「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」

「新年の誓い」を実現させる方法


~ 自分自身の心の仕組み、その真実を知れば変革へのチャレンジはうまくいく ~

 

 新年あけましておめでとうございます。昨年より7月より連載を開始しました『常識革命』、ご愛読いただきましてありがとうございます。2018年も何卒宜しくお願い申し上げます。新春一回目は、「自己変革を成功させるコツ」をテーマに取り上げます。


◎ 「新年の誓い」が、やがて「後悔の種」へと変わるのは毎年の恒例行事

 「一年の計は元旦にあり」ということわざがあるように、多くの人が年度の変わり目は、何か新たな目標や計画を掲げて心機一転、変革へのチャレンジを開始するための絶好の機会だと感じるようです。正月、各地の神社仏閣は初詣の参拝客でにぎわい、書店には日記帳や自己啓発本のコーナーが幅を利かせます。昨年までの怠惰で無気力な自分をリセットして、新しく、よりすぐれた人間になろうと意気込む前向きな姿勢がもっとも盛り上がるのが新年のようです。新しい年を迎えるにあたって、みなさんのなかにも、「ダイエット」や「禁煙」、「資格取得」などといった目標の達成を心に誓われた方も多いのではないでしょうか。

 ところが調査によると、新年に立てられた目標を達成できる人は十人に一人か二人しかいないそうです。年始めにダイエットを誓った人は、年末になっても一向にスリムになっていないし、禁煙を宣言したはずの人が、松飾りを片付ける頃には何食わぬ顔でプカプカやっています。「今年こそは!」と掲げられた「一年の計」(課題達成への目標)の9割が守られず、やがて、「私には精神力が足りない」といった自分を卑下することばや、「仕事が忙しかった」といった言い訳へと変わってしまいます。誰も話題にしようとはしませんが、多くの人にとってチャレンジ失敗は毎年の恒例行事になっています。

 悪しき慣行をなくすには、以下に挙げた3つの謎にこたえなければなりません。

 人はなぜ、変革へのチャレンジという「後悔の種」をまくのか?

 自己啓発本を何冊読んでも変革へのチャレンジに失敗するのはなぜか?

 変革へのチャレンジを成功させるためには何が必要か?

 皆様に、今年こそは「今年こそは!」を実現していただけるように、チャレンジをめぐる謎解きをはじめましょう。


◎ 人はなぜ、変革へのチャレンジという「後悔の種」をまくのか

 昔から日本人はまじめで、自己研鑽や自己啓発への取り組みが大好きな国民性だと言われてきました。しかし、能力向上や変革への願望は、世界中の人間ほぼすべてが共通してもっている、本能に根差した欲求です。心理学の研究は、人が自分自身の目標を達成して自己実現するときに感じる幸福感は、一般に物やお金で満たされることで得られる喜びよりもはるかに大きいということを明らかにしています。今までできなかったことをできるようになりたい、今の能力をもっと高めたいという願望は人間の遺伝子に組み込まれた本能なのです。より多くの幸せを求めて努力するように人間はプログラムされています。

 人間は生まれ持った能力をそのまま使うだけではありません。周りにいる人々の助けも借りながら、才能や可能性をいっそう高めていく努力や工夫を繰り返しながら、この偉大な文明社会を築き上げてきました。人は自ら意図して自己革新に努める生き物なのです。

 さらに、21世紀に入ってからは、変革に向けてチャレンジすることの必要性が日増しに大きくなっています。想像を超えるはやさで社会や経済が変化するなかで、多くの人が、今までのやり方で真面目に頑張るだけではらちが明かないことに気が付いています。誰もが幸せになりたいと願っていますが、激動の時代に幸福を手に入れる条件は、環境の変化に応じて自分自身の能力をより高いものへと変革させていくことだということです。だから余計に人は、より有能な人間へと変革することを強く求めています。

 あと十数年もすれば、現在、世の中にある職業の半分近くが人工知能やロボットに取って代わられるそうです。そのような環境に、私たちは対応していくしかありません。しかし、いくら変革を求めていても、それを実現するのは困難な挑戦です。その大半は失敗に終わってしまいます。変革へのチャレンジを成功させる方法を求めて、多くの人が自己啓発の本を読んだり、セミナーを受講するおかげで、変革へのチャレンジは一大産業へと発展しました。


◎ 自己啓発本で変革へのチャレンジがうまくいかないのはなぜか

 世の中には驚くほど多くの自己啓発本が出版されています。ところが、その大半は、「私はこうやって成功した。あなたも同じようにすればいい」と説く、個人的な成功物語でしかありません。また、「歴史の偉人を見習え」方式の書籍も根強い人気を持っているようですが、これらの(トル)を頼りにして実際に成功できたという話はまったくと言っていいほど耳にしません。

