「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」


『前略 部下の無能を嘆いておられる管理職のみなさま』


~ 理屈と気合では働き方改革は成功しない ~


◎「益々ご清栄」と、慶べないのは誰のせい

 ぶしつけながら、率直に申し上げます。現在あなたがマネジメントを任されているチームの業績不振や閉塞感は、あなたが生み出したものなのではないでしょうか。あなたがチームから活力や創造力を奪い取っている元凶なのではないでしょうか。

 仕事への情熱やチャレンジ精神に欠け、管理職に昇格することを嫌がる、無気力で気まぐれな「マイペース症候群」の従業員たち。企業理念を共有しようとせず、チームへのロイヤルティもないのに、利己的な主張ばかりする「要求主義症候群」の従業員たち。彼らがあなたの期待するような成果をあげられない責任の大半は、あなた自身のマネジメントのやり方にあります。あなた自身がどのように自身の問題を引き起こしているかを理解しなければ、あなたが率いるチームが、期待するような成果を上げられるようになることはないでしょう。

 創造力と活力にあふれた組織づくりをお手伝いするのが仕事である私は、色々な職場で多くの方にお話を聞かせていただきますが、大半の管理職の方々は「いくら厳しく指導しても、従業員がヤル気になってくれない」、「優秀な従業員が、よく理解できないような理由で辞めてしまう」というようなことをおっしゃいます。要するに、チームの成績が振るわない原因は部下の能力不足や無気力だというわけです。

 ところが、膨大な調査や研究によると、チームがどれくらいの業績をあげるのかを左右する要因の中でも、マネジャーの考え方や振る舞い方が最も大きな影響力をもつことが分かっています。部下やマネジャー自身の知識や経験がチーム業績に及ぼす影響は30%に満たず、70%以上はマネジャーが部下にどのような考え方や態度で接しているかによって決まっているのです。ところが、どのようにチームのメンバーの働きぶりを高めていくのかということについて、あなたが信じている“常識”は現実とかみ合っていないのではないでしょうか。

「まさか、必要性を伝えて命じれば、やる気やアイデアが湧いてくる、それで不足なら、罰で脅せばいいと思っておられる方は、いまどき管理職にまで出世される方の中にはいらっしゃらないと思っていましたが、それは私の勘違いでした。従業員に理性や根性があれば、忠誠心や創造性を発揮すると信じて、部下に説教を繰り返し、さらには、大声で命令して相手を怯えさせているマネジャーがたくさんいます。そのようなことをなさっているのは、悪意からではなく、与えられた役割を忠実に果たそうとしているからでしょう。あなたがとても優秀で真面目な方であることはよくわかっています。しかし残念ながら、そうしたやり方は21世紀においては完全に間違っています。」


◎21世紀は「人間中心主義」の時代

 21世紀にはいってから、世の中の多くの人の考え方や行動に重大な変化が起こっていることを、あなたはどのくらい理解しておられるでしょうか。さらに、昨今とくにその重要性が増している従業員の活力やひらめきを生み出す力が、どのようにしてつくり出されるのかというメカニズムについて、あなたはどのように考えておられるでしょうか。

 世の中は急速に、一人ひとりの個性や感性を重視するようになりました。もちろん、お金も大事ですが、それにも増して、多くの人々が“感情的な価値”を求めるようになりました。画一化されたレールの上を進んでいくような働き方に息苦しさを感じ、「自分らしさ」や「やりがい」を大切にする人がますます増えています。また消費者も、自身のイメージや人生観といった感情面で満足できることを判断材料にして、商品や企業を選択するようになりました。いまでは品質や利便性だけしかセールスポイントがない製品やサービスで利益を上げることはできません。別の言い方をすると、人間なら誰もがもっている自然な感情がとても大きな力をもつようになったということです。働くときも消費するときも、それぞれの人が人間味のある感性にもとづいて独自性を主張する“人間中心主義”の社会へと世の中は変貌しました。

