「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」



あなたも「自己正当化の罠」にはまっていませんか?



~“韓国政府”と“煽り運転暴行犯”そして“問題社員”に共通する“被害者意識”~

藤原 尚道



◎常軌を逸しているようにしか思えない韓国の理屈

 8月22日、韓国政府は日韓間の「軍事秘密情報の保護に関する協定」、すなわちGSOMIAを破棄すると発表した。7月1日に日本政府が韓国向け輸出管理の運用の見直しを発表して以降、韓国の常軌を逸しているとも思える行動がエスカレートするばかりだ。韓国政府は日本に決定を撤廃するよう一方的に要求し続けるばかりで、韓国側が何らかの改善対応を行う姿勢は一切見せないまま、8月12日には報復措置として韓国のホワイト国のリストから日本を除外すると発表した。自国は何ら努力をしようともせずに、責任の一切合切を相手国に押し付け、最後には自傷行為とも思える決断に至ったことには、多くの人が「まさか」と言ったまま言葉を失った。

 韓国のいくつかの企業は、核兵器などの大量破壊兵器の製造にも使用される物資を、シリアなど北朝鮮の友好国にくり返し不正輸出していた。その数は最近の約3年間に見つかっただけでも142件にも達するという。ところが、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は自国の非については無視を決め込み、「日本は盗人たけだけしい」「二度と日本には負けない」とまで言い放ち、逆切れ状態を続けている。反日を煽り、国民に団結を呼びかけることで自らの支持率を高めようとする意図は理解できるが、世界の中で孤立するリスクを犯してまで日本たたきを続けることが韓国の国益になるとは考え難い。韓国側のあまりに感情的で稚拙に思える行動は政府だけではない。民間レベルでも、「ボイコット・ジャパン - 行きません、買いません」を合言葉にした「日本製品不買運動」が続いている。メディアは一様に反日の国民感情を煽っており、日本のアニメ映画「ドラえもん・のび太の月面探査記」の公開が無期限延期となった。さらには、来年の東京オリンピック・パラリンピックのボイコット論まで飛び出しているという。

 韓国政府と韓国世論の姿は、まるで「おっぱいを求めて泣き叫ぶ赤ん坊」のようだ。残念ながらその姿は赤ちゃんのように可愛くはない。しかし、そこには乳幼児の自分勝手さに似た精神の幼さが感じられてならない。いったいこうした思考パターンはどのようにして作り出されるのだろうか。


◎文大統領には、国家の利益を実現するよりも大切なことがある

 今年5月に発足3年目に入った韓国の文大統領は、経済運営だけでなく、米韓関係や北朝鮮との南北関係にも行き詰まり、四面楚歌の状況にあるようにもみられていた。ところが、文大統領の支持率が40%を下回ることはなく、歴代の大統領と比較しても非常に安定した数字を維持している。政権発足2年目での支持率は、国民的な人気があった金大中氏に次ぐ高水準だ。その理由は、彼が極めて強固な支持層をもっていることにある。文大統領を支持しているのは「女性」と「30~40代」だ。 

 文大統領は、男尊女卑の風潮が強い韓国で、女性の権利に焦点を当てた。女性の社会進出に力を注ぐとともに、女性を暴力から守るという方針によって女性の心をつかんでいる。また、格差の縮小を主張することで、30~40代に人気が高い。この世代は20代の社会人時代、あるいは学生時代に自国が国家破綻に瀕する経験をしている。つまり1997年の「IMF経済危機」である。IMFによる経済引き締めは、元々力を持たない若者を特に苦しめることになった。彼らは格差が拡大する時代の荒波をもろにかぶり続け、今また教育費負担の増加や住宅費用の高騰などに見舞われている。彼らは「公正な社会」や「正義」の実現を訴える文大統領を強く支持している。

 「女性」と「30~40代」、文大統領の支持層に共通するのは、「文化」や「時代」といった、自らの努力だけでは立ち向かうことの難しいものに長年苦しめられてきた「被害者」であることだ。つまり文氏は、絶望的な状況の中、韓国国内でも特に強く被害者意識を感じざるを得なくなった人たちの支持を得て大統領になったのである。「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちればただの人だ」という言葉がある通り、政治家は常に自らの支持層にとっての「偏った正義」に奉仕したいという衝動をもっている。文政権にとっては、韓国という国家の利益に奉仕することよりも、被害者意識を持つ弱い立場の人々の感情に訴えることのほうが重大事なのだ。


◎「私は正しい、悪いことすべての責任は他人にある」

 韓国では2013年5月、95歳の韓国人男性が「私は、日本の植民地統治は良いことだったと思う」と発言したところ、偶然居合わせた30代の男に殴られて死亡するという事件が起こった。ところが、犯人が「愛国心」からの犯行だったと供述していること知った韓国ネットユーザーのなかには「日帝を称賛した時点で老人は犯罪者であり、殺されて当然」と主張する者まで現れた。

