「中東、アジアを中心とした国際情勢の本質を掲載 当サイト編集顧問」

国士舘大学政経学部政治学科講師

北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第2


飯島参与訪朝以降、北朝鮮を巡る動きが活発化、どうなる拉致・核・ミサイル問題


先ごろの米中首脳会談で北朝鮮の非核化で一致

5月14日に飯島内閣参与の北朝鮮訪問(本連載2013年5月号参照)が明らかとなって以来、北朝鮮を巡る動きが活発化している。例えば、飯島氏の訪朝直後、5月22日には金正恩総書記の特使とされる崔竜海朝鮮人民軍総政治局長が北京に派遣されている。6月9日から10日にかけては軍事境界線上の板門店で行われた南北実務者協議では12日と13日の2日間ソウルで南北会談が開かれる事が決まるという展開があり(現実には会議に出席する代表者の格を巡って双方の折り合いがつかず、いったん中止が決まった)、更には北朝鮮が六者協議への復帰を表明している。これら一連の流れは、これまで頑なな態度に終始していた北朝鮮の態度が俄かに軟化し、話し合い路線による北朝鮮問題解決に光明が差したように報道された。そして、いつものように、「北朝鮮が追いつめられた」、「中国の金融制裁が効いた」といった解説があちこちでなされている。

 これと並行して、北朝鮮問題に関する重要な動きがカリフォルニアで在った。6月7、8日にサニーランドで開かれた米中首脳会議がそれである。オバマ大統領と習近平国家主席が、ネクタイを取ったリラックスした服装で会談に臨む映像が全世界に配信され、会合や食事に加え、2人だけの散策を含めた合計8時間を超えた話し合いがなされた。会談で特にアメリカ側がこだわったのがアメリカ当面の最大関心事であるサイバー攻撃問題と北朝鮮問題だ。会談後の両国の発表や各報道を総合するとサイバー攻撃問題に関してはオバマ大統領が中国側に調査を依頼し、中国は調査を約束すると共に、共通のルール作りを急ぐことで一致したという。そして、北朝鮮問題では両首脳とも、核保有は受け入れられない事を確認した上で北朝鮮への制裁強化等の具体的な措置を取る事で合意したと報じられた。これは、中国がこれまで取って来たあいまいな態度ではなく「具体的な行動」で北朝鮮の非核化を目指す事を習主席がオバマ大統領と約束した事を意味している。

 

北朝鮮問題という外交カードを継続的に利用したい中国  

 今まで北朝鮮の核開発が進んでいる中で、中国は北朝鮮制裁に対して思い切った具体策を取る事が出来ていなかった。いやむしろしなかったという方が正しいだろう。それは中国が実質的に巨大化して行く過程で北朝鮮問題を、自国を有利に導くために都合のよい外交的カードとして使って来たからである。

2010年にあった事を例にあげるとすれば、尖閣諸島や南シナ海の海洋権益問題を含める数々の国境紛争(本連載2013年4月号参照)、 民主活動家・劉暁波氏のノーベル賞受賞等で、自国の論理と価値観を押し付ける強圧的な外交を展開した事で国際社会では「中国異質論」「中国脅威論」が高まった。2010年12月10日にオスロで開かれるノーベル平和賞授賞式に各国大使らが出席しないように圧力をかけたのだから、国際的な常識をわきまえない異常な国家という評価になっても致し方ない。が、11月23日に起きた北朝鮮による韓国・延坪島砲撃が中国に対する評価を一変させる。北朝鮮の乱暴狼藉に対して中国批判は一転、北朝鮮への影響力発揮を求める「責任ある大国」としての中国への期待となってしまったのである。この例でもわかるように、中国にとって北朝鮮は国際的に窮地に陥った時に、それをチャンスに変える事ができる絶好の外交カードになる。従ってよほどの事がない限り、本質的には中国は北朝鮮問題の根本的な解決を望んでいない、という構図が見えてくる。北朝鮮も、この国際関係の構図を十分理解した上での生き残り策として、瀬戸際外交と呼ばれる数々の乱暴な外交政策を採って来たと見るのが正しいだろう。

中国にとって北朝鮮の存在が大きくなったのは2003年の六者協議開始からだ。六者協議の議長国となった中国は「責任ある大国」として振る舞う舞台装置として協議を利用し、常に国際協調と対北配慮を前面に押し出し、ほとんど何も決められない状況を作り出していた。そこには国際社会の要請に応じて外交努力を懸命に行っている事をアピールする必要性に中国自身が迫られているという危機感が潜んでいる。

