㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

まだ先行きが不透明なFEV、本格実用化間近のEV

 

伊藤 敏憲




FEV市販第一号車MIRAIは好評を博しているが…


日本は、水素エネルギー社会の実現を目指して、燃料電池をはじめとする水素利用機器・システムの開発や普及、水素供給インフラの整備などを官民挙げて推進しています。

燃料電池自動車(FEV)はその代表的な分野の一つで、昨年12月にトヨタが市販第一号車のMIRAIを発売し、ホンダも16年3月にFEVを発売する計画を明らかにしています。水素ステーションも、JX日鉱日石エネルギー、岩谷産業、東京ガス、豊田通商などが、首都圏、愛知県、福岡県、東名阪沿線などで設置を進めています。ちなみに、トヨタは、MIRAIの今年の生産予定台数は700台、17年は3000台と説明していますが、注文が殺到しているため、3月中旬現在において、今後の注文分の納期は2018年以降になるとの見通しを示しています。

水素をエネルギー分野で活用しようとしている事例は海外にも見受けられますが、大々的に水素エネルギー社会の実現を標榜している国は日本以外に見当たりません。水素エネルギーには、熱や電気を発生する際にCO2や環境汚染物質を排出しないなど優れた特性がある反面、利用の拡大を図るためには多くの課題を抱えているからです。事業の採算性はその一つです。

例えば、FEVと併せて水素ステーションの設置が進められていますが、水素ステーションの建設費用は、今後の規制緩和を考慮しても3~4億円程度かかり、運営コストは一般のSSの数倍になる見通しです。水素ステーションにおける水素充填コストを1kg当たり1,000円程度に設定されていますが、この価格はハイブリッドカーの燃費から逆算されて設定された価格で、工業用の取引価格の半値近い水準です。このような価格では、水素の供給に関わる事業者が利益を確保することができるとは思えません。また、FEVは点検・整備が難しいため、水素ステーションで提供できるカーケアサービスは限定されますので、FEVが1ステーション当たり数千台規模で普及し、かつ、水素充填料を1台当たり数千円に設定できない限り(この場合、FEVの経済性は低下します)、水素ステーションに独立採算が見込めるような状況は想定できません。トヨタの生産計画からすると、普及台数は2年後に1ヶ所か2カ所の水素ステーションを賄える程度です。


 

本格実用化の要件を備えつつあるEV

一方、EVは、日産自動車と三菱自動車から市販車が発売されていますが、一般用途に使用するには航続走行距離にやや難があるものの、車の性能やコストの面での問題はほぼクリアされています。充電には、全国に張り巡らされている送電網を活用できますし、急速充電器も、コンビニエンスストア、ショッピングモール、パーキングエリア、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアなどへの設置が進んでおり、会員制の充電サービスや、カーナビと連携した充電スポット検索アプリなどの提供も行われています。割安な深夜電力で充電するとHEVに比べてもコストは割安です。

EVの現状における問題点は、航続走行距離が短い(エアコン、ライトなどの仕様を考慮すると実質100㎞程度)ため一般用途には使用しづらい、充電時間が長い(エンプティ状態からフル充電にかかる時間は普通充電で8時間以上、急速充電でも30分以上)、急速充電スポットの充電器設置台数が1台のケースが多いため充電待ち時間が発生することがある、急速充電器を使用すると充電コストが必ずしも割安ではない(1回当たり300円~500円、日産自動車が提供している会員サービスの利用料金は月額3,000円)などと思われます。これらを考慮すると、用途は制約されるものの、本格実用化のための要件はほぼ備わりつつあると考えられます。

先日、EVに試乗する機会を得ました。東京~川崎間を往復し、途中で急速充電を行いましたが、1日100km程度の走行距離で利用するなら不便を感じることはありませんでした。

EVは、インフラ整備のための追加コストが嵩まないため、既存車との使い分けによって共存が可能と思われます。


完成度の高い既存の車社会を革新する必要性があるか

 海外の複数の国がEVの導入に積極的に取り組み始めていますが、FEVの普及に国を挙げて取り組んでいるのは日本だけです。海外の方と意見を交換すると、日本のFEVへの取り組みの積極さに疑問を呈されることがあります。

FEVは、技術の進化と量産によってコストが低下する余地が大きく、水素充填インフラが整えば、ガソリン車やディーゼル車と同じ様に使える実用性を備えています。また、FEVの開発・生産に関わる技術の多くは、そのままハイブリッドカー(HEV)、充電が可能なプラグインハイブリッドカー(PHEV)、電気自動車(EV)などに応用できます。これらを考慮すると、自動車メーカーにとっては、FEVに注力する価値が十分にあると思われます。

FEVのポテンシャルの高さを否定するつもりはありませんが、莫大なコストをかけて、完成度の高い既存の車社会を変革する必要性があるかどうかには疑問を感じざるを得ません。




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