「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」

日大アメフト部に学ぶ「サルの群れよりも劣る組織をつくる法」


~なぜ多くの組織は不幸を招く人をリーダーにしてしまうのか?~


◎ 日大悪質タックル問題、経緯の真相究明だけでは意味がない

 アメフトの悪質タックル問題の渦中にある日本大学(以下日大)では、卒業生や在校生の間に危機感が広がっている。日大出身の課長が、部下から「私には後ろからタックルしないでくださいね」と冷やかされるくらいなら笑い話で済むが、就職活動中の学生までもが逆風にさらされていることには笑っていられない。一部の専門化からは「企業側が、日大生の採用を手控える可能性も考えられる」という指摘が出ている。

 日大の学生数はおよそ8万人で日本一。この数は、2位の早稲田大学と3位の立命館大学の合計にほぼ匹敵するものだ。さらに学校法人単位でみれば、50以上の付属校をもつ「学校法人日本大学」で学ぶ学生・生徒の合計は12万人近くに達し、2位の「学校法人早稲田大学」のほぼ2倍に匹敵する。これまでに110万人以上が日大を卒業し、そのなかで現在社長の地位にある人は2万人以上と、2位の慶応大学の1万人を大きく引き離している。超巨大教育機関の「ブランド低下」によって、多くの良識ある人々が悪影響を受けているにもかかわらず、日大上層部は事態の深刻さに正面から向き合おうとは決してしない。

 日大のお粗末な対応に怒りの声をあげるマスコミ各社は、真相究明を求めて過熱報道を続けている。しかし、前監督に「反則プレーを命じる意思がありました」と証言させ、日大に「理事会常務理事でもある前監督を擁護するために、学生に罪を被ってもらおうと画策しました」と認めさせたところで、問題の根っこは何も変わらないだろう。事件に至るまでの経緯や責任の所在を明らかにして糾弾することにも意義はあるだろうが、このような問題の再発を徹底的に阻止しようとするのなら、もっと根本的な視点へと「なぜ?」を掘り下げていかなければならない。

 じつは、今回の問題は、日大固有のものではない。財務省による加計学園問題に関わる交渉記録隠蔽問題や、東芝をはじめとした多くの有名企業で繰り返される決算や品質の偽装事件、これらの問題の根底には、組織上層部の地位や利権を守ることを、組織全体の利益や繁栄よりも優先しようとする本末転倒の発想があるのだ。


◎ 日大が演じているのは日本の悪しき伝統芸能、日本の恥ずべきお家芸だ

 
日大の対応のお粗末さの核心は、上層部の保身を、100万人を超える関係者への被害拡大や組織全体の繁栄よりも優先させる姿勢にある。「国民全体の奉仕者として,公共の利益のために勤務」しなければならないはずの財務官僚は、保身のために事実を隠蔽し、東芝の旧経営陣たちは、保身のために決算書を偽って組織全体に壊滅的なダメージを与えた。第二次世界大戦中の旧日本軍指導部は、数百万人の国民の命よりも自分たちのメンツを優先した。日本では歴史的に、国全体や組織全体を滅ぼすような愚行が、「優秀なはずのリーダーたち」によって繰り返されてきた。いずれの場合もキーワードとなるのは「絶対的権力を手にした人々による保身」だ。これは私たちが日大の上層部の言動から感じるものと共通している。

 有能な人たちが歴史から学ばず、同じような愚行が繰り返される本当の原因は、日本人のなかに深く根差した価値観に問題があるからだ。リーダーたちを保身に走らせ、組織を無意味なリスクにさらす原因となっているのは次の二つのイデオロギーだ。

