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国士舘大学政経学部政治学科講師

北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第1話

飯島参与が北朝鮮を電撃訪問、その後の拉致・朝鮮半島問題の行方は

◎飯島訪朝に対する関係各国の評価が二分、事実上機能不全の六者協議


5月14日、突然明らかとなった飯島勲内閣官房参与の北朝鮮訪問は内外のマスメディアで大きく取り上げられ、様々な方面で議論を呼んだ。国会の参院予算委員会では民主党議員が飯島氏のミッションについて安倍首相が深く関与し、秘密外交を画策しているとして執拗に追及したが、首相はノーコメントを貫いた。韓国政府は何の役にも立たない訪朝と批判し、訪日中のグリン・デービス米政府特別代表(北朝鮮担当)は18日、事前に連絡がなかった事から、飯島氏の訪朝が「北の分断工作に陥る可能性」を示唆し、不快感を表明した。


 だが、奇妙な事に中国外交部報道官が飯島訪朝に「朝鮮半島の緊張を緩和し、平和と安定に役立つ事を希望している」と一定の評価を示し、北朝鮮の対韓国窓口機関が飯島訪朝に不快感を示した韓国政府を批判した後「情勢が緊張している現状で関係国が互いに往来して諸懸案を協議する事はあらゆる事で良い事だ」と強調。つい先週まではミサイル発射をネタに日本を恫喝していたとは思えない変貌ぶりを見せた。


 これら一連の流れを辿ると飯島訪朝に対し、米韓が日本を非難し、中朝が評価するというこれまでとは全く逆転した様相を呈しているのが見えてくる。中朝のコメントは分断工作の一環と取れなくもないが、タッグを組んで外交交渉をやっている内部で足並みの乱れがあれば、弱みを見せない為に表面化させないというのが外交上の常識である。にもかかわらず、なぜこんな事態になってしまったのだろうか。言ってみればそれほど衝撃的な事件で在ったともいえるが、北朝鮮を中心に置いて六者協議構成国である日米中露韓の情勢を俯瞰して見れば、六カ国とも指導者が変わったという新しい政治情況に各国政府が対応してこなかった事が大きく作用していると言えよう。


この新情況に対して事実上機能不全に陥っている六者協議の到達目標を日本なりの価値観で一歩進める行為が飯島訪朝である。これまで、北朝鮮との対話は中国が議長国を務める六者協議が主な舞台であった。ここでは拉致問題と核・ミサイル問題の包括的な解決が主要課題となっていた。しかし、実際は日本よりも拉致被害者が多いとされている韓国が日本とは同調せず、中国はもとよりロシア、アメリカに至ってはこの問題にはほとんど関心がないというのが実情だったのである。従って拉致問題を主張する日本の存在感は薄く、六者協議ではサイド・イッシュー的な扱いとなっていた。その結果、協議では主として核・ミサイル問題をメインとする硬直した交渉を繰り返していたのである。北朝鮮は中国の庇護をバックに協議での決定事項をことごとくひっくり返し、核実験とミサイル発射を繰り返し、核・ミサイル問題では全くの進化がなく、朝鮮半島問題解決に向かう道は手詰まり状態になっていたのだ。従って、昨年から今年の春にかけて六カ国では全て指導者が代わり、新しい政治の季節を迎えたこの時期、飯島訪朝は朝鮮半島問題に関する新しいアプローチと見てとれるわけである。


有り体に言ってしまえば、指導者が代わってから日本と北朝鮮の行動が目立っている。北は新体制になってからミサイル発射(失敗)、朝鮮戦争の休戦協定破棄、戦時体制の強化、米国・日本向けのミサイル発射恫喝等、負のベクトルではあるが、とにかく新体制になった事を盛んにアピールし、情況を何とか動かそうと彼らなりの努力をしてきたのである。これに対し、各国は国連決議で北への制裁を強化し、その効果が上がるかどうかの最大の焦点は中国が制裁に対してどれだけ積極的になるか―という相変わらずの行動パターンしか示せなかったのだ。言わば、サッカーの試合でどうしてもゴールが決められず、パスでボールを回し、ゲームをしているふりをしながら時間稼ぎをする状態に似た動きしかできなかったと言えよう。

