「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」



非常事態に優れたリーダーシップを発揮する人は何が違うのか


~コロナとの戦争に学ぶ危機対応のリーダーシップ~

藤原 尚道


新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が5月26日にようやく解除された。しかし、いまだに予断を許さない状況が続いている。未知の脅威を何とか克服しようと世界中が懸命にもがく中、リーダーシップの質への関心が日頃にもまして高まっている。歴史的な危機は、ときの指導者に歴史的な名声をもたらすこともあるが、盤石と思われていたリーダーの地位を脅かすこともある。いったい何が明暗を分ける要因なのか。今回はコロナ禍のような不確実な状況を乗り切るうえで、指導者が発揮すべきリーダーシップについて探ってみたい。


◎コロナで明暗が分かれる政治家たちへの評価

 「これは戦争だ」。フランスのマクロン大統領は国民に協力を呼びかけるために、新型コロナウイルスの感染拡大を阻止する闘いを「戦争」に見立てた。確かに、有効な治療法もワクチンも見当たらない状況での、国民を総動員しての新型コロナウイルスとの闘いはまさに戦争と呼ぶのにふさわしい。

 新型コロナウイルスとの戦争は、世界中の人々にかつてない混乱をもたらした。そうした中で、それぞれの政治家たちの対応が厳しく評価されている。大阪府の吉村知事や台湾の蔡英文総統のように、指導力を高く評価され、支持を集めるリーダーがいる一方、日本の安倍首相や米国のトランプ大統領のように指導力を疑問視され、政権基盤を危うくしている残念なリーダーも多い。コロナとの戦争はリーダーたちの命運を大きく分けたようだ。ところが、ここで不思議なことが起こっている。コロナとの戦争においては、犠牲者を一人でも減らすということが大きな戦果であるはずだ。ところが、リーダーたちの評価を左右する要因は決して数字だけではない。ドイツと日本のコロナとの戦争における戦果を、数字で比べてみるとよくわかる。

 5月26日時点で人口100万人あたりの死者数を見てみよう。ドイツは約99.1人。片や日本は6.7人にとどまっている。数字で見ると、日本はドイツの15倍も上手くいっている。ところが、メルケル首相と安倍首相への世間の評価からは、数字で見る成績とは全く逆の状況が見えてくる。この3か月間、メルケル首相の人気は復活急上昇している。一昨年には2021年の任期限りで政界引退の意向を表明するほど人気に陰りが見えていたメルケル首相だが、ドイツ国民は彼女の引退を認めそうにない情勢だ。一方、安倍首相への評価は酷いものだ。日本の好成績は「不可解な謎」と呼ばれ、安倍首相の功績をたたえる声はほとんど聞かれない。


◎これまでの実績だけがすべてではない

 安倍首相は、人口100万人あたりの死者数で296.7人と悲惨な状況である米国を率いるトランプ大統領と同列に、無為無策、あるいはタイミングやピントの外れた対応で墓穴を掘り、信用を失墜させたと評されている。さらに不思議な現象が起こっている。これまでポピュリスト政治家として批判されてきた英国のジョンソン首相の支持率が記録的な上昇をみせている。

 これまで名前を上げてきた各国のリーダーについて、コロナとの戦争が始まる前と現状とで支持率がどのように変化したかを下記のように一覧にしてみると、各国国民がリーダーを評価する上で、数字上の実績以上に重要視している何らかの基準があることがよくわかる。


 英国の人口100万人あたりの死者数は543.8人と最悪の状況が続いているにも関わらず、ジョンソン首相の支持率はコロナが発生する前よりも高まっている。当初、「集団免疫戦略」を主張したことで感染爆発を招き、自分自身の感染によってようやく態度を変えたものの、いまだに感染者封じ込めに手こずっているという経緯からすると不思議な現象である。たしかにジョンソン首相への批判は一部に根強く残っているものの、多くの人は過去の過ちを許し、英国の今後を彼に託そうと考えているのだ。


◎コロナとの闘い方から導く危機対応のリーダーシップ

 不確実で困難な状況であっても、結果として数字上の成果をあげることは非常に大切だ。誰しも自分たちのリーダーに上手くかじ取りをして欲しい。出来れば失敗を避けて欲しいと願っている。しかし、人々が自分の希望や将来をこの人に託したいと考える理由は過去の実績だけではない。

