㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

閣議決定された新「エネルギー基本計画」の問題点

伊藤 敏憲

 

多くの疑問を指摘せざるをえない新「エネルギー基本計画」

エネルギー基本計画が4年ぶりに改定されることになりましたが、新計画の中には疑問を指摘せざるを得ない記述内容が散見されます。

 再生可能エネルギーに関しては、評価が過大でリスクが過少に評されていると評せざるを得ません。


例えば、再生可能エネルギーは、エネルギー安全保障に寄与できる有望かつ多様な国産エネルギー源であると記されています。確かに再生可能エネルギーの導入が拡大すると化石燃料の消費量を減らすことができますので、その価値は高く評価すべきでしょうが、太陽光発電および風力発電は需要に応じた発電ができませんので、どれだけ導入が進んだとしても供給力としてはあてにできず安定供給の確保につながるわけではありません。


しかも、再生可能エネルギーは、発電コストが既存のエネルギーに比べて割高ですから、導入を拡大すればするほど経済性は悪化してしまいます。再生可能エネルギーの導入を推進する目的で2012年7月に施行された再生可能エネルギーの固定価格買取制度による標準世帯の負担額は、今年4月現在では月額100円程度でしたが、5月にはこれまでの約2倍の200円程度に増加します。さらに、すでに事業認可済みの太陽光発電および風力発電がすべて稼働すると負担額は月額500円を超える見通しです。多くの国民がこの事実を正確に把握しているようには思えません。直接的な負担額だけでなく、電力の需給バランスを確保したり、一定の周波数および電圧を維持したりするために、発電設備、蓄電設備、周波数・電圧調整システム等の負担が増加することになりますので、電力の供給コストは直接的な負担額以上に増加することになります。


個別では、特に太陽光発電に関する評価が甘くなっています。まず、導入すると系統負担が抑えられるとされていますが、これは事実に反します。太陽光発電の導入量が一定水準を超えると、周波数・電圧の調整などに関わる負担が増大します。すでに、このような事例は全国各地で発生しています。非常用電源として利用可能とされていますが、系統に接続されていないと一定の電圧・周波数の電気を需要に合わせて供給することができませんので、停電時の用途は限定されます。分散型エネルギーシステムにおける昼間のピーク需要を補い、消費者参加型のエネルギーマネジメントの実現等に貢献するエネルギー源としての位置付けも踏まえた導入が進むと期待されるとされていますが、需要に合わせた発電ができないことを考慮すると、これも過大評価と考えられます。


風力に関する評価内容では、発電コストが火力並とされていますが、直接的な発電コストは、風況状況が良いケースではガス火力や石油火力と同程度のケースもありますが、風力発電は需要に合わせて発電量を調整できませんので、風量発電の導入量に見合った火力発電、水力発電、蓄電システムなどによるバックアップが必要になります。これらを維持するためのコストを考慮する火力より割高になります。


地熱に関しても、発電コストが低いとされていますが、探鉱・開発コストを含めると必ずしも発電コストが低いとは言い切れません。また、発電後の熱水利用が可能でエネルギーの多段階利用も期待されるとされていますが、実際には、熱水利用に関して温泉業者等との調整が必要なケースが多く、現状ではほとんど多段階利用されていません。



天然ガスに関する評価はやや過大か


化石燃料の中では天然ガスに関する甘い評価が目立ちます。例えば、北米からのLNG供給を含む供給源のさらなる多角化を迅速に進める必要に迫られていると示されていますが、多角化が必ずしも供給安定性・柔軟性の向上につながるとは限りません。また、化石燃料調達コストの低減を官民挙げて実現するとしていますが、官民協力が調達コストの低減につながるとは限りませんし、むしろ過去の事例に照らすと、官が関与することによってコストを押し上げられたケースが見受けられます。


シェール革命により競争的に価格が決定されるようになっていくとされていますが、北米からのLNG輸入に関わる諸コストや事業者の利ザヤを考慮すると、北米からのLNG輸入コストは必ずしも割安になるとは限りません。


LNGサプライチェーンの全体を俯瞰した包括的な事業連携を進めることによって交渉力を最大限発揮する取組を行うべきとされていますが、相対的に割安な価格でLNGを調達できた実例と照らすと、スケールメリットの拡大が交渉力の強化につながるわけではないと考えるべきです。


逆に、石油に関しては、東日本大震災において、被災地の暮らしや経済活動を支え続け、復興を下支えした実績が高く評価されて、重要性を評価する記述が加わりましたが、石油機器・システムを更新したり、維持するための具体策が示されていません。


エネルギーは、あらゆる経済活動、国民の暮らしに必要不可欠な基礎資材です。そんなエネルギーに関わる政策は、日本の先行きを左右するといっても過言ではありません。私は、新計画の内容に不安を感じています。


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