㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

電力・ガスシステム改革が始動

 

伊藤 敏憲

 

電力・ガス・熱供給事業等の一体改革が始動


送配電事業部門の法的分離など電力システム改革の総仕上げとなる第3弾の電気事業法の改正法案、ガス事業における小売全面自由化や都市ガス大手3社の導管事業部門の法的分離を柱とするガス事業法の改正法案、熱供給事業法の抜本的な見直し、エネルギー事業に係る新たな行政組織の創設など、エネルギー分野の一体改革を図るための諸法案が15年春の通常国会で成立する見通しです。

電気事業及びガス事業のシステム改革が始動し、今年4月に、電源の広域的な活用に必要な送配電網の整備や、全国大での需給調整機能の強化を目的とした「電力広域的運営推進機関」が創設されました。前述した改正法案が成立すれば、6月にエネルギー事業を司る新しい規制組織が経済産業大臣直属の委員会として設置されます。「小売全面自由化」は、電力が2016年、ガスが2017年に行われます。熱供給事業も2016年に自由化されます。2020年には電力の送配電部門、2022年には都市ガス大手3社の導管部門がそれぞれ「法的分離」されて別会社化される見通しです。そして、適正な競争が確保されていることが確認された地域では電気および都市ガスの小売料金規制も撤廃されます。

経済産業省は、これらのシステム改革によって、エネルギー市場の垣根が取り払われ、総合的なエネルギー市場を創り上げることが可能となり、革新的な技術の導入や異なるサービスの融合などによるイノベーションの早発、エネルギー選択の自由度の拡大、電気及びガス料金の抑制、安定供給の確保など、消費者利益の拡大が図られると説明しています。

ただ、経済産業省が描いたシナリオのように簡単にメリットばかりが実現するとは思えません。わが国のエネルギー業界は、現在、問題・課題・懸念事項などを山のように抱えていますが、これらを解決するために莫大なコストがかかりますので、事業全体のコストが肥大化するおそれがあります。例えば、エネルギー政策の見直しに伴って、原子力発電所の設備の改造、運用体制の見直し、一部設備の廃止などが必要になっています。そして火力発電設備の新増設が全国で進められたり検討されたりしています。これらは供給コストの増加や二酸化炭素排出量の増加につながります。また、再生可能エネルギーの導入が推進されていますが、これによって、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の買取費用(賦課金)の増加が見込まれ、送電網の増強、バックアップ電源の確保、蓄電システムの導入など、やはりコストの増加につながる対策を講じることも必要になります。再生可能エネルギーそのものの発電コストが低下しても、関連コストの増加分を考慮すると、再生可能エネルギーの大量導入は明らかにコストアップにつながります。システム改革によってこれらのコスト増を上回る合理化・効率化効果が発現するとはとても思えません。実際に、自由化、再生可能エネルギーの大量導入などで先行した欧州各国ではエネルギー価格が上昇しています。


 

安易に電気事業・ガス事業に参入するのは禁物

2000年に始まった部分自由化をきっかけに、電力小売には、特定規模電気事業者(新電力)と呼ばれる新規事業者が参入しました。新電力の登録事業者数は、東日本大震災後に急増し、2015年3月末現在で651社に及んでいます。登録している事業者の業種は、都市ガス、石油、LPガス、新エネなどのエネルギー関連産業のほか、製造業、通信、不動産、流通・サービス、リース、メンテナンスなど多岐にわたっています。

ただし、新電力の自由化分野におけるシェアは、2013年度の発電量ベースで約4%、そのうち最大手のエネットが47%、上位10社が89%を占めています。2014年度の状況にも大きな変化は見られません。供給力の確保が進んでいないからです。

新電力の一部はコストが割安な石炭火力と電力の需要と供給を一致(同時同量)させるために必要な需給調整機能を備えたガス火力などの電源の確保を図ろうとしていますが、2011年以降に新規稼働した発電設備は限られています。さらに、大半の事業者は、自前の供給力を確保するめどすら立っていません。

ガス事業でも、小売が全面自由化され、導管事業の中立性の確保、LNG基地の第三者利用の促進などが図られます。これにより、すでにガス事業に参入している電力、石油などに加え、異業種からの新規参入、ガス事業者間での競争の活発化などが起きると考えられますが、ガスを安定的に供給できる事業者は限定されますので、新規事業者が乱立することはないでしょう。

電気事業や都市ガス事業は、もともと収益性の高い事業ではありません。電力会社が料金を算定する際に設定される事業報酬率は、資産利益率ベースで3%台、しかも事業報酬には資本・資金の調達コストも含まれていますので、経常利益率はさらに低くなります。現在、認可制となっている家庭用や小口の業務用の電気料金には歪みがありますので、新規参入者は採算の良い需要家だけを選別して事業を行うことができますが、料金規制が撤廃されると、電力会社やガス会社が、需要家ごとにきめ細かい対応ができるようになりますので、そのような選択的な事業展開は難しくなります。原子力発電所の停止によって、電力各社のコストが上昇し、料金も通常時に比べて割高になっていますが、このような異常な状態が続くとも考えてはいけません。

足元の歪んだ事業環境をもとに、安易に電気事業やガス事業に参入するのは妥当な経営判断とは思えません。




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