「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

脱原発には スーダンの石油が必要になる理由

前号で伝えた

油田が集中している南スーダンを分離・独立させる戦略の裏にある中国とアメリカの思惑

ココに日本のエネルギー政策を揺るがす要素が眠っていた!


【中国がアフリカに ぶら下げた“ニンジン”】

 欧米の石油資本が90年代初めにスーダンから撤退すると、中国の進出が始まった。中国のエネルギー調達戦略は米国の権威ある外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(20059月・10月号)に掲載された「中国のグローバルエネルギー調達戦略」という論文の中で、外交、取引協定、援助、安全保障のパッケージという欧米諸国では見られない効果的な組み合わせによって積極的に産出国の支持を得る事にあると述べられている。その中には、武器の輸出を積極的に行う事も含まれていた。この基本政策からすれば、紛争の絶えないアフリカ諸国は、中国にとってまさに格好のターゲットであったのだ。

 

【驚きの中国の内政干渉政策】

 南アフリカに本拠を置くシンク・タンクExecutive Research Associates200910月に発表した「アフリカにおける中国‐戦略的な概観」によると、中国の外交政策の最終決定要素は国際関係における米国の覇権に対抗してバランスを取る事であり、欧米諸国に対する反帝国主義勢力の役割を果たす事で、低所得者層の多い資源大国と積極的に外交関係を構築、その資源を中国が丸抱えで本国に流入させる事にある。

具体的には「民主主義に移行する以前の経済成長を目指す」という、小平が唱えた開放経済政策を基礎とした中国モデルを開発途上国に提示。民主化は開発の必須条件で在るべきではない。代わりに自らのモデルを求める事ができるとした。つまり内政不干渉政策の提唱である。この内政不干渉の取り決めをする事で欧米諸国が支持できない政権との取引が可能となったのだ。これにより、途上国の政府は力づくで反対勢力を抑え込み、大量に採掘した天然資源を中国に輸出し、富を得る、という構図が出来上がった。その典型的な例がスーダンで起きている一連の出来事である。

【武器と石油を交換している中国外交】

 スーダンのバシール大統領は、中国のバックアップを受けて南スーダン各地の石油開発に軍隊を投入し、住民の強制立ち退きを強行。更には油田やパイプライン警備にあたらせたのである。その結果、スーダン産の石油は中国の石油消費の5%にまで達した。

 中国はバシール政権の強硬姿勢を支援するため、石油代金の一部を国連安保理で禁止されている戦闘機を含む様々な兵器類を供与。そのため南スーダン住民への軍事攻勢は苛烈を極め、西部地域にある油田地帯のダルフール地方では、政府軍による空爆を含む無差別攻撃が繰り返された。

 その結果、多くの民間人に死傷者が出て、バシール大統領には国際刑事裁判所から大量虐殺容疑で国際逮捕状が発令される事態となった。バシール政権に軍事支援を行った中国には国連をはじめ世界からの非難が強まり、北京オリンピックのボイコット運動にまで発展していった。そしてオリンピックの演出総監督を務めるはずであったアメリカの映画監督スピルバーグ氏の辞退にまで至ったのである。

当然のことながら、南スーダン住民の間にはバシール政権に対する反感が高まり、南スーダン独立の機運が高まった。

それをアメリカが支援したとしても不思議ではない。事実、独立後の南スーダンで中国とバシール政権に対する石油絡みの事件が勃発する。

【中国系石油会社の社長に国外退去命令】

 2012220日、南スーダンの石油エネルギー・鉱山省が南スーダン最大の石油会社ペトロタール社の劉英才社長に対し、72時間以内に国外退去するように命じる事件が起きた。同社は中国の国有石油会社、中国石油天然気集団公司(CNPC)が中心となって2001年にマレーシアの国営企業などと設立し、現地で石油生産を行う共同企業体である。