 しかし、現実はどうでしょう。残念ながらマネジャーの皆さんの大半は、“人間中心主義”を依然としてほとんど理解しておられないようです。あなたを車のドライバーに例えるならば、自動車が走る仕組みを理解しないまま、当てずっぽうにペダルを踏み、しかも、ピントのぼけたメガネをかけ、半世紀も前の地図を頼りに旅をしているようなものです。20世紀に常識とされていた考え方の多くが今では全く通用しないばかりか、大きな弊害を生み出す元凶となっています。

 大変失礼なことを申し上げましたが 、私が批判しているのは決してあなた自身ではありません。私が戦いを挑んでいる相手は、私たち全員がこれまで教えてこられた20世紀の常識です。人が熱心に働く理由や、人に創造性を発揮してもらう方法についての考え方が、時代にそぐわないものになってしまったのに、かみ合わない状況が放置されています。チームの成績不振を生み出している根本的な原因が、状況の変化と戦い方のミスマッチにあることを一人でも多くの人に知っていただきたいのです。世の中のルール(従業員や消費者の価値の選択基準)が変わったのなら、そこで競う者は戦い方を変えなければなりません。


◎「良好な従業員感情」はほとんどの問題を解決する強力な万能薬

 かつては高いレベルで商品やサービスの質を標準化(画一化)することが成功の条件でしたが、今の世の中では、さらに品質以外の付加価値も求められるようになってきました。要求されている商品やサービスを生み出すためには、今まで以上に高い創造力と情熱が必要になりました。 しかし、現在いる従業員を教育しなおしたり、新しい才能を外部に求めたりする必要はありません。

 人間は、これまで考えられていた以上に高い潜在能力を秘めていることがわかってきています。いまあなたと共に働いている人々の感情、つまりは人間らしさを大切にすれば、彼らは驚くほど熱心に仕事に取り組み、しかも高い創造性を発揮するはずです。その証拠が世界中から山のように見つかっています。最近では、従業員エンゲージメント(満足度)と業績との密接なつながりから、「良好な従業員感情は企業経営にとって最重要の資源である」と考えられるようになりました。

 ところが、現場で働いている方々からは、こんな声を聞くこともあります。「上司は私のことを少しも理解してくれない」「このままでは仕事にやりがいを感じることはできない」「今の上司がいなくなるまで、この職場に活気が戻ることはない」・・・。多くのマネジャーは、従業員を一人ひとり異なる個性を持った人間としてではなく、指図さえすれば必ずその通りに動く機械のように考えています。従業員に「高い満足感を提供する」という意味を理解できないマネジャーが驚くほどたくさんいます。

 彼らは人間について極めて重要な二つのことをうっかり忘れてしまっています。まず、「人は自ら主体性を発揮して課題に取り組み、信頼し合える仲間から能力を認めてもらえるときに、とても高い満足を感じる」という事実です。 こうしたときに感じる幸福感は、お金をもらった時よりも長いあいだ持続し、更なるチャレンジを促すことをつうじて、その人の能力を高めることにも役立ちます。もう一つは、人間は誰でも一人ひとり感じ方や得意な取り組み方が異なっていて、同じ方法が誰にでも通用するわけではないという事実です。自分の成功体験をやたらと部下に真似させたがるマネジャーがいらっしゃいますが、それでは能力を発揮してもらうことも成長してもらうことも難しいでしょう。

 要するに、従業員を人間として当たり前に尊重し、一人ひとり異なる個性を持った人間として接するようにすれば、品質・収益性・生産性・顧客満足度・従業員定着率、重要な業績指標について万事が改善するのです。


◎問題を正面からとらえ、立ち向かうしかない

 多くの調査や科学的な研究が、良好な従業員感情が極めて強力な企業業績の決定要因であることを裏付けてはいるものの、私は決して、それを理解できればすべての問題を嘘のように解決してくれると盲信しているわけではありません。正しい知識が魔法の杖でないことは、マネジメントの研究者として、誰よりも、痛いほど、よく承知しているつもりです。「従業員の感情」を味方につけ、多くの困難な問題を解決する万能薬として活用するためには、人を信じる力と、自分とは異なる人に対して共感する力とが必要であり、その力を継続して発揮していかなければならないからです。

