活ノ藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


アベノミクスには頼れない石油産業

伊藤 敏憲

 

第二次安倍政権が推進する経済政策は効果を発揮しつつあるが・・・

第二次安倍内閣は、『三本の矢』と称した「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「民間投資を喚起するための成長戦略」を柱とする経済政策を推進しています。

大胆な金融政策として打ち出されたのが、デフレからの脱却を目指した「2%のインフレターゲット」の導入で、この目標が達成されるまで、日本銀行による国債の買い取り(買いオペレーション)などによって無制限に金融緩和が図られる方針が示されています。

金融緩和策の効果はすでに表れています。為替市場で円安が進み、円安メリットが期待される輸出型企業や海外で事業を展開している企業が先導する形で株価が急騰しているからです。新政権発足前から5月中旬までに、円はドルに対して20円余り安くなり、東京証券取引所の平均株価は約70%上昇しています。企業業績も1月下旬ごろから増額修正、好決算の発表が相次いでいます。円安による輸出採算の改善、海外事業収益の円換算額の増額、有価証券評価損益の改善などが業績改善の主な理由です。

 

国内生産、投資活動、雇用情勢などはまだ改善していない

一方、機動的な財政政策の具体策として、復興・防災対策、暮らしの安全・地域活性化、成長による富の創出の三分野に補正予算が組まれましたが、こちらは、まだ、明確な景気浮揚効果を発揮していません。

民間投資を喚起するための成長戦略も、現在、産業競争力会議において、産業の新陳代謝の促進、人材力強化・雇用制度改革、立地競争力の強化、クリーン・経済的なエネルギー需給実現、健康長寿社会の実現、農業輸出拡大・競争力強化、化学技術イノベーション・IT強化の七つのテーマ別に検討されている段階ですので、効果を発揮するのは成長を促すための具体的策が打ち出されてからになると予想されます。

このためか、景気とほぼ一致した動きを示すといわれているエネルギー需要動向をみると、大口電力需要は昨年6月以降、前年実績割れが続いており、いまだ回復の兆しが見られません。工業用ガス販売量も今年1月以降マイナス成長が続いています。これは国内の鉱工業生産が依然停滞した状態のままであることを意味します。

国内の生産設備の増強を打ち出した企業もほとんど見受けられません。

個人所得についても、ボーナスの増額を決めた企業は出てきましたが、賃金のベースアップを実施した企業は一部に限られています。雇用情勢もまだ好転しているとは言い難い状況です。

したがって、国内景気がこのまま好循環に入ると断言できるような状況ではまだありません。

 

日本経済はアベノミクスのマイナス面を克服できるか

アベノミクスにもマイナス面はあります。12年度の貿易収支は、輸出が63兆9,409億円(過去7位)、輸入が72兆1,108億円(過去2位)となり、過去最大の8兆1,699億円の赤字になりました。最大の理由は、民主党政権がとった脱原子力政策の影響で原子力発電所の利用率が極端に落ち込んでいるため、代替発電用の燃料として、LNGや原油・粗油の輸入量が大幅に増加しているからです。

貿易収支が赤字ということは、為替の円安は貿易赤字を拡大し、経済に悪影響を及ぼすということになります。また、円安は輸入品のコストを押し上げます。為替が1ドル100円前後で推移すれば、インフレターゲットは容易に達成できると予想されますが、円安によって国際競争力を高めた企業が国内生産を拡大して、輸出の量的拡大、並びに、輸入の量的縮小を実現したり、国内消費を拡大したりすることができなければ、日本経済を真に復興することはできないのです。

残念なことに、一昨年3月以降の電力不足、エネルギーコストの上昇懸念などが海外への生産シフトを後押ししていました。東日本大震災直後に、現在のような経済政策が講じられていたら、さらには、もっと早い段階で安全が確認された原子力発電所を利用できる道筋が明確に示されていたら、国内の経済情勢は大きく異なっていたと思われます。

なお、インフレに関しては、今後、注意しないといけないことがあります。貿易収支悪化の主因となっている発電用燃料輸入の増加が、現時点では、企業活動や国民生活に大きな悪影響を及ぼしてはいないからです。この影響を最も強く受けている電力各社の大半が電気料金を値上げしていなかったからです。

例えば、東日本大震災以降、今年4月までに約款料金を改定して電気料金を引き上げたのは東京電力だけで、その東京電力も、昨年9月に家庭・小口分野で平均8.46%、自由化分野が平均14.9%の値上げを実施したものの、12年度に3,270億円もの経常損失を計上しました。

電力各社は、自らの収支への悪影響を無視して、火力発電設備をフルに活用して安定供給の確保に努めていますが、この影響で、電力10社の12年度の経常損失の合計は実に1兆3537億円に及びました。電力関連産業がバッファーになって経済への悪影響が減殺されていたのです。

しかし、このような対応にも限界が近づいています。今年5月に、関西電力が家庭・小口分野で平均9.75%、自由化分野で平均17.26%、九州電力が、家庭・小口分野で平均8.51%、自由化分野で平均11.94%の値上げを実施しました。さらに、東北電力と四国電力が7月から、北海道電力が9月からの値上げを申請中です。電気料金の上昇は避けられない状況なのです。

ちなみに、原子力規制庁が新しい安全基準を公表する予定の七月以降に、新しい安全基準を満たした原子力発電所の再稼働が申請され、その後、原子力発電所の利用率は上昇に向かうと予想されます。これにより、燃料の輸入量が減少して、貿易収支は改善し、電力各社の収支も改善に向かうと予想されますが、電力産業のコスト構造が元に戻るには10年単位の長い期間を要すると考えられます。

 

石油産業は独自の経営改善策を講じる必要がある

ところで、アベノミクスは、石油産業にどのような影響を及ぼすでしょうか?

おそらく収益環境を改善する効果は期待できないでしょう。むしろ、業界の対応次第では、産業全体の経営環境をさらに悪化させかねません。民間投資を喚起するための成長戦略の中で掲げられている「クリーン・経済的なエネルギー需給実現」が、自動車の燃費のさらなる向上や、天然ガスの導入をさらに推進すると予想されるからです。

石油製品の国内需要は、火力発電用燃料と復興需要に沸く軽油を除いて振わない状態が続いています。火力発電用燃料需要は原子力発電所の再稼働が進む過程で急減するのが避けられません。アベノミクスが奏功して景気が回復に向かったとしても、エネルギー需給構造の変化によって、ガソリン、灯油、産業用燃料油などの需要は減少し続ける可能性が高いのです。

石油産業は、東日本大震災後、いち早く供給体制を整えて、被災地の復興や被災された方々の暮らしを支え続けました。その強みを、業界を挙げて国民に説いて、石油を効率的かつ経済的に使い続けるための対策を政治および行政に求める必要があると思われます。老朽化した石油機器を効率良い新鋭機器に更新したり、石油系のコージェネレーションシステムなどの導入を支援したりするための政策がそれにあたります。

石油業界の収益環境は、新仕切価格体系が定着して以降、需給を反映するスポット市況に左右されるようになっています。需要を維持・拡大する対策を打てないのなら、需要に見合った製品供給に努めることはもちろんですが、精製設備の廃止計画を前倒しして実施したり、削減幅をさらに積み増したりする必要があると思われます。

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