㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

LNGのスポット取引市場は発展するか



伊藤 敏憲

 

世界最大の輸入国が最も割高な価格で購入する不可解な商品


日本は世界最大のLNG輸入国です。増加する天然ガス需要をLNGの輸入の拡大によってカバーしてきたからです。以前は日本が世界のLNG取引量の過半を占めていた時期もありましたが、欧州、中国、韓国などがLNGの輸入を拡大していましたので、2000年台後半にはシェアが30%程度まで低下していました。ところが、大地震の影響で原子力発電所の停止が拡大する中で火力燃料需要が急増したこともあって、LNGの輸入量は、2009年度6,635万トン、2010年度7,056万トン、2011年度に8,318万トン、2012年度8,687万トンと急速に拡大し、2012年には世界のLNG取引量の36%を占めるようになっています。

ところが、LNGの取引価格は、シェールガス革命の影響によって、北米で著しく低下し、欧州でも原油に比べて割安に取引されるようになっていますが、日本をはじめとする東アジア地域では高止まりしており、他地域に比べて割高さが目立つようになっています。しかも最大のLNG輸入国である日本の調達価格が最も割高なのです。

その主な理由は、

①    国際パイプラインが形成されていない東アジアでは、天然ガスを安定的に調達するため、開発側のリスクが軽減される長期契約によってLNGが取引されており、その価格が主に日本の原油輸入価格に連動したいわゆるJCCリンク方式によって決定されている。このため原油価格の高止まりを反映した価格になっている。

②    東日本大震災後、原子力発電所の停止によって火力燃料需要が急増したため、電力各社が、必要量の確保を最優先して世界各地からLNGを調達したため、輸入コストが割高になった。

③    日本では、電力・ガス各社が、総合商社を介してLNGを調達しているケースが多いが、総合商社がLNG開発プロジェクトに参画しているケースでは価格が高ければ高いほど自らの収益が拡大するので、価格を抑制する機能が働きにくくなっている。

などと推察されます。


 

LNGスポット市場を拡大するために必要な取り組み

経済産業省は2014年度にLNG先物市場を創設する計画ですが、その目的は、LNGのスポット取引の流動性を高めること、実需給に応じたスポット取引価格を広めること、先物市場においてLNGのスポット取引の価格ヘッジ機能を提供すること、などにより、LNG調達における柔軟性を高め、日本のLNG輸入コストの低減を図ることにあるとされています。果たしてこのような状況を作ることが可能でしょうか。

私は、LNGのスポット取引を拡大するためには、最大の需要国である日本がスポット取引の中心になるための施策を講じる必要があると考えています。そのためには、日本にLNGの受渡場所を設ける必要があると思われます。現在、アジアでは、韓国、シンガポールなどでLNGハブターミナルの建設構想が進められていますが、既存のLNG基地を活用すれば、日本でも短期間でLNGハブターミナルを複数設けることができると考えられます。

実物取引の拡大を図らずに、先物取引の拡大に取り組むと、現物と先物の価格が正確にリンクしなくなって、市場価格がゆがめられやすくなってしまったり、先物市場の重要な役割の一つであるコストヘッジ機能が働かなくなってしまったりしてしまう可能性があります。

先物市場では、その商品のファンダメンタルズだけでなく、他の投資要素も取引価格に取り込んでしまいます。スポット取引を拡大したいのなら、現物取引を拡大し、現物の取引価格と正確にリンクした先物取引市場を整備しなくてはいけません。


 

スポット市場が発展すれば価格見通しは立てにくくなる

スポット取引を拡大すると、LNG価格の変動幅が、現在の原油価格にリンクした価格に比べてより大きくなってしまう可能性があることにも留意しなくてはいけません。

スポット取引が中心になっている北米では、シェールガス革命が広がる以前、天然ガスの価格は短期間で大きく変動し日本より割高に取引されていたことがありました。現在、北米で天然ガスの取引価格が低位で安定しているのは供給過多状態になっているからです。

シェールガスを液化して日本に大量に輸入することができれば、日本の天然ガス調達価格が下がると、よく言われますが、そのようになるとは限りません。北米の天然ガス輸出が拡大すれば、北米の天然ガス需給は引き締まって取引価格が上昇すると予想されます。仮に、需給がひっ迫するような状況になると、かつて見られたように価格が高騰することもありえます。事業者は安い価格で売りたいとは考えていません。

では、LNGのスポット取引が拡大すれば、LNGの取引価格はどうなるのでしょうか?私は「スポット取引市場が発展すればLNGの価格見通しは立てにくくなる」と考えています。


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