UBS証券会社 伊藤 敏憲


2012年の石油業界展望
「新年の取り組みいかんで将来が大きく左右される」



石油製品の国内需要は12年も伸び悩む可能性が高い

 
石油製品の11年の国内需要は火力発電用燃料を除いて前年に比べて大幅に減少しました。東日本大震災をきっかけに、電力への信頼が低下し、自然災害に強い石油機器が見直されたこともあり、石油ストーブなど民生用石油機器の販売が回復しました。しかし、灯油の需要は、年初から春先にかけては前年の低気温の反動、10月以降は気温が高めで推移したことなどから伸び悩みました。ガソリンは、エコカーの普及による平均燃費の改善、高速道路の割引料金制度の見直し、気温影響などで、軽油は景気低迷などを反映し、いずれも前年実績を下回りました。A重油も天候や景気悪化の影響などで需要は減少しました。唯一、C重油は、原子力発電所の停止が拡大し、火力発電用燃料需要が増加したため、前年に比べて需要が増加しました。

 12年の国内需要は、民生用石油機器の販売回復による需要押し上げ効果や前年の天候不順の反動は見込めますが、景気の回復が見込みにくく、自動車の低燃費化、ガスへの需要シフトなどが続くと予想されますので、需要は伸び悩む状態が続くと予想されます。C重油は原子力発電所がいつから再稼働できるかによると考えられます。


精製・元売の石油製品事業は好業績を維持

 石油製品の内需はC重油を除いて低迷しましたが、石油精製設備の集約が進み、10年までに実施された仕切価格体系の修正が定着し、元売各社が需給適正化に取り組んだことから、被災地への供給を最優先した大震災直後を除いて、石油製品の需給はほぼ適正水準で維持されています。これにより精製・卸売マージンは概ね良好に推移し、元売各社の石油製品事業は11年も好業績を維持しました。

 ただし、元売各社が展開している多角化事業は、石油化学製品事業を除いて業績の足を引っ張る形となりました。特に、昭和シェル石油が戦略事業として注力している太陽電池事業は、世界的な競争激化を背景にした太陽電池の大幅な価格低下、円高、大型新工場の立ち上げに伴う費用増などにより約300億円の赤字の計上を余儀なくされました。また、JXグループが取り組んでいる燃料電池などの新エネルギー事業も11年度は100億円前後の赤字となる見込みです。

 12年も太陽電池事業の収益環境が改善に向かう可能性は低いでしょう。再生可能エネルギー電源によって発電された電気を電力会社が高値で全量買い取る制度が7月に導入されますので太陽電池の国内市場は一段と拡大すると見込まれますが、競争がさらに熾烈になると予想されるからです。このため、コスト削減・効率化の進展による収益改善効果は期待されますが、為替が大きく円安にならない限り、太陽電池事業の収支が大幅に改善するとは思えません。JXグループの新エネルギー事業も投資・費用負担が先行する状況が続くと見込まれます。

 
石油販売業者およびSSの収益力格差拡大へ

 石油販売事業は、需要の減少、小売マージンの低迷などにより11年も厳しい収益状況が続きました。12年に収益環境が良化するかどうかは、元売各社の販売施策によると考えられます。具体的には、業転市場への割安な価格での製品供給が絞り込まれるるかどうか、子会社販社が小売市況の改善に取り組むかどうかなどがポイントになると考えられます。

 SSでは、収益力格差の拡大が起きやすい状況が続くと予想されます。元売の多くは、販売事業者やSSの数が多すぎるので再編・集約の必要があると考えており、近年、社有SSの削減ペースを加速しています。12年もこの取り組みが続けられると予想されます。また、11年2月に施行された地下貯蔵タンクに関わる規制強化が13年2月から開始されることをきっかけに、経年化タンクを抱えたSSを維持することが難しくなると予想されます。これらによって12年から13年にかけてSSの減少ペースが加速する見通しです。SSの閉鎖に伴って流動化する優良顧客を囲い込んだり増やしたりすることができるかどうかで販売事業者およびSS間の収益力に格差が生じやすくなるからです。

 ちなみに、石油販売業の収益環境が改善するとSSの再編・集約が進みにくくなると考える向きがあるようですが、健全な収益状況の下で取り組む方が、より合理的に再編を進められると考えられます。

 なお、1事業者あるいは1SS当たりの平均販売量は増加傾向で推移しています。11年は内需の落ち込みが大きかったため平均販売量は伸び悩みましたが、12年の平均販売量は再び増加すると見込まれます。

 乗用車の平均燃費は改善していますが、登録台数が大きく減少することはないでしょう。これは、カーケアサービスの市場が大きく縮小することがないことを意味しています。実際、石油販売業界全体の収益は、石油製品の販売数量の減少、マージンの縮小、油外収益の低迷などによって、厳しい状況にありますが、このような状況下においてもモーターオイルやタイヤなどカーケアサービスの収益を大幅に拡大しているSSが相当数存在します。そして、収益力を向上できている販売事業者やSSのほとんどに経営改善意識の高い経営者やマネージャーがいらっしゃいます。12年以降も、マネジメントがリードをして、優秀な人材である「人財」を確保したり育てたりし、スタッフのモチベーションを維持・向上できるかどうかによって、石油販売事業の収益が左右される状況は変わらないと考えられます。


今後2〜3年の取り組みいかんで石油事業者の将来は大きく左右される公算大

 石油業界の構造転換が始まった90年代後半以降に、合併・業務提携、設備集約などによるコスト削減・効率化、多角化事業の展開などで収益を拡大できた事業者とそうでない事業者との間で収益力の格差が広がっています。これは、設備集約が進むことですべての事業者の収益が改善するとは限らないことを意味しています。しかも、精製能力の削減、ガソリンおよび軽油のサルファフリー化などによって石油製品の国内供給能力が削減された99年〜01年、および、03年〜05年には、精製、卸売、販売の各段階で収益が改善しましたが、当時は国内需要が増加あるいは維持されていましたので、現状とは事情が大きく異なります。

