「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」


最新の科学が明らかにした、「運勢を高める」意外な方法


~人や組織の運勢は何によって決まるのか(その1個人の運勢)~

藤原 尚道


あなたは運勢を信じますか?この科学万能の時代に何を言い出すのかと思われる方もあるかもしれないが、たいていの人が、「何をやっても上手くいく人やチーム」あるいは「何をやっても失敗する人やチーム」に心当たりがあるはずだ。では、「運」とは一体何なのか。たしかに、運勢を決めているのは神様ではないが、膨大なデータを科学的に分析するなかで、「運」が確かに存在することが明らかになってきている。

 そこで見つかったのは成功する確率を上げる、あるいは失敗する確率を高めてしまう行動習慣だった。しかも、ここで言う行動習慣とは複雑な行動パターンではなく、ごく単純でシンプルなものだった。そこで読者の皆さんに、意図的に運勢を高め、成功が継続するスパイラルの作り方を、「個人編」と「組織編」の2回に分けてお伝えしたい。 


◎「まる」をどこから書き始めるか? それが分かれば何をやっても成功する 

 創業276年を誇る白鶴酒造には他社の追随を許さないロングセラー商品「まる」がある。手ごろな価格と(味の良さ)、赤字に白い丸という単純だが印象的なデザインから、この紙パック入りの日本酒は常にスーパーマーケットの売れ筋商品だ。だが「まる」は呑兵衛だけのものではない。「まる」は仏教の世界でもとても大切な形だ。輪廻転生を表現するとも言われるこの形、臨済宗などでは円相(えんそう)と呼ばれ、悟りを極めて真理に到達することを象徴的に表現したものとされている。江戸時代を代表する禅僧の一人であり、現在のマンガを思わせる禅画で知られる白隠禅師も好んで「まる」を書いた。

 この円(まる)、仏教では、始まりも終わりもなく、角に引っ掛かる事もない流れ続ける動きだと解釈されることが多い。輪廻転生に限らずお日様や時計の針の動きから自然界の食物サイクルに至るまで、多くの現象は円のように途切れないサイクルで成り立っている。もちろん人間が活動して生み出される円の場合も同様で、私たちの行いのすべては因果応報のサイクルの中で回り続けている。しかし、人間の営みでは、どこに始まりを意識し、どこに終わりを設定するかによって、できあがった「まる」がもつ意味合いが大きく違ってくる。日ごろの人間関係を考えてみればわかるように、そこには必ず因果関係の起点と終点が存在している。だから白隠禅師も沢庵和尚も、円相を始まりと終わりを強調するように描いたのだろう。 


◎「まる」を間違ったところから書き始めて不幸を招く秀才たち

 人は誰でも、社会の中で何らかのネットワークに属して生きている。一時的に孤立して生活している人もいるが、生涯を通じてみれば、人は何らかのものを人に与え、また人から何らかのものを与えられる。人は相互に影響し合う営みのなかで生きていく。最新の科学的な研究によると、「与える」か「与えられる」、そのどちらを起点にするかによって、トータルで得をする人とトータルで損をする人の運命が分かれることがわかっている。意外に思う人もいるかもしれないが、「与える」―「与えられる」という繰り返し行われる相互作用の差し引きで最も多くを得ているのは、人と関わるときにまず「自分はどうすれば人の役に立てるのか」ということを考え、見返りを期待することなく人に与えることから始めるタイプの人だった。損得を抜きに人に与える行為は、周囲の人たちに利益をもたらすだけでなく、最終的には、最初に与えた人より大きな利益をもたらしていたのだ。


 一方で、何かしてもらうことを計算して人に何かする、あるいは誰かに何かをしてもらったときにだけお返しをするというタイプの人に最終的な幸運が訪れることは少ない。競争社会にどっぷりと漬かってしまったエリートの中には、やたらと損得勘定が好きな人が多いが、秀才と言われる人たちが犯すもっとも愚かな行為の代表は、人間関係を損得で考えることだ。戦争発言で国民から非難を浴びる東大出身の国会議員や、部下にクーデターを起こされて追放される世界的企業のCEOは言うに及ばず、看護師や患者からそっぽを向かれる医者など、世の中は愚かな秀才であふれている。彼らは自分の利益を計算することろから人間関係の「まる」を書き始めてしまうことで、とてつもなく深い落とし穴にはまることになる。


◎人間は利己的な生き物だという思い込みが運勢を悪くする

 
先日、お医者さんなど知的な仕事に携わっている人たち約80人を対象に研修を行った際に、受講者の皆さんに「人間は利己的な生き物だと思いますか?それとも利他的な生き物だと思いますか?」と質問してみた。すると大半の人が「人間は利己的だ」という考え方に賛同し、「人間は利他的だ」と考える人はほんの数人しかいなかった。たしかに人間には利己的な性質があることは間違いない。しかし、様々な実験によって、人間には見返りがなくても他人のためになることをしたいという強い欲求があることが証明されている。「利己主義」と「奉仕の精神」はともに人間の本能として、私たちのなかに深く刻まれている。人間は相反する特性を持つマルチレベルな存在なのだ。ところが、私たちは「人間は利己的な生き物だ」という事実を認めようとしない。 

 現代の教育システムのなかで、私たちは「世の中は弱肉強食の熾烈な競争社会」であり、「他人への優しさは、厳しい競争を勝ち抜く足かせになる」と教えられることが多かった。近代西洋の“偉大な”哲学者の多くが「人間は利己的だ」と繰り返し主張したおかげで、私たちは性悪説を信じるようになってしまった。しかし、証拠に基づいた最新科学の研究は、性悪説に基づいて行動することが成功する確率を引き下げることを示唆している。人間の本能に潜む「邪悪で自分勝手な心」と「慈愛に満ちた善良な心」、そのうち「悪」が基本だと考えることで、多くの人が成功への道を困難なものにしてしまっている。


◎ 幸運を手に入れるためには、人に優しくすることから始めよう

 統計によると、人口の5%の人々には感謝の心、信頼や期待に応えようとする意志がそもそもあまり発達していない。およそ20人に1人は生まれつきのフリーライダー(人から搾り取ることしか考えない人)だ。実際のところ、20回に1回であろうと人から裏切られることはとても辛い体験だ。しかし、そのことで20回に19回の恵みを得るチャンスを失うことは割に合わない。しかも、誰かに役立つ行いは、それ自体によって幸福を感じる行為でもある。人に何かをしてあげて喜んでもらえれば、私たちは自然と嬉しくなるものだ。さらに、人に親切にするメリットはそれだけではない。

 自分のことばかり考えず、人の立場や気持ちのことを思いやることを、私たちは「広い心」と呼ぶ。驚くことに最新の脳科学は、具体的に何が広いのかを明らかにしている。利他的な行いをしたあと私たちの脳は普段より的確に働くようになり、視野を広げで目の前にあるチャンスに気づきやすくなるのだ。ものごとを偏った角度から固定的に観ることしかできなければ新しい発想は生まれてこない。しかし、人に親切にする行いで活性化した脳は、ものごとを様々な角度からより深く検討できるようになるのだ。つまり、人に与えることから人間関係の「まる」を描き始めることによって、人は自分自身の運勢を高めることができるのである。読者の皆さんも白鶴「まる」を飲む機会があれば、日頃の憂さを晴らすだけでなく、周りの誰かにしてあげられる親切は何かを考えてみてはどうだろうか。酒が美味くなるだけでなく運勢が開ければ一石二鳥だ。 

(次回、組織の運勢編に続く)

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