「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」


グーグルは現代に現れた神である 第一話


~ 知恵の神は破壊神の顔も持つ ~


 あまりにも身近にありすぎて、深く考えてみたことがないグーグルの真実。
トヨタと同等の売り上げを誇り、時価総額でトヨタの約5倍で評価されるグーグルの表の顔と裏の顔、そして、日本人がグーグルから何を学ぶことができるのかを2回シリーズで追っていきたい。


◎グーグルが勝ち取った圧倒的な信頼

 「もしも“ネット検索”がなかったら」と想像してみるとぞっとする。テレビ・ニュースを見ながら「あれ って何だっけ?」、どうにも思い出せない。だけど人に質問して無知だと思われるのも嫌だし・・・といった場面でも、ポケットからスマホを取り出せばほんの数秒で問題は解決する。また、ビジネスや趣味で、これまでに経験したことのない新しい課題に取り組む場面でネット検索は驚異的な助けになる。わざわざ図書館に足を運ばなくても、瞬時に適切な情報が手に入る。

 私達の生活に欠かすことのできない便利ツールとなったネット検索の世界で、圧倒的な存在感を示しているのが Google だ。たしかに、他にも「Yahoo! 」や「goo」、「Bing」など、多くの検索エンジンが存在しているが、グーグルは中国を除く主要各国で 82~99%のシェアを握っている。私たちはネット検索を行うことを「ググる」と表現する。この言葉は今年改訂された広辞苑第7版への収録は見送られたが、既に一般社会に広く定着している。

 多くの人が、ネット検索と言えばグーグルを連想するようになった理由として、まずは彼らが提供する技術の優秀さが挙げられる。「あいまい検索」までも可能にした優れたアルゴリズムや、ストリート・ビューを備えた「Google - Map」の利便性の高さなど、競合他社はまったく太刀打ちできていない。しかし、真の勝因は、グーグルが築き上げた高い「信頼性」にある。グーグルは一切の広告を排除したシンプルでお洒落なホームページと、検索結果が広告の影響を受けない「オーガニック検索」によって、ユーザーから圧倒的な信頼を勝ち取った。


◎グーグルは神になった

 グーグルは設立当初から、いくら広告主に頼まれても、どれだけ金を積まれても、検索結果の表示順位は操作しないという方針を頑なに貫いてきた。また、検索対象となるコンテンツの品質を評価することで、良質なWebサイトが検索結果の上位に掲載されるようにする独自のアルゴリズムによって、ユーザーは、グーグルの検索結果は公平で、偏りがなく、何よりも真実らしいとと感じることができる。

 さらに、グーグルを立ち上げたときホームページには、グーグルのロゴと検索窓しか現れない。グーグルにとってホームページとは神殿のような場所であり、誰がどれほどの金を積んでもその一角に広告を載せることはできない。他社のまったく逆をいくこの簡潔な主張が、「グーグルは何の仕掛けもなく純粋に私達の質問に答えてくれる」という印象を強化する。そして、グーグルは私たちの頼りない記憶力を補い、疑問に答え、面倒な調べものを一瞬のうちに片付け、好奇心を満たし、道案内までしてくれる。

 家庭でも職場でも、旅先でも、グーグルはいつでも身近に存在し、些細なことから重大な問題まで何にでも答えてくれる。私たちがどこにいて、どこに向かうべきなのかを教えてくれる。グーグルは人類が共有する人工脳の神経中枢として、世界中から問いかけられる毎分4万件もの質問に、1件当たり100万分の1秒という早さで答え続ける。グーグルは 現代人にとって、知的欲求という本能を満たしてくれる知識の源であり、その存在はもはや神と呼ぶにふさわしい。


◎慈悲深い知識の神は破壊神の顔ももつ

 私達にとってグーグルは本物の神以上に頼りがいがある。本物の神に下手な問いかけをすれば罰が当たりそうで恐れ多い。しかし、グーグルに見当はずれの質問をしても、一切批判されることもなし笑われることさえない。また、本物の神にどれだけ真剣に祈っても、実際に答えを提示してくれることは滅多にない。ところがグーグルは、愚かでまったく無知な者にも温かく手を差し伸べ、確信をもって答えを提示してくれる。(もし、「神は私の問いかけにいつでもちゃんと答えてくれます」という人がいれば、一度精神科を受診されることをお勧めする)

 しかし、残念ながらグーグルは本物の神と同様に、恩恵ばかりをもたらすただ有り難い神ではない。グーグルは私たちの長期記憶を無限に増幅し、情報検索速度を飛躍的に高めてくれる有り難い神である一方で、産業界や社会の価値体系にディストラクションをもたらす「破壊神」でもある。グーグルの躍進によって、新聞に代表される従来タイプのメディアが発信する情報の価値はタダ同然になってしまった。例えば政治や経済のニュースは、毎月4900円払って日経新聞から得るものではなく、「ググって」無料に手に入れるものになりつつある。また、ブランドの価値も神のもたらす情報によって大きな被害を被っている。消費者はほとんどのブランド品について、「品質・性能評価」や「ユーザー・レビュー」、さらに今では、世間での評判まで簡単に「ググれる」ようになった。おかげで消費者はこれまでになく冷静に費用便益分析を行うことができるようになり、高額ブランド品の衝動買いが減っているという。

 「破壊神」によって混乱しているのは情報発信メディアや小売業界だけではない。デジタル革命に基づいて、さまざまなモノがインターネットにつながり、それを「AI」が制御するようになっていく急激な変化は「第四次産業革命」とも呼ばれる。急速に加速するイノベーションの嵐の中で、私は、日本の経済界で神のごとく尊敬されているトヨタでさえも、世界の神グーグルに飲み込まれる可能性が高いと危惧している。


