「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」

「近頃の若い者は」と口にした時点であなたは負け組の仲間入り



~ゆとり世代の生き方には新しい時代に適応するヒントが満載~

藤原 尚道


◎ 「ゆとり世代」に悩まされる「新人類」たち

 
かつて“しらけ世代”とか“新人類”と呼ばれた人たちも50代後半になった。その中の一人である筆者が、現在いずれかの企業で管理職を務める年齢の近い友人と話すときや、マネジメント研修を依頼された先で聞かされる“ゆとり世代”にまつわるエピソードには、一瞬驚かされるものが多い。そのなかからいくつかを紹介してみよう。 

 「残業を命じたら、定時後のスケジュールがぎっしり埋め込まれたスマホの予定表を見せて1か月先まで予定がいっぱいなので待って欲しいと言われた」

 「天気予報で今晩から大雪の予報、電車が遅れそうなので、明日遅刻しますと言ってきた」

「新入社員のミスで迷惑をかけた客先に一緒にお詫びに行くことになったので、5千円渡して菓子を買っておくように頼んだら、大量のスナック菓子を買ってきた」

 「本音で何でも言い合える関係が好きだと語る新入社員に些細なことを注意したら、LINEで"辞めます"と若手先輩社員に連絡して次の日から来なくなった」


 一般的には1985年4月以降に生まれて、1992年に改訂された学習指導要領に「個性をいかす教育」が掲げられて以降に義務教育や高等学校教育を受けた人たちが“ゆとり世代”と呼ばれている。いわゆる“ゆとり世代”の採用が始まって10年以上がたち、各企業の中で彼ら“ゆとり世代”は一大勢力になったが、かつて“新人類”と呼ばれた人たちのあいだに“ゆとり世代”への不満が広がっている。彼らの証言をもとにして“ゆとり世代”の特徴をまとめると次のようになる。 

 
失敗を恐れ、自分の非を認めようとせず、注意されるとすぐめげる

 言われたことしかやらない、教えられないと学ばない

 マニュアルや答えをすぐに求めて、結果への近道を探そうとする

 自己中心的で、コミュニケーション能力が低い

 上司との酒や、休日開催の会社行事はきっぱり断る

 自分の成長にはこだわるが、上昇志向や物欲が少ない

 要するに、「何を考えているかわからない」というわけだ。しかし、ほんとうに“ゆとり世代”はそれまでの世代にはなかった深刻な問題を抱えた存在なのだろうか。


◎ 「最近の若い者は …」というステレオタイプこそが思考停止を生む

 1960年代前半に生まれた筆者の世代は社会人になった1980年代に、“しらけ世代”とか“新人類”と呼ばれ、「何においても熱くなれず、社会人としての自覚がない無責任な傍観者」というレッテルを張られた。そして、「打たれ弱い」とか「プライベートを重視しすぎ」、そして「何を考えているかわからない」と言って批判された。既にお気づきの通り、年長者はいつの時代でも同じような理由で青年たちを批判している。 

 実は、青年期の若者が「打たれ弱い」とか「プライベートを重視する」というのは、人間が進化の過程で身につけたごく当たり前の話だ。人間の脳は後ろから前へと発達していき、最後に20代半ばになってようやく理性を司る前頭前野が成熟する。人が感情や目先の欲求をコントロールしながら合理的に考えて行動できるようになるのは平均的に25歳を過ぎてからなのである。一方で、思春期から20代前半までの若者の脳内では、ネガティブ感情の中枢や快楽感情の中枢が一生のうちで最も激しく活動している。つまり、脳内で起きている感情爆発をコントロールできるほどに理性脳が発達しきっていない20代前半の人たちは、誰よりも強くストレスや苦痛を感じやすい。だから、まだ青年期を脱しない彼らの精神構造がぜい弱で、振る舞いが自己中心的に見えるのは、人間の成長プロセスとして極めて当然のことだ。

 ところが人間は、当たり前のことを当たり前に正しく認識することが苦手だという特質(認知バイアス)をもっている。例えば、人間は誰しも自分には甘く他人には辛いという傾向をもっている。人間には、自分や自分と似たものを美化・肯定し、他人や自分と異なるものを蔑視・否定する傾向があるから、自分と同世代の考え方や価値観は正しく、異なる世代の主張や行動様式は間違っていると自動的に判断してしまう。また、自分の過去の態度や行動が現在の様子により近いものだったと、都合よく記憶を書き換えてしまう性質もある。だから、人間の脳がもっている奇妙な癖をしっかり肝に銘じていないと、かつては自分自身も無責任で頼りない存在だったことをすっかり忘れて、“ゆとり世代だから”と決めつけて、ジェネレーション・ハラスメントという狭量な態度をとってしまうことになる。


◎ ゆとり世代には企業文化を革新する救世主となる資質を備えている

 人間は一人ひとりがそれぞれに個性的だ。様々な成長ののりしろをたっぷり持った若者を、世代で一括りにして断定する態度は危うい。しかし、“ゆとり世代”には世間一般に語られるステレオタイプとは別の、とても魅力的な特質があることには注目しなければならない。「子どもを甘やかすだけ」などと評判が悪かったゆとり教育は、過去の常識に縛られずに物事を考えたり行動したりできる人を多く生み出してきた。高度経済成長の成功体験を引きずって平成の時代を“失われた30年”にしてしまった日本社会にとって、“ゆとり世代”がもつ合理的な考え方は、社会の閉塞感に風穴を開けるドリルになる可能性をもっている。

 “ゆとり世代”は、精神論や筋の通っていない非論理的なやり方には納得しない。「昔からそうだった」という理由だけで、ろくに意味も検討されずに残っている「必要のない会議や朝礼」「付き合い残業」「誰も見ていない報告書」「手書き書類」「ハンコ」「服装規定」などの慣習に、堂々と嫌な顔をする。これは「生徒自身で考える力を養うこと」を目的として導入されたゆとり教育の素晴らしい成果である。昭和に社会人になった私たちは、戦前から続く「努力=嫌なことや苦手なことを克服すること」という精神論の下で、年長者に言われたことには自分であれこれ考えたりせずに黙って従うように教えられた。一方で平成生まれのゆとり世代は、教えられることをただ暗記するだけではなく、十分ではないにせよ自分自身で考えるチャンスをより多く与えられ、個性や才能、独創性を以前ほどにはスポイルされていない。

 二刀流メジャーリーガーの大谷翔平選手や将棋の藤井聡太7段、卓球の伊藤美誠選手など、「ゆとり教育」を受けた世代が従来の常識を打ち破る活躍を見せてくれている。「最近の若者は」と口にした時点でその人の思考は停止し、時代の変化から取り残されていく。“ゆとり世代”は時代の変化への適応として生み出されてきたのだ。「答えをすぐに求めて、結果への近道を探そうとする」姿勢は「生産性向上」につながる。「上司との酒や、休日開催の会社行事はきっぱり断ってプライベートを優先する」ことで社外の人脈とネットワークを広げる活動は「多様で変化に富んだアイデア」を組織にもたらしてくれる。「上昇志向の少なさ」は「人としての幸福とは何かを真剣に考えるものが増えている」証拠でもある。私たちは文句を言うだけではなく、彼らから学ぶこともできる。“ゆとり世代”と呼ばれる彼らこそが、日本の組織が変化に適応して活力を取り戻すためのカンフル剤になってくれるだろう。
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