 紅茶キノコを飲んでいた人の癌がたまたま治ることもあるでしょう。しかし、紅茶キノコを飲むことと癌の治癒のあいだに何一つ因果関係は見つけられませんでした。同じように、誰か一人の個人の成功談を読んでも、どの行動が成功に結びついたのか、因果関係を示す証拠はたいてい示されていません。たとえその成功話が事実であっても、何が成功をもたらしたのかという原因について確かな根拠のない事例が、そのとおり他の人にも応用できるはずはありません。変革へのチャレンジを非科学的なやり方で行って、それが成功することはめったにありません。医者が根拠のない治療法を拒否するように、私たちも、無責任に提示された成功物語を参考にするのはやめて、証拠のあるやり方で変革を目指すほうが得策です。

 たしかに、病気を治療するとき、科学的に正しい治療を行っても、全員が確実に治るわけではありませんが、科学的に根拠のある治療法を選ぶほうが、証拠もない民間療法を行うよりも病気が治る確率は高いはずです。でたらめな自己啓発本を参考にして行動しても、たまたまうまくいく人はいるのでしょうが、裏付けのある方法を用いた方が、変革に成功できる確率は間違いなく上がるでしょう。

 一方で、成功に関して名著と呼ばれる書籍も多くあります。スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』はこれまでに、全世界で3000万部、日本でも200万部を超える売り上げを記録する、驚異的なベストセラーになっています。わたしも一時期これらの本を何度も読み返し、その度に深い感銘を受けました。コヴィーが示す原則の意味を理解するたびに、まるで人生の成功が手に入ったかのようにも感じられたものです。しかし残念なことに、その内容にほぼ完全に納得していたにも関わらず、その教えによって私の人生が変化することはありませんでした。コヴィーの教えによって世界が幸福な成功者で溢れているという話も聞きません。

 コヴィーのものに限らず、デール・カーネギーやジョセフ マーフィーなど長く読み継がれてきた成功哲学の本に書かれている考え方や行動・習慣の多くは、実際に多くの成功者が共通して実践しているものです。それらが成功にとって役に立つものであることに、ほとんどの人は納得できます。しかし私達は、成功するために有益な生き方をいくら学んでも、その通りに行動できないのです。

 変革に向けてのチャレンジが必要だということを十分に認識し、目指すべき理想の考え方や習慣を明確に描けていても、80%以上の人が現状から抜け出せません。現状維持ではいずれじり貧だということを痛いほど感じているにもかかわらず、実際に考え方や習慣を変化させ、その変化を定着させることができないのはなぜなのでしょうか。


◎ 自分が乗る車の特性を把握しないでカー・ラリーを戦うのは無謀

 カー・ラリーでゴールにたどり着くためには、どこがゴールなのかを知っておくことも必要です。しかし、それだけではほとんど意味がありません。自分が乗る車の特性を正しく理解しておくことがとても重要です。エンジンやブレーキの性能はもちろんのこと、コーナリング性能や耐久性について正しく認識し、そのうえで、どのようなルートを、どのように進んでいくのかという計画を練らなくてはなりません。過酷なレースを走り続けるときに、可能なことと不可能なこと、得意なことと苦手なことの区別ができていなければ、早々にリタイアするほかないでしょう。同じよう、私たちが変革に挑戦するとき、目標地点となる“あるべき姿”について詳しく正確に知っているだけでは、ほとんど役にたちません。

 健康について専門知識が豊富であるはずの医者の3割がメタボです。道徳について心にしみる説教をしてくれる宗教団体のトップがセクハラで告発されることもあります。ポジティブ心理学の研究者が幸せに慣れないのはよくある話です。要するに、知識は“行動”を伴わなければ意味がないし、自分自身の心の特性について十分な知識がなければ行動を起こし、継続することはできません。 

 世の中には、行動を伴わない知識が溢れています。成功をつかむ人たちの考え方や行動の共通点を探ることはとても有益ですが、それはあくまでもゴールがどこにあるかという知識でしかありません。変革へのチャレンジに繰り返し失敗している人達に必要なのは、成長や変革に関わる心理学の基礎知識です。成長や変革を追い求める困難な道のりを脱落しないように進んでいきたいと望むのなら、自分自身の“やる気”のアクセルとブレーキがどのように作動するのかを正しく知っておくことは絶対に欠かせない条件です。ゴールの場所を知っていても、自分がどんな車に乗っているのかが分からずにカー・ラリーを走っても結果は出せません。「今年こそは!」と掲げられた目標の9割が「後悔の種」になってしまう状況には、人のやる気のアクセルとブレーキについて、主に三つの“無知”が絡んでいます。