●「権力者に文句を言わず、黙って従うことが部下の美徳」

●「地位や権力とは偉い人が下の者に与えるもの」

 昔も今も常識だと信じる人が多いこの考え方が組織の自浄機能を封じ込め、危機回避能力が欠如した日大のような組織を生みだしている。

 たしかに、明治から昭和にかけて日本の近代化を可能にした「勤勉さ」と「上昇志向」を支えていたのはこの価値観だった。しかし、昔も今も日本の組織論の根幹をなしているこのような考え方が、組織のなかで絶対的権力が簡単に生まれる土壌となり、組織の腐敗に拍車をかけ培養液にもなっている。腐敗した絶対的権力による本末転倒という日本の悪しき伝統芸能はこの二つのイデオロギーを音階として奏でられている。ところが、これらのイデオロギーが私たちをリスクにさらし、しかも、組織の能力や可能性を蝕んでいる。


◎ 「権力は腐敗しやすく、絶対的権力は絶対に腐敗する」

 18世紀イギリスの歴史家アクトン卿の指摘は21世紀の科学的な調査によっても実証されている。ただでさえ権力は腐敗に結びつきやすく、組織を弱体化させるものだが、それが「絶対的権力」ともなると、組織を深刻なリスクにさらす。世界各国の300万近くの組織を対象に行われた大規模調査によれば、絶対的権力に基づいた組織運営は、短期的には成功することがあっても、結局は失敗する可能性が高い。組織に大惨事をもたらすのは、たいてい権力を後ろ盾にして支配するタイプのリーダーだった。

 複数の個体が協力して何かしようとするとき、そこには必ずリーダーとフォロワーという役割が誕生するが、人間やチンパンジーなどの社会的動物のなかでも特に、群れでの協力関係が生き残りのために欠かせない種は、リーダーの暴走を食い止めるためにフォロワーが協力するように進化してきた。例えばチンパンジーは、あまりにもボスの横暴さが目立つようだと、弱い立場のオスや日頃はおとなしいメスたちフォロワーが一致団結して、群れ全体に害をなすろくでなしをボスの座から引きずり下ろす。群れ全体のためにならないリーダーをフォロワーが協力して排除する自浄作用が機能する。権力を振りかざすリーダーを放置しておくような群れは、数百万年にわたる進化の歴史のなかで淘汰されていった。

 チンパンジーにもまして、生き残りのために高度な協力関係を必要とした私たちの祖先は、200万年以上の時間をかけて、リーダーが絶対的権力をもつことを防ぐために、公平さや思いやり、そして正義といったモラル感覚や、リーダーが私利私欲のためにフォロワーに犠牲を強いるようなことを決して許さないという感覚を発達させてきた。こういった思考回路は私たちの遺伝子にしっかりとプログラムされているから、私たちの本能は権力者の不正に強く反応する。人類はチンパンジーよりも高度な自浄機能を発達させたはずなのに、それをチンパンジーほどにも活用できていない日大上層部の姿に腹を立てている。アクトン卿が見抜いた権力の特性を、日本の組織は野放しにし続けていることが許せない。一方で、私たちは、直接加害者となった日大アメフト部員が権力者に対して声をあげて正義を主張したことを褒めたたえる。


◎ 新しくて古いリーダー選びの基準、ナチュラル・マネジメントの勧め

 日大悪質タックル問題や一連の加計学園の問題は、自浄作用の欠如が権力腐敗の封印を解き放つことで、私たち人間がサルの群れよりもひどい組織を作ることができることを証明してくれた。その方法はいたって簡単だ。昭和までの産業化の時代にたまたま通用したイデオロギーを、時代が求めるものがすっかり変わってからも性懲りもなく使い続けるだけで、組織は理不尽なほど大きな危険にさらされる。水泳競技で一番になった人が、水着姿で野球の試合に登場すれば、喜劇だと言って笑ってもらえるだろう。しかし、組織のリーダーが、かつてそのやり方で成功したことがあるという理由で、ましてや保身のために、人間の基本的特性にそぐわない支配体制を続けようとすれば、それは悲劇だ。

 しかし私たちは、モラル感覚という、進化の産物である素晴らしい機能を持っており、それを使って自浄作用を働かせることができる。さらに、最新心理学の研究によれば、人間は、公平でや(トル)思いやりにあふれ、信頼できるリーダーのもとでは一層高い能力を発揮し、さらに成長できることが明らかになっている。つまり、リーダーが、人間が進化してきた方向をそのままに活用すれば、フォロワーの潜在能力を最大化することができる。 

