㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

TOCOMの石油先物市場を再活性化できるか

伊藤 敏憲

 

TOCOMがSCDを開始

東京商品取引所(TOCOM)が3月24日から石油市場において商品間のサヤ取り取引を始めました。「スタンダード・コンビネーション注文(略称SCD)」と呼ばれる取引で、組み合わせは、原油、ガソリン、灯油、軽油の各商品間と、中京石油市場のガソリンと灯油の計7通り、それぞれ6限月間(石油製品と原油とは1ヵ月の期ずれ)の42通りが可能となります。ただし、原油、ガソリン、灯油以外はほとんど出来高がありませんし、これら3商品についても期先物以外の取引高は限定されますので、原油とガソリン、原油と灯油、ガソリンと灯油の期先物の3通りを中心に取引されることになると予想されます。

TOCOMでは、これまでも同一商品の異なる2つの限月の価格差(サヤ価格=期近限月-期先限月)を指定して1注文として発注するSCOが可能でしたが、異なる商品を組み合わせたSCOは今回が初めてです。TOCOMが石油市場でSCDを始める目的は、石油精製事業者を市場に呼び込むとともに、投資家の新たな運用ニーズを掘り起こし、低迷している石油製品先物市場の活性化を図ることにあると思われます。


 

欧米では拡大した石油先物市場がなぜ国内で縮小したか

石油市場の取引高は、99年にガソリンと灯油が上場されてから03年まで増加傾向で推移し、03年2月には当時上場されていたガソリン、灯油、原油の3商品の合計で一日平均23万枚の出来高を記録しました。その後、04年までは一日平均10万枚を超える出来高を維持していましたが、05年から減少に転じ、08年後半以降の出来高はピーク時の約10分の1の一日平均2万枚前後(14年3月は約1万枚)にとどまっています。

 TOCOMには海外の投資家も十分に呼び込めていませんが、これらの理由として考えられることは、①石油の開発・精製・卸取引・小売などを行っている当業者が取引にほとんど参加していない、②TOCOMの石油市場は世界で唯一、円建てで取引されているため、海外市場と連係した取引が行いにくい、③先物市場の期近物の取引価格と現物の取引価格との間にしばしば大きなかい離がみられる、④機関投資家のニーズに沿う形で売買発注システムなどが改良された結果、システムに十分対応できなかった先物取引会社や一般投資家が投資収益を稼ぎにくくなり、市場からの退出を余儀なくされた、⑤投資家を保護するためのクリアリングハウスなどの機能が当初十分に設定されていなかった、などと考えられます。

国内で流通している石油製品の大半は石油精製・元売が供給しています。国内の石油製品先物取引には、当初、太陽石油、出光興産、新日本石油(現JX日鉱日石エネルギー)などが参加したり、TOCOMの先物取引価格を仕切価格を決定する指標の一つとして採用しようとしたりしていましたが、現在TOCOMの石油先物取引に元売各社はほとんど参加していません。一時、取引に参加したものの、元売が事業に活用できるような市場にはならなかったからです。一方、NYMEXやICEなど海外の商品先物市場には、石油や天然ガスの開発・精製・流通事業者が活発に参加し、投資目的だけでなく、事業収益のヘッジなどに活用しています。事業取引の半分程度を先物市場でヘッジしている事業者が多いとされています。


 

石油先物市場が石油業界の収益安定・健全化に資する可能性も

石油先物市場が創設される際、石油業界関係者の中には「石油製品を投資の対象とするべきではない」と揶揄する声も聞こえましたが、SCDを上手に活用すると、精製マージンの変動リスクを軽減することができます。そして、石油精製・元売が先物市場取引に積極的に参加し、決済のための現物の受け渡し量が増加すれば、石油流通・小売事業者の参加も拡大すると予想されます。TOCOMは、これまで16万円だった証拠金をSCDの場合9万円まで引き下げましたが、石油精製事業者を呼び込みためには、現在1枚当たり55円に設定されている売買手数料と併せて、一段の引き下げが必要と思われますが、SCDの開始、市場設計の見直しなどをきっかけに、国内の石油先物市場が再び活性化し、日本の石油業界の収益の安定化、業界の健全化に資する効果を発揮できるかどうかが注目されます。




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