㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

原油市況の下落は様々な原因が絡み合って生じた




                                                        伊藤敏憲

急落した原油市況

09年後半から1バレル100ドル前後で比較的安定的に推移してきた原油市況が、8月に下落に転じ、10月初及び11月末に大きく値を崩しました。11月末に急落した直接的な原因は、11月27日に開催されたOPEC総会で加盟各国が減産に合意できなかったためと考えられますが、OPEC加盟各国が仮に減産に合意していたとしても、原油市況の下落傾向に歯止めをかけるのは難しかったと思われます。原油の需給が緩んでいる上に、市況を支えていた諸要因の押し上げ効果が薄れてきたからです。

過去にOPECが協調減産を検討した局面において、減産に合意したケースを含めて原油価格が上昇した事例はほとんど見られませんでした。これは、OPECが原油市場において需給の調整役を担っており、OPECの減産は供給過多状態に陥っていることを意味しているからです。今回も同様で、OPECの生産量は13年から減少傾向で推移していました。OPEC加盟国の多くは、原油、石油製品、天然ガスなど鉱物性燃料の輸出による収入が経常収益の大半を占めています。原油価格の下落は収益の減少に直結しますが、生産量を削減すると収益がさらに落ち込むため、過去に協調減産が合意された際において減産合意枠が順守されたケースはまれでした。このため、OPECが過去に協調減産に合意したケースにおいては、一時的に原油市況が上昇したことはありましたが、しばらくすると元の水準以下まで下落していました。


需要と供給双方の理由で緩んだ原油需給

原油の需給は、需要と供給双方の理由によって緩んでいました。

原油需要の伸びは鈍化しています。IEA(国際エネルギー機関)は、毎月半ばに公表している“Oil Monthly Report”に掲載されている世界の原油需要見通しを、年央から毎月下方修正し続けています。11月時点の世界の原油需要の見通しは、14年が前年比1.1%増の9,244万BD、15年が14年見通し比1.2%増の9,358万BDでしたが、14年の見通しは6月時点の9,276万BDから32万BD、15年の見通しは公表が始まった7月時点の9,408万BDから50万BD、それぞれ下方修正されています。景気の減速・悪化、省エネの進展などが需要見通しの下方修正理由とされています。ちなみに下方修正幅が最も大きかったのは中国、修正率ではわが国が最も大きくなっています。

一方、供給面では、需給緩和の直接的原因は、北米でシェールオイルが増産されたからでしたが、北米では、原油市況が下落に転じた8月下旬以降も原油及び天然ガスが増産され続けています。08年に原油市況が急落した局面では約半年後に北米の原油およびガスの掘削設備(リグ)の稼働基数が急減しました。今回も、原油市況がシェールオイルの開発において高コストの掘削設備の採算ラインと考えられる80ドル前後まで回復しない限り、リグの稼働基数は減少し、北米の原油及び天然ガスの生産量も減少に向かうと予想されますが、その時期は年明け以降になると予想されます。

一方、OPECでは、内戦状態に陥り生産量が激減していたリビアの生産量が7月から9月にかけて20万BD(日量バレル)から90万BDに増加しましたが、他の加盟国の生産量に近年大きな動きは見られませんでした。今回、協調減産の合意が得られなかったこと、さらに、サウジアラビアが、9月以降に市況の動きを自国産の原油の販売価格に速やかに反映して、販売シェアの維持を図っていることなどを勘案すると、当面、OPEC加盟各国が市況を立て直すために減産に踏み切る可能性は低いと考えられます。


効果が薄れた地政学リスク等による市況の下支え

ここ数年、原油相場を支えてきた様々な地政学リスクの影響も薄れてきています。例えば、アラブの春に始まった中東及びアフリカの産油諸国の政変、ロシア産の原油及び天然ガスの欧州への輸送ルートの要にあたるウクライナなどの政情悪化などがそれにあたりました。これら各国で政変や発生した直後に原油市況は上昇し、当初、原油の需給に大きな影響を及ぼす可能性があるとみられていましたが、その影響は一巡したり、生産量が増加に転じたり、結果的に大きな影響を及ぼさなかったりしたからです。

また、金融緩和政策を続けていた米国が出口戦略をとったことも市況の下げ要因の一つになっています。過剰流動性による押し上げ効果が弱まった上に、原油市況との連動性がみられるドルの為替レートがユーロなど他通貨に対して値上がりしたからです。

 WTI原油の市況チャートを分析すると、原油市況は、09年後半から形成されてきた下値抵抗線を8月下旬に割り込んだ後、下落し続けたため、現在は下値のめどが見当たらない状態となっています。このため過去の経験則に基づくと直前の高値の半値にあたる60ドル程度、場合によっては40ドル台まで下落してもおかしくないとも考えられます。

 このように原油市況の急落は、需給、材料、金融、テクニカルなど様々な原因が絡み合って生じたと考えられるのです。

 


 

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