 

◎日本は拉致問題進展を先行させ、核・ミサイル問題解決の突破口を


一方、日本の安倍政権は国内の経済状況を好転させ、外交的にはTPP参加、東南アジア歴訪を通じて尖閣への中国のアプローチに対抗。更にはモンゴル、ロシア、中東を訪問、エネルギー源を確保すると同時に中国包囲網を着々と築き上げて来た。飯島訪朝はその一連の新体制外交の一環で在り、核・ミサイルのワン・イッシュ―のみのアプローチで全くの手詰まり状態であった朝鮮半島問題に対して、拉致問題を持ち出す事で進展させる道筋をつけようとしたものである。核・ミサイル問題では新体制であってもなかなか動けないが、拉致問題であれば、当面は日朝間の問題であり、比較的にハードルが低く、両国間で定期的な対話が可能になる。その延長線上に日朝の首脳会談に至る道筋もつけられるし、対話を重ねる事で時間を稼ぐ間に情況の変化を起こし、もう一つのイッシューである核・ミサイル問題解決の糸口が見つかる可能性が出て来るだろう。


北朝鮮が日本に対して求め続けているのは過去の歴史に対する謝罪と国交正常化の二点に集約できる。日本にとって当面の問題は拉致問題であり、全員の帰国と犯人の引き渡しである。このすり合わせの中で、解決できる問題から片付けて行くのが北に対して日本が採り得る現実的なオプションだ。しかしながら忘れてはならないのは、例え拉致問題の解決がなされたとしても、その先にある日朝国交正常化の大前提として核とミサイルの問題の解決がある事だ。この場面においては各国との綿密な連携が重要な事柄となって来るのは言うまでもないだろう。


拉致問題解決に一定の進展があり、現実が動き始めると日本の行動に対する評価が飯島訪朝に対する評価と同じように逆転する可能性が出てくる。それは中国を議長国とする六者協議のスキームの中でアプローチするオプションしか持たない米韓の動きの悪さが問題となるからだ。換言すれば、中国が北朝鮮に対して圧倒的な影響力を持ち、中国の動き次第でどうにでもなるという幻想に未だに拘泥しているところにあると言ってもよいだろう。実を言うと中国の現状では、影響力はあっても北朝鮮を動かす手立ては極めて限られたものしかない。中朝と国境を接するロシアは中国との経済的軋轢の中でこの地域への影響力を増してきており、米国は北朝鮮軽視の政策を取り続けた結果(本連載2012年5月分参照)、何ら有効な手立てを持たず、北朝鮮交渉の実務を担う専門家が極めて少ないのが最大の弱点となっている。韓国は経済的疲弊状況(本連載2012年12月分参照)がアベノミクスでより深刻化しており、対北問題に対応するには手足を縛られた状態で余裕がほとんどない。だからこそ彼らは中国と交渉する事で北を動かそうとしているわけである。中国は日本の働きで半島情勢が動き始め、自国に有利に傾くように働きかける姿勢が先に述べた飯島訪朝に好意的な評価をした事から伺える。この様な北朝鮮を巡る政治状況の中では二度も北の最高指導者に会った飯島氏の存在価値が非常に高くなっていると言えるだろう。


現状では、核・ミサイルの問題から拉致問題に重心を移した形で朝鮮半島情勢が具体的に動くようになればなるほど、日本がイニシアティブ取るようになり、他の国々にとってはそれにだけ発言権が無くなって来る。この様なせめぎ合いの中で日本の足を引っ張ろうとする勢力が入り乱れて事態が進展して行く事が予想されるのだ。その予兆が、飯島訪朝に対する評価の逆転現象となって表れているとみてよいだろう。従って、当然の事ながら、拉致問題解決策は日朝だけの問題ではなく様々な国の利害や政策から読み解いていかなければならないのだ。


以上のような状況を踏まえた上で次回からは日米韓露中の現状と思惑を分析しながら、北朝鮮を巡る新たな国際情勢の動きを吟味し、拉致問題及び、朝鮮半島問題の方向性を探っていく事とする。

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