この事は先に挙げたカリフォルニアでのオバマ・習会談でも如実に表れた。「責任ある大国」をバージョンアップしたとも言える「新時代の大国関係」という概念をこの会議で習近平主席が提唱した事がそれである。この概念は駐米大使崔天凱氏がフォーリン・アフェアーズ誌のインタビュー記事(Beijing’s Brand Ambassador : A Conversation With Cui Tankai,2013.5.16)に於いて大意次のように述べている。「歴史上急速に発展した大国が国際的な影響力を持った時、既存の大国と対決するゼロサムの論理ではなく、中・米は共に歩む道を探求しなければならない」。すなわち、歴史上、第一次大戦前の新興国ドイツ、第二次大戦の前の日本、第二次大戦後のソ連の様に、従来は既存の大国と新興大国は権益をむさぼりあうゼロサム・ゲームで対立し戦争に至ったが、米中関係はたがいに核心的利益を尊重し合えば協調的な大国関係が可能だ―という事である。

 

マスコミ報道とは異なる中国の野望と北朝鮮の真意

この背景には「中国の夢」がある。これは習氏が3月に主席に就任した時、新体制の国内方針として述べた事だ。この目指す所は中華民族の偉大なる復興で、18世紀当時、世界最大のDGPを誇った清国の経済規模を見習い、当時の状態に中国の経済規模を引き上げる事。自身が国家主席を務めている間に経済規模で米国を追い抜き、清国時代と同じく世界第一位の経済大国になる可能性が高い。この達成には近代国家として成長が不可欠である。そのためには人民が国への愛国心と党への忠誠心を持ち、国家の安定を保つ事が必要不可欠―というのがその大意である。つまり、中国の夢実現のためには国の内外問わず安定が必要であり、「新時代の大国関係」もこのために必要とされる。言い換えれば、全ては共産党指導のもとに中国の夢が実現するまでの事。「新時代の大国関係」もそのための時間稼ぎで在り、米国への譲歩もこの限りでは必要である、という事になるだろう。これら、習近平主席の新方針から北朝鮮問題を見れば、北の核保有に対して制裁を含めた中国の対応は時間稼ぎの一環として見る必要があるだろう。

従って、今回の北朝鮮の六者協議への復帰表明を受けて中国が六者協議開催を主張している事にはあまり意味がない。5月以降に起きた北朝鮮の一連の動きを見れば日本のメディア各社が言うように「中国の制裁に屈服」して歩み寄って来たのではなく、あくまでも自分の都合でそうしたまでの事である。

北朝鮮の目的を整理すれば、「核とミサイルを手放すことなく米朝会談を実現し、経済を立て直す」事になるだろう。この目的に沿って北朝鮮は様々な外交カードを切って来たがこの所、手詰まり状態になったと見るのが正しいだろう。六者協議は北朝鮮にとっても一息つける時間稼ぎの場であるし、形の上からしても国際社会からの孤立化を避ける場ともなる。

更には、六者協議に復帰するとは言っても、北朝鮮は核放棄の約束を明記した六者協議の共同声明を「死滅したもの」と言い放ったままでボイコットした。が、それを修正して協議に復帰するとは言っていない。換言すれば、北が戻って来る六者協議に核放棄の約束が生きているのかどうかが判然としていないという事になる。もし、北朝鮮が核放棄の約束を協議復帰の際に確認したとしても事実上の変化は何もない。北が勝手に反故にしたものを現状に復帰させるだけの事である。従って、北朝鮮が復帰するというのであれば、最低限核放棄の約束を確認させる事が絶対に必要である。そうしなければ、六者協議の10年間は全くの無駄であり、これに失敗すれば、また一から出直しとなり、北の時間稼ぎの場となってしまうのである。

が、そうなれば、今までの例からすれば、マスコミは「北朝鮮が軟化して妥協」といった類の報道で騒ぎ立て、議長国である中国は新時代の大国関係を構築するにふさわしい国としてアピールする事が出来る。実質はゼロ解答にもかかわらず、中国と北朝鮮が外交成果を上げると言う構図になるわけだ。

六者協議の再開で北朝鮮は時間を稼ぎつつ次の打つ手を模索し、中国はオバマ・習のカリフォルニア会談での約束である、あいまいな態度ではなく「具体的な行動」で北朝鮮の非核化を目指す事を形の上では守った事になる。その結果として、中国は議長国として六者協議を通じてアメリカと対等な大国として振る舞う事が出来るのだ。この点では中国と北朝鮮の利害が一致し、両国が中心となって六者協議の再開に向けて事態を動かしていると言える。しかし、北朝鮮問題の核心である拉致と核・ミサイルの問題解決はさらに遠くなっていくと見てよいだろう。

次回は中国が切った新しい外交カード「新時代の大国関係」を、アメリカがどのようにみているかを絡めながら、北朝鮮問題に対する各国の思惑を吟味してみたい。

 

<<バックナンバー>>
2013/5北朝鮮をめぐる新たな国際情勢、日米韓露中の現状と思惑、第1話
2013/4 中華思想とこれからの中国、第4話
2013/3 中華思想とこれからの中国、第3話
2013/2 中華思想とこれからの中国、第2話
2013/1 中華思想とこれからの中国、第1話 
2012/12 日本と韓国の「本当の姿」
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