「進化心理学・脳科学のレンズを通して政治・経済・一般常識を読み解く」


最新の科学が明らかにした、「運勢を高める」意外な方法


~人や組織の運勢は何によって決まるのか(その2組織の運勢)~

藤原 尚道



前編では「運のいい人」の、ごく単純でシンプルな行動習慣について書いた。すなわち「何をやっても成功する人」は人と関わるときに、まず「自分はどうすれば人の役に立てるのか」ということを考え、見返りを期待することなく人に与えることから始めるタイプの人であることが多い。幸運はいつも他人に親切な人により多く訪れる。

 では、「運のいい組織」も存在するのだろうか。今回は「組織編」と題して、「何をやっても成功する組織」について考えていきたい。


◎ 追いかけると逃げるのは異性だけではない

 職場の壁が見えないくらいに目標の数字と各担当者のノルマの達成状況を表すグラフがぎっしりと張り出され、スケジュール帳には朝昼夕の1日3回の進捗会議がびっしりと書き込まれている。「営業」と名の付く職場に限らず、多くの職場ではありふれた光景だろう。多くの人は仕事の出来を数字で管理されている。

 目の前に数値化された成果を突き付けて数字を探求させる仕事のやり方は、短期的には結果につながることもあるだろう。しかし、数字に対する強いプレッシャーが、成果が伸び悩む最大の原因になることもあるし、更には結果への強迫観念が不正行為の呼び水になり、とてつもなく大きな損失が組織にもたらされた事例は枚挙にいとまがない。数字で社員に語りかけたることを得意としたカルロス・ゴーン氏が日産を追われたように、職場の意識が数字にばかり向かうようになると、プレッシャーをかける方も、かけられる方も、両者が共に不幸になることが多いようだ。

 一方で、表立って数字を追いかけることはせず、別のものを追いかけることによって驚異的な成果をあげ続けている企業もある。サウスウエスト航空は911同時多発テロのときも、リーマンショックのときも黒字を確保し、50年近く増収増益を続けているエクセレント企業だが、彼らが第一に追求しているのは「従業員の幸福」だ。また医療機器販売のストライカー社は1958年に年間売上高が100万ドルを突破してから今日までの60年間、ほぼ毎年10%から20%の増収増益を続け、2018年の売上は136億ドルに達した。 彼らが創業以来こだわり続けているのも、数字ではなくて「社員が自分らしく働きがいを感じる職場づくり」だ。では、なぜ「数字は追いかけると逃げてしまう」のに、「従業員の感情を優先すると数字は自然と出来上がる」のだろうか。


◎ 「懸命」に働くより「賢明」に働いたほうが成果は上がる


 現在、仕事の成果を最大化させるために働き方に求められているのは、創造性や柔軟で迅速な意思決定、そして前例にとらわれない独自の判断だろう。かつて働くことはマニュアルに従って、決められた手順通りにミスなく作業をこなしていくことだった。ところがマニュアルで対応できる仕事は年々減っている。厳しい競争に勝利し、顧客の心をつかむためには、すべての従業員は頭をフル回転させ、知恵を絞り出し続けなければならない。たいていの職場では数少ないチャンスを、一つでも多くものにすることが求められている。「懸命」に働くことも大切だが、それだけでは十分とは言えない時代になった。従業員一人ひとりが常に頭を使って「賢明」に働かなければ幸運はつかめない。

 しかし、一人ひとりがただ賢明に働くだけでも足りなくなっている。激しい変化に取り残されないためには、時間をかけてゆっくりと考えている余裕はない。そこで大事なのは、各人が一人で考えるのではなく「多くの人が手分けして、様々な角度から考え、組織のなかにある知恵をみんなで共有する」という方法だ。クリス・アージリスが「学習する組織」を提唱してから半世紀近くがたつが、今日チームメンバーが意見やアイデアを持ち寄って「ともに考える」ことができるかどうかが、組織の成功を左右するもっとも大きな要因になった。勝ち続けている「幸運な企業」は、従業員が「賢明」に仕事ができるようにする環境づくりに余念がない。

 ところが日本には、いまだに「懸命」に働くこと(ときには「賢明なふりをする」こと)にばかり熱心で、「賢明」に働くことの大切さに気づかない経営者やマネジャーが多い。数字に対する強いプレッシャーにさらされながら働く人たちは考えることさえできないほど疲れ果て、その結果、目の前にあるチャンスに気づくこともできず、つまりはツキに見放されたような状態になり、追い求める成果はどんどん遠ざかっていく。


