㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲
電気料金値上げの背景事情


伊藤 敏憲

問題がある電気料金審査の現状

北海道電力が料金の再値上げを申請し、現在、総合資源エネルギー調査会 総合部会電気料金審査専門委員会でその審査が行われています。審査会合は公開されており、議事録も公表されていますが、それらをみる限り、審査の主目的は、申請された料金をいかに引き下げるかにおかれているように思われます。規制分野の電気及びガス料金を算定する際に用いられている総括原価方式は、原価に応じた料金を設定する方式で、事業者間の競争を促す仕組みも導入されていますが、このような料金制度の原理原則を無視した意見も散見されます。私は、電気及びガス料金の制度設計に関わったことがありますが、料金審査の本来の役割は適正な料金を評価することですので、現状は、審査状況には問題があるように思われます。

ちなみに、電気及びガスの規制分野の料金は、供給原価に基づいて設定されています。この方式を総括原価方式と呼びます。自由化分野の基本料金も総括原価方式に準じて決定されています。また、電気は発電用燃料、ガスは原料のコストの変動を自動的に価格に反映する燃料費(原料費)調整制度を採用しています。燃料費調整制度は、全日本輸入CIF価格を基準にしていますので、同業他社より割安に燃料を調達することでメリットが得られる、すなわち、事業者間の競争を促すしくみが導入されています。かつて、総括原価が上昇傾向で推移していた局面で、その増分が料金に反映されていた時期がありましたが、電力各社は1980年代から1990年代にかけて料金の値上げ改訂を実施していません。そして、規制・制度改革をきっかけにコストの削減・効率化に取り組みようになった1990年代半ばから2000年代半ばにかけて総括原価の減少を反映して電力各社はほぼ2年ごとに料金を引き下げてきた結果、欧州の主要国との料金格差はほぼ解消しました。総括原価方式は、この方式を批判する際によく用いられる「高コスト構造を温存する仕組み」ではないのです。

 

経営に失敗していないにもかかわらず経営難に陥った北海道電力

北海道電力は、2011年度以降、3年連続で巨額の赤字決算を計上し続けており、財務内容も著しく悪化しています。仮に、料金が改定されず、発電・燃料構成が変わらず、原油及び石炭の価格と為替レートが現在の水準で推移し続けると、今年度中に債務超過状態に陥る可能性があります。

同社が経営に失敗したわけではありません。経営努力が不足しているわけでもありません。業績が悪化した主因は、政治判断と行政施策によって原子力発電所の利用率が低下し、火力発電用の燃料費が著しく増加しているからです。同社は、コストの削減・効率化に取り組むとともに、地域経済や住民の暮らしに配慮するため、収支の悪化を半ば無視して、停電を避けるための努力を続け、料金の値上げ時期を遅らせ、料金の改定幅の圧縮に努めています。コストに関しては、幹部だけではなく全職員を対象にした賞与の不支給、基本給の削減などを行い、設備投資額、修繕費用、販売費及び一般管理費などは恒常的に維持することができない水準まで圧縮しています。また、今回申請された料金は、原子力発電所が再稼働しない限り、利益を計上することができない水準です。

経営難は、北海道電力に限らず、大半の電力会社、その関連会社、取引先に及んでいます。電力関連産業からは、業務量の減少と単価の圧縮によって事業を維持することが難しくなっているとの悲鳴が聞こえてきています。電力関連産業は衰退してもよい産業なのでしょうか。

 

操作されているとも思われる世論

8月下旬に北海道でエネルギー事情に関する講演の機会を得ました。エネルギー全般の実情を説明させていただく中で、電力事情についても説明させていただきましたが、参加者から北海道電力の料金再値上げに批判的な反応は一切なく、むしろ、なぜこれまで値上げが申請されていなかったのか、正しい情報が十分に提供されていないのかなどを疑問視する質問や意見が寄せられました。

8月当時、現地のマスメディアの多くは、同社の電気料金の再値上げを批判する記事や報道を繰り返していましたが、それらの報道に背景事情を正確に説明する内容はほとんど添えられていませんでした。「電気料金の値上げが申請されましたがどう思いますか?」と質問されたら、どのような回答が多くなるでしょうか?さらに、質問の前に「料金の値上げを申請した電力会社は原子力発電所の再稼働を申請していますが…」といった枕詞が加えられたらどうなるでしょうか?一方、上述したような背景事情が説明されていたら回答はどうなるでしょうか。結果は当然変わってくるはずです。市場調査は、質問内容やその実施方法によって結果を操作することができるのです。世論には配慮しなければいけませんが、誤った認識は正す必要があると思われます。

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