㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

原油価格は年後半に90ドル目指す




                                                        伊藤敏憲

原油価格が60ドルを割り込んだ水準で推移する可能性は低い

原油価格の下値模索が続いています。1月には一時的に1バレル40ドル前半まで低落しましたが、60ドルを下回る水準で推移する可能性は低いと私は予想しています。


コスト面を考えると、60ドルを下回る状況が続くと、供給調整が進み、価格に上昇圧力がかかると予想されるからです。これにより、早ければ2月、3月に原油価格は底を打ち、その後は短期的には60~70ドル、年後半には70~90ドルに戻る可能性もあると考えられます。


 まず生産調整は比較的早く進むようになると思われます。60ドルを割り込んだ水準では、北米において近年急ピッチで開発が進められていたシェールオイルの開発が、抑制され、生産が減少に転じると予想されるからです。



 

原油安が続くと米国のシェールオイルの生産量は急減する


石油掘削設備の損益分岐点は、大別して2つあります。1つは開発から生産までにかかる総コスト、もう1つはオペレーション(操業)コストです。現在の価格では、操業コストはカバーできたしても、原油価格が高騰した2000年代半ば以降に開発された多くのプロジェクトが総コストは回収しきれません。結果的に新規の探鉱・開発・掘削に急ブレーキがかかる可能性が高いのです。


特に、北米のシェールオイルに関しては、過去の原油価格と掘削設備(リグ)の稼働基数との相関性を調べると、60~80ドル程度に総コストで見た損益分岐点が存在しているケースが多いと考えられます。原油価格が80ドルを下回ったのは昨年11月で、その頃から新規投資にブレーキがかかり始め、すでに12月下旬からアメリカの石油リグの稼働基数は減少し始めており、1月末の稼働基数はピーク時の約1600より20%以上少ない1220まで減少しています。生産量が減衰している小規模のリグから停止が広がっていきますので、この比率で生産量が減少しているわけではありませんが、原油価格が低迷し続けると、昨年11月時点日量900万バレルを超えていたアメリカの原油生産量が、シェールオイルの過去3年間の増産分に相当する日量350万バレル程度減少し、日量550万バレル前後まで落ち込む可能性すらあると考えられます。なお、シェールオイルの油田は、在来型に比べると、規模が小さく、生産量の減衰のスピードが速いので、生産量が落ち込むのに、さほど時間がかからないと推察されます。


アメリカの経済は比較的好調で、エネルギー消費は増加傾向で推移しています。近年、アメリカは、シェールオイル・ガス増産などに伴う国産原油・天然ガスの供給拡大によって、海外からのエネルギー輸入量を減らしていましたが、原油安を受けて新規開発にブレーキがかかる状態が続けば、輸入量を増やさざるを得なくなり、国際需給が一気に引き締まっていくとも考えられるのです。



 

短期的には60ドル台、年後半には70~90ドルを目指すと予想


 では、原油価格が反発に転じた場合、どこまで戻す可能性があるのでしょうか。先ず、価格チャートを分析すると、昨年8月に価格が一気に崩れ始めた時期の90ドル前後、あるいは、昨年11月以降に下げ足が速まった時期の80ドルが節目になると考えられます。


一方、コスト面からみると、シェールオイルなど高コストのプロジェクトの投資が回収できると考えられる60~80ドルの範囲がポイントになると考えられます。


私は、これらから、短期的には60ドル台を目指して上昇し、年後半には70~90ドルの水準まで値を戻すと予想しているのです。



 

過大評価されていたシェール革命


 北米で開発が拡大したシェールオイル・ガスについて補足します。一時、シェール革命がエネルギーコストの劇的な低下をもたらすとの論調で語られていましたが、私はそうした見方やシェール革命という表現自体に違和感を覚えていました。


 シェールオイル・ガスの開発によって、確かに米国国内のエネルギー市場には、天然ガス価格の低下、輸入の削減等、大きなインパクトを与えていました。中長期的には、北米からの原油や天然ガスの輸出が拡大して世界のエネルギー市場に徐々に影響を及ぼす可能性もありましたが、近い将来、革命と呼べるほどの影響を世界のエネルギー市場に与えるとは思えません。その理由の一つは開発コストの高さです。前述したように、アメリカのリグの稼働基数が急速に減少し始めていますが、主要産油国の生産状況に大きな変化は見られません。この事実でご理解いただけるのではないでしょうか。


ただ、シェール開発の拡大によって、世界の認識が大きく変化したと言えることがあります。それは、石油が枯渇するという「ピークオイル説」をかき消してくれたことです。まだ、北米以外で、シェールオイル・ガスの開発のめどが立っている地域はありませんが、シェールオイル・ガス、オイルサンド、オリノコタールなどの非在来型の資源が北米だけでなく、世界各地に存在し、条件次第で開発が可能になることが確認され、石油や天然ガスが短期間で枯渇するというシナリオが崩れたからです。かつてピークオイル説を根拠の一つとして、原油価格が200ドルを超えると吹聴されたことがありました。インフレや需給構造の変化などによって将来200ドルを超える可能性は十分にありますが、少なくとも資源量の制約を理由とする価格高騰説は鳴りを潜めたのです。それが、シェールオイル・ガスが果たした最大の貢献と思われます。



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