◎ なぜ多くの職場はツキに見放されているのか

 多くの日本企業はなかなか結果の質を高めることができずに苦しんでいる。日本の労働生産性はアメリカの6割程度でしかない。平均的な日本人労働者は同じように頑張っても、アメリカ人の半分ちょっとの付加価値しか生み出せない。その原因は、管理職と従業員の双方が、結果を出すことを意識し過ぎるあまり、結果を出すために何が必要なのかを深く考えなくなってしまったからだ。

 「幸運」とは偶然の産物であることは滅多にない。たいていの場合、「幸運」は目の前にあるチャンスに気づくことができるか否かにかかっている。ついていると言われる人は、チャンスを活かす能力が高い。法人組織の場合、生産性を上げ収益を向上させる機会は意外なほど多くあるものだ。仕事のプロセスの些細な部分を変えるだけで業務効率が格段にアップしたり、接客方法にちょっとした工夫をするだけで顧客満足度が急上昇したりすることがある。一見取るに足らないものにも思える小さなアイデアがチームの業績を驚くほど向上させることがあるのだ。

 変革のための工夫やアイデアの大半は、実際にその仕事を行っている現場から出てくるものだが、ちょっとした工夫や小さなアイデアが何一つ出てこない組織も多い。そして、現場が意見を発信しなければ、その組織やそこで働く人たちが成功できる確率は低い。誰かが「これって、こうした方がいいんじゃない」と思っていても、それを口に出さなければ改善が実行されることはない。つまり多くの職場では、幸運の源泉である「気づき」が活用されずに封印されているのだ。人間は誰でも一人ひとりが異なった考え方やバックグラウンドを持っており、同じ物事でも違った角度から見ることができる。10人のチームが10人全員の「気づき」に耳を傾ける態度なら、そのチームは10人全員の賢明さを活用することができる。しかし、みんなが意見を言いにくい職場では、リーダーが一人頭を悩ませることになるが、たった一人で考えても大して可能性は広がらない。チームが満足な成果を上げていくためには、メンバー全員が頭をフル回転させる仕組みがどうしても必要だ。


◎ 職場の「関係の質」を向上させることで従業員全員の知恵と感性を総動する

 何をやってもうまくいく幸運な組織を作りたいのなら、 私たちはなんとしてでもチームに所属するメンバーの「気づき」が積極的に発信され、チーム内で共有される仕組みを作らなければならない。そこで役に立つのが、ダニエルキム博士が提唱する「成功循環モデル」だ。組織が達成する「結果の質」には、「行動の質」「思考の質」「関係の質」という、3つの側面が関連している。博士は「結果の質」を高めたいのであれば、まず「関係の質」を高めなければならないと言う。ところが、 失敗する大半の組織では「結果の質」にこだわり過ぎるあまり、「結果の質」を台無しにしてしまっている。

 「結果の質」をどれだけ意識しても成果はなかなか上がらない。しかし、プレッシャーはどんどん増幅するので、「関係の質」が悪化し、 チーム内には対立や責任の押し付け合いが起こる。そうするとチームメンバーの「思考の質」は低下する。後ろ向きの考え方が横行するばかりか、思考停止のメンバーが増える。そうなれば自然と「行動の質」も悪くなり、失敗回避を目標にした行動や保身、消極的な行動が増加し、チーム内には利己的な行動が目立つようになる。こうしてますます「結果の質」は悪化する。

 しかし、リーダーが何よりも「関係の質」を重要視するなら、そのチームが「結果の質」を高められる確率は格段に上昇する。「関係性の質」は「結果の質」に直接影響をしていないように見えるので、ここで問題意識を持つ人は少数派だが、「何をやってもうまくいく」チームは例外なく「関係の質」を最重要視している。「関係の質」を向上させればチームメンバーは 活発に対話し、お互いを尊重し合うようになり、みんなで知恵と力を出し合うようになる。そうすれば「思考の質」も向上する。誰もが知恵と感性を総動員して考えることが面白くなり、多くの気づきや優れたアイデアが生みだされる。「行動の質」が良くなってくる。新たな挑戦や助け合いが活発化、誰もが自発的に情熱的に行動するようになる。こうなれば自然と「結果の質」は向上する。さらに、すぐれた成果を実感できたメンバーは一層相互信頼と結びつきを強化し、チームへの貢献意欲も高まって、より大きな成果が生まれるようになるというわけだ。

 さて、皆さんが働く組織の「関係の質」はどのような状況だろうか。ビッグデータの解析からも、「関係の質」が、そのチームの将来の業績を正確に予想するために最も相関性の高い因子であることが分かっている。「幸運な組織」を作りたいなら、リーダーは部下に数字のプレッシャーをかけるよりも、まず部下と信頼関係を築くことを優先しなければならない。

 

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