活ノ藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

「シェールガス革命」の幻想


伊藤 敏憲

シェールガスは非在来型天然ガスの一種


シェールガスとは、非在来型天然ガスの一種で、泥質の堆積岩の中で層状に薄くはがれやすい性質を持つ頁岩(シェール)の地層に貯留されていることから、このように呼ばれています。このシェールガスがエネルギー「革命」を起こすと期待されています。シェールガスの増産によってアメリカが世界最大の天然ガス生産国になり、アメリカの天然ガス価格が他地域の三分の一から五分の一に低落しているからです。

在来型の油・ガス田は浸透率の高い砂岩や炭酸塩岩の層に貯留されたものを掘り出していますが、非在来型天然ガスには、シェールガス以外に、浸透率が低い砂岩(タイトサンド)の層に貯留された「タイトサンドガス」、石炭の生成過程で副生されたメタンが石炭層の中に貯留された「コールベッドメタン(炭層メタン)」、大陸棚周辺の海底下の地層や永久凍土層にメタンと水からなる氷状の固形物質として存在している「メタンハイドレート」、植物や廃棄物から生産される「バイオマスガス」などがあります。また、非在来型石油には、高粘度のタール状の石油が主に地表に近い砂岩層に貯留された「オイルサンド」、シェールガスと同じシェール層に貯留された「シェールオイル(タイトオイル)」、ベネズエラのオリノコ川流域に埋蔵されているタール状の超重質油「オリノコタール」、穀物や植物などから生産される「バイオ燃料油」などがあります。

 

アメリカはシェールガスの増産によって世界最大の天然ガス生産国に


非在来型資源は在来型資源に比べると開発コストがかさむケースが多かったため、古くから存在は確認されていたものの、近年までほとんど開発されていませんでした。ところが、「水平掘削」や坑井に流体を高圧で注入して坑井の周辺部の地層を人工的に破壊する「水圧破砕(フラクチャリング)」、貯留層の解析・評価などの技術革新など探鉱・掘削技術の革新によって生産コストが低下したことと、資源価格が上昇したことによって、経済性が高まり、近年、開発が進められるようになりました。この動きがもっとも顕著なのがアメリカです。アメリカは、シェールガスやシェールオイル(タイトオイル)など非在来型資源の開発によって2000年代後半から天然ガスおよび原油の生産量が増加し、2009年から世界最大の天然ガス生産国になっています。

 

天然ガスは天然資源の中で最もローカル性が強い


そして、アメリカでは、シェールガスの増産ペースが加速した2009年に天然ガスの価格が急落し、その後、原油価格が高止まりする中で、天然ガス独歩安とも言える状態が続いています。2012年には、アメリカ国内の天然ガス取引価格(ヘンリーハブ価格)が一時、百万BTU当たり2ドル程度まで下落し、年平均でも3ドル台と、日本の原油輸入価格に連動した価格決定方式が主流になっている日本、韓国、台湾など東アジア地域のLNGの輸入価格の4分の1から5分の1、欧州のLNG輸入価格3分の1から4分の1程度の低い水準で取引されていました。

アメリカの天然ガス価格が、他地域や原油などに比べて著しく割安になっているのは、天然ガスが、原油、石油製品、石炭などと違うローカルな商品だからです。天然ガスは、大量に貯蔵することができず、生産されたものはすぐに販売せざるを得ません。このため供給過多状態になると価格が急落し、逆に需給がタイトになると価格が急騰しやすいのです。アメリカでは、エネルギー資源の輸出が規制されていますので、北米の需給のみによって価格が左右されているのです。

 

アメリカのエネルギー革命が世界に波及するとは限らない


私は、シェールガスの増産と輸出規制の緩和によってアメリカが天然ガスの純輸出国になる可能性は十分あると考えています。また、世界各地で非在来型資源の開発が進められるようになり、原油や天然ガスの可採埋蔵量および生産量が増加して需給構造が変化する可能性もあると考えています。しかし、これらの変化によって天然ガスの国際価格が大幅に下落するとは思えませんし、もし日本がアメリカからLNGを輸入するようになったとしても、日本の天然ガス調達価格が大幅に低下する可能性は低いと考えています。

輸出が解禁され、インフラが整備されて、アメリカからLNGが大量に輸出されるようになれば、LNGのスポット市場はその影響を受けるようになるでしょう。しかし、それによってLNGの国際取引価格全体が大幅に低下するとは思えません。なぜなら、アメリカが天然ガスを輸出するようになると、まず、アメリカ国内の需給が引き締まりやすくなり、アメリカ国内の天然ガス価格が上昇すると考えられるからです。シェールガスは、確かにアメリカでは革命と称すべきエネルギー産業構造の変化を引き起こしていますが、これがそのまま世界に広がるとは限らないのです。

なお、アメリカからLNGを調達するコストは、天然ガスの国内の取引価格に、液化プラント等の減価償却費、金利、メンテナンス費用など固定費(百万BTU当たり2〜3ドル程度)、エネルギーコスト(天然ガス価格の10数%程度)、LNGタンカーのフレート(西海岸から調達した場合で2〜3ドル程度)の合計で、天然ガスを5ドル程度で調達できたとしても11〜12ドルになります。これに輸出等に関わる事業者のマージンを加える必要がありますので、日本の現在の平均的なLNG調達価格に比べると割安になる可能性はありますが、革命といえるような調達コストの低下が起きるわけではありません。

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