 人間の本質的な特性をそのままに活かすリーダーシップのあり方を、私は「ナチュラル・マネジメント」と呼んでいる。このタイプのリーダーは、フォロワーの人間らしい感情を尊重することがどれだけ人々を活気づけて、能力を発揮させるかを知っている。また、権力を後ろ盾にした頭ごなしの命令や、傲慢で自分勝手な行動が、どれだけ人々を萎縮させてパフォーマンスを低下させるかを理解している。

 世界各国で2000万人を超える従業員、つまりはフォロワーを対象に行われた大規模調査でも、 人工的な権力や規則に基づく組織管理に比べて、人間の自然な感情や特性を大事にする組織運営が非常に高い成果をあげていることがわかっている。更に、事故やトラブルが格段に少ない。以前のコラムでも触れたが、世界レベルのトップアスリートを育成する近頃の指導者は大多数がこのタイプだ。また、サウスウエスト航空など、長年にわたって驚異的な好業績を安定的に続ける組織では、このタイプの人にしか権力を与えない。

 ところが日本の組織では「ナチュラル・マネジメント」を実践しようとする人が出世することは少ない。現実のマネジメント能力ではなく、「上から気に入られる」だけの人のほうが簡単に高い地位を得てしまう傾向があるのだ。平均的な会社組織はたいてい適材適所の欠如についての実例を見る格好の場所になっている。おそらく読者のなかに「私の上司はまさしくリーダーに相応しい人だ」と言い切れる人は10人に1人もいないだろう。


◎ リーダー選びの基準を変えれば私たちには大きな可能性が秘められている

 リーダーの地位を獲得する能力に優れていることは、優れたリーダーシップを発揮する能力とはまったく関係がないことは、大統領や社長といった地位に上り詰めた人たちの実に半数が仕事で失敗し、多くの政治指導者が国民を勝つ見込みや勝っても国の利益になりそうもない戦争に引きずり込む、そんな事例が枚挙にいとまがないという事実からも明らかだ。しかし、21世紀にはいって国際社会では、リーダーシップとパーソナリティの関係についての科学的研究の成果が広く利用されるようになってきた。おかげで私たちは、どのような人物をリーダーに選べばよいのかを知ることができる。

 頭がよく、達成意欲が旺盛で、イニシアチブの獲得がうまい人はリーダーになりゃ(トル)やすい。しかし、なかには高い地位につくと堕落する人がいる。権力を手にすると他人に共感することができなくなり、支配力を武器に自己中心的で横暴な行動をとりはじめ、さらには保身のために、異論・反論を封じ込め、過度な管理・統制によってチームのメンバーの活力を消耗させる。また、周囲の意見に耳を傾けず、リスクへの感覚が鈍り、フォロワーに反社会的な行為を要求することさえある(まるで、どこかの前監督さんのように)。一方で、権力を与えられると寛大になる人も多い。このタイプの人は高い地位につくと、以前にもまして謙虚に振る舞い、フォロワーに対していっそう奉仕的になる。ナチュラル・マネジメントを実践できるのは、このタイプの人々だ。リーダーは是非このような人物に任せたい。しかも、このような人は平均的な組織やチームにはたいてい何人かいる。権力を手にして寛大になるのに特別な才能は必要ない。少なくとも10人に1人は、権力を自分の為よりも組織全体のために役立てようとするし、5人に1人が教育や訓練次第で公平で信頼に足る振る舞いを身につけられることが分かっている。

 あなたの組織を潰したくなければ、また、今よりも格段に成長させたければ、リーダーを選ぶ際の基準に、「上からの評価」だけでなく「下からの評価」を加えるだけでいい。上だけでなくフォロワーの信頼も得られる人物はナチュラル・マネジメントを実践し、組織のパフォーマンスや世間からの評価を格段に高めてくれるだろう。ただし、それでも権力がひとを変えてしまうこともあり得るから、リーダーの暴走を組織の内部で自浄できるように、リーダーの職責に従業員エンゲージメントの向上を義務付けることをお忘れなく。


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