 韓国では歴史について政府の方針と異なる意見を語ることはタブーである。日韓併合によって全ての朝鮮人に戸籍と人権が与えられ、身分にかかわらず教育機会が与えられるようになったことを知る韓国人は少ない。実は日本の政策によって、朝鮮半島に100校程度しかなかった小学校が、1943年には4271校にまで増加し、識字率が6%から22%に上昇したのである。ところが、こうした「史実」を語る学者は、たちまち大学を追放される。慰安婦や徴用工などについて、日本を非難する意見にしか正義はなく、日本によって朝鮮半島が近代化し、大韓帝国の圧政に苦しんでいた民衆の生活が向上したという歴史の側面があることは口にすることさえ許されない。

 誰でも、自分の言い分と他人の言い分が異なる場合には、自分の考えが正しいように考えるものだ。人間は自分を正当化しなければ生きていけない。しかし、この現象が極端化すると「自己正当化の罠」と呼ばれる状況に陥ることになる。たいていの出来事には、それを見る視点によって多様な側面があり、様々な解釈が可能だ。ところが、この罠に陥ると、相手の悪いところしか見えなくなってしまう。現実には相手に正しいところがあったとしても一切見ようとしなくなる。さらには、相手とは何ら関係のない出来事までも相手のせいだと、罪が捏造されるようになる。これは茨城県の常磐自動車道で起きたあおり運転殴打事件の容疑者の精神構造とも同じである。容疑者は犯行理由について「前を走る(被害者の)車が遅く妨害されたと感じた」と供述している。また、無実の人を煽り運転暴行犯の同乗者だと根拠もなく決めつけ、ネット上で根拠のない誹謗中傷を繰り返すことを「正義」だと主張する人々も「自己正当化の罠」にかなり深くはまり込んでいる。また、これは企業内でトラブルを繰り返し起こす問題社員にも共通している。彼らは自分の正当性を過大に見積もり、自分の評判や雇用をリスクにさらしてでも、会社や上司のやり方は間違っていると主張して敵対的な態度をとる。「自分だけが正義で、自分の意思に反するものは、相手の事情などお構いなしに全てが悪」という考え方、これはまさしく「自己正当化の罠」にはまることで自己中心主義が暴走している人の思考パターンである。このような人が世のなかに増え続けている。


◎「自己中心主義の暴走」を避けるには格差を是正するしかない 

 「自己正当化の罠」には大きく3つの類型がある。それは「政治家」と「組織のリーダー」、そして「社会的弱者」だ。まず、政治家にとって「自己正当化」は商売道具のようなものだ。堂々と自分の意見を主張し、相手の考えを木っ端みじんに粉砕する政治家は有権者から頼もしく思ってもらえる確率が高い。次に、リーダーにとっても「自己正当化」は自らの権威を高める格好の手段になる。しかし、企業経営者が「自己正当化の罠」にはまり、自分の権威と会社の利益だけが正義だと信じるようになると、従業員は怠けているとしか思えなくなる。そして従業員を「給料泥棒」だと決めつけて会社全体の活力を削いでしまうケースも多い。最後に、社会的弱者にとっての「自己正当化」とは、自分は世の中で大切にされていないと感じるときに頼る最後の手段である。

 実は一番厄介なのが「弱者による自己正当化」である。ネガティブな感情はもともと思考の幅を狭める働きがあるが、これは格差の拡大とともに世界中で猛威を振るうようになっている。社会的弱者には、ものごとを様々な角度から公正に見て、じっくり考えることが難しくなる傾向がある。彼らは、世界の状況や他国の立場への関心を失い、自ら状況改善のために行動を起こす意欲を失ってしまう。そして、他者を悪に仕立てて自己を正当化するしか、自分自身の尊厳を保つ手段がなくなってしまう。そうした有権者が増える流れが極端な自国中心主義を唱える政治家に力を与え、世界中が自国中心主義に向かって行進しはじめてしまった。米トランプ政権は「中国やメキシコに仕事を奪われた」と訴える米国の白人中間層の期待に応えるために「アメリカ・ファースト」を唱える。英国では孤立主義を強める国民の圧力によってEU離脱が目前に迫ってきた。そして、先進7カ国首脳会議(G7サミット)は首脳宣言を採択することさえできなくなっている。そのうち「自己正当化の罠」による偏狭で愚かな思考が地球上の隅々まで覆いつくすことになるかもしれない。

 このような流れを止めるためには格差社会を是正し、誰もが幸福を感じられる世の中を作っていくしかない。幸せになればなるほど人はじっくりと物事を考えることができるようになるし、他人の立場に共感することができるようになる。だがこれは実行することが極めて困難な課題だ。 私たちが韓国や米国の格差是正に貢献できる方策はほとんどない。しかし、黙って眺めているだけでは事態は改善しない。まずは、行き過ぎた成果主義の徹底による格差の拡大が世界を不安定にし、居心地の悪い場所にしてしまっていることについて理解を広めていくしかない。そして、家庭や職場、コミュニティなどで、誰もが「人間として大切にされている」と感じられる環境を整備するよう努めていくことだ。


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