㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



為替等との相関性が崩れた株価指数と原油相場


伊藤 敏憲


崩れた国内株価指数と為替との相関性


国内の株価指数と円・ドル為替レートとの間には2012年初から今年の春まで強い相関性が見られました。為替がドルに対して円安になると株価が上昇し、円高になると株価が下落していたのです。ところが、5月以降、円・ドル為替レートと国内株価指数との間に相関性が見られなくなりました。


円安になると株価指数が上昇するのは合理性がある動きです。東京証券取引所に株式を上場している企業の約8割は為替が円安になると収益が拡大し、円高になると収支が悪化します。これらの企業は事業に占める輸出あるいは海外事業の構成比が高く、円安は輸出採算の改善あるいは海外事業の収益の円換算額の拡大につながるからです。


しかしながら、日本経済全体でみると円安は必ずしも国内景気の拡大につながるとは限りません。株式市場と日本経済の収益構造は必ずしも一致しないからです。特に、2011年~2015年の期間は、貿易収支が赤字(輸入超過)でしたので、この間は、円安は日本経済全体でみると、経済成長を抑制する原因の一つになっていたとも考えられるのです。また、円安局面において、産業、企業、地域、個人において景況感に大きな開きが生じていたのもこのためです。株価指数と為替との相関性が崩れた理由の一つはこのためと考えられます。



原油相場に左右されている日本の貿易収支


ちなみに、2011年~2015年に貿易収支が赤字になっていたのは、東京電力福島第一原子力発電所の原子力事故をきっかけにした政治判断と行政施策によって、原子力利用率が著しく低下し、その不足分を火力発電所の焚き増しによってカバーしなくてはならなくなったからです。この影響で、2011年~2013年に、原油、LNG、石炭の輸入が拡大し、為替の円安と相まって貿易収支を圧迫していました。なお、貿易収支は、輸入が減少した影響で2015年に赤字が縮小し、2016年に黒字に転換しましたが、これは主に原油価格の低下によって原油及びLNGの輸入額が減少したからです。少なくとも、足元のエネルギー需給環境では、原油安は日本経済にプラスに働いていると考えられます。



原油相場と経済指標との相関性も崩れている


原油相場においても、経済指標と相関性が生じることがあります。2007年9月~2008年11月、および、2012年1月~2015年7月には、原油価格とドル-ユーロ為替レートとの間に強い相関性が見られ、ドルがユーロに対して高くなった局面で原油価格が下落し、ドルが安くなる局面では原油価格が上昇していました。ドルが他通貨に対して高くなるということは他通貨圏では原油価格がその分上昇することになりますから、合理的な関係といえなくありません。ただし、上述した期間以外では原油価格と為替との間に相関性は確認できません。一方、2008年10月~2011年1月には原油価格と米国の株式指数との間に相関性がみられました。


商品や株式の先物取引市場の出来高の相当部分は、関連性がある商品間の価格差を元に売買を行う裁定取引やヘッジ取引などのシステム売買によって占められています。自動的に売買を繰り返すシステム売買が、為替や景気動向指数などの経済指標や異なる商品間で価格に相関性が生じている原因になっているのです。また、システム売買の拡大が短時間で価格が大きく変動する理由にもなっています。


 経済指標との相関性が確認されなくなった原油相場は、需要や供給に影響を及ぼす情勢の変化を反映しやすくなっています。原油相場が上昇しない理由は需給が引き締まっていないからと考えられます。




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