 特に、かつてない未知の危機に臨む指導者には普段にもまして強力なリーダーシップが要求される。では、危機対応に求められるリーダーシップとはどのようなものだろうか。先ほどの表に上げた5人のリーダーの行動や態度を分析してみると5つのポイントが見えてくる。

   危機対応のリーダーシップ 5つのポイント

  ① 誤りを怖れず、事態が不透明なうちに速やかに行動を起こす

  ② 人気取りや保身への衝動を封印し、問題解決に集中する

  ③ 分かり易く誠実なメッセージによって、方針を可能な限り明確に示す

  ④ 可能な限り現場に権限移譲をしつつも、リーダーがその責任を負う

  ⑤ 失敗や朝令暮改を恐れず、最新の情報に学びながら行動し適応する

 それぞれの中身と、それをないがしろにした結果、悲惨な結果を招いた事例を見ていこう。

①誤りを怖れず、事態が不透明なうちに速やかに行動を起こす

 私たちには確かさを求める本能がある。万が一の場合に大惨事になることが想像できたとしても、問題の性質がよく分からないときに多くのリーダーが犯す過ちが「追加の情報を待って時間を無駄にする」ことだ。事態が明らかになったときには手遅れになっていることが多い。大惨事の可能性が少しでもあるなら、すぐに行動を起こさなければならない。

 【失敗事例】 巨大津波の可能性への議論を先送りにした結果としての福島原発事故


②人気取りや保身への衝動を封印し、問題解決に集中する

 かつてない危機に対応している以上、完璧な対応を取ることが不可能であることは誰でも知っている。だから人々は避けられない失敗を乗り越えながらリーダーが予期せぬ困難にどう対応するかを注目している。しかし、自分の地位や権力に固執しすぎるリーダーに危機対応は難しい。自己防衛本能をむき出しに、言い訳や責任転嫁といった後ろ向きな態度をとると信頼は一気に低下する。

 【失敗事例】 中国批判に終始するトランプ大統領、問題を軽視し続けるブラジル大統領


③分かり易く誠実なメッセージによって、方針を可能な限り明確に示す

 不確実性の高い闘いにおいて、被害を最小限にとどめるためには悪いニュースでも、分かっているエビデンスに沿って正直に伝える勇気が必要だ。人々を不安にさせることを怖れている限り人々に一致団結して協力してもらうことはできない。ただし、希望がまったくないメッセージは避けまければならない。人に特定の行動をとってもらうためには、相手の困難な立場への十分な理解(共感)と将来展望を示さなければならない。

 【失敗事例】 国民をだまし続けた旧日本軍、東京都民を怖れさせるばかりの小池知事


④可能な限り現場に権限移譲をしつつも、リーダーがその責任を負う

 未知の危機に対応するためには、普段にもまして多くの知恵とエネルギーが必要だ。あらゆるアイデアに耳を傾け、責任感に期待し、すべての人々を問題解決のために活用しなければならない。しかし、間違いが生じたり問題が起こったときにはリーダーが進んで責任を負わなければならない。そうすれば多くの人が想像を超えた大きな力を発揮してくれるようになるだろう。
 【失敗事例】 現場の声に耳を貸さずベトナム戦争を泥沼化させたマクナマラ


⑤失敗や朝令暮改を恐れず、最新の情報に学びながら行動し適応する

 一度宣言した方針を固守するのがリーダーの仕事だと考えるのは誤りである。かつてない事態への対応において状況は予想外の変化を見せる。リーダーは自分の理解を常にアップデートし続け、可能性のある方策を打ち出し続けなければならない。「最良の結果を目指す」という目標にだけこだわり、新たにもたらされるデータや情報に応じて迅速に態度を変える必要がある。つまり、結果にコミットした日和見主義が重要だ。

 【失敗事例】 バブル崩壊後、何年間もノンバンクに融資を続けた金融機関

 安倍首相の人気急落ぶりを見てわかる通り、危機対応のリーダーに結果オーライが許されることは滅多にない。5つのポイント全てで合格点を取ることはできなくても、リーダーとしての信頼を維持向上させるためには一つでも多くの項目をクリアしなければならない。

 5つのポイントとして挙げたリーダーシップは、平時のリーダーに求められるものとは違ったものに感じられるかもしれない。しかし、ここで挙げたリーダーの行動や態度は、国家的な指導者だけでなく変化が激しく不確実な時代に組織のかじ取りをするリーダーにとっても欠くことのできないものである。


   
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