㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


変化した石油業界の収益と原油市況との関係

伊藤 敏憲



 

原油安局面で拡大しにくくなった石油製品の利ザヤ


石油業界の収益環境と原油価格との関係が、石油元売各社の仕切価格体系の変更、原油市況と石油製品のスポット市況や小売市況などとの相関性の変化などによって変わりました。

かつて、石油元売の仕切体系において原油コストに連動した月決め改定方式が主流だった頃には、原油市況の変化が仕切価格に反映されるまでに1か月余りかかり、小売市況に反映されるまでにはさらに1~2週間を要していました。このため、原油市況が上昇する局面ではコスト増分を製品市況に反映するまでのタイムラグによって利ザヤが圧迫され、逆に原油市況が下落する局面では利ザヤが拡大する傾向がみられました。

ところが、市場価格に連動した週決めの仕切価格改定方式の採用が拡大した結果、原油市況の変化がすぐに仕切価格に反映されるようになりました。原油と石油製品のスポット市況は連動して動くことが多く、これが翌週には仕切価格に反映されるようになったからです。この結果、原油価格が下落する局面で卸売マージンが拡大しにくくなりました。むしろ、原油の調達時の契約・輸送などの期間を考慮すると、石油精製・元売の卸売マージンは、逆に、原油市況の下落局面で圧縮されやすく、原油市況の上昇局面で拡大しやすくなっています。

これは、元売各社が公表している仕切価格の改定状況と原油コストと変化から算定される卸売マージンの変化をみることで確認できます。例えば、JX日鉱日石エネルギーが公表している仕切価格の月次改定値と原油コストの変化から算出される卸売マージンの変化をみると、昨年年夏から年明けにかけて原油市況が急落した局面でマージンは縮小し、原油市況が反発した2月以降にマージンが拡大していました。

もちろん、石油製品の卸売マージンは、原油コストだけで左右されるわけではありません。石油製品の需給がより大きな影響を及ぼすことがあります。昨年は、春から夏にかけて原油市況が高止まりしていた局面で卸売マージンが拡大しましたが、この理由の一つは石油精製能力が削減されたことで需給が引き締まりやすくなっていたからと考えられます。

なお、石油精製・元売の決算上の利益は、在庫評価の影響によっても大きく左右されます。原油及び石油製品の評価単価が前期末の在庫評価単価に比べて上昇していれば利益をかさ上げし、下落していれば利益を圧迫するからです。石油備蓄法で求められている石油70日分、石油ガス50日分の備蓄在庫についても評価単価も洗い替えする必要がありますので、精製・元売各社の決算は原油価格の騰落によってきわめて大きな影響を受けます。14年度は、原油・石油製品価格が急落したため、巨額の在庫評価損失が発生し、元売大手は全社赤字決算に陥りましたが、在庫評価影響を除く実質的な損益は前年度に比べて改善していました。


事後調整は石油販売事業の収益環境を悪化させる

小売マージンは以前ほど原油市況の変化の影響を受けにくくなっています。例えば、今年2月以降に卸売マージンが拡大した局面で小売マージンは拡大していませんでした。石油製品の仕切価格を事後的に調整するしくみを一部の元売が事実上復活させたことが、小売マージンが改善しなくなった理由の一つと指摘されています。

仕切価格の事後調整は、石油業界に限ったしくみではありません。多くの業界において、バックマージン、リベート、売上割戻、インセンティブ、報奨金などの名称で広く行われています。よって、しくみ自体は否定されるものではありません。ただし、調整は、公平かつ明確なルールに基づいて行う必要があります。そうでないと、小売事業者が、製品を販売する際にコストを正確に認識できなくなって、採算を半ば無視した廉売に走りやすくなり、市況が崩れやすくなってしまうからです。さらに、恣意的な調整が行われると事業者間の公平性が損なわれて競争環境も歪められてしまい、手厚い調整を受けた事業者が市況を崩してしまい、結果的に業界全体の収益性が悪化しやすくなります。実際に各地でこのような問題が生じていると指摘されています。

元売販社のシェアが各地で拡大したこともあり、小売マージンは元売の政策によってより左右されやすくなったと考えられます。小売事業の収益環境が悪化すれば、再編集約が促されると指摘する向きもありますが、仮に、事業者や店舗数を削減できたとしても、あるいは、寡占状態が実現できたとしても、縮小傾向で推移する市場で収益環境を改善できるとは思えません。小売マージンが縮小することで石油業界が得られるメリットはないと考えるべきです。


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