「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」



コロナ禍があぶりだす政治の堕落


~新型コロナから私たちはどのような教訓を得られるのか~

藤原 尚道


新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中、高齢者を中心に犠牲者が増え続けている。3月26日時点で8165人の犠牲者を出しているイタリアのみならず、スペインやフランス、そしてアメリカでも毎日100人単位で犠牲者が増え続けている。3月26日には世界全体の死者が2万人を超えた。今までに経験したことのない未知の脅威に対抗するためには、私たちには是非とも強力なリーダーシップが必要だ。

 ところが、イタリアでは政治の失敗が新型コロナの爆発的感染をまねいてしまった。当初、イタリア政権与党の政治家たちはウイルスの影響で経済が悪化することを何よりも恐れ、その脅威を過小評価し続けた。政府は「感染を恐れて日常生活を変えないように」と国民に呼びかけていたが、連立与党、民主党の党首が自ら感染して、ようやく北部14県の封鎖が決められた。

 新型ウイルスの脅威よりも経済を重視し、人気取りのために「新型コロナは恐れるに足らず」という誤ったメッセージを発していた政治家はイタリアだけではない。ポピュリズムによって権力を与えられた政治家が、必要な決断をしない、あるいは稚拙でリスクの高い決断をすることで、国民が生命の危機や経済的な危機に追い込まれる事態が世界各地で起こっている。韓国の文大統領については先月書いたが、アメリカのトランプ大統領やクオモNY州知事、イギリスのジョンソン首相なども同様に、収拾のつかない状況になるまで事態を放置し、根拠のない安心感を喧伝し続けていた。

 しかし、世界のリーダーたちはここにきて態度を一変させた。アメリカをはじめ多くの国で外出が禁じられ、インドでは全人口13億人以上が自宅に閉じ込められている。スペインでは違反者に60万ユーロ(約7000万円)の罰金を科すそうだ。油断しきった状況から、経済的な自殺を思わせる集団ヒステリーへの急展開は、リーダーの能力に大きな疑問を抱かせる。国民生活を安全面と経済面からバランスよく向上させていこうという発想に乏しいのはポピュリズム政治の常だが、自分の選挙のことしか頭にない政治家に、利権誘導や国民の人気取りではなく本気の新型コロナ対策を期待することは難しい。これは日本の政治家たちにも当てはまることである。


◎新型コロナがあぶりだした日本のリーダーシップの危機

 安倍首相は3月14日の記者会見で「日本の感染防止策はうまくいっている」と強調した。しかし、それは嘘だ。確かに日本ではクルーズ船の10人を含めても、3月27日時点では新型コロナによる死者は57人で、日本では感染爆発は起こってはいない。しかし、それは決して安倍首相の指導力のたまものではない。日本国内で最悪の事態が起こっていないのは日本人の神経症的な潔癖主義が、たまたまウイルス対策に有効であっただけのことだ。日本人が挨拶のときにいちいち握手したり抱き合ったり、キスしたりしないことは安倍首相の功績ではない。

 日本政府は、感染拡大地域からの入国制限といった、素人目にも当然必要だと思われる措置をなかなか取ろうとしなかった。観光業界や対象国の政府などへの忖度から、国民の安全は常に後回しにされてきた。また、諸外国と比べて異常に低いPCR検査の実施件数については当初から疑問視する声が相次いでいたが、その明確な理由を説明することはいまだにない。さらに、ダイヤモンド・プリンセス号をウイルスの巨大な培養皿に変えてしまった失態においては、最初から最後まで基本的な対応方針が示されることもなく、ただ、「最善を尽くしています」と言い続けただけであった。

 「みなさんの活気あふれる笑顔を取り戻すため、一気呵成にこれまでにない発想で、思い切った措置を講じてまいります」

 安倍首相の具体性のまったくない言葉には失望するばかりだ。それに追い打ちをかけるように、与党自民党からは「消費税の減税」、「コロナ禍終息後の高速道路無償化」、国産牛肉の購入に使える「お肉券」「観光地支援のクーポン券」といったピント外れも甚だしい議論ばかりが聞こえてくる。小池東京都知事も同類だ。東京五輪の延期が決まった途端に、ようやく外出自粛要請を出したが、これでは「都民ファースト」を公約に掲げながら、都民の安全よりもオリンピック開催を優先していたことを白状するようなものだ。


◎国民が意識を変えなければ日本は滅びる

 今回のようなパンデミックに限らず、大規模地震や巨大火山噴火、そして大恐慌など、私たちはこれからも前例のない巨大なリスクと隣り合わせで生きていかなければならない。しかし、巨大リスクを100%避けられるような方法はない。私たちに出来ることと言えば、事前にできる限りの備えをした上で、巨大リスクが現実化したときには出来る限りの知恵を集め、不要なパニックを鎮め、力を結集して傷や痛みを少しでも小さくできるように努めることだ。そのためにはどうしても優秀なリーダーが必要だ。しかし、今の日本の国政や都政にそれを期待することは無理のようだ。現在の日本でコロナ禍がこの程度で済んでいるのは偶然にすぎない。

 前例や答えのない課題に対処する際にリーダーに求められるのは「決断力」と「説明力」の二つだ。

 今回のコロナ禍で能力を正しく証明した国内の政治家は、私の知る限り北海道の鈴木知事だけだった。39歳の若きリーダーは「政治判断は結果がすべてだ。結果責任は知事が負う」と言い切って、2月28日には「緊急事態宣言」を出し、道民に分かり易く経緯を説明した。もちろん、海外にも優れたリーダーシップが発揮された例はある。

 ドイツのメルケル首相は、国民の70%が新型コロナに感染する可能性があることを率直に認めた上で、感動的な言葉で国民に危機感の共有と、自由の制限など厳しい措置への理解を求めた。さらには、ウイルスが感染拡大を続ける中でも働き続ける人々にメッセージを送った。まずは医師や看護師をはじめとした戦いの最前線に立つ医療従事者に、「みなさんの仕事は尊敬に値するものであり、私は心から感謝しています」と感謝の言葉を送った。これによって医療従事者たちが勇気づけられたことは言うまでもなく、医療従事者へのいわれのない差別が相当に抑え込まれたはずだ。そして、メルケル首相はスーパーマーケットのレジ係や、商品棚を補充係など普段あまり感謝されることのない人にお礼を言うことも忘れなかった。「私たちの生活を維持してくれてありがとうございます」という言葉は、市民の生活を陰で支える人たちの励みになっただけでなく、買い占めのために店員に横暴な態度をとる輩を封じ込める助けにもなったはずだ。

 安倍首相は3月2日の国会答弁で、国民に自粛を呼びかけながら、自身の妻が桜の下で浮かれ顔で写真に納まっていることを追求され、「正確に冷静に物事を見ていただきたい。(昭恵夫人の会合は)都の自粛要請に当たらない」と開き直った。安倍首相には、メルケル首相のように国民の感情を理解する能力がないのだろう。危機に際して、国民に向けて状況を分かり易く説明し、出来ることと出来ないこと、そして最悪の可能性を具体的に示す。取組むべき課題について優先順位を示す。そして国民に勇気を与える。リーダーとして当たり前のことがまったくできない人物に長期政権を与え、この期に及んでも自分の支持基盤に向けたリップサービスしかできない人々を議員として選出していることを、私たち国民が深く反省しなければならない。

   
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