この会社だけで、南北スーダンを合わせた石油採掘量の5割強の生産量がある。

20117月に成立したばかりの南スーダンは、国家収入の9割を石油に依存し、内6割が中国向けである。その生産の半分以上を担う会社の中国人社長を国外追放したのだから、南スーダン政府にとってはよっぽどの決意が必要だった事だろう。現地からの報道などによると、同社がスーダン政府と結託し、南スーダンが決めた石油生産停止に従わず、生産と輸出を継続し、売り上げの一部をスーダン政府に渡していたことが原因だとされている。

前号でも述べたように、スーダン油田の80%が内陸部の南スーダンに集中しており、輸出するには陸路で海まで運ばなければならない。他方、油田は少ないが、紅海に面する北スーダンはパイプラインで南スーダンの石油を輸出できる。北スーダンの輸出する石油の70%以上が南スーダン製だと言われているのだ。

南北スーダンは南スーダン産石油の売り上げを折半する事となっていた。ところが北スーダンが突如支払いを停止。それに対抗するため、南スーダン政府は今年120日に石油採掘を全面停止した。

というのが上記の中国人社長追放にまで至る経過である。

【なぜ政府は強硬手段に出たのか?】

 問題はほぼ唯一の国家収入源である石油の採掘停止という強硬手段に出たかという点である。この事はアメリカの後ろ盾が無ければ実現不可能と見るのが最も蓋然性が高い。

例えば、アメリカの影響力の強いケニアを通じてパイプラインが通れば、直接インド洋に運び込める。このパイプラインが完成すれば、北スーダンを経由せずに輸出が可能となり、北スーダンは永久に収入の半分近くを失う事となるわけだ。軍事と経済を全面的に中国に頼った北スーダンは窮地に立たされる。その結果、中国そのものの、アフリカ戦略を揺るがし、アフリカに於けるアメリカの巻き返しとなるわけだ。パイプラインの建設にはアメリカ企業が国際的事業として資金を募れば、日本企業等も参加の道が開けてくる。この事は今後の日本のエネルギー政策を左右するかもしれない重大な意味を含んでいるのだ。

【脱原発にスーダンの石油が必要な理由】

福島原発事故以来、5月末に全ての原発が止まり、その再会問題を含めて未だに国家戦略としてのエネルギー政策が決まらない日本。が、その方向性は脱原発の流れが強い。となると硫黄分の少ないスーダン製の原油は発電用の生炊き原油として様々な意味で有効である。日本の製油施設は重質の中東原油用に作られているので、これまでスーダン製をはじめとするアフリカ産の良質な軽質油をあまり必要としていなかった。だから、日本は石油問題で中国とあまり利害が対立する事は無かったのである。

しかし、今後は著しい状況の変化が予想され、中国との軋轢(あつれき)がアフリカでも増して来る可能性が出て来たのだ。従ってアメリカと中国の狭間での対アフリカ戦略が今後の日本のエネルギー政策の流れを決めて行く事となる。

 

【増え続けるだろう スーダンの採掘量】

World Energy Councilが発行している最新資料「2010 Survey of Energy Resources 」によると、2008年の開発ペースが継続するとして、スーダンでの利用可能な原油と液化天然ガス埋蔵量は67億バレル。これは世界の埋蔵総量の約11%を占めるアフリカ大陸で第5位という膨大な量であり、今後、最新技術による油田開発と大規模なインフラ整備が進めば、その量はさらに拡大する。

現在、日本がPKO部隊として自衛隊を派遣し、インフラ整備に汗を流している事を考慮に入れれば、南スーダンが日本の対アフリカ戦略のみならず、日本のエネルギー政策を展開する重要なステージとして浮かび上がってくる事は間違いないようだ。

 

<<バックナンバー>>
2012/06/01 良質な石油が眠るアフリカで PKOがする仕事
2012/05/01 北朝鮮のミサイル発射に潜む「中東」の核事情 



会社案内個人情報著作権リンクポリシーお問い合わせ
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は泣}ジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2012,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.