㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



米国の台頭で変化したLPガスの国際市場



伊藤 敏憲


米国は世界有数のLPガス輸出国に


米国で、シェールオイル・ガスの増産にともなってLPガスの生産量が急増しています。米国の2005年のLPガスの需給は、ガスプラントからの生産量が627百万バレル、精製業者及びブレンダーのネット供給量が48百万バレル(生産209百万バレル、使用161百万バレル)、輸入137百万バレル、輸出22百万バレルで、輸出入バランスは115百万バレルのネット輸入でしたが、2011年には、ガスプラントからの生産量が809百万バレルに増加し、輸入67百万バレル、輸出91百万バレルとなり、輸出入バランスは24百万バレルのネット輸出に転じました。その後もガス生産量の拡大に伴って輸出が拡大し続けており、2018年には、ガスプラントからの生産量が1,587百万バレル、純輸出が514百万バレルまで拡大し、世界有数のLPガス輸出国になりました。


わが国では、米国からのLPガス輸入量が2012年以降に急増し、2018年には輸入量全体の65.6%、2019年1月~5月には77.6%を占めています。石油精製や石油化学製品の生産過程で併産される10数%を含めたわが国のLPガスの総供給量の過半を米国産LPガスが占めるようになっているのです。



米国産LPガスの国際市況への影響度が強まる


需給面だけでなく価格面においても米国の影響が強まりつつあります。

LPガスの指標価格には、これまで主にサウジアラムコ社が毎月決定している「ARAMCO Contract Price(略称CP)」が用いられていました。CPは、サウジアラビア国営のサウジアラムコ社が、原油やLPガスの現物取引や先物取引市場での価格動向、需給などを参考に、翌月のCPを決定し、月末までに取引先に通告するしくみで、1994年10月に取引先との契約価格として導入されました。サウジアラビアが世界最大のLPガス輸出国だったこともあり、このCPが長年にわたって世界のLPガスの輸出価格の基準になっていたのです。


ところが、2000年代後半から、米国のLPガス集散地であるテキサス州モントベルビュー(Mont Bellevue)での取引価格「MB」が指標価格として用いられるようになり、近年、その影響が強まっています。米国が、LPガスの需要地としてだけでなく、供給地としても国際的に台頭するようになったことで、従来、米国内のLPガス取引のローカル市況に過ぎなかったMBが、国際的な指標価格として利用されるようになり、また、CPにも大きな影響を及ぼすようになってきたのです。


原油市場では、1960年代から1970年代にかけての時期には、サウジアラビア産のアラビアンライト原油の公示価格が原油の指標価格として用いられていたが、1980年頃から欧州や米国での取引が拡大したことをきっかけに市場での取引価格によって原油価格が決定されるようになり、1983年にNYMEX(ニューヨーク商品取引所)にWTI原油の先物が上場されて、その取引高が急増した結果、先物取引の価格が市場価格に大きな影響を及ぼすようになりました。


LPガスのMB先物はNYMEXで取引されていますが、その取引高が拡大し先物価格が現物のスポット取引価格に影響を及ぼすようになっています。米国産LPガスの国際市場における取引シェアがさらに高まれば、かつて原油市場でみられたように、MB先物価格が世界のLPガスの取引価格を左右するようになる可能性も十分あると思われます。


わが国では2017年からMBが卸売価格の算定根拠の一部に組み入れられている

わが国では、LPガス元売によるプロパンガスとブタンガスの卸売価格の算定根拠として、2016年までCPの前月値に中東からのタンカー運賃(フレート)と保険料を加算した価格、あるいはLPガスの輸入平均CIF価格を用いられていましたが、米国からの輸入量が拡大したことをきっかけに、2017年からMBに米国からのフレート等(タンカー輸送費、保険料等)を加算した価格が算定根拠に加えるようになりました。現在、算定根拠に占めるMBの構成比は20~30%ですが、米国産LPガスの供給シェアが過半を占めるようになっていますので、今後、MBのウェイトがさらに高められる可能性があると考えられます。



LPガスと天然ガスでは価格決定メカニズムが異なる


LPガスと天然ガスは、ともにガス体エネルギーですが、価格決定のメカニズムが異なっています。

LPガス(プロパン、ブタン)は、常温で数気圧かけるだけで液化でき、液化したプロパン、ブタン及びこれらの混合物は、タンカーやローリーによって低コストで輸送したり、高圧タンクで大量に貯蔵したりすることができます。このため、LPガスは、原油や石油製品と同様に各国間で活発に取引が行われており、地域間で取引価格に大きな差が生じることはありません。日本のLPガスの国別の輸入CIF価格に大きな差が見られないのはこのためです。


一方、天然ガスは、極低温にし、かつ、高圧をかけなければ液化しません。このため、パイプラインを用いずに輸送できる液化天然ガス(LNG)は、輸送したり貯蔵したりするコストが原油、石油製品、LPガスに比べると割高で、事実上、大量に備蓄することができません。このため、国際パイプラインで結ばれていない地域間で天然ガスの取引価格に大きな差がみられます。


わが国では、長期契約によるLNGの取引価格の多くが原油輸入CIF価格に連動して決められていますので、現時点では、LPガスとLNGとの間で大きな価格差が生じることはありません。しかし、北米ではLPガスと天然ガスとの間で大きな価格乖離が生じることがあります。LPガスの価格決定メカニズムが変化すると、LPガスとLNGの取引価格に差が生じるようになり、需給や価格に影響が及ぶようになる可能性もあると考えられます。



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