「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

中華思想とこれからの中国、第4話

限界に近づきつつある中国の政治制度や経済成長

◎共産党の世界観がすべてに優先する中国

 2013年2月6日、中国の政治システムの本質を垣間見せる象徴的な事が起きた。中国海軍のフリゲート艦が自衛隊のヘリコプターと護衛艦に向けてFC(火器管制)レーダーを照射したと日本の防衛省が発表し、同時に外務省が中国外交部に厳重抗議を行ったと公表した後、北京で行われた中国外交部の記者会見がそれである。この時、外交部の女性報道官に対して記者が日本政府の発表について事実確認を求めた。それに付いて、女性報道官は一瞬沈黙し、戸惑った表情で瞬きを繰り返しながら、「その件については関係部署に問い合わせて欲しい」と答えたのだ。重ねて記者が「外交部は日本が抗議するまでこの件を承知していなかったという事か」と尋ねたところ、「そう思ってもらっても構わない」と返答したのである。その後、外交部は公式見解として、FCレーダー照射は事実無根で日本政府のねつ造であると強弁。日本政府に対して著しく礼を失する態度に出た。

 日本に限らず、近代国家の行政府では外務と防衛はそれこそ車の両輪のようなもので連携を密にして互いを補完しつつ対外政策を行うのが常識だ。であるにもかかわらず、中国の政治システムではこの様な重要問題について両省の連携が成立していない事がこの一件であらためて全世界に知らされた 

 それは中国が共産党の一党独裁国家で共産党の意向や世界観が全ての価値の最上段に存在しているという事実に深く関与している。更に言えば、毛沢東が指導した共産革命では軍は欠かせない存在であった。以来、人民解放軍は党とほぼ同格の地位を与えられており、他の行政組織とは違う位置付けとなっている。この事から、FCレーダー照射事件に関する外交部の一連の流れを見ると、何らかの理由で2月6日の時点で外交部と人民解放軍の情報共有が出来ていなかった。が、後になって外交部が共産党と人民解放軍の立場を代弁する事になったと見るのが自然だろう。

 中国の政治システムでは外交・安全保障に関する政策は外交部によって立案されるのではなく、共産党中央指導小組(現在では党総書記である習近平が主催)によって立案される事になっている。そこに外交部、軍、国家安全部、エネルギー、通商担当部局など、各省庁の代表が含まれており、共産党の意向が色濃く反映される仕組みとなっているのだ。だからこそ、尖閣での漁船衝突事件ではレア・アースの対日輸出をストップさせ、フジタ工業の従業員逮捕などで日本に対して別角度からのプレッシャーを加え、民主党政権を屈服させた。スカボロ―礁を巡るフィリピンとの争いではフィリピンの主要輸出品の一つであるバナナの輸入を差し止める事で譲歩を迫り、自らの主張を通そうとしたのである。最高権力者(共産党)の意向次第で、純粋な経済問題が外交・安全保障の問題と簡単にリンクされ、外交に於ける法・秩序・国際的慣習等を無視して意思を通す事が出来るのはこの政策決定システムの存在に起因しているのだ。


◎投資・輸出・消費の構造が不均衡

 このような政治の在り方は19世紀半ばに統一国家となり、既に産業革命を成し遂げた近代国家群に追いつくために「開発独裁」制度を採ったドイツや日本等と同様の政策決定制度だと言えるだろう。開発独裁とは、経済発展の途上にある国の政府が、国民の民主的な政治参加を抑制しつつ、急速な発展と近代化を目指す体制。福祉や自由の尊重などの政策は後回しにして、工業・資源開発・土木・軍事部門に経済資源を優先的に配分し、国力の底上げを図ろうとする事で在り、近代的国民国家の基本的な政治制度とは程遠いシステムである。この事を中国の改革開放経済政策に充てはめて見ると以下の様な構図が見えてくる。

 中国のGDPの牽引役は投資、輸出、消費のトロイカである事は広く言われている。このトロイカがバランスよく続けば問題が生じる事はないが、中国経済の現状は、その構造に著しい不均衡が生じている。その一つがGDPに占める個人消費の割合が非常に低い事である。1990年代には48%在ったものが2010年推計では35%に落ち込んでいるのだ。この数字は日本の個人消費GDP構成比の6割弱でしかない。国内消費が減少した分の消費は海外に輸出して賄う外はない。つまり、経済全体に占める消費比率の低下と共に中国は貿易黒字に頼って製造業の安定を図る事になる。事実、中国は人民元の据え置きで輸出を増やして貿易黒字の増大を推進し、製造業の安定的成長を維持してきたのである。その結果、GDPに占める輸出の割合が高くなり、2010年には貿易黒字のGDPに於ける構成比が8%にまで跳ね上がった。因みに日本の貿易黒字はそのGDP構成比の0.2%にしか過ぎない。