 12年以降、石油製品の国内需要は伸び悩み続けると予想されます。よって精製および物流段階で設備を集約できなければ、設備利用率を維持・向上することはできません。また、アジアでは12年後半以降に石油精製設備の新増設が進むと予想されますので、製品輸出の拡大や石油化学製品への生産シフトによる収益改善効果を過度に期待することもできないでしょう。需要の減少を上回るペースで国内供給能力を削減して、国内需給を引き締めることができるかどうか、そして、元売各社が主導して小売市況を立て直すことができるかどうかが石油業界全体の収益を適正化できるかどうかのカギを握ると考えられます。

 石油流通サービス業界では、前述したように12年から13年にかけてSS数の減少が加速する見通しです。今後2〜3年に経営体質をいかに改善できるかどうかによって、事業者およびSS間における収益力の格差がさらに拡大すると予想されます。

 状況次第では、精製元売、販売事業者ともに、今後2〜3年で雌雄が決する可能性が十分あると私は考えています。

 
12年の原油価格の中心レンジは1バレル100〜120ドルと予想

 11年の原油市況は、10年後半からの上昇トレンドが4月まで続いた後、世界経済が低迷する中で高止まりしました。需給がやや引き締まったこと、地政学リスクが顕在化したこと、過剰流動性など金融要因による押し上げ要因が働いたことなどがその主な理由と考えられます。

 原油の需給は、前年に比べてやや引き締まりました。米国では景気の悪化、欧州ではEU加盟国の一部における財政破たん懸念などを背景に需要が縮小しましたが、新興国・発展途上国において人口の増加や経済・社会の高度化などによって需要が拡大したため、11年の世界全体の原油需要は前年に比べて1%あまり増加しました。なお、日本における原子力利用率の低下による石油火力発電所の稼働増も原油需要のかさ上げ要因の一つになりました。他方で、原油の生産能力や石油精製能力などがほとんど増強されなかったため、供給余力はやや縮小しました。

 地域別でみると、北米では、シェールガス、オイルサンドなど非在来型エネルギー資源の供給量が増加したため、エネルギー資源の需給が緩みました。一方、政情が悪化したリビアなど北アフリカの産油国の生産量が落ち込んだため、欧州では供給不足が懸念される状況になりました。これが、指標油種の一つだったWTI原油の価格が、北海ブレント原油や中東のドバイ原油、オマーン原油など他の指標油種に比べて割安になり、事実上、指標性を失った原因の一つと考えられます。ただし、天然ガスやオイルサンドから生産されるビチューメンの価格が低迷した影響もあり、シェールガスおよびオイルサンドの生産能力が今後伸び悩むようになると予想されますので、12年の北米におけるエネルギー需給は、景気がさらに落ち込まない限り前年に比べて引き締まる見込みです。これによりWTI原油と他原油との価格差は縮小に向かうと予想されます。

 11年は、地政学リスクが顕在化した年でした。エジプトに端を発しリビアなどに波及した政変によって、北アフリカおよび中東の産油国の一部で原油の生産・輸出量が大幅に減少したり、そのリスクが高まったりしたからです。政変が終結したエジプト、リビアの生産量は12年に回復に向かうと予想されますが、シリアなど他の産油国でも政変がいつ拡大するかわからない状況にありますので、12年も「地政学リスク」が原油市況のかく乱要因の一つになると考えられます。

 また、原油の大半はドルベースで取り引きされていますので、原油価格とドル為替レートとの間には相関性が見られるケースが多くなっています。米国経済の悪化を背景にドル安が進んだことが年前半に原油価格が上昇した理由の一つだったと推察されます。

 さらに、世界経済の低迷、EUの一部加盟国における財政の悪化などを背景に株式および債券の相場が低迷する中で、運用資金がだぶついた状態が続いたため、先物市場が発達している国際商品において「過剰流動性相場」が断続的に形成されたことも原油価格が高止まりした理由の一つだったと考えられます。

 これらの事情のうち、12年に原油価格を引き下げる方向に転じる可能性があるのは、世界経済のさらなる悪化による原油需要の減退、日本の原子力利用率の回復、政変が終結したリビアなどにおける原油生産・輸出量の回復などに限定されます。他方、イランに対して再度発動された経済制裁が同国の原油の生産や出荷に影響が及ぶようになると原油価格は急騰し、もしもタンカーのホルムズ湾での航行に支障が生じるような状況に陥ると、史上最高値を更新する可能性もあるでしょう。ただし、リーマンショックが起きる直前のような需給がひっ迫した状況が再現される可能性は低いので、高値を大幅に更新するには至らないと予想されます。

 12年の石油製品需要は、先進国では減少が続くと見込まれますが、新興国および発展途上国における人口増や経済水準の高度化などによる需要増に支えられて、世界全体では年率1〜2%程度増加すると予想されます。一方、12年前半には大規模な設備の新増設計画が見当たりませんので、年半ばごろまでは、世界経済が失速しない限り、石油製品の需給は引き締まりやすくなると予想されます。よって石油製品の国際市況は12年半ばごろまで改善傾向で推移すると予想されます。

 これらを勘案すると、12年の原油相場の中心レンジは、年前半は、11年後半とほぼ同じドバイ原油ベースで100ドル〜120ドルで推移すると予想されます。ただ過剰流動性相場が続くと見込まれますので、このレンジを上回ったり、下回ったりする可能性も十分あると考えています。上述した諸事情を考慮すると、来年は原油価格が下振れするより上振れする可能性の方が高いと考えられます。



 

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