㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲
原油価格がさらに下落すると
アメリカの天然ガス価格は上昇する?!



                                                        伊藤敏憲

 

相関性がみられるアメリカの天然ガス価格とガスリグの稼働基数

アメリカの天然ガス価格と天然ガス用のリグ(掘削装置)の稼働基数との間には、2000年代半ばから2012年半ば頃まで強い相関性が見られました。アメリカのガスリグの稼働基数は、天然ガスの価格が高騰していた2000年代半ばから2008年にかけて増加傾向で推移し、ピークには1,600を超えましたが、天然ガスの需給が崩れてガス価格が急落した09年に稼働基数は大幅に減少しました。その後、2009年末から2010年初めにかけてガス価格の反発を反映して一時増加しましたが、ガス価格が一段と下落した11年半ばから13年初めにかけてガスリグの稼働基数はさらに減少し、現在は、ピーク時の5分の一程度の300基前後で推移しています。天然ガス価格の価格と稼働基数との間に相関関係が見られるのは、開発事業の採算性を考えれば当然のことと思われます。


 

アメリカの天然ガス生産量の増加・価格低迷の要因はシェールオイルの増産

ところが、アメリカの天然ガス生産量は2006年以降、一貫して増加傾向で推移しています。アメリカの天然ガス生産量とガスリグの稼働基数との間には相関性が見られないのです。これは、アメリカで現在生産されている天然ガスの相当量が原油生産に伴って生産されるいわゆる随伴ガスだからです。

アメリカの原油リグの稼働基数は、原油価格が急落した2008年秋から2009年半ばにかけて減少した後、2009年半ば以降に急増しています。シェールオイル(タイトサンドオイル)の開発が急増しているからです。シェールオイルは天然ガスを随伴することが多く、これが天然ガスの増産につながっているのです。

シェール油・ガス田の開発のコストが在来型の油・ガス田に比べて割安と説明されることがありますが、これは事実ではありません。シェールオイルの開発・生産コストは、1バレル当たり70~80ドル程度のものが多いとされていますが、これは在来型の大型油田の開発コストに比べるとかなり割高です。ガス専用リグの開発・生産コストは、天然ガス価格とガスリグの稼働基数との相関関係から推察することができますが、これも百万BTU当たり5ドルを超えていると考えられますので、在来型の大規模天然ガスプロジェクトに比べて割安ではありません。

アメリカでは、シェールオイルに随伴して生産される天然ガスによって、天然ガスの過剰供給と諸外国に比べて割安な天然ガス価格が維持されていると考えられるのです。すなわち、アメリカの天然ガス価格が低迷しているのは、原油価格が高止まりしているからなのです。


 

原油価格がさらに下落するとアメリカの天然ガスの需給・価格に影響が及ぶ

8月から原油価格が値下がりしていますが、1バレル80ドル台の価格が維持されると、アメリカ国内の大半のシェール開発プロジェクトが原油の販売によって利益を確保できると考えられますから、すぐにリグの稼働基数が減少して原油及び天然ガスの生産量の拡大ペースにブレーキがかかることはないでしょう。しかし、原油価格がさらに下落すると、原油リグの稼働基数が減少し、原油だけでなく天然ガスの生産量も減少して、天然ガスの需給が引き締まり、アメリカ国内の天然ガスの価格に影響を及ぼす可能性があると考えられます。

日本の天然ガス調達コストは、LNGの長期契約に基づく輸入価格の大半が2~3ヶ月前の原油輸入コストに連動して決定されていますので、年末から年明けにかけて8月以降の原油価格の下落を反映して低下していくと考えられます。「日本の天然ガス調達価格はアメリカから割安なシェールガスを輸入すれば下がる」と説明されることが多いのですが、もともとこのシナリオには、アメリカから日本に輸入する際に必要な諸コスト、事業者の収益などを考慮すると無理があるのですが、原油価格がさらに下落すると、シナリオの前提そのものが崩れてしまう可能性があるのです


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