「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

ホルムズ海峡封鎖を覚悟した 米国のエネルギー戦略と日本

緊迫するシリア情勢、イスラム原理主義政府が樹立されたエジプト。

中東が大きく動く中で、アメリカは、国内油田開発やオイルシェル採取、更には石油輸入先をカナダ、メキシコ等にシフトする政策を採っている。

これはイラクの核開発に対する経済制裁として、ホルムズ海峡封鎖を含む重大な事態に対処する戦略だ。

日本はイラク産石油10%輸入削減など安易に米国に追随しているが、戦略なき追随は危険極まりない

【世界が見つめた日本での会議】

 78日、東京で開かれた「アフガニスタンに関する東京会合」には、アメリカのクリントン国務長官を始めとする55カ国の外相や政府代表が出席。

 その中にはイランのサーレヒ外相がいた。アメリカとイランは、イランの核兵器開発を巡って激しく対立しているが、今回の会議では趣旨も違い、両外務大臣の直接的な動きは目立った形で表面化していない。


 このところイランは、この件に関しては強硬姿勢から柔軟姿勢に転じているようだ。

【4月14日 トルコのイスタンブールにて】

 国連常任理事国にドイツを加えた6カ国との核協議が、約13カ月ぶりに開かれた。ウランの濃縮度を高める作業の中止を求める国連側に対して、イランは、一定程度の必要量が確保できれば停止することを表明。アメリカのメディア等によると、これは対イラン経済制裁が国民生活を直撃し、国内の不安定要素が高まったためだとされている。

 実を言うと、アメリカのイラン核兵器開発に対する経済制裁は2年前から具体的な形で始まっている。


 
20107月、オバマ政権は「対イラン制裁法」を制定。イランにガソリンを輸出する企業、核開発に関与する革命防衛隊と取引する金融機関への制裁をこの中に盛り込んだ。これはアメリカの対イラン独自制裁としては史上最も厳しい内容だと言われているのだ。今のところ、経済制裁が効いてイランはやや軟化したように見えているが、第1回目で述べたように、水面下ではイスラエルとの暗闘が続いており、イスラエルが核施設攻撃に暴走する可能性も高い。そうなれば、ホルムズ海峡封鎖等、世界のエネルギー流通が一気に危機的な状況に陥ってしまう。中でもほぼ90%の石油がホルムズ海峡を通って来る日本は間違いなく致命的な打撃を受ける。

【アメリカは エネルギーシフト宣言!】

1日当たり1100万バレルを輸入している世界第一の石油輸入国であるアメリカ(第二位は日本)が、なぜこのような強気の政策に出ているのか。この背景には中東で有事が起きる事を想定したアメリカのエネルギー戦略が在った。それにはブッシュ政権が湾岸戦争で中東地域の不安定さを、身を持って体験した事が大きな原因の一つとしてあげられる。

20058月、「2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)」を成立させたブッシュ政権は中東の石油への依存脱却を鮮明に打ち出し、2017年までに主としてバイオエタノールの導入拡大と燃費改善によってガソリン消費の20%削減を目標に掲げた。それと同時に、ホルムズ海峡経由の石油輸入ルートをパイプラインの施設により紅海や地中海経由のルートに切り替えた。更には輸入先自体をカナダ、ナイジェリア、ベネズエラ、メキシコ等に切り替えて対中東依存度を減らして行ったのだ。

【アメリカはエネルギーの純輸出国になる】

その上、メキシコ湾やアラスカ等、国内での油田開発の他に、天然ガスやシェールオイル、シェールガス、シェールサンド等の非在来型エネルギー開発が急増しており、エネルギーの自立度が高まっている。中でもシェール石油・ガス開発では水圧破砕法と呼ばれる手法が確立し、環境破壊の懸念がありながらも爆発的な開発ブームとなっているのだ。このままいけば、今後10年間でアメリカはエネルギーの純輸出国となり、シェール石油・ガス開発はアメリカのGDP成長率を1%程度引き上げると言う強気の予測が報じられている程である。

【オバマ大統領 脱石油で原発推進 !?

更には、アメリカの象徴的な産業であった自動車業界大手が次々と倒産した事実を受け、オバマ政権は、エネルギー安全保障を軸にした脱石油政策を打ち出した。オバマ大統領は20113月、ワシントンのジョージタウン大学で講演。

そこで述べられたのは、石油に基づく経済では、石油価格が社会全体に影響を与えるが、今後、新興国の台頭によって石油の価格は上昇の一途を辿る。と同時に需要が供給を上回る事は確実である。この事からすれば、アメリカの長期的な繁栄と安全保障は石油に頼る事から脱却する事にある。今後10年程で現在の消費量の3分の1を削減する新たな目標を設定する―との趣旨であった。

具体的には原発推進を強め、全米11か所の新規申請を承認。石炭火力の効率化の推進も宣言した。長距離輸送では鉄道利用を決定。更には大陸横断新幹線構想を進め、日本のシステム導入の可能性も出てきている。この様に明確な脱石油依存と電気エネルギーへの依存シフトを打ち立てる事で自動車に依存しているアメリカ人のライフスタイルの変革も迫っているのだ。

この様な長期的、且つ総合的エネルギー戦略に基づいて具体策を着実に実行しているアメリカにとって、中東情勢が悪化してホルムズ海峡が封鎖されてもそれほど困らず、厳しい経済制裁をイランに加えられる根拠がそこにあったと言える。

アメリカは対イラン制裁法に基づいて同盟国や友邦国に同調を求めており、EU各国は7月からイランに対する制裁強化に踏み切る。もし、イランからの石油輸入を大幅に減らさなければ、アメリカでの金融取引禁止という厳しい制裁を受けるからだ。これに関して日本はアメリカとの交渉の結果、イランからの石油輸入を約10%削減するとの輸入削減努力が認められて、アメリカから制裁法の適用が免除された。が、今後の成り行き次第では更に厳しい対応を迫られる可能性が強い。 

【石油と共にすすめるべきエネルギー転換】

日本では福島原発事故以降、将来を目指した様々なエネルギー戦略が語られ、議論が行われている。しかし、経済産業省の新・国家エネルギー戦略や、7月のエネルギー問題に関する国会質疑を見ても、省エネルギー、燃費効率改善などという経済効率を求める極めて視野狭窄的論議がなされている。いま、日本にとって焦眉の急は、ホルムズ海峡封鎖という、日本が関与できない状況が起きたら、即座に干上がってしまう石油に替わる、エネルギーの獲得手段の確保。そして、新興国の需要上昇で今後確実に値上がりする石油価格への対処。それに伴う脱石油依存戦略、国内資源開発等、エネルギー安全保障の観点による根本的な議論であろう。

とは言っても、石油からの急激な転換と言うのは、現実的ではない。石油と言う使い慣れた資源と、未知なる代替エネルギーとのバランスを取れるのは、既存のエネルギー供給起業の大きな役割であろう。

<<バックナンバー>>
2012/07/01 脱原発には スーダンの石油が必要になる理由
2012/06/01 良質な石油が眠るアフリカで PKOがする仕事
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