「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」



今こそ人間の無限の知性を解き放とう!


~ 世の中に輝きを取り戻すために、頭の使い方を変えていこう ~

藤原 尚道

新年あけましておめでとうございます。早いもので、21世紀も今年で20年目を迎えた。しかし、この19年間を振り返ってみると、苦労が多かった割に実りの少ない、散々たるものであったという感想をもっておられる方も多いのではないだろうか。多くの人や企業が懸命に努力してきたが、思ったとおりのパフォーマンスを挙げることができたのはほんの一握りだけだった。その結果、個人所得や企業業績、GDPは伸び悩み、国家債務と将来への不安ばかりが増大し続け、日本社会はすっかり袋小路に入ってしまったようだ。社会の中でも組織の中でも人々は生きがいや、やりがいを感じることが難しくなっている。さらには、社会の絆は加速度的に失われていっているようだ。なぜこのようなことになってしまったのだろうか。

 その最大の理由は、私たち日本人が時代の変化に上手く適応できなかったことだと私は考えている。私たちは20世紀後半から今日にかけて大きな変化をいくつも体験してきた。ところが、その中でもとくに重要な変化を一つ私たちは見落としている。それは、時代が求める「頭の使い方」がすっかり変わってしまったという事実だ。どんな組織であろうと、従業員が時代にそぐわない頭の使い方をしているのを放置していては、最高のパフォーマンスを得ることはできない。今回は、2020年新春にあたり、個人や組織、そして社会が輝きを取り戻すために、どのように頭の使い方を切り替えていけばよいのかを深掘りしてみたい。


◎「もっとも人間らしい資質」を使いこなせない日本人

 私たちのもっとも人間らしい資質、すなわち人間と他の動物を分ける決定的な違いは何だろう。それは自分の力で考えることではないか。私たちにはあらかじめ遺伝子に組み込まれた条件反射や、経験によって培われたパターン行動だけではなく、臨機応変に試行錯誤して、自由に新しいことを試してみる能力が備わっている。私たちの脳はまさにそのことを目的として、想像を絶する緻密さでつくられている。ところが残念なことに、今の日本社会には、せっかく持って生まれた人間独自の才能を有効に活用しようとしない人が驚くほど多い。

 自分の脳の可能性を浪費している一つの代表例が「指示待ち族」、あるいは「受け身型人間」などと呼ばれる人たちだ。彼らは人から言われるまで自ら行動を起こそうとしない。指示されたことしか行わず、先回りして機転を利かすことにはほとんど関心がない。 周囲を苛立たせる彼らの態度を目の前にして、

「少しは頭を使え!」

 こう叫びたくなった経験がある人は少なくないはずだ。日本中のあらゆるところに、「あなたの首の上についているのはカボチャですか?」と質問したくなるような人々が溢れている。彼らの症状を整理してみると、「今までのやり方や既存の仕組みを疑ってみようとしない」、「誰か特定の人が言ったことを鵜呑みにする」 といったところだろう。つまり彼らには、自分の頭で自由に考えてみようという習慣がない。しかし、この状況を笑い話で済ませることはできない。人間のあらゆる「行動」の質は、行動に先立つ「思考」の質によって決まる。行動の質は、背後にある思考の質を越えることはできない。従業員にもっと活躍して欲しいのなら、まず彼らに自分らしく、自由に脳を働かせてもらわなければならない。


◎人間の脳の特性を理解できない人を、人の上に立たせてはならない

 世の中が変化する速度は上がり続けているし、顧客からの要求は複雑になる一方だ。企業にとっては、一人でも多くの従業員が頭をフル回転させ、新しいアイデアをひねり出し、試行錯誤し続けてくれなければ、激しい競争のなかで生き残っていくことは難しい。経営者や管理職にとっては、従業員に少しでも賢く働いてもらうことが課題だが、これは簡単なことではない。残念なことに、指示待ち族に「少しは自分の頭で考えてくれ」と1万回言い続けても、その症状に改善が見られることはない。おそらくそれは徒労に終わるだろう。

 そもそも「自分で考えろ」という命令は2つの意味で矛盾に満ちている。まず第一に、命令で脳のパフォーマンスを向上させることはできない。それどころか、「自分で考えろ」と厳しく指導すればするほど、逆に脳の回転速度が落ちてしまう人が多い。怒られたりプレッシャーにさらされることは、脳の性能を著しく低下させる。「自分で考えろ」と部下を怒鳴りつけたことのある上司は、自分が部下から自由に考える環境を奪い取っているという、科学的にも証拠のある事実と向き合わなければならない。これは、坂道に止まった車の運転席でブレーキを必死に踏み込みながら、「なんで走らないんだ、バカヤロー!」と叫んでいるのと同じことだ。車は、ブレーキから足を外すだけでも動き出す。

