「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

中華思想とこれからの中国、 第2

「尖閣のFCレーダー照射事件を
中台の金門島における軍事衝突の歴史から紐解く」

当然の選挙実施に払われなければならないコスト

1996年3月、私は中国支配地域から最短で2.1㎞しか離れていない台湾領金門島に滞在していた。この時台湾では同月23日に実施される、指導者を住民の直接投票で選ぶ初めての総統選挙を目前にして息が詰まる程の緊張感に満ち溢れていた。この選挙に圧力をかける目的で中共軍の海軍部隊が台湾海峡に展開して軍事演習を行い、基隆沖にミサイルを撃ち込むなどして選挙妨害を繰り返していたのである。私の取材目的は金門島とその隣の島馬祖で戦闘に備えて展開した台湾軍の動向と、2万名近い住民避難の実態を調査する事に在った。戦車、装甲車、完全武装した兵士の行軍、兵と軍需物資を満載し、猛スピードで駆け抜ける軍用車両、夥しい数の上陸用舟艇とそれにわずかな荷物を持って乗り込む住民達…目の前に展開している光景は映画で見る戦争のシーンより遥かに現実離れしているように見えた。我々日本人には当たり前になっている“選挙“を実施するためにこれ程の犠牲を払わなければいけないという現実に正直戸惑っていたのだ。

 台湾に対する軍事圧力を巡って、中共軍は米国政府に向けて「米軍が介入すれば、米西海岸に核攻撃をかける。米国政府は台北よりロサンゼルスを大切に思うはずだ」との恫喝をかけ、対米戦争に向けての覚悟を表明。これに対して米海軍は横須賀から空母キティホークを中心とする空母打撃群を台湾海峡に向かわせ、更にはペルシャ湾に展開していた原子力空母ミニッツの空母打撃群を派遣。キティホークは北から、ミニッツは南から台湾海峡に入った。米空母打撃群は1個で沖縄嘉手納空軍基地に匹敵する攻撃力を持ち、中規模国家並みの打撃力を持つ。これが2個も台湾海峡に入り中共海軍を牽制する事となった。その結果、中共海軍は『予定通り』演習を終了したとして、早々と港に引っ込んだのである。

 総統選挙は無事実施され、反中共を唱えた李登輝が初代の民選総統となった。選挙をつぶそうとした中国の圧力に反発した民意が反映され、中国の政治的手法が全く正反対の結果を生んだ典型例だとされた。この様な民主主義的な手続きを経た政治を実行するために、動員された台湾軍はのべ70万人。この事実から、中国の意に反する事を周辺諸国が実行しようとすれば、コストを覚悟しなければならないという教訓が導き出される。と同時に、核攻撃恫喝に対して米海軍が2個空母打撃群を派遣したように、実力を誇示すれば、中国は引くと言う事が証明された。つまり、居丈高な軍事恫喝に真正面から反応すれば相手方のペースにはまってしまうという事である。相手の実力を冷静に見積もって行けば、あまりコストをかけずに十分対処可能なのだ。この事を示す好例がごく最近尖閣近辺の海上で起きた。

◎照射事件発表のタイミングは米国を巻き込む外交上の駆け引き

金門島の例と同じく、島を巡って日本に仕掛けてくる中国の軍事挑発として、尖閣周辺の公海上で中共海軍のフリゲート艦が海上自衛隊の護衛艦に対してFC(射撃管制)レーダー波を照射した事が大きく採り上げられた。ここで問題とされたのが、実際にレーダー照射が在った日時と防衛相がその事実を発表するまでに6日間のタイムラグがあった点である。これについては様々な憶測が流れたが、政府は詳細な分析をするための時間が必要で在ったとの一点張りで通した。実を言うとFCレーダー波を受けると搭載装置は通常の捜索レーダーと識別して即時に警報が鳴る。それには誤認はありえない、誤認するようでは兵器として役に立たないからである。にもかかわらず、『分析』を続けたという背景には発表のタイミングを計ろうとする政治の判断が存在したからだと言えるのだ。

 そのタイミングとは安倍首相とオバマ大統領との日米首脳会談にできるだけ近い時期、かといって、この情報が色あせてしまえば効果が半減するのでそうはならないギリギリの時期。この間中国の傍若無人な圧力外交を浮き彫りにし、それに対して国際法を順守しつつ我慢に我慢を重ねる日本…という構図を創り上げ、日本に有利な国際世論形成を図った。事実、バネッタ米国防長官はその後の講演で「中国は他国を脅かし、領土を追い求め、紛争を生み出すような国になるべきではない」と名指しで中国批判を展開した。更には「通常の捜索レーダー照射にもかかわらず、日本は事実をねつ造して中国を落しめようとしている」とする中国側の言い分に対して、国務省報道官が「中国がFCレーダーを照射したのは事実」と発表。この様な米国の反応を得た事でこの問題は決着付いたとして良い。日本政府はねつ造論を繰り返す中国側に対して、分析データ及び画像を公表する構えを見せたが、米国の反応が確認できてからはこれを早々に引っ込めたのである。このデータ公表の顛末についても戦略的な意向が見える。分析データや画像は当然の事ながら、早い時点で米国には渡し、上記のような発言を引き出す根拠を米側に与えた。もし、米側の反応が鈍ければ、可能な限り、データを公表し国際社会にアピールする。が、これに対して中国は何としてもレーダー照射は認めないだろうとの読みがある。米国が早々と中国の非を認めたのであれば、謝罪する可能性が全くない中国相手にデータ公表して手の内を晒す危険は冒さないという戦略が在ったと言えるだろう。その結果、今後、中国がどのような悪口雑言を日本に浴びせようが、中国の言い分がそのまま正しいと信じ込む雰囲気が薄まったと言えよう。この事実から見えたように、戦略的対応を採る事ができれば、現実的なコストをかけることなく中国に対処できるのだ。

