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国士舘大学政経学部政治学科講師

 中華思想とこれからの中国、第1話 


尖閣問題ではじめて知った中国の姿 

歴史的にみると、古代からこれまでの日本の政治・経済は対中国関係に大きく左右されて来たと言える。第二次世界大戦後も基本的な枠組みは変化していないが、一般の日本人があからさまに負の存在としての中国を意識せざるを得なくなったのは、2010年9月7日に尖閣諸島周辺で操業中の中国漁船が海上保安庁の巡視船に意図的な体当たりをし、公務執行妨害で逮捕されて以来であろう。この時、高圧的な中国の態度に対する民主党政権の見るに堪えない外交姿勢と、それに伴う事件処理のまずさもあって、政府への信頼が大きく崩れた。それと同時に、中国に対して行った長期に亘る宥和政策がほとんど意味をなさなかった事を多くの国民が悟った。

 その結果は2012年8月と10月に行った日本リサーチセンターの意識調査に如実に表れている。「中国が嫌い」と答えた人は8月には52.6%、10月には63.9%。「日中関係は悪い」と答えた人はそれぞれ57.9%、85.1%となっており、双方とも時間がたつに連れて大幅に増加していたのである。 

尖閣における歴史的事実 

尖閣諸島は1895年1月14日、日本で閣議決定されてから現在に至るまで日本固有の領土で在った。ところが、尖閣周辺の海底に石油・ガス資源の存在が確認された事から、1970年6月に台湾が、同年12月に中国が領有権を主張。それに対して日本政府は実効支配下の尖閣諸島には領土問題は存在しないという態度を採って来た。

戦後の日中関係構築の大きな節目となった1972年の国交回復交渉のときにも日本は一貫して「日中に領土問題は存在しない」と主張。だが1978年、鄧小平は来日する直前に100隻以上の、まさに海上民兵を乗せた漁船を尖閣諸島周辺に送り出して領土問題の存在をアピール。福田赳夫首相(当時)との会談で、鄧は「大局を重んじよう」と呼びかけて煙に巻き、その後の記者会見において「我々の世代は知恵が足りない。我々より聡明な次の世代は、みなが受け入れられる解決策を見出し解決してくれるだろう」と述べ、棚上げ論を展開したのだった。従って、「尖閣列島問題棚上げ論」なるものは公式の会談で持ち出した話ではない。記者会見での発言にいちいち反論しないというのが日本政府の態度であった。


中国は鄧小平の改革開放経済政策を推進するため、日本から資金や技術の援助が必要であり、日本との軋轢は当分の間避けなければいけなかった。日本は冷戦構造の中で中国と国交回復をし、対中融和政策を採ろうとしているアメリカの意向もあり、オイルショック以降の経済回復のために巨大な中国市場獲得競争に積極的に打って出る必要があった。その結果棚上げ論を黙認する事となった。が、経済成長の過程で力をつけて来た中国は1992年、鄧小平政権下に於いて尖閣諸島領有を明記した領海法を制定し、棚上げ論とは正反対の行動を採ったのである。

この事からすれば、昨年9月に民主党政権が尖閣諸島を国有した後、にわかに中国の強行姿勢が強まった様に受け取る日本人が多いだろうが、鄧の時代から、日本の政権が自民党か民主党か、首相が誰かとは関わりなく、中国の立場は一歩も後退していないという事実を見逃してはならないのである。 

中国政府が着実に進める国家プロジェクト 

問題は中国がなぜこのような行動を採るのかである。後に様々な視点で詳述するが、その原因の一つは中国が経済成長を遂げる過程で資本、資源、市場を世界中から獲得しなければならないという必然的なグローバル化の結果として表れたものとしての見方である。経済成長を遂げて行くためには死活的な要素である貿易ルート・シーレーンの確保が至上課題となって来る。この事は第一次大戦前のドイツがプロシャの統一の過程で普墺戦争、普仏戦争に勝利して経済成長を成し遂げ、イギリスと軍拡競争を行いつつ海外進出を試みるというドイツのグローバル化が二度の世界大戦の原因となった歴史が証明している。従ってかつてのドイツがそうであったように、中国を安定した豊かな国家とするために中国政府は冷静且つ着実に計画を進めて行く。この様な一貫した中国のグローバル化という視点で見れば、日中が緊張関係になるのは当然の事であり、これからも混乱が深まると認識すべきなのである。中国との対話で問題が解決できる、もしくは解決しようとするのは、上記のような歴史認識を欠いた戦後日本の特異性が成せる願望でしかない。対話は一時的な対症療法で在り、根本的な認識を欠いていれば対話さえも成り立たないのが現実的な状況だと思うべきだろう。だからと言って、軍事的な対立を優先課題としているわけではない事は明言しておきたい。要は基本的なトレンドをしっかりと把握して、中国と対話を成立させるためのオプションを広げる事が必要なのだ。

次号からは、この前提に基づいて共産党の一党支配という中国の特殊事情と、それが故に起きる経済格差、これに連動する国内の不安定要素拡大の問題をグロバリゼーション、ナショナリズム、経済成長という視点で述べていきたい。言うまでもなくこの三つは複雑に絡まり合って、外部から見れば中国の複雑さ、解り辛さの原因となっているのである。

 

 

 

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