◎日本車メーカーがグーグルにひれ伏す日が迫っている

 経済産業省のホームページを見ると「第4次産業革命 ― 日本がリードする戦略」と題した解説が目に留まった。「日本がジリ貧になる前に」、日本企業が得意とするリアルデータの分野を活かせば、日本が世界をリードすることも十分可能だと主張している。例えば、個人の健康データや、クルマの走行データ、工場の稼働データといったリアルデータを活用することで、新しいサービスを創出していこうという考え方だ。この解説が掲載されたのは2016年7月だが、その後の2年間で、日本のジリ貧は決定的なものになりつつあるようだ。

 2018.9.13日付け日本経済新聞朝刊の1面に「グーグル、トヨタを逆転」と題する記事が掲載された。自動運転に関わる特許競争力において、グーグルが世界1に躍り出たという内容だ。今後、車の主戦場となることが確実視されるAIの分野で、グーグルは着実にイノベーションを積み重ねている。自動運転車の公道での実験状況を報告・公開するように義務付けているカリフォルニア州に、各企業が2018年1月提出した2017年の年間実績レポートによると、グーグル(ウェイモ)の自動運転車に搭載されたAIは、57万㎞走行して無事故無違反であり、しかも9,000㎞につき1回しか判断に迷わないという精度にまで高められている。日本人ドライバーの年間走行距離の平均が約9,000㎞だといわれているから、グーグルの自動運転車は、生涯無事故無違反で、ヒヤリとすることさえ年に1回程度という驚異的な運転技術をすでに獲得していることになる。2位のGMに搭載されたAIは約2,000 ㎞につき1回、日産自動車に搭載されたAIは約336㎞につき1回は判断に迷うという結果からみると、グーグルに搭載されたAIは他社のものよりはるかに優れていることが分かる。


◎神から目を背け、茹でガエルになる日本

 「ゆでガエル理論」とは、徐々に進行する危機や環境変化に機敏に対応することが大切であるにもかかわらず、多くの企業でタイムリーな対応がとられることが少ないことを戒める例え話だ。カエルを熱い湯に入れると驚いて飛び出すが、冷水に入れてから水温を徐々に上げていくと、カエルはその温度変化に慣れていき、命の危機に気づかないうちに茹で上がって死んでしまうという話だ。もちろん、これは作り話であり、現実にはあり得ないことだ。

 しかし、経営コンサルタントなどによってまことしやかに語られてきた例え話が、今日の日本で現実のものになろうとしているように感じられてならない。前述した経済産業省のホームページには、「インターネットの世界では、いまや海外企業と大きな差が開いてしまっています。例えば、検索最大手のgoogleは、データの保有量で日本大手の14倍近くとなっています。小売のamazonも7倍です。いまからまったく同じ土俵で勝負するのは、さすがに困難です。」と現実をありのままに認める記述をしている。ところが、なぜこれほどの大差をつけられることになったのかということについては何も語られず、「リアルデータで強みを伸ばす」などと、現実離れした言葉が並んでいるだけだ。現実世界で生み出され、取得されるビッグデータのことを意味する「リアルデータ」においても、日本企業が優位性を保っているものはあまり残っていない。自動運転車の技術に関して言えば、日本のメーカーがグーグルに「リアルデータ」で大差をつけられていることはほぼ確実だ。

 9月18日、ルノー・日産・三菱連合はコネクテッドカーのOS(オペレーションシステム)としてAndroidを搭載することを決め、技術提携をグーグルと結んだと発表した。次世代カーと呼ばれるコネクテッドカーの分野でも、中核となる情報技術がグーグル主導で構築される流れが世界的に出来上がりつつある。グーグルとアップル、フェイスブック、アマゾンという4社(GAFAと呼ばれる)にマイクロソフトを加えた米国大手IT企業が、プラットフォームを押さえ、その後にグローバルな市場を支配するという展開が、自動運転の領域でも繰り返される可能性が高まっている。自動運転車やコネクテッドカーを人間の体に例えるなら、AIやOSは頭脳、すなわち頭部だ。いくら優秀な手足を作れても、頭部を押さえられては勝ち目がない。


◎神はトヨタからも学び、そして超越する


 日本企業が、現実にはあり得ないはずの「茹でガエル」になりつつある原因に目を向けると同時に、力強くイノベーションを起こし続けるグーグルから、強さの秘密を学ばなければならない。先日、「グーグルはトヨタからカイゼンを学んだから。ここまで成功できたんだ!」、「今こそトヨタに学ばなければならない!」と真剣に語る経営者にお目にかかった。本当にそうだろうか。まだ1台の自動車販売実績もないグーグルの自動運転車開発部門ウェイモ社の時価評価額は19兆円(モルガンスタンレーによる2018年8月現在の評価)といわれ、すでにトヨタを上回っている。21世紀に現れた「神」は決して偶然の成り上がり者ではない。

 トヨタの強さの根底には、彼らが企業理念として掲げる「人間尊重」の精神がある。実は、グーグルの成功を支えているのは「人間についての正しい理解」だ。「信頼を重んじる」ことで急成長を果たしたグーグルは、従業員の「人間としての性質を正しく理解する」ことを通じて、従業員のもつ潜在能力を飛躍的に高め、画期的なアイデアを次々と実現させている。ひょっとするとグーグルは「人間を尊重する」トヨタよりも、「人間を正しく理解」しているかもしれない。

 次回は、グーグルが磨き続けるイノベーション力の源泉、グーグルが解き明かす「人間についての正しい理解」に迫っていきたい。




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