㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



EVシフトによる石油・SS業界への影響

伊藤 敏憲


わが国でEVがいつ本格的に普及するかは自動車メーカーの判断次第

自動車のEVシフトが本格化すると、自動車メーカーの経営はきわめて大きな影響を受けるでしょう。ガソリン車やディーゼル車に強みを持つメーカーほどダメージを受けやすくなると考えられます。そして、それ以上に深刻なダメージを受ける可能性があるのが自動車部品メーカーです。ガソリン車やディーゼル車の主要部品であるエンジンやエンジンの動きを車輪に伝える駆動系などの部品の需要が激減することになるからです。

わが国の自動車産業は、国際競争力が極めて強いのですが、その理由の一つは、素材から部品、完成品までの一貫生産体制が、それぞれの分野において世界トップレベルの水準で整っているからです。そして、自動車メーカーや自動車部品メーカーは世界中に製品を輸出しています。また、わが国の自動車関連産業の規模はきわめて大きく、輸出額に占める比率も高いので、自動車のEVシフトは、モーター、バッテリー、パワー半導体などEV特有の部品や素材に強みを持つ一部のメーカーにとってはプラスになるものの、日本経済全体でみるとマイナスに働く可能性が高いと思われます。

このような事情を考えると、HV、PHVを含めたガソリン車に強みがある日本の自動車メーカー、そして、日本政府がすぐにEVシフトを推し進めるとは思えません。わが国でいつからEVが本格的に普及し始めるかは、国、及び、政策に強い影響力がある自動車メーカーがどのように判断するかによると考えられます。



EVシフトは石油製品の需要を緩やかに押し下げる

EVシフトは石油業界やSS業界にも影響を及ぼします。EVが普及するとガソリンや軽油の需要が減少しますし、自動車の点検・整備などの事業の環境にも影響が及ぶと考えられるからです。ただし、自動車メーカーや素材・部品メーカーのようにすぐに大きな影響を受けるわけではありません。利用されている自動車が短期間でEVに置き換わるわけではないからです。

日本の自動車保有台数は、2006年度まで増加傾向で推移したのち、2007年度から2010年度にかけて一時減少したものの、2011年度から再び増加し続けています。三輪車以上の自動車の保有台数は2006年度末から2016年度末にかけての10年間に、7,568万台から7,783万台へ、215万台(2.8%)増加しました。燃料車種別にみると、ガソリン車は6,744万台から7,137万台へ5.8%増加しましたが、ディーゼル車は794万台から625万台へ21.3%減少し、LPG車は29万台から21万台へ29.4%減少しています。

過去10年間の新車の国内販売台数の平均は504万7千台で、前年度末の保有台数に占める比率は平均6.7%でした。内訳は、乗用車が424万5千台(前年度末保有台数比7.2%)、トラックが78万9千台(同5.3%)、バスが1万2千台(同5.7%)でした。これらの数値から平均使用年数は乗用車が13.9年、トラックが18.9年、バスが17.5年と算定されます。

一方、ガソリンの国内販売量は、2006年度が6,055万キロリットル、2016年度が5,250万キロリットルでした。両年度のガソリンの販売量をガソリン車の保有台数の期首期末平均で割ると、ガソリン車1台当たりのガソリンの年間消費量は2006年度が902リットル、2016年度が739リットルで、この10年間に163リットル(18%)減少しています。減少の主因は燃費が改善した効果と考えられますが、自動車の平均的な使い方が変化していないと仮定すると、過去10年間の新車と既存車の平均燃費の差は約33%と計算されます。

EVシフトがガソリンや軽油の需要に与える影響は、平均燃費の改善による効果として現れることになりますが、新車販売台数の20%がEVになったとしても、1年間にEVに置き換わる比率は1%に満たないことになりますので、ガソリン車やディーゼル車の利用に制限が課されない限り、EVシフトによる自動車用燃料の国内需要への影響は高めに見積もっても年1%程度に過ぎないと考えられるのです。



SSのカーケア事業ではお客様を呼び込む努力が必要になる

EVは、ハイブリッドカー(HV)、プラグインハイブリッドカー(PHV)、エンジンカバーが装備された高級車などに比べても整備が難しかったり、事実上、自動車メーカー以外の指定工場以外で整備することができなくなったりすると考えられますので、点検・整備、部品交換などで収益を上げることがさらに難しくなると考えられます。ただし、上述したガソリンや軽油の需要への影響と同じで、これらの事業の機会は保有台数によって左右されますので、すぐに大きな影響を受けるわけではありません。

一方、洗車、ボディコーティング、リペアなどのボディケア関連事業や、タイヤ、外装部品などの販売事業の事業環境は自動車保有台数によって左右されやすいので、取り組み次第で収益を拡大することができると考えられます。

ただし、EVやPHVは、ガソリンや軽油を給油する必要がないか、その頻度が極端に少なくなりますので、お客様を呼び込む努力をしないといけなくなります。EVが普及すると充電設備の整備・拡充も進むと予想されますので、SSに充電設備を設置するだけでEVやPHVを呼ぶこむことができるようになるとは思えません。カーケア事業の収益を伸ばすためには、お客様から高く評価されるサービスを提供できるかどうかがポイントになると考えられます。




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