたい特定行為に関わる保有資産を売却したり、投資対象から除外したり、事業から撤退したり、これらを促したりする」行動のことです。

過去の代表的な事例には、南アフリカ共和国に人種差別政策(アパルトヘイト)の是正を促すため、企業や個人が同国に投資しなくなったり、同国での事業から撤退したり、同国で事業を行っている会社への投資を引き揚げたりする動きが広がったケースが有名です。この他に、対人地雷禁止に関するオタワ条約(1999年)、クラスター弾に関するオスロ条約(2010年)などを支援するため関連企業に対するダイベストメント活動が世界に広がったケースも知られています。

このダイベストメントが、近年、環境関連分野に広がっています。地球温暖化など地球環境問題への懸念が広がったことがその背景にあり、具体的な動きは、2011年に米国のスワースモア大学が採択したことから始まったとされています。その後、欧米各国を中心に急速な広がりを見せており、2017年3月現在で環境関連分野のダイベストメントに参加している組織・団体は大学、自治体、政府や地方自治体の年金基金、保険会社、銀行、財団法人、教会など1,000に迫っています。



 

ダイベストメントとは経済への影響が大きい金融・資本市場にも拡大


経済への影響が大きい金融・資本市場でも、ESG(環境・社会・ガバナンス)活動への取り組みの一環として環境関連のダイベストメントを実施する機関投資家が増加しています。

例えば、ノルウェー政府の年金基金運用会社「ノルジェス・バンク・インベストメント・マネジメント(NBIM)」が2012年に石炭に関するダイベストメントを導入しました。その選別対象は年々拡大されており、2016年時点の規定は、事業活動の30%以上を石炭関連事業が占める、もしくは売上の30%以上を石炭関連事業から得ている企業を投資先から除外するという内容になっており、対象企業数は239社、その中には日本の電力会社なども含まれています。年金基金では、ノルウェー以外に、スウェーデン、デンマーク、オランダ、カナダ、オーストラリア、米国カリフォルニア州などの基金も独自に定めた規定に基づいた環境関連のダイベストメントを導入しています。

また、一般の機関投資家においても、環境への取り組みが優れていると独自の基準で判断して投資対象を選別したいわゆる「環境ファンド」の運用資産が増加するなどしており、2016年3月現在で、環境関連のダイベストメントを投資対象の選別に採用しているファンドの総額は数百兆円に及ぶと推定されます。



 

ダイベストメントはエネルギー資源市況にも影響


この影響が顕著に表れたと思われるのはCO2の排出原単位が高い石炭関連分野です。石炭は新興国や発展途上国を中心に世界的に需要が拡大していたにもかかわらず、2010年~2016年に他のエネルギー資源の価格に対して相対的に割安になっていましたが、この背景には石炭に関するダイベストメントの影響があったと考えられます。石炭の価格は、昨年秋に中国が生産を抑制した影響などにより急騰しましたが、ダイベストメントの拡大によって再び割安になる可能性があるとみられています。

石炭以外のエネルギー資源への影響は現時点では限定されていますが、温暖化など地球環境変動への懸念が後退するとは思えませんので、今後、原油、天然ガスなど他のエネルギー資源の市況もダイベストメントの影響を受ける度合が拡大していくと予想されます。環境関連のダイベストメントは、景気指標、為替、株価などに加えて、今後の原油市況を占るうえで考慮しなければいけない新たな指標の一つになると考えられます。



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