 少ない内需を貿易黒字に頼って製造業の成長を維持して来た結果、国際市場への依存度が大きくなった。が、ここ数年貿易額全体が度重なる外国情勢の変化で縮小してきているのが現状だ。しかも、その輸出の約50%は海外資本が中国国内で製造した物だとされている。

 GDPを押し上げるもう一つの要因である投資を見ると、2010年で官民の設備投資は約44%、それに政府消費を合わせると約57%となり、政府と企業の設備投資が突出してGDPを支えているという構造が見えてくる。これらの数字から中国経済の特徴が分かる。それは、政府と企業の設備投資と輸出によって成り立っているという事で在り、中国のGDPは政府の金融・経済対策費の緊急増額で容易に上乗せができるという構図となっているのだ。ここに他国とは違う特徴がある。

 中でも2000年から不動産投資のGDPに占める割合がほぼ倍増し、残りの成長も不動産の需要に追いつくために不動産関連企業が生産拡大をした結果によるものだ。更には、地方政府の政治業績のための大量のインフラ整備、鉄道、道路、空港建設がある。これらの過剰投資は銀行の過剰融資に在る事は言うまでもない。国営企業や地方政府は銀行から大量に金を借りている上、地方役人の実績評価もGDPが基準とされているため、地方政府が地方公共支出を増やして地域のGDP成長の後押しに熱を上げるようになる。そのために地方政府が銀行から借りた金額は、アメリカの格付け会社ムーディーズ社の2011年の研究報告によると19.5兆ドルで、内8%から12%は不良債権だとされているのだ。

 設備投資を含めた民間や公共団体の固定資産への過剰投資が生産能力の過剰を来し、生産過程の自動化によって失業者が増大。稼働率の低い鉄道、道路、空港等は長年かけて償却する必要があるのでかつての日本の様な長期に亘る深刻な経済後退が続く要因となる可能性が高い。つまり、不動産バブルが弾け、それが切っ掛けとなって中国経済がしぼんで行く傾向がこれらの事実から予測でき得るのだ。

 近い将来予測できる最悪の事態を避けるためには、中国共産党の絶大な指導力で経済構造の歪みを是正する事である。それは、内需を増やし、国民に富を渡すと共にGDPに占める投資の割合を減らす事。産業構造をローテクの加工産業からハイテク産業に転換し、輸出型経済構造を変えて外国市場への依存度を減らす事である。問題は中国共産党政府がどのようにしてそれを実行できるかという事だろう。


◎経済の失速が共産党政権を危うくする

 アメリカ前大統領ブッシュ氏の回想録によると胡錦涛主席がアメリカを訪問した際、ブッシュ氏が「何が一番の悩みか」と訊いた時、胡主席は毎年2500万人の雇用を作り出す事だと答えたと言う。この事が示すのは現在の中国共産党の政権基盤が経済の高成長に懸っている事実を共産党最高幹部が認識しているという事だ。従って、どんな状況でもGDPの成長はある一定の数字を下回ってはならないというのが至上命題となる。その数字が成長率8%である。2008年にリーマンショックによる金融危機が世界を襲った時、温家宝首相が対応策として4兆元経済刺激計画、10大産業振興計画等一連の財政出動計画を打ち出し、これらを中国政府の公式サイトでは「保八作戦」と名付けた。これが、GDP成長率8%以上を保つために必要とされた政策である。

 もし、中国のGDP増加が8%以下になると失業率が大幅に上昇。中国社会の至るところに危機が進んでいる現在、失業率の上昇は共産党政権を危うくする要因となる事は間違いないだろう。更には、鄧小平の時代から推し進めて来た改革開放経済政策そのものが破たんし、共産党政権の正統性が失われる事を意味するのだ。

