㈱伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 伊藤 敏憲


出光興産と昭和シェル石油が経営を統合

伊藤 敏憲



 

経営統合で収益力は年間数百億円単位向上へ


出光興産(以下、出光)と昭和シェル石油(以下、昭和シェル)が経営統合を進める計画であることが明らかになりました。出光は、7月30日、昭和シェルの筆頭株主のザ・シェル・ペトロリウム・カンパニー・リミテッドの全保有株式125,261,200 株(発行済み株式総数の33.2%、議決権比率の33.3%)を総額1,691億円で買収することで合意したと発表しました。


出光と昭和シェルは、本株式の譲渡を契機として、経営統合に向けた本格的な協議を進め、両社の経営資源・ノウハウを融合させて、両社のお客様、取引先、特約店、従業員、労働組合、株主など全てのステークホルダーの利益に資する、対等の精神での経営統合を目指すと表明しました。経営統合を図るということは、出光あるいは統合新会社は、昭和シェルの全株式を取得することになると予想されます。仮にすべて買収によって取得すると買収総額は約5,000億円に及ぶ見通しです。


両社は、経営統合を決断した理由を、国内石油業界が、石油製品需要の中長期的な減退や過剰設備・過当競争を原因とする低収益体質など、様々な構造的課題を抱えており、これに対応するためには、強固な経営基盤を持つ企業グループの形成、即ち業界再編が必要との共通認識から、両社が協議を重ねた結果と説明しています。これに加えて、出光が、精製・物流部門で業務提携関係にあるJX日鉱日石エネルギー(以下JX)との提携内容に不満を抱いていたこと、ロイヤル・ダッチ・シェルが日本市場からの事実上の撤退を模索していたことなども理由になっていたと考えられます。


 石油製品の精販のバランスからすると、出光にとっては、JXよりガソリン及び中間留分の供給余力が大きい昭和シェルの方が相互補完性は高いと考えられます。さらに、両社が経営を統合すれば、石油製品の国内需要の減少にあわせてスムーズに設備等の集約を進めやすくなります。これは業界全体の収益環境改善につながると考えられます。物流部門や管理間接部門の集約効果なども見込ます。統合会社は、経営統合に必要な資金負担を十分にカバーし、年間数百億円単位の収益力向上が期待されます。



 

石油各社は経営戦略の練り直しが必要に


出光と昭和シェルの経営統合が同業他社の今後の経営戦略に大きな影響を及ぼすと考えられます。経営合理化への取り組みを一層強化したり、新たな業務提携、事業統合、合併などを促したりする可能性もあると思われます。


JXは、業務提携関係にあるコスモ石油(以下、コスモ)や韓国SKとの提携内容を見直したり、東燃ゼネラル石油(以下、東燃ゼネラル)などと新たに提携したり、事業統合・合併などを模索したりする可能性があります。


コスモは、石油開発事業と販売事業に強みがありますが、財務内容が悪く、石油精製部門の収益性が低いといった問題を抱えています。このため、精製部門のコスト削減・効率化を図るため、東燃ゼネラルと千葉地区、昭和シェルと三重県四日市地区で、それぞれ事業提携を締結し、原油処理能力の共同削減、製品・半製品の融通供給、二次装置の有効活用、製品タンクなどオフサイト設備の連携などを検討していました。出光と昭和シェルが経営統合することで四日市地区での提携内容が今後見直される可能性もありますので、事業戦略を一部修正する必要に迫られる可能性があります。


東燃ゼネラル石油は、精製部門やコストなどに優位性がありますので、単独でも十分な収益を確保し続けることができると思われます。ただし、石油製品の内需が減少傾向で推移する中で収益力を高めていくためには、同業他社や異業種との業務提携・事業統合にも取り組んでいくことが必要になると考えられます。


太陽石油、商社系販社なども、競争環境や需給構造の変化を踏まえて、経営戦略を練り直す必要に迫られるでしょう。



 

両社の特約店・販売店にもメリットをもたらす


出光と昭和シェルの経営統合によって両社の子会社や関連会社が統合される可能性はあるものの、過去の石油事業者の合併時と同様に、一般特約店・販売店への対応が大きく変わることはないと予想されます。


もともとお客様の多くは、元売にではなく、販売事業者やSSについていますので、再編・集約を図ろうとすると、シェアの低下につながってしまうリスクが高いからです。


また、出光は、全部門において、社員の専門知識・ノウハウが高く、販売部門では販売事業者やSSに対する支援体制が充実しています。一方の昭和シェルは、商品・マーケティング戦略に定評があります。例えば、1987年に発売された無鉛ハイオクガソリン「フォーミュラシェルスーパーX」、1995年に同業他社に先駆けて導入したキャッシュバックシステム「新Xカード」、2002年に発売した清浄剤を添加した高付加価値ガソリン「シェルピューラ」などは、系列販売事業者を含むグループ全体の収益力の向上につながる成果を上げたと評価されます。


これらの強みを相互に活用することができれば、両社の経営統合は、特約店・販売店にもメリットをもたらすと期待されます。



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