㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



エネルギー分野の国際商品とローカル商品


伊藤 敏憲


エネルギー分野の国際商品


国際商品とローカル商品は価格の形成メカニズムが異なります。エネルギー関連の商品にも国際商品とローカル商品があります。国際商品は、世界各地で、輸送コストなどを勘案すると、ほぼ同じ取引条件・価格で売買されます。一方、ローカル商品は、地域毎の事情が価格に反映され、同じ商品であっても地域によって異なる条件や価格で取引されます。


国際商品の特徴は、低コストで大量に貯蔵できること、このため在庫の増減によって需給調整が可能であること、輸送・貯蔵用の設備が充実しており低コストで大量に輸送できること、これらの理由によって国際間取引が活発に行われていることなどです。


国際商品の代表格は原油で、特異なケースを除いて、各地域の取引条件や価格に大きな差が生じることはありません。LPガス、バンカーオイル、ナフサなども同様です。ガソリンは、国や地域によって品質規格が異なりますのでややローカル性のある商品で、価格差が生じることがあります。ただし、仕向け先の規格に合わせて品質を調整できますので、輸出入などの取引に制約が設けられていない限り、税抜価格に極端な差が生じることはありません。



 

エネルギー分野のローカル商品


一方、エネルギー分野の典型的なローカル商品は天然ガスで、アジア、北米、欧州で大きな価格差がみられます。天然ガスは、気体の状態ではエネルギー密度が低く嵩張りますので、大量に貯蔵するためには液化する必要があります。このため、貯蔵コストが高く、事実上大量に貯蔵できません。在庫の増減による需給調整が難しいのです。また、輸送用のインフラを整備するためのコストは高く、パイプラインネットワークで結ばれていない地域間で大量に輸送するためには極低温まで冷却して液化したLNGの形で取引するしかありません。このような理由から国際間取引は限定的にしか行われていませんので、天然ガスの取引価格は、個々の地域の事情を反映して決定されることとなり、地域によって大きな価格差が発生しやすいのです。


なお、LNGは、天然ガスの生産設備に加えて、液化・貯蔵・出荷設備、輸送用のタンカー、受入・貯蔵設備などが必要なため、他のエネルギー資源に比べて輸送用インフラに関わる初期投資負担が重いという特徴があります。このためLNGの取引は、長期契約が主体で、LNGの最大の需要地である日本、韓国、台湾、中国、インドなどアジアの取引価格(価格フォーミュラ)は、主に日本の原油輸入価格に基づいて決定されています。ただし、価格フォーミュラは契約によって異なっていますので、プロジェクトや契約時期によって取引条件や価格に大きな差が生じることがあります。また、LNGのスポット取引は、量的には長期契約に比べて少なく、価格は、その時点の需給や国際情勢等を反映して決定されますので、一般に長期契約に比べて取引価格は割安なことが多いのですが、需給がひっ迫している局面では割高になることもあります。



シェール革命を見誤った事情

北米で、非在来型のシェール資源の開発が活発に行われるようになって、天然ガス、原油、LPガスなどの生産が急増した結果、2010年ごろから、北米の天然ガスの取引価格が他地域の価格に比べて著しく割安になりました。その当時、北米からの輸入が拡大すれば、わが国のLNGやLPガスの輸入価格が下がると予想する向きがありました。これが、いわゆる「シェール革命」の中心的な論調の一つになっていました。


その後、シェール資源由来のLNGやLPガスが北米から輸入されるようになり、LPガスでは、今年の輸入量の過半を米国産が占めるようになっています。ところが、北米産のLNGやLPGの輸入価格は他地域からの輸入価格と大差はありません。


資源情勢に詳しい専門家の多くは、「シェール革命は、北米のエネルギー事情には大きな影響を及ぼしているが、すぐにわが国に大きく影響することはない」と説明していました。私もそのように唱えていた一人でした。予想を見誤った評論家の方々は、資源情勢に必ずしも詳しくないか、国際商品とローカル商品の特性を理解していなかったのではないでしょうか。何事においてもそうでしょうが、将来を正確に見通すためには、特徴・特性を見極め、正しい情報に基づいた分析・評価が必要と思われます。

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