㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲



真偽はともかく後戻りしない地球環境問題対策


伊藤 敏憲



地球環境問題でエネルギー分野の対応がクローズアップされる理由



地球環境問題の発生原因はまだ完全に解明されているわけではありませんが、地球環境問題に対応するため、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減することが求められている理由は下記のように説明されています。


地球表面の平均気温・水温が上昇傾向にあり、地球温暖化が進んでいることは事実です。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2014年に取りまとめた第5次評価報告書によると、地球表面の平均温度は1880年から2012年にかけての132年間で0.85℃上昇したと報告されています。


地球温暖化は、「太陽からのエネルギーで地上が温まる→地上から放射される熱を温室効果ガス(GHG)が吸収・再放射して大気が温まる→GHG濃度が上がると温室効果がより強くなり地上の温度が上昇する」というメカニズムによって引き起こされていると説明されています。


主な温室効果ガスは、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、代替フロンなどです。これらの中でもっとも温室効果が大きいのは水蒸気で、その構成比は約6割と推定されていますが、水蒸気の量は大気と海洋・陸面との交換(蒸発・降水)によって決まりますので、人間活動によってその増減をコントロールすることが難しいため、人為的に排出量を調整できる他のGHGの排出量を削減することが温暖化対策として求められているのです。


水蒸気を除くGHGの大部分をCO2が占めていますが、産業革命以前に比べて大気中のCO2濃度は280ppmから380ppmへ約40%増加しています。これは、産業革命以降に、人間が、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を大量に燃やしてエネルギーを取り出したり、CO2を吸収・固定化する効果のある森林・草原等を破壊したりしながら、経済活動を拡大し、暮らしをより豊かで便利なものにしてきたからです。


排出量の削減が求められているGHGの大部分をエネルギー起源のCO2が占めています(わが国では9割超)。このため地球環境問題とエネルギーは切っても切れない関係にあります。エネルギーは、ほとんどすべての経済活動や人間の暮らしにとって必要不可欠な基礎資材ですので、その需要は、経済成長や人口の増加・社会の高度化などに伴って拡大しやすくなります。エネルギー起源のCO2排出量を削減するためには、省エネに取り組むとともに、エネルギーの需給構造の転換(低・脱炭素化)を図っていく必要があるのです。


エネルギー利用各分野で進められている電化はその対策の一つです。電化は、エネルギー利用効率や生産性の向上をもたらすとともに、電源構成を低・脱炭素化することでCO2の排出量を抑制できるからです。発電時に二酸化炭素をほとんど排出しない原子力の有効利用を図ったり、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーによる発電量を拡大したりする取り組みが欧州を中心に世界各国で広がっているのはこのためです。


上述したロジックには推論が含まれており、これらの取り組みが地球環境問題対策としてどのような効果を発揮するかは分かりません、しかし、近年の世界各国の動きを見る限り、後戻りする可能性はほとんどないと考えるべきでしょう。すなわち、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料は、中長期的には、経済性や利便性などにおいて圧倒的に優位な分野以外では利用されにくくなっていくと考えられるのです。需要への影響は、置き換えられる分しか効きませんので、年単位での変化は緩やかですが、中長期的には構造的な変化が起きる可能性が高いと考えられます。



ESGが注目されるようになったのは環境意識が高まったから


ESGという言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとった概念で、2010年ごろから企業の経営とその評価において特に注目されるようになり、企業が長期的な成長を図るためにはこの三つの観点に十分に配慮して経営する必要があるとされています。ガバナンスは、統治を意味する英語由来の外来語で、企業経営におけるガバナンス「コーポレート・ガバナンス」は、企業の不正や経営陣の専横的な行為を防ぐため業務内容や財務を監視することで、ガバナンスが機能しているかどうかは企業経営の基本ともいえます。また社会に配慮して経営することは原則ともいえますので、ESGという概念の広がりは、環境への配慮が、ガバナンスや社会への配慮と同等に取り扱われるようになったということを意味します。その背景には、人為的な行動に起因する地球気候変動問題が無視することができないほど拡大しているという事情があります。


地球気候変動問題としてよく指摘される、海水面の上昇、異常気象による災害や被害の頻発などは、地球表面の大気や水の平均温度上昇によって引き起こされており、その原因の一つがGHGの増加によると一般的に広く認識されているからです。



我が国に求められているのは地球環境問題への真摯な取り組みと国際社会への正しいアピール


GHGの削減目標が国際協定において初めて設定されたのは、1997年に京都で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)で採択された気候変動枠組条約に関する議定書「京都議定書」でした。我が国は、京都議定書に基づいて設定された目標「2008年~2012年までの期間に1990年比6%減」を達成しています。


その後、地球気候変動問題がよりクローズアップされるようになる中で、2016年に新たな気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」が発効しました。パリ協定は、昨年末時点で195の国と地域が締結しています。パリ協定では、「工業化以前に比べて世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑え、1.5℃に制限するため、今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収の均衡を達成する」と規定されています。この規定に準じて、主要各国は個別にGHGの削減目標を設定しており、我が国は「2030年度に2013年度比26%削減(1990年度比18%削減)」、並びに「2050年までに2013年度比80%削減」という長期目標を掲げて、GHGの削減に取り組んでいます。


ただし、パリ協定には問題があります。例えば、GHGの世界最大の排出国である中国はGDP当たりのCO2排出量の削減目標(2030年までに2005年比でGDP当たりのCO2排出量を60~65%削減)しか設定していません。中国のGDPは自国通貨ベースで2005年から2019年にかけて5倍に拡大していますが、GHGの排出量は6割しか増加していません。GDP当たりのCO2排出量は2005年から2019年にかけて約70%削減されていますので、中国は今後の経済成長に合わせてGHGの排出量を増やすことができるのです。


また、世界第2位の排出国のアメリカは2017年に同協定からの離脱を表明していますし、同3位のインド、同4位のロシアをはじめとする新興国・発展途上国のほとんどは現時点において事実上GHGの排出削減を求められていません。


我が国のように、正直にGHGの削減対策を講じている国は少なく、かつ、対策の成果が上がっているにも関わらず外国だけでなく国内からも批判されている国はほとんどありません。環境問題への国際的な取り決め後戻りしない可能性がきわめて高いだけに、我が国は、国民が一致団結して真摯に環境問題に向き合い、取り組むとともに、その成果を国際社会に正しくアピールしていくことが求められているのではないでしょうか。



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