 これまで述べた通り、中国経済の構造的欠陥の最大のものは内需が少なく、それが年々右肩下がりになっている事である。共産党当局はその事を懸念し、内需拡大を重ねて強調している。が、内需の原資となる中国国民の賃金が極めて低く抑えられている。GDPに占める賃金比率は2009年現在、米国58%、英国56%、日本53%、韓国44%、アルゼンチン36%、メキシコ33%、タイとフィリピンで28%、イランで25%、中国8%となっており、世界第2位の経済大国の富が国民にはほとんど行き亘っていない事がこの数字から見えて来る。先にも触れたように、中国政府は人民元を過小評価して輸出を促し、輸出をもってGDPを引っ張る政策を採っている。これは鄧小平時代から始まり、中国共産党が経済成長のために決めた重要な戦略の一つである。従って中国のGDPを引き上げている輸出とそれを賄う製造業は低賃金によって支えられているという事になる。その結果、中国30年の改革開放政策は深刻な貧富の格差を生み、とりわけ9億人にも上る農村人口との格差が急速に拡大しているのが現状だ。従って、中国国民の大多数が個人消費に回せる余裕はなく、内需拡大は中国共産党が行っている現状の経済戦略ではほとんど見込めないという事になる。更に言えば1979年から始めた「一人っ子政策」による少子高齢化で労働人口が減り、国内市場そのものも将来的には縮小して行く。

 この様に、中国共産党の指導による改革開放経済政策30年でもたらされたものは全体のパイとしては世界第2位の経済規模に膨らんだが、その内部構造は極めて歪なものとなっている。それの是正が急がれるが、共産党政権の政策が構造的に破たんしつつある現状も見えて来たと言えるだろう。事実、中国国家統計局が4月15日発表した第1・四半期の国内総生産(GDP)伸び率は前年比7.7%と第4・四半期の7.9%から鈍化し、市場予想の同8%を下回っている。中国共産党政権がこれらの不安定な状況を打破し、経済成長を続けるためにはエネルギー資源の問題も含めて対外的な攻勢に打って出て「生存権拡大」を図り、同時に国民の目を海外の敵に向ける事で政権の延命を図ろうとするのは、これまで繰り返し述べて来た事である。


日中の対話に加え周辺諸国との協調も重要

 この様な中国共産党が主導する19世紀的国家制度を持つ政策の在り方は前号で述べたように対外的には地政学的発想による戦略論に依拠しており、領土に対する関心が極度に強い。事実、現在中国が近隣諸国と領有権を巡って争っている件数は実に13件。対象国は日本、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドとほぼ周辺諸国全域に亘っている。

 以上、これまでの連載を通じて様々な角度から、中国の直面している問題点を浮き彫りにして来た事を前提にした上で尖閣諸島の問題を始めとする、中国との諸問題が話し合いで解決可能か…という、このシリーズ冒頭で採りあげた問題に立ち返ってみよう。結論を先に言えば、中国の政治システムや歴史的な流れから見て行くと、拡大戦略を採るのは歴史的必然であり、話し合いは単なる時間稼ぎでしかない。中国はこれまでの例に在るように、自国が相対的に弱い立場にある時は話し合いを前面に押し出し、立場が強くなると、話し合いで解決済みの問題も強引に蒸し返し、それまでの交渉過程や法秩序、国際慣習は無視して軍事力行使も辞さずとの態度で強硬に攻め立てる。事実、ベトナムやフィリピンに対しては軍事力を行使して島々を実効支配している。日本がこれに対抗するのに必要な事は周辺諸国との協調と日米安保を戦略的にベストミックスさせる事である。この点からすれば、尖閣周辺の漁業権問題を台湾と話し合い、解決に導いた戦略的外交は大いに評価できるだろう。

 これまで分析して来た通り、中国の政治制度や経済成長モデルは限界に近く、中国とは粘り強い話し合いを繰り返し、時間を稼ぐ事が戦略的重要性を増して来る。この様な時間軸のタームを入れると、時間の経過とともに中国共産党一党独裁体制が変化する可能性が出てくるからである。従って、積極的に話し合いをする態度を見せる事が日本にとっては重要な戦略となる。だが、話し合いだけで中国との諸問題を解決できると思わない事が大切だ。周辺諸国を敵とせず、全世界との協調が自らを拠って立たせる道であるとの価値観を持った近代的な国民国家の成立を待ち、それを援助するという立ち位置に日本は居座るべきである。中国の辛亥革命成功には魯迅や孫文を始めとして、様々な形での日本の援助が大いに役立った歴史的事実を教訓とすべきだろう。

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