㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

原油市況の急落とその影響




                                                        伊藤敏憲

原油市況の急落を反映して石油製品の値下がりが広がる

原油スポット市況の下落は、契約、船積み、輸送等に要する1ヶ月余りのタイムラグを経て、翌月以降の原油輸入価格に反映されます。原油輸入CIF価格の全国平均は、昨年2月から8月にかけて1バレル110ドル前後で安定的に推移してきましたが、昨年8月以降の原油市況急落を反映して、9月に106ドル、10月に101ドル、11月に91ドルへ低下しました。そして、12月には80ドル前後、1月に65ドル前後へ低下する見通しです。1月中に原油市況が反発しないと、2月には50ドル前後まで急落すると予想されます。ちなみに、為替レートが1ドル120円の場合、原油価格が10ドル低下すると、円ベースの輸入単価は1リットルあたり7円55銭低下します。


原油市況の下落をほぼそのまま反映して、ガソリン、軽油、灯油など石油製品も値下がりしています。特にガソリンは、販売が振るわなかったこともあり、原油市況の値下がりを先取りするように値崩れが広がり、昨年7月~8月に1リットル約170円だったレギュラーガソリンのSS店頭小売価格の全国平均価格(税込、石油情報センター調べ)は、1月初めの段階で145円と約25円値下がりしています。同期間に軽油は22円、灯油も16円値下がりしていますが、原油市況が反発するか、円安が進むか、石油製品の需給がひっ迫するかしない限り、石油製品の値下がりはさらに広がると予想されます。



LPGとLNG調達コストへの影響


 原油市況の下落は、ガスの調達価格にも影響しています。LPGの調達価格は、現在、サウジアラビアの国営石油会社「アラムコ」が発表しているCPによって左右されていますが、このCPは、原油相場の影響を受けるCP先物市場の値動き、需給などを考慮して決定されています。これまで冬季の需要期には原油価格に対して割高に設定される傾向が見られましたが、今シーズンは原油市況が急落したこと、北米からの輸出が拡大したことなどが影響して、原油市況と同様に昨年8月以降下落し続けています。昨年7月に1トン当たり820ドルだったプロパンガスのCPは今年1月時点で425ドルとおおよそ半値になっています。このためLPGの輸入価格も原油価格と同様に2月まで下がり続けると予想されます。


日本が調達しているLNGの大半は長期契約によるもので、長期契約価格のほとんどが日本の原油輸入価格の全国平均(JCC)に基づいて「LNG価格=JCC×係数+定数」の算式で決定されています。係数、定数は契約ごとで異なっており、価格帯によって係数を変化させるSカーブフォーミュラが採用されているケースもあります。なお、日本だけでなく、韓国、台湾、インド、中国、タイなどアジア諸国もJCCに基づいた価格決定方式を採用しています。LNGの価格は、2ヶ月から3ヶ月前のJCCに基づいて決定されるケースが多くなっていますので、原油スポット価格の変動がLNGの長期契約価格に反映されるのは3ヶ月から4ヶ月先になります。今回も、原油スポット市況が下落し始めたのは8月からでしたが、LNGの輸入CIF価格の全国平均(JGC)が下落し始めたのは11月からです。



電気料金・ガス料金への影響


電力会社は、原油、石炭、LNG(LNG火力を持たない北海道、北陸は原油と石炭のみ)、都市ガス大手は、LNGとLPGのそれぞれ直近3ヶ月間の輸入平均CIF価格の変動を自動的に料金に反映する燃料費・原料費調整制度を採用しています。LPガス販売会社の一部もLPGのCPの変動を料金に反映するしくみを採用しています。


 先に説明させていただいた通り、原油スポット市況の低下が輸入価格に反映されるのは、原油が1ヶ月~2ヶ月後、LNGは3ヶ月~4ヶ月後になります。これが、燃料費・原料費調整制度によって、電気料金、ガス料金に完全に反映されるのは、さらに2ヶ月~3ヶ月後になりますので、為替が大幅に円安になったり、原油価格が急反発したりしない限り、電気料金、ガス料金は今年前半まで下がり続けることになります。


なお、調整制度には各社の燃料・原料構成が考慮されていますので、原油安の影響の出方には個社間で差がみられ、原油安の影響は、ガス火力及び石油火力の構成比の高い会社ほど大きくなります。



原油安は日本経済全体にとっては明るい材料


原油市況の急落は、日本経済全体、あるいは国民の暮らしに大きな影響を及ぼすと考えられます。すでに、ガソリン、軽油、バンカーオイル、ジェット燃料油といった輸送用燃料、灯油などの暖房用燃料、産業用燃料油、化学原料のナフサ価格などが低下しています。数ヶ月のタイムラグをおいて、電気料金、ガス料金なども低下し、エネルギーコストの低下によるメリットが広まっていくと予想されます。


日本の貿易収支が11年度に赤字に転落した主因は、鉱物性燃料の輸入額が増加したからでした。東日本大震災後に原子力利用率が低下したことによって、当初は原油とLNG、その後は原油の輸入量が減少しLNGと石炭の輸入量が増加しました。さらに円安が進んで円ベースの輸入単価が上昇したこともあり、鉱物性燃料の輸出入収支は、10年16兆3千億円、11年20兆6千億円、12年23兆1千億円、13年25兆9千億円と大幅に拡大しました。14年の収支は26兆3千億前後の入超となったもようです。原油市況の急落によって貿易収支の赤字幅が大幅に縮小すると見込まれます。原油安は日本経済全体にとって明るい材料になると予想されます。



石油会社には甚大な影響を及ぼす


原油安は、石油・天然ガス開発事業の収益を押し下げます。また、石油精製・販売事業は、自家使用燃料費等の減少、原油コストの下落が製品価格に反映されるまでのタイムラグによるマージンの改善などによって、実収支は改善しやすくなり、また、原油調達費用の減少による運転資金の減少、税負担の軽減などが見込まれますので、キャッシュフローも改善すると予想されます。


しかし、主に在庫評価損失の発生によって、石油各社の会計上の収支は著しく悪化すると見込まれます。ちなみに、1バレル10ドルの原油価格の低下が利益に与える影響額(利益感応度)を石油各社は以下のように予想しています。


・  JXホールディングス:在庫評価影響▲80億円、石油製品事業の収支改善+10億円(自家燃料等の減少による影響)、石油開発事業の収益減▲5億円

・  出光興産:在庫評価影響▲34億円、石油製品事業の収支改善+4億円、開発事業の収益減▲7億円

・  コスモ石油:在庫評価影響等▲20億円、石油開発事業の収益減▲3億円

・  東燃ゼネラル石油:在庫評価影響▲27億円


 石油元売大手は、3月までに原油市況が急反発しない限り、今後発表される決算で数百億円から数千億円の在庫評価損の計上を余儀なくされ、大半の会社が赤字に転落すると予想されます。

石油販売業者の収支は、過去の原油価格下落局面においては、販売マージンの拡大によって改善したケースが多かったのですが、値下げ競争が広がって収益環境が悪化したり、販売単価の下落による収入の減少によって資金繰りが悪化したりしたケースも見られました。石油販売事業の収益環境は、製品市況に大きな影響を及ぼす元売の販売政策によって左右されることになると考えられます。


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