 しかし、企業が直面する課題が高度化し、その解決にはこれまで以上に高い能力が求められています。そのような状況で、最重要資源である良好な従業員感情を活かすことを抜きにマネジメントを考えることはできません。つい最近まで、人間尊重のマネジメントという企業理念が掲げられることがあっても、ただの綺麗事でした。 ところがいまや、良好な従業員感情は企業の存亡に多大な影響を及ぼす重要な資本なのです。

 過去の常識が今では通用しないと頭では理解できても、それを完全に捨て去ることができず、「今までこうやって来たのだから」と考えるマネジャーもいれば、「やり方を変えるしかない」と腹をくくり、従業員の潜在能力を開花させる取り組みにチャレンジするマネジャーもいます。一昔前なら前者のような態度でもなんとかなったかもしれません。まだ世界の変化は、それほど大きくなかったからです。しかし今、「今更やり方を変えることなどできない」と考えるマネジャーがいるとするなら、すぐにでもその席を誰か 他の人に譲ったほうがいいでしょう(残念ながら、そんな人が結構います)。

 良好な従業員感情は魔法の杖ではありませんが、20世紀の常識にしがみついて問題を先送りにする余裕はありません。私たちは問題に正面から立ち向かうしかないのです。


◎働き方改革は絶好のチャンス

 
いまの世の中に「会社のために働く」と考える従業員は少なくなりました。代わりに「自分のために働く」ことを目的にする従業員が増えています。この現象を別の角度から眺めてみると、「生活資金を稼ぐため」だけに義務としてではなく、働くことを通じて、自分の能力を向上させ、個性を発揮したいと考える従業員が増えているということです。多くの従業員が「自己実現」を通じてより高い能力を発揮したいと願っています。まさしく企業が求めていることを、従業員が自ら行いたいと望んでいるのです。

 働き方改革では労働時間の短縮なども課題になっています。ところが、良好な従業員感情を育んでいけば、生産性はビックリするくらいに上昇します。そうすれば自然と残業時間も短縮できます。より多くの従業員から新しいアイデアがもたらされ、情熱的に仕事に取り組む人も増えて、企業も大きな恩恵を受けることができるでしょう。従業員が幸せになることを通じて、企業もより大きな利益を上げて成長する。長年対立してきた企業と従業員の関係は、今や持ちつ持たれつ、共鳴しながら同じ方向を向くものになったのです。

 あなたの組織でも、「人間中心主義」を宣言し、良好な従業員感情を最大限活用する取り組みを始めてみてはいかがでしょう。部下を怒鳴り散らすばかりでは、彼らの能力を引き下げることになり、あなたの目標達成はますます遠ざかってしまいます。

 21世紀にはいってマネジメントの常識はすっかり一新されました。働き方改革は、私たちがこれまで教えられ信じてきた人間についての考え方やマネジメントのあり様が、根本的な閉塞感を生み出している元凶であることを学ぶ絶好の機会です。マネジャーである皆さんが会社の成長のブレーキにならぬよう、人間の本質をよく知り、一人ひとりの従業員の個性を正しく理解することで、チームがより一層繁栄されますことを願ってやみません。




 

   バックナンバー
 
  2018年01月 「新年の誓い」を実現させる方法  ~ 自分自身の心の仕組み、その真実を知れば変革へのチャレンジはうまくいく ~  
  2017年12月 あなたの職場にも連続殺人犯と同じ精神構造をもつ人が潜んでいる ~サイコパスは犯罪だけでなく社会の活力と成長を阻害する~  
  2017年11月 希望の党が失望しかもたらさなかった本当の理由 ~人気取り政治の限界 ~  
  2017年10月 経済が低迷している本当の理由 ~古き良き時代、三丁目の夕日を懐かしむ ~  
  2017年09月 「55年体制」の終焉が見えはじめた 無党派層の増加は政党政治の限界を示す  
  2017年08月 誰が北朝鮮の核開発に力を与えているのか?   
  2017年07月 チンパンジーの生態から読み解く英のEU離脱とトランプ現象  
     



会社案内|個人情報|著作権|リンクポリシー
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は㈲マジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2017,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.