㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



懸念される新型コロナウイルスによる感染症の流行とその影響


伊藤 敏憲



世界の注目を集める新型コロナウイルスによる感染症


昨年11月に中国の湖北省武漢省で最初の症例が確認された新型コロナウイルスによる感染症の流行が世界で注目を集めています。


世界保健機構(WHO)や中国の説明によると、新型コロナウイルスの感染者数は、例年、世界各国で猛威を振るっているインフルエンザより二桁少なく、重症化率はインフルエンザより低いとされていますが、未知の病気で、感染力が強く、現時点では治療薬がなく、かつ感染が依然拡大しているといった事情から、中国のみならず世界各国で感染拡大を抑止するための対策が徹底されており、その影響が各国の経済活動に大きな影響が及ぼしつつあります。


原油市況もその影響を受けており、年初に1バレル70ドル近くまで上昇していたドバイ原油のスポット市況は、昨年から年明けにかけて原油相場を押し上げた中東情勢の緊迫がやや緩和されたことに加えて、新型コロナウイルスによる感染症の影響の拡大も懸念されて、2月中旬に一時50ドル台半ばまで下落しました。


2002年から2003年にかけて中国や香港を中心にコロナウイルスによる重症急性呼吸器症候群(SARS)が集団発生した際には、ドバイ原油のスポット価格が2003年3月から4月にかけて31ドルから22ドルに下落した理由の一つに挙げられていましたが、新型コロナウイルスによる影響はSARSより大きくなる可能性があります。


WHOによると、SARSは、中国や香港を中心に2002年11月から2003年8月にかけて8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡したとされましたが、2003年7月にWHOによって終息宣言が出され、2005年以降、感染例は確認されていません。新型コロナウイルスによる感染者数と死亡者数はすでにこの事例を大きく上回っています。


中国では、感染症が集団発生している地域で事業所や学校などを閉鎖したり休ませたりしていますが、感染症が集団発生している地域と他の地域や国との交流が制約する動きも広がっています。



拡大する中国の国際社会への影響


国際通貨基金(IMF)から公表されている経済統計によると、中国の名目GDPは、SARS発生時の2003年には1兆66百万ドル(世界シェア4.3%)でしたが、2018年には13兆37百万ドル(同15.6%)に拡大しています。2018年の貿易額も、輸出額が2兆4,914億ドル(うち対日1470億ドル)、輸入額が2兆1,090億ドル(対日1,802億ドル)に及んでいます。


また、BP統計によると、中国の原油需要は、2003年578万BD(同7.2%)、2018年1,352万BD(同13.5%)と15年間で2倍近くに拡大しており、天然ガスも、2003年34BCF(同1.3%)、2018年は283BCF(同7.4%)とシェアが急拡大しています。石炭の2018年の需要は1,907百万MTOE(同50.5%)に及びます。


ちなみに、わが国のエネルギー需要は、原油が2003年542万BD(同6.7%)、2018年385万BD(同3.9%)、天然ガスが2003年83BCF(同3.2%)、2018年116BCF(同3.0%)、石炭が2003年107MTOE(同3.9%)、2018年117MTOE(同3/1%)と、いずれもシェアを落としています。


このように、中国の世界の経済及びエネルギー市場への影響度合はSARS発生時とは比較にならないくらい大きくなっているのです。



原油の需給・市況への影響は今後さらに高まる可能性が高い


新型コロナウイルスによる感染症の今後の広がりや終息時期などを現時点で予測することはできませんが、感染症が集団発生している中国だけでもその経済規模がSARSの際に比べると格段に大きくなっていますし、世界各国で経済活動に大きな影響を及ぼしかねない対応が広がっていますので、感染症の集団発生の終息時期が遅れると、世界経済、並びに原油など国際商品の市況に大きな影響を及ぼすことになると考えられます。


協調減産を行っている石油輸出国機構(OPEC)加盟国とロシアなど主要産油国で構成する「OPECプラス」の合同専門委員会は、2月6日、新型コロナウイルスの感染拡大による原油需要への影響、協調減産から除外されているリビアの生産回復見通しなどに対応するため、協調減産の規模を今年6月まで暫定的に60万BD拡大することを提案しました。この提案にすべての当事国が同意すれば、追加減産が即時実施されることとなり、今年3月末までの期間で合意されていた減産の規模が170万BDから230万BDまで拡大され、かつ期間が延長されることになります。しかし、現在の緩んだ原油需給、中国の経済や原油需要の規模、新コロナウイルスの感染拡大による影響を受けると思われる国々への波及などを考慮すると、この程度の減産では需給を引き締めることができるとは思えません。


原油相場は、原油の需給だけで左右されているわけではありませんが、影響は今後さらに強まる可能性が高いと考えられます。


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