 日本の組織には、人間の特質についての無知を放置したまま、うまくいかない責任を部下になすりつけているマネジャーが実に多い。「人は上からの命令でどのようにでも操ることができる」という戦前から続く思い込みを信じたまま疑わない人がいまだに多くいる。言い換えれば、人に「自分で考えろ」と言っているマネジャー自身が、しっかりと考えることができていないということであり、マネジャーが組織全体のパフォーマンスを低下させる元凶になっていることが多い。人間の脳の性能がどのように引き出され、また浪費されるのかを考えてみようともしない人に、現代の組織を任せることは間違っている。過去に一般的だったマネジメント手法を批判的に検討し、人間の特質にない人は人の上に立ってはならない。


◎日本人にとって自分で考えることは、今でも社会を逸脱する行為

 
ところが残念なことに日本では「自分で考える」ことは極めて難しい。そもそも自分で自由に考えてみるようにいつも促されてきたという人は滅多にいないし、自分で自由に考えることを教えられてきた人となるともっと少ない。その理由は単純だ。日本人にとって「自分で考えないことは美徳」とされている。皆さんの心当たりがあるはずだ。大抵の企業では、自分の意見をはっきりという人や、「昔からそうだったんだ」という言葉に疑問を抱く人は煙たがられ偉くなれない。逆に、上司の言うことに従順で、疑いもなく昔からのやり方に従う人は出世する。だから多くの人は経済的利益を得るために自ら考える本能を封印する。これを黄金の手錠という。

 実は日本では、「自分で考えない」、「人にも自分で考えさせない」、このとんでもない悪習は、子どもが物心つく前から徹底して叩き込まれる。小さな子どもが電車の中で騒いでいると、母親から「怖いおじさんに怒られるから静かにしなさい」とたしなめられることはあっても、自分の行動が他人に迷惑をかけるということを考えてみるように促されることは少ない。学校に上がってからも、校則を守らないと、教師からこっぴどく叱られることはあるが、何のために校則があるのかを生徒に考えさせることは滅多にない。ところが生徒たちは黙ってそれに従うか否かで人格までもが評価され、校則の内容に異議を唱えるような生徒には反逆児のレッテルが張られてしまう。

 多くの日本人が自分の頭で考えることが驚くほど苦手である理由は、ものごとを批判的にとらえることが社会を逸脱する行為だと見なされる日本文化の伝統的な風潮にある。したがって、日本には考えることを教える環境がほとんど存在しない。日本が世界の工場となっていく1980年代まではこれでもよかった。いや、むしろこれがよかった。それまでは、考えることは一部の管理職の仕事であり、大半の労働者は物言わぬ歯車として淡々と単純作業を繰り返していればよかった。「自分で考えない」人々は実に使い勝手がよかった。ところが時代は変わった。仕事のあらゆる場面で実に様々な知恵が求められるようになった。どんなに知識があったとしても、それらを組み合わせ、あるいは組み換え、試行錯誤していく、つまりは「自分で考える」力がなければ意味がない。


◎教育の中心目標は「詰め込む」ことから「引き出す」ことに変わった

 今日でも、日本で行われているあらゆる仕事のうち、4割ほどの仕事は創造性や独自の判断をほとんど、もしくはいっさい必要としない。マニュアルを暗記してその通りに実行するだけで完璧に実行することができる。ところが、自分の仕事の全てをマニュアルで規定できる人はあまりいない。たいていの人は何らかの場面で「自分で考える」必要に迫られる。やり方を覚えるだけで済む仕事も半分以上あるが、1日のうち何回も自分で知恵を絞りださなければならない場面に遭遇する。そしてその時、従業員の「自分で考える」能力によってパフォーマンスに大きな差が表れる。しかし「自分で考える」能力は従来型の教育やマネジメントによっては育成できない。

 知識や経験は、教えることができるが、考えることを教えることはできない。「考える」という行為は純粋に自主的な活動、つまり自由に根差した活動であり、外から注ぎ込む(外発的に動機づける)ことはできない。「自分で考える」能力は、知識や経験を教えるように「詰め込む」ことはできない。それは本人の自主的な思考を「引き出す」ことしかできない。「教育とは外から与えられるもの」という従来の常識をひっくり返さなければ、「自分で考える」人を増やしていくことはできない。しかし、従業員の中に占める「自分で考える」人の割合は、生産性、収益性、顧客満足度、従業員定着率など、企業業績の重要指標に大きな影響を与える。従業員がその潜在能力を発揮できるかどうかは、ひとえにマネジャーの「引き出す」努力にかかっている。

 この努力はとても困難なものに思えるかもしれない。しかし、安心して頂きたい。人は正しい環境さえ整えれば、自動的に自分で考えるようになる。それに、企業業績を云々する前に、そもそも私たちが人間として果たすべき最大の務めは、仲間の一人ひとりがもって生まれた資質を最大限に発揮できるように助け合うことだ。誰もが個性を尊重され、それぞれがもっている考えに敬意をもって耳を傾けてもらえれば、人々の能力が浪費されることは決してない。また、心が踏みにじられることもない。そして、そのような状況こそが人間社会の本来あるべき姿であり、同時に、組織に繁栄をもたらすものでもあるのだ。


