㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



米国のエネルギー自給率向上によるリスクの拡大


伊藤 敏憲



米国は世界最大の原油生産及び増産国

米エネルギー情報局(EIA)の統計によると、米国は、シェールオイルの生産拡大を背景に、2018年の原油生産量が1,099万BD(日量バレル)となり、ロシアとサウジアラビアを抜いて45年ぶりに世界最大の原油生産国になりましたが、2019年の生産量は、前年比12%増の約1,230万BDとなり、さらにシェアを拡大したもようです。

米国の原油生産量は2008年には500万BDでしたので、2019年までの11年間に実に2.5倍に膨らみ、この間の世界の石油需要の増加分約1,360万BDの過半をカバーした計算になります。


OPECとロシアなど主要産油10ヶ国(OPECプラス)が、2017年1月~2018年12月に2016年10月生産実績比175.8万BD、2019年1月~12月に2018年秋生産実績比120万BD、2020年1月から同170万BDの協調減産を実施しています。ところが、協調減産に加わっていない米国の原油生産量が2016年から2019年にかけて約350万BD拡大していますので、その効果が完全に打ち消されているのです。これが、中東産油国における地政学リスクが高まっているにもかかわらず、原油相場が上昇しきれない要因になっていると考えられます。



高まる米国のエネルギー自給率


米国の2019年の原油の輸出入は、国内生産へのシフトによって、輸入量が前年比12%減の約680万BDに減少する一方、輸出量が同45%増の300万BDへ増加し、輸入量から輸出量を差し引いた純輸入は同33%減の約380万BDに減少しました。


米国の原油輸入量はピーク時の2005年に比べると33%減少し、2000年代半ばに66~67%だった輸入依存度は、2019年に第一次オイルショック以降で最も低い水準となる24%まで低下しました。米国は、天然ガスに関しては、2017年に輸出が輸入を上回る純輸出国になっていますが、原油においても近い将来、輸出入のバランスが逆転する可能性もあると思われます。


なお、米国のシェールオイルの生産はピークアウトしたとの見方を示す向きもありますが、石油掘削設備(オイルリグ)の稼働基数が、2014年10月10日に記録したピーク時の1,609から2020年1月17日時点で673まで減少しているという事実だけをとらえても、シェールオイルにはまだまだ十分な増産余力があることが判ります。シェール資源開発に関わる探鉱・生産技術の向上を考慮すると、原油開発事業の採算に直接影響する原油価格の水準にもよりますが、シェールオイルだけでも数100万BD規模の増産余力があると推察されます。さらに、メキシコ湾での油田開発が再開されたことも勘案すると、原油市場における米国の存在感は今後さらに高まると考えられます。



米国の固有事情が生んだリスク


米国では、自給率の向上に伴って、オイルショック以降、原油供給に大きな影響を及ぼして生きた中東産原油の構成比はわずか数%にまで低下しました。オバマ前政権が中東への関与を薄め、トランプ政権がイランに対して強硬な外交姿勢をとり続けるようになり、中東地域の地政学リスクは高まっています。その背景事情が、米国のエネルギー自給率の向上=原油供給における中東依存度の低下によるものであることが容易に想像できます。


北米では原油供給に占める中東依存度は低下していますが、他の地域の中東依存度が低下しているわけではありません。米国の固有事情によって中東地域の政情が不安定化することは、原油需給の不安定化や相場の乱高下につながる可能性があります。世界経済、とりわけ中東依存度を下げることが難しいアジア、そして我が国の経済に大きな影響が及びかねない状況にあることを理解する必要があると思われます。


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