㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



SSの将来像を検討するための要件

伊藤 敏憲



重要な元売とSS経営者の意識改革


経済産業省の「次世代燃料供給インフラ研究会」の第1回会合が18年2月22日に開催されました。この研究会では、国内燃料需要の減少が続く中で、人口減少・人手不足、EV・シェアリング・自動運転の普及といったモビリティの革新、IoTの進展や流通の次世代化など、経済社会の変化や技術革新を踏まえ、燃料供給の在り方を議論されるとのことで、具体的には、保安規制を見直して、SSへのEV充電設備などの設置を容易にするなどの規制緩和が検討されるとのことです。


 SSの将来像を検討する際には、事業環境や収益構造がどのように変化してきたのか、販売事業者やSSの数がなぜ減少し続けているのかなど、その実情を正確に把握して対策を検討する必要があると思われます。例えば、SS数が減少し続けている要因の一つは、元売各社がSSを減らそうとしてきたからです。SS数の減少に歯止めをかけたいのなら、先ず、元売の考え方を変えなくてはいけません。そして、経営者がSS経営を続けたいと思えるような事業環境をつくっていかなくてはいけません。


 今後のSS経営を考える上では、少なくとも、以下の状況を考慮する必要があると思われます。燃料油需要の減少、EVやPHVなどの電動車の普及、自動車の技術進化、販売店の後継者難、求人難、人口構成の高齢化、レンタカー・カーリース・カーシェアリングの普及などです。以下に主な対策を示させていただきます。



燃料油需要の減少


 ガソリンの2017年の国内需要は、5,200万klで、ピークだった2004年の6148万klから約15%減少しています。この間の減少率の年平均は1.7%です。同期間にガソリン自動車の保有台数は約9%、年率0.8%のペースで増加していますので、ガソリン需要の減少は、燃費の改善につながる様々な技術の開発と進化、燃費の良い軽自動車やハイブリッドカー(HV)などの普及。自動車の燃費の改善を促したり燃費の良い自動車の普及を促したりする諸政策、国民の環境意識の高まりによって、平均燃費が改善しているからと考えられます。ガソリン需要と自動車保有台数の推移から、ガソリン自動車の平均燃費が改善に転じた2000年以降の17年間に24.7%、年率1.7%のペースで改善したことがわかります。


自動車の燃費の改善につながる主な技術には、エンジンの効率向上、精密な制御技術、駆動系の改良、空気抵抗の低減、車両の軽量化、タイヤの摩擦低減などが挙げられますが、電動モーターの併用や専用によって燃料消費を低減するHV、プラグイン・ハイブリッドカー(PHV)、電気自動車(EV)などの開発と性能の向上、これらの普及を促す政策による影響が顕著です。


自動車の平均燃費は今後さらに改善すると予想されますが、加えて、人口の減少、高齢者の免許返上、若年層の自動車離れなどによって、自動車の保有台数が近く減少に転じると予想されますので、ガソリン需要の減少ペースは次第に高くなっていくと見込まれます。



自動車の技術進化と構造の変化


安全性能や操作性を向上する様々な技術の開発・進化も進んでいます。道路の状況や周辺の自動車・人・障害物などを察知して、ブレーキ、アクセル、ステアリングを自動制御して、衝突を防止したり、運転を支援したりする「衝突防止装置」や「自動運転」などですが、これらの普及によって大破事故が減少しています。


構造面では、自動車の電装化が進んでおり、また、高級車を中心に専用工具を使用しないと外せないエンジンカバーを装着している車種が増えています。さらに自動車メーカーが自動車の点検・整備をメーカーが認定した事業者や整備工場で行うように推奨しています。


このような変化によって、自動車メーカーの指定を受けていないSSでは点検・整備ができる車種が少なくなっています。SS経営の観点で見ると、ガソリン需要の減少だけでなく、カーケアサービスの事業環境も変化しているのです。


カーケア収益を拡大していくためには、自動車の車種に変わらずサービスを提供できる洗車、ボディコーティング、ガラスコーティング、リペア(軽補修)、タイヤ交換などに注力したり、点検・整備、オイル交換などのサービスを変わらずに提供できる高経年車や軽自動車などに対象を絞り込んだり、様々な手段でお客様を勧誘し、質の高いサービスを提供して、利用客の満足度を高め、継続的にサービスを利用していただけるように工夫することが重要になると考えられます。



SSにおいてEV充電で収益を稼ぐのは難しい


EVやPHVへの充電は、一般に自動車を長時間駐車している時間帯に自宅や事業所の駐車場で行われており、急速充電設備は補助的な手段として使われています。現在販売されているEVのほとんどは急速充電器を使ってもフル充電するのに20分から30分程度の時間がかかりますので、30分以上停車されても問題ない駐車スペースが確保されており、かつ、高付加価値洗車、コーティング、リペア、併設店舗など十分な収益を稼げるSS以外では、EV充電設備を設置することで収益を拡大できるとは思えません。



求人難対策


SSに限りませんが、多くのサービス業で求人難が広がっています。景気の拡大がその理由の一つですが、これまでSSの主な働き手だった若年層の職業意識の変化もその背景事情の一つと考えられます。


 求人難に対応するためには、求人対象を中高年層などに拡大すること、営業時間を短縮すること、提供しているサービス内容を見直すこと、カーケアサービスを行うバックヤードを整備するなどしてSS店頭での作業負担を軽減することなどが必要になると思われます。



SSの経営環境は徐々に変化する


上述した変化は、求人難を除くと、すぐにSS経営に大きな影響を及ぼすわけではありません。


 例えば、自動車の変化は、その年に販売された自動車と廃棄された自動車の差分しか影響しません。過去10年間の前年度末保有台数に対する新車の比率は平均7.2%、廃車の比率は平均6.6%でしたので、平均燃費やカーケアサービスの提供対象の変化は年単位では最大でもこの比率の範囲にとどまることになります。また、SS数の減少と燃料油需要の減少による影響は相殺されます。


 カーケアサービスも、すべての事業のニーズがなくなるわけではありませんし、事業構成は徐々に変化すると予想されます。

SSの経営環境の変化はすぐに起きるわけではありませんので、慌てる必要はありませんが、将来を見越して、着実に取り組んでいく必要があると思われます。




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