 ◎歴史から学ぶ中国の手法、恫喝とメンツの裏にある本音

 島を巡る争いで金門島の歴史は参考になる。中国はこれまで二度に亘って金門島を奪取するために軍事攻撃を仕掛けている。一度目は1949年である。この年の10月1日、国民党軍との内戦を制した共産党が中華人民共和国を設立。台湾に逃げ込んだ国民党軍は中共が支配する場所から最短2.1㎞しか離れていない金門島を実効支配していた。10月25日、中共軍は金門島に上陸作戦を敢行。その時の兵力は1万9千名。上陸用舟艇等はほとんどなく、民間の漁船等を徴用して兵員を送り込んだ。迎え撃つ台湾側の兵力は約4万、海軍力で勝った国民党軍は大陸からの補給を絶ち、内陸部に攻め込んできた中共軍は武器弾薬の補給が乏しく、国民党軍に撃破されてしまった。中共軍の戦死者3873人、捕虜5175人、台湾側の戦死者1267人、負傷者1982人。金門島にある戦史館にはその時の模様がつぶさに展示されている。

 二度目は1958年8月、中共軍は対岸のアモイから金門島に砲撃をしかけた。砲撃は同23日夕刻から始まり、2時間で4万発、1日で5万7千発の砲弾を打ち込む程の激しさであった。砲撃は10月5日まで44日間連続したが、その間発射した砲弾は全部で約48万発、台湾側の死傷者は440名余に上った。中共軍は「人道的理由」により砲撃をいったん中止すると発表したが、その実は9月に入って、米軍から最新鋭の8インチりゅう弾砲が届き、アモイに向けて本格的な反撃が始まり、効果が上がって来たからであった。台湾軍はその勢いに乗ってアモイ逆上陸をも仄めかし、中共軍を威嚇。この情勢に中国政府が躊躇したというのが本当のところである。その後、金門島に対する砲撃は散発的ではあるが、実に1979年まで続くのである。私自身も1996年にアモイの砲台を取材したが、砲はコンクリートで覆われ、実に堅牢な造りで在った。この時の感想は、中国は攻撃当初は勢いよく飽和攻撃をかけてくるが、これを凌いで反転攻勢をかければ、実にあっけなくしぼんでしまう。が、問題はメンツを保つために、実にしつこくやって来る…という事である。

 金門島攻防戦の教訓を尖閣に当てはめて見れば、実に単純な結論が導き出される。それは、中共軍にとって、尖閣諸島までの距離とは比較にならない、金門島までのたった2.1kmの海がとてつもなく大きい溝になっているという事である。古来ランド・パワーに頼って来た国民性は容易にシ―・パワーへの変換ができない。前回でもふれたが第一次大戦前のドイツがランド・パワーの国家であり、グローバル化の過程でシ―・パワーに変換しようとしてイギリスに対抗して行くという流れの中で二つの大戦が起き、結果は全てドイツの敗北で終わったのである。

尖閣に対する中国の行動に対応するには上記の事を十分組み込んで、思考のパターンをつかんだ上で戦略的な行動を採って行かざるを得ない。それには中国の地政学的な位置づけを理解し、居丈高な恫喝の裏にある、ある種の怯えを見て行く必要があるだろう。次回はそれについて考察して行く。

 

<<バックナンバー>>
2013/1 中華思想とこれからの中国、第1話 
2012/12 日本と韓国の「本当の姿」
2012/11/01 「反日を貫いて生き残れるか 韓流経済が抱える深い影」
2012/10/01 女性が開き 男が動く世界が注目! 新時代を告げるミャンマー経済
2012/9/01 ミャンマー•ビジネス参入の為の“重要事項”
2012/08/01 ホルムズ海峡封鎖を覚悟した 米国のエネルギー戦略と日本
2012/07/01 脱原発には スーダンの石油が必要になる理由
2012/06/01 良質な石油が眠るアフリカで PKOがする仕事
2012/05/01 北朝鮮のミサイル発射に潜む「中東」の核事情 



会社案内個人情報著作権リンクポリシー
本ページに記載の記事・写真などの無断転載を一切禁じます。
著作権は㈲マジカルネットワークまたはその情報提供者に帰属します。

Copyright (C); 2013,
Magical Network Inc. All Rights Reserved.