   バックナンバー
 
  2019年12月 部下や子どもの可能性を最高に引き出す人の心の操作術 ~いつまでもアメとムチに頼っているようでは毒親・毒上司のそしりは免れない~  
  2019年11月 なぜパワハラは無くならないのか ~パワハラの根っこにある「男らしさ」という理想像~  
  2019年10月 東電旧経営陣への無罪判決があぶりだす大企業を蝕む不治の病 ~大組織のトップに責任ある判断を求めることは無理なのか~  
  2019年9月 あなたも「自己正当化の罠」にはまっていませんか? ~“韓国政府”と“煽り運転暴行犯”そして“問題社員”に共通する“被害者意識”~  
  2019年8月 「好んで苦労することはない」と考える新入社員が増殖中 ~「脱ゆとり」が若者のチャレンジ精神を低下させる原因か?~  
  2019年7月 最新の科学が明らかにした、「運勢を高める」意外な方法 ~人や組織の運勢は何によって決まるのか(その2組織の運勢)~  
  2019年6月 最新の科学が明らかにした、「運勢を高める」意外な方法 ~人や組織の運勢は何によって決まるのか(その1個人の運勢)~  
  2019年5月 めでたさに裏表あり新元号 ~ トップダウン型政治体制の強化宣言とも受け取られた新元号と理想のリーダーシップ ~  
  2019年4月 リーダーに求められる「賢さ」とは何か?~ IQがコモディティ化する一方で、社会的知性の重要性が急上昇している ~  
  2019年3月 「近頃の若い者は」と口にした時点であなたは負け組の仲間入り ~ゆとり世代の生き方には新しい時代に適応するヒントが満載~  
  2019年2月 歪んだ勤勉性神話が日本の企業文化を蝕んでいる ~日本の伝統的な労働倫理が日本人を会社嫌いにさせ、人々の能力を浪費させている~  
  2019年1月 「窮すれば通ず」働き方改革をチャンスに変える法  ~ 企業の二極化が加速する時代、働き方改革に潰されないために ~
  2018年12月 人間は幸せを感じながら働くことで能力を高めるように進化した ~ 幸福とビジネスの関係についての常識革命 ~  
  2018年11月 グーグルは現代に現れた神である 第二話 ~ 神から学べない者は時代の変化に取り残される ~   
  2018年10月 グーグルは現代に現れた神である 第一話~ 知恵の神は破壊神の顔も持つ ~  
  2018年09月 なぜ、私たちは演劇や映画、音楽に夢中になるのか ~ 私たち人間は特別な欲求を満たさなければ生きられない ~  
  2018年08月 不安にはささやかな行動で立ち向かえ ~ 最初の一歩さえ踏み出せれば、不安気質は成功の条件にもなり得る ~  
  2018年07月  世界一不安を感じやすい日本人 ~ より不安になることで、いっそう不幸になっていく日本人 ~  
  2018年06月 日大アメフト部に学ぶ「サルの群れよりも劣る組織をつくる法」~なぜ多くの組織は不幸を招く人をリーダーにしてしまうのか?~  
  2018年05月 「幸せな結婚生活」の原理と原則 ~99%の人は「原理」と「原則」を区別していない~  
  2018年04月 トランプ政権の苦難は先進国共通の未来予想図 ~自由主義やグローバリゼーションに頼る限界~  
  2018年03月 『巨人の星』を乗り越えろ~ 平昌五輪 メダル13個では決して喜んではいけない ~  
  2018年02月 『前略 部下の無能を嘆いておられる管理職のみなさま』 ~ 理屈と気合では働き方改革は成功しない ~  
  2018年01月 「新年の誓い」を実現させる方法  ~ 自分自身の心の仕組み、その真実を知れば変革へのチャレンジはうまくいく ~  
  2017年12月 あなたの職場にも連続殺人犯と同じ精神構造をもつ人が潜んでいる ~サイコパスは犯罪だけでなく社会の活力と成長を阻害する~  
  2017年11月 希望の党が失望しかもたらさなかった本当の理由 ~人気取り政治の限界 ~  
  2017年10月 経済が低迷している本当の理由 ~古き良き時代、三丁目の夕日を懐かしむ ~  
  2017年09月 「55年体制」の終焉が見えはじめた 無党派層の増加は政党政治の限界を示す  
  2017年08月 誰が北朝鮮の核開発に力を与えているのか?   
  2017年07月 チンパンジーの生態から読み解く英のEU離脱とトランプ現象  
     



会社案内|個人情報|著作権|リンクポリシー
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は㈲マジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2019,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.