㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



LNGのターム契約とスポット取引の価格差拡大の背景



伊藤 敏憲


LNGの取引形態の違いによる価格差が拡大

液化天然ガス(LNG)の取引形態は、一定期間ごとに取引ルールが定められているターム契約と1カーゴ毎の売買契約によって購入されるスポット取引に大別されますが、足元でその価格差が拡大しています。


経済産業省が、当該月に契約または入着したすべてのスポット取引の平均値を集計して公表していますが、19年7月~11月における全日本輸入CIF価格(JLC)の平均とスポット取引の入着価格の平均を比較すると、JLCが100万BTU(英国熱量単位)当たり8.1ドル、スポット価格が同5.2ドルと、JLCに対してスポット価格が36%割安になっています。


スポット取引の価格が常に割安なわけではありません。スポット取引の方がターム契約に比べて価格が割高になることがあり、18年12月は、JLCが10.5ドル、スポット取引の入着価格が10.6ドルとほぼ同じで、19年1月はJLCが9.4ドル、スポット価格が10.5ドルと、スポット取引の方が10%強割高でした。



ターム契約の価格はLNGの需給などファンダメンタルズの影響を受けにくい


足元でターム契約に対してスポット取引の方が割安になり、価格差が拡大している主な理由は、価格を決定する方式の違い、LNGの需給、タイムラグなどに拠ると考えられます。


LNGのターム契約の価格は、契約毎に取り決められたプライスフォーミュラに基づいて決定されています。日本に限らず、アジア地域のターム契約は、LNGの最大の輸入国である日本の原油輸入CIF価格(JCC)に基づいて「一定期間前のJCC×A(傾き<1)+B(定数)」の算式で決定されるケースが多くなっています。


このため、LNGのターム契約の価格は3~4か月前の原油価格と連動しますので原油価格変動時にはタイムラグが生じることがあり、かつ、原油が高価格の場合は原油より割安、低価格の場合は相対的に割安になる傾向が見られます。ターム契約のプライスフォーミュラは、契約毎によって異なり、数年毎に見直されていますが、原油価格が高騰した局面で、Aについて一定価格範囲で基準値より高い数値が用いられる契約改定が複数行われました。このようなプライスフォーミュラを原油価格との相関性から「S字フォーミュラ」と呼んでいます。近年、米国のシェールガス由来のLNGなどで米国ヘンリーハブの天然ガス取引価格を指標に採用するケースもでてきましたが、まだ、その比率は高くありません。したがってターム契約の価格は、取引時点のLNGの需給などファンダメンタルズの影響を受けにくいという特徴があります。



LNGの需給を反映するスポット取引価格


スポット取引の価格は、取引時点のLNGの需給等によって左右されます。足元のアジアのLNG需要は伸び悩んでいます。景気の停滞、LNGの世界最大の輸入国である日本の発電用燃料需要の伸び悩みなどがその主な理由です。


対して、米国におけるシェールガス由来のLNGの新規プロジェクトの供給開始および供給量の拡大、昨年10月にLNGの供給を開始した国際石油開発帝石がオペレーターを務めているオーストラリアのイクシスLNGプロジェクト(ピーク生産量;LNG年間約890万トン、LPG年間約165万トン、コンデンセート日量約10万バレル)をはじめとするアジア・オセアニア地域における複数の大規模LNGプロジェクトの立ち上がりなどにより、供給量は大きく増加しています。


このため、アジア向けLNGの需給は緩んでおり、これがスポット価格の低迷につながっていると考えられます。 



価格決定方式の違い、タイムラグ、需給緩和が価格差拡大の主な理由


ターム契約に対してスポット取引の価格が割安になり、その価格差が拡大している主な理由は、ターム契約とスポット取引の価格決定方式の違い、原油価格上昇時におけるタイムラグ、LNGの需給緩和などと考えられます。


アジアのLNGの需要は、中国やインドなど新興国、発展途上国における経済成長、LNGの導入及び利用の拡大により、増加傾向で推移すると見込まれます。他方、アジア向けの供給量の増加ペースは、新規・増設プロジェクトの一巡などにより、2020年から2021年にかけて鈍化すると見込まれますので、今後、LNGの需給は徐々に引き締まり、ターム契約とスポット取引の価格差は縮小に向かうと予想されます。


中長期的には、需要の伸び方に対して供給力の伸びはデジタル(階段状)ですので、ターム契約とスポット取引の価格の差は、需給の変動を反映して拡大と縮小を繰り返すと考えられます。



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