◎ 変革へのチャレンジを邪魔する、三つの“無知”

 近年の脳神経科学や実験心理学などの急速な発展によって、心の仕組みが相当詳しく解き明かされてきました。ベールをはがされた素顔の人の心は、これまでイメージされてきた「理性的」とは程遠いものでした。人間の意思決定や行動の大半は、じつは、おおむね感情や本能、あるいは環境の支配下にあり、理性の力は驚くほど頼りないものなのです。頭(理性)で行動する価値や必要性を理解していても、心(感情)が反発すれは、頭に勝ち目はありません。自己変革に関して少し詳しく見てみると、人の心の特性について、おもに三つの事実を知らないために、チャレンジが失敗に終わることが毎年の恒例行事になっていたのです。

 一つ目の事実は、「人々が行動を変えることができるのは、とるべき行動がとびきり明確な場合だけ」だということです。変革には“方法”についての知識が欠かせません。旅の目的地が分かっていても、進んでいく方向が明確になっていないと、人間の行動のサイドブレーキは解除されず、出発することさえできません。「健康的な食生活を送る」というような不明確な目標を設定しっ(トル)てもたいてい失敗します。変革を成し遂げるには、「夕食は夜10時までに終わらせる」というように、いつ、どこで、どのように行動するのかをハッキリさせておかなければ、新しい習慣を実践することはできません。理性で心のサイドブレーキを解除することは難しいのです。

 二つ目は、「意志の力は消耗資源」だという事実です。現状から抜け出せない人の多くが、知識と意志の力(根性)に頼って行動しようとします。ところが、何かを我慢することや、慣れない課題についての努力を自分に課す場合、つまり、理性によって自分をコントロールしようとすると、想像以上に大量の意志の力が消費されます。好きでもないことや不慣れなことに取り組む場合、また、大きすぎる目標を前にすると、意志の力はすぐに燃え尽きてしまいます。日本人はことさら“根性”が大好きですが、非力で疲れやすい意志の力に頼って新たな挑戦を行うのは間違いです。「今年中に10 kg 痩せる」というような大きな目標を掲げるより、「毎月1 kg 痩せる」といった具合に、心(感情)が反発しにくい目標の掲げ方が重要です。

 三つ目の事実は、「人の行動の多くは環境に支配されている」ということです。「仕事は人にとって嫌なものだから、誰もが生きていくために仕方なく働く」と考えている上司のもとで仕事をする人たちは、いつの間にか「仕事は金のためにするものだ」と考えるようになります。また、親や学校が「勉強は競争に勝ち抜くために頑張るものだ」と考えていると、子どもはすぐに学ぶことへの興味や楽しみを失ってしまい、向上心や活力が弱い人間になってしまいます。部下も子どもも、無意識のうちに上司や親といった“環境”に合わせた行動をとるようになります。逆に、アマゾンは、ワンクリック注文という、商品発注にかかる手間を極限まで省略した“環境”を消費者に提供することによって、巨大企業へと成長しました。環境は行動の強力なブレーキにもアクセスにもなりうるのです。変革を実現させるためには、努力しやすい環境、怠けにくい環境をつくる工夫が欠かせません。

 私たちは「理性的な生き物である」という理由で、人間であることを自慢に思っています。しかし、理屈で「自分に何かをさせる」という考えが成功につながることはめったにありません。人間の理性は私たちが期待するほどには役に立ちません。変化を苦手とする感情や本能の働きをコントロールするためには、「理性」や「根性」を当てにするのではなく、感情や本能を手なずける仕組みが必要です。


◎ 成功する変革へのチャレンジの三位一体

 変革が成功するときには一定のパターンがあります。そこには必ず、「明確な方向性」と「十分なやる気」、そして、「それらを支える環境」、三つの要素がバランスよく備わっています。頭だけでなく、心(感情)と環境、三つの側面から取り組めば、変革が成功する確率はぐんと上がります。

 成功する変革へのチャレンジに見られるパターンを整理してみましょう。

 頭で変化の道筋、とくに何から手を付けるのかといった明確で具体的な行動を理解する。

 心が感じる変化の抵抗を少しでも小さくできるように、目標設定の仕方に工夫する。

 頭が、勝ち目の薄い心との戦いに挑まなくも済むように、変化しやすい環境を整える。

 来年には天皇陛下がご退位されることから、実質的に今年が平成最後の年になります。いよいよ「昭和は遠くなりにけり」という時代になってきました。激動の時代に対応するためには理屈や理論も大事ですが、さらに感情や環境が重要だということをご理解下さり、皆様が今年一年を成長・向上に向けた成果の年にして下さいますよう、心より祈念しております。


 

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