㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



アフターコロナは元に戻るとは限らない


伊藤 敏憲



エネルギーの需要は価格には左右されにくい


 エネルギーは経済活動や生活を送るうえで必要不可欠な必需品です。このため、エネルギーの需要は価格変動の影響を受けにくいという特性があります。


 もちろん全く影響を受けないわけではありません。価格が大きく変動する際には需要に影響が及ぶことがあります。例えば、石油製品は、タンクや容器に蓄えて利用しますので、価格が急変した場合や、あらかじめ将来の価格の変動が予想できるケースでは、貯蔵量を増減させることが出来ますから、価格が下落する前に買い控えが起きたり、高騰する前に買い溜めされたりすることがあるからです。ただし、貯蔵量の増減による需要の増減は短期的なもので趨勢には影響を及ぼしません。


 電力や都市ガスは、大容量の蓄電設備やタンクを備えていない限り大量に貯蔵することができませんので、価格の変動が需要に影響を及ぼすことはほとんどありません。LPガスは、石油製品と同じようにタンクやボンベに蓄えて利用しますが、メーターで使用量を量る取引形態が主流のため、価格の変動によって需要が大きく左右されることはありません。


 新形コロナウイルス感染症の世界的な大流行と世界各国の感染防止対策によって、経済活動や移動が制約された影響でエネルギーの需要が減少したことなどから、原油価格が3月から4月にかけて急落し石油製品の価格も大きく下落しましたが、価格の低下によって需要が喚起されることはありません。コストの裏付けのない価格競争は業界全体でみると収益にプラスに働くことはないと考えられるのです。



エネルギー需要を左右する景気と天候


 産業用のエネルギー需要は景気を反映し、家庭用や業務用のエネルギー需要は天候の影響によって左右されます。


 例えば、産業用・業務用向けの大口電力、都市ガスの産業用の需要の伸び率には、実質経済成長率と強い相関性が見られ、実質GDP成長率が1%増減するといずれも伸び率が2~3%増減する傾向が見られます。この相関性は短期間で景気が急激に変化したリーマンショックの際にも崩れませんでした。近年で唯一ぶれが生じたのは、東日本大震災後の2011年から2013年にかけての時期に、省エネ・節電、他エネルギーへのシフトによって電力需要が下振れしたときだけです。この時期には、自家発電システムの導入によって都市ガスの需要が上振れしていましたが、2013年以降は上述した経験則が再現されています。これは景気の変動が生産、出荷、物流、販売などの活動に反映されて、産業用・業務用・輸送用等のエネルギー需要を増減させるからです。


 天候が、家庭用や業務用の需要に影響を及ぼすのは、説明するまでもないと思いますが、空調・給湯などの需要を増減させるからです。


企業活動や生活様式を変えたコロナ騒動


 新型コロナウイルス感染症の流行と各国の感染防止策による影響は、まだ定量的に評価できる状況でありませんが、平時の景気変動に加えて感染を抑止するために世界各地で人や物資の移動が制限されたため、航空機、自動車、船舶などの燃料需要が大きく押し下げられていますので、エネルギー需要への影響は通常の景気の落ち込み以上に大きくなっていると推察されます。


 新形コロナウイルス感染症の流行が治まった「アフターコロナ」になれば、景気は回復し、エネルギー需要も回復すると見込まれますが、いずれも元通りの水準まで戻るとは限りません。3月以降に急速に普及したテレワークやリモートアクセスの定着などによって、経済活動や生活の様式が変わる可能性があるからです。


 ビジネスの世界は「先手必勝」、先んじて制することが重要ですが、今は将来像を見極めることが肝要と思われます。



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