㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲

先行き不透明な原油需給

 

伊藤 敏憲

 



引き締まっていない原油需給


原油相場は、3月に底入れし1バレル60ドル台まで戻しましたが、原油の需給は依然引き締まっていません。米国の原油生産量が減少していないのがその一因で、これが相場の戻りが鈍い理由の一つと考えられます。原油相場は様々な理由によって左右されますが、需給はその要因です。今後、需給が引き締まるかどうかで価格水準は大きく変わると予想されます。



石油リグの稼働基数が減少する中で増加傾向し続ける米国の原油生産量


米国の原油生産量は、2000年代後半以降に急増しています。2000年代半ばに300基に満たなかった米国の石油リグ(掘削設備)の稼働基数は、原油価格が高騰した2007年から2008年にかけて増加した後、2008年後半の原油価格急落を受けて2009年前半に一時減少しましたが、その後、シェールオイルなどの開発が本格化したことから2009年後半以降に急増し、昨年10月には1,600を超えました。この動きを反映して、2008年に500万BD(日量バレル)だった原油生産量は、2009年535万BD、2010年548万BD、2011年565万BD、2012年650万BD、2013年745万BD、2014年871万BDとコンスタントに増加し、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油生産国になりしました。さらに、2015年1~3月の生産量は940万BDを超えています。


原油価格が急落した昨年8月以降の動きを見ると、米国の石油リグの稼働基数は、8月から10月にかけて増加、10月に1,600を超えた後に、原油価格の急落を反映して減少に転じ、14年10月1,590、11月1,570、12月1,540、15年1月1,360、2月1,080、3月880、4月760、5月660と年明け以降に急減し、足元の稼働基数はピークの4割程度の水準まで減少しています。原油価格が底入れした3月以降も石油リグの稼働基数の減少に歯止めはかかっていません。これは、1バレル60ドル台の原油価格では、十分な採算が確保できないリグが多いことを意味していると考えられます。


一方、米国の原油生産量は、石油リグの稼働基数が最も多かった14年10月に913万BDでしたが、稼働基数が減少に転じた11月以降も、14年11月916万BD、12月939万BD、15年1月937万BD、2月941万BD、3月953万BDと増加傾向で推移しています。リグの稼働基数と生産量との間で整合性が取れていないのは、生産量が減衰した生産性の低いリグから停止が広がっており、稼働しているリグがそれ以前に比べて生産量を増やしているためと推察されます。

 



原油生産量は今後急減する可能性がある


米国の原油生産量が減少していないのはシェール油田の生産性が向上しているからと説明されることがあります。探鉱・開発・生産技術の革新によって生産性が年々向上しているのは事実ですが、設備を更新したり増強したりせずに短期間で生産性大きくが向上することはありません。原油価格が急落して以降、設備投資は抑制されていますので、この間の生産量の増加は、技術革新によるものではなく、操業体制の変更によるものと考えられます。米国の石油リグ1基当たりの平均生産量は、昨年10月に5.7千BDでしたが、今年3月には10.8千BDと半年で約90%増加しています。稼働リグの構成が変わっていますので、単純には比較できませんが、生産量を無理に引き上げると減衰ペースが速まることが多いことを勘案すると、米国の原油生産量が、今後、急減する可能性もあると考えられるのです。


一般に価格の変化は、需要にはすぐに反映されますが、供給には時間をかけて影響することが多くなっています。石油などのエネルギーは、必需品ですので価格の変化が需要に与える影響(価格弾性)は一般産品に比べると小さいものの、供給には確実に影響します。資源開発各社の経営計画をチェックすると、原油価格が急落して以降、すでに開発・生産段階に移行している油・ガス田への投資は維持されているものの、新規探鉱・開発関連の投資が大幅に削減されているケースが散見されます。


このまま原油相場が低迷し続けると、米国に限らず、世界各地で原油の生産量が減少に向